その首置いてけザフト共   作:みども

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名前の由来は月の軌道に近いからという安直なものです。


月軌道会戦 1

 

 

 パトリックを通じてクルーゼからアークエンジェル追討の援軍要請を受け、アルテミス制圧部隊からの地球連合将校の捕虜をプラント本国へ移送するための引き受け任務に就く予定を変更し指定された宙域に向かう2隻のナスカ級からなる部隊。

 ザフトの白服を授かる1人、ツヴァイ・ゲラートが率いる事からゲラート隊と呼ばれるこの部隊は、母艦を撃沈された友軍のMSの回収も担う予定だったため、部隊は2隻のナスカ級からなるがMSの搭載数は7機と戦力的に少ない。

 

 クルーゼ隊を出し抜き、ガモフを沈め、ヴェサリウスにも被害を与え、MSも多数落としているというその敵の情報に、クルーゼを個人的に毛嫌いし信用していないツヴァイは不安が拭えなかった。

 

「…………」

 

 ヴェサリウスからもたらされた情報をもとに、その宙域に接近するゲラート隊。

 早速旗艦のヴァレットが航行するアークエンジェルの姿を補足した。

 

「隊長、足つきを確認しました。ニュートロンジャマーを散布しますか?」

 

「少し待て。まずは足つきの頭を押さえるように展開しろ。クルーゼ隊からもMSを出すという連絡を受けている。その出撃が確認されたら、奴らと挟撃するぞ。その時、我々も戦闘に入る」

 

「了解」

 

 ペストマスクを被るというクルーゼの事を言えないというかそれ以上に目立つ不気味な外見をした隊長の指示に従い、ヴァレットのクルーによりアークエンジェルの月に向かう道を塞ぐように展開する。

 僚艦のハレヴィは近郊に確認された月からの増援と思われる艦隊を牽制するようにその進路に展開し、MSを出撃させた。

 

 旗艦のヴァレットにはMSが2機しか搭載されていない。

 ツヴァイはアークエンジェルの頭を抑えて敵の増援の艦隊との合流を阻止しつつ、ヴェサリウスから出撃してくるというMS部隊の到着を待ち挟撃を仕掛ける事とした。

 

 アークエンジェルの足を止め頭を抑えるには、アークエンジェルにこちらの部隊の存在を明確に認知してもらう必要がある。

 クルーゼからローエングリンの存在を聞かされていなかったツヴァイは、自らアークエンジェルの前面に旗艦を展開させ、この距離ならば大丈夫だろうとニュートロンジャマーの散布も行わなかった。

 

 もしもアークエンジェルの修復が完了していれば、この時点でローエングリンの一撃をくらいヴァレットは撃沈に追い込まれていただろう。

 しかし、この時新手の敵に気づいたアークエンジェルはまだガモフの特攻などで受けた損害の修復が完全には終わっておらず、航行だけならば問題ない程度には修復しているとはいえ、しかし月への航路を考慮すればローエングリンを放てるエネルギーが足りていない状況にあった。

 

「ゲラート隊長、ニュートロンジャマーが散布されました!」

 

「クルーゼ隊ではない……足つき──いや、敵の増援の仕業か」

 

 ゲラート隊に補足されたアークエンジェルを援護し隙をついて合流しようと、ヴァレットから隠れさせるために第8艦隊の先遣艦隊が一帯の宙域にニュートロンジャマーを散布してくる。

 それによりヴァレットの索敵システムは障害を受けるが、しかし一度確認した位置をこのデブリのほとんどない宙域で見逃すほどゲラート隊は甘くない。

 

「偵察機を出せ」

 

「了解。カイン、出撃求む」

 

『了解。カイン、長距離偵察型ジン、出撃します!』

 

 搭載する2機のMSの1機、長距離偵察型ジンを繰り出しアークエンジェルを補足させる。

 むしろアークエンジェルのほうが先遣艦隊を見失うという事態を招くこととなった。

 

「その程度でこちらが足つきを見失うと考えているならば、ザフトを甘く見過ぎだぞ大西洋連邦……」

 

 第8艦隊が送った先遣艦隊は、戦力的に不利である事を察知したのかMS部隊を展開して立ちふさがるハレヴィの牽制によりにらみ合いとなっている。

 援護のために出したニュートロンジャマーがむしろ自分たちも足つきの所在を見失い動くに動けない状況を作り出してしまっている。

 

 そして、ヴァレットに前を塞がれたアークエンジェルの後方から、MA形態の速力を存分に活かして追ってきたイージスと、それに牽引されている2機のG兵器の姿が見えた。

 

「ゲラート隊長、ヴェサリウスから出撃したMS部隊が接近してきます。連絡の通り、連合から奪取した3機のMSからなる小隊です」

 

「速いな……癪だが、クルーゼの判断は正しい。あのような機体を乗せる艦艇を月に届かせるわけにはいかない。ヴァレットを戦闘区域に入れろ。主砲の射程に入り次第、対艦戦闘を仕掛ける。それから、シグーの準備を。自分もMSで出る」

 

「了解!」

 

 クルーゼ隊の派遣したMS部隊に合わせるように、ヴァレットもアークエンジェルを射程に捉えるべく動き出す。

 MS部隊の支援として対艦戦闘を仕掛けるとともに、隊長であるツヴァイ自ら重突撃機銃とキャットゥスを装備したシグーに搭乗し出撃していった。

 

 先遣艦隊との合流を直前にして、ヴェサリウスへの損害を与えた事により可能性が低いと考え油断していたところに受けたザフトからの襲撃。

 ユウが生死の境をさまよっているため機動兵器がない状態のアークエンジェルは、絶体絶命の危機を迎えていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 突如として出現した2隻のナスカ級からなるザフトの増援。

 ヴァレットがアークエンジェルの前に、ハレヴィが第8艦隊から派遣された先遣艦隊の前にそれぞれ立ちふさがり、合流寸前のところで分断されたアークエンジェル。

 

 敵艦からは偵察用のジンが1機と、キャットゥスの装備が確認されるシグーが1機出撃して、ヴァレットもアークエンジェルに艦首を向けて接近してくる。

 おそらくジンはニュートロンジャマー影響下の宙域における偵察と情報収集のため、ヴァレットによる対艦戦闘を仕掛け援護し、その中でMS部隊を使ってアークエンジェルを攻撃してくるものと推測される。

 

 前方のヴァレットから出てきたのは偵察機を除けばシグー1機だが、問題は後方から接近してくるヴェサリウスからの刺客、3機のG兵器からなるMS部隊だった。

 

「ここまで来て……! クソッ、対MS戦闘用意! どうせ見つかっているならばとる手は一つ、前方敵のナスカ級の強行突破を図る!」

 

 シグーはキャットゥスを装備してきているとはいえ、そうやすやすと沈められるほどアークエンジェルは弱くない。

 

 だが、G兵器の装備はアークエンジェルにとっては致命傷になりかねない。

 特にバスターとイージスの攻撃は艦艇も容易に撃沈できるほど強力な兵器を装備している。

 

 問題はそんなMS部隊を展開するザフトに対し、アークエンジェルは出撃できるMSのパイロットも、出撃可能なMAもないという状態にある事だった。

 

 護衛の機動兵器がいなければ、バスターやイージスの攻撃にさらされる事になる。

 先の戦闘でかなりの損害を受けたアークエンジェルは取り付くMS4機を防ぐ弾幕を貼るのは不可能な状態にある。

 

 取れる手は前方に全速で突撃し、ヴァレットを躱すか沈めて強行突破を図るという手しかなかった。

 

「ゴッドフリートは撃てるか?」

 

「エネルギーが……船速維持を考慮するならば、せいぜい2発が限界かと」

 

「今のアークエンジェルの砲塔でコーディネイターの操るG兵器を止める弾幕は作れない。当てられずとも近づけないように散らすんだ、対空防御ミサイル“ヘルダート”発射!」

 

 G兵器はとりつかせまいとするフッカーの号令により、艦橋後方の対空防御ミサイル“ヘルダート”が大量に発射される。

 フェイズシフト装甲を持つG兵器には無力である事は承知の上だが、直撃による衝撃は防げない。

 最低でも3機を散らして特に脅威となるバスターにイージスの足を頼れない状況を作るための牽制となるミサイル攻撃である。

 

 それを受けたG兵器3機は、イージスと繋がるワイヤーを外し回避行動やミサイルの迎撃を行う。

 瞬く間にミサイルを突破した3機のG兵器は、各々のバーニアを吹かせてろくな時間稼ぎにもならなかったミサイル攻撃を仕掛けたアークエンジェルへと突撃してきた。

 

 さらには前方からくるツヴァイの操るシグーもアークエンジェルを射程に捉え、キャットゥスによる攻撃を仕掛けてきた。

 

「ここまで来て終わらせてなるものか! 各砲門は敵MSを張り付かせるな! デュエルとシグーは多少無視しても構わん、とにかくイージスとバスターだけは取り付かせるな! コリントスも全てうち尽くしても構わん!」

 

「イーゲルシュテルン弾幕張れ! ここさえ突破できれば我らの勝利だ、残弾を惜しむな!」

 

「対空対MS戦闘! コリントス全門斉射!」

 

 ガモフ特攻時に多くを破壊されたイーゲルシュテルンの残る全砲台、さらには対空ミサイルの残弾を惜しまない全門斉射などにより、とにかくバスターとイージスだけはとりつかせないように弾幕を展開する。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アークエンジェルを沈めるべくイージスに牽引されて接近した3機のG兵器。

 前方のクルーゼが呼びつけた増援のナスカ級ヴァレットの部隊とともに、アークエンジェルへ挟撃を仕掛けようとしたところに大量のミサイルが飛来してきた。

 

 十分な距離に接近したため、デュエルとバスターはイージスから離れ散開しこれらを回避。

 アークエンジェルに取り憑こうとするヴァレットから来たシグーを含める4機のMSに対し、最大船速のまま前進しヴァレットの強行突破を図るアークエンジェルからミサイルや機銃の残弾を惜しまない対空防御の弾幕が張られる。

 

 特にバスターとイージスを重点的に狙う攻撃に、ディアッカは二つの武装を連結させて用いる戦艦も一撃で沈められるほどの最大火力を誇る超高インパルス長射程狙撃ライフルを使う暇がなく、4機のMSはまずは回避しながら地道にイーゲルシュテルンの弾幕を削る攻撃から取り掛かる。

 

「グゥレイト! こいつは沈め甲斐がありそうだ!」

 

「ミサイルはどうせすぐに切れる! 砲塔と推進器を優先して潰すぞ!」

 

「バッテリーが心もとないから、イージスはスキュラを使えないぞ。頼むぜディアッカ」

 

「任せろ!」

 

「援軍のナスカ級に拾って貰えばいいではないか! 楽をしようとするな貴様!」

 

「うげ、バレちまった……はいはい、俺も攻撃に加わるよ。でもミサイルがこっちに異様に飛んでくるからしばらくお前らで頑張れ! マジでシャレになってねえ!」

 

「グゥレイト! 数だけは多いぜ!」

 

「こ、この足つきめ……俺を無視するとはいい度胸だな、貴様!」

 

 対ビーム兵器に強いラミネート装甲を持つアークエンジェルにとって、イージスやバスターと比較して火力が劣りかつ兵装がラミネート装甲を突破できないビーム兵器主体であるデュエルに対する攻撃は薄く、それに気づいたイザークが舐められていると怒りを露わにする。

 

「足つきィィィイイイ!」

 

「イザーク突出しすぎだぞ!」

 

「フェイズシフト装甲って便利だけど、バッテリーの消耗を考えれば普通に回避し続ける方がマシなんだよな……」

 

 そんな3機のG兵器の通信に、白服に黒のペストマスクというクルーゼを超える奇天烈な出で立ちの人物が入ってきた。

 

「クルーゼ隊の者たちか?」

 

「うお!? びっくりした……」

 

「援軍の隊長か?」

 

「ツヴァイ・ゲラートだ。ゲラート隊の隊長を務めている。詳しい自己紹介は後だ、今はあの足つきを沈める」

 

「「「了解!」」」

 

 所属が違うとも、外見が不気味でも、この場で誰が指揮官の地位にふさわしいかを彼らはすぐに判断し、ツヴァイの指示に答える。

 

「まずは推進器を全てでなくていい、ある程度削り足を止める。次は機銃だ。迎撃の手を削り取ったら、君たちの機体の火力で艦を沈黙させろ。できるか?」

 

「「「はい!」」」

 

「いい返事だ。プラントの未来を担う若者たちの力、存分に見せてくれ」

 

 ツヴァイの指揮のもと、アークエンジェルの目を引くイージスとバスターを囮とし、デュエルとシグーで後方の推進器を狙う攻撃を仕掛ける急造のMS部隊。

 

 それが出撃可能な機動兵器を持たないアークエンジェルに襲いかかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 一方、本来ツヴァイたちゲラート隊が向かう予定だったアルテミス要塞。

 1度ザフトの攻撃により陥落したこの要塞から、ヴェサリウスのプラント本国へ、そしてアークエンジェルの月本部へ向けた長距離通信を傍受したユーラシアに属する艦隊がいた。

 

「ヴェサリウス、だと……!」

 

 アークエンジェルという艦艇は聞いたこともないが、もう一つのザフトのナスカ級の艦艇の名前は彼らにとって無視できないものだった。

 

「場所の特定を急げ。それから、すぐにアウグストとベニグセンの出航用意を」

 

「カリオン提督への報告は?」

 

「そんなものは後回しで構わん、閣下ならばわかってくださる。それに問題が出るというならば、事が片付いてから私が全ての責任を取ればいい。だが、奴だけは……クルーゼ、あの男だけは絶対に許さない……!」

 

「了解!」

 

「行くぞ! フェルナンドたちの仇、ラウ・ル・クルーゼの首をとる!」

 

 ヴェサリウスの不意打ちにより仲間を失い、その復讐に燃える者たちが、仇の首を狙い宇宙に出撃する。

 

 

 

 第8艦隊、クルーゼ隊、ゲラート隊、アークエンジェル、第9航宙機動艦隊。

 G兵器を月へ届けるために、アークエンジェルを救援するために、G兵器を強奪するために、クルーゼの要請に応えるために、そして殺された仲間の仇を取るために──

 

 様々な思惑を胸に、多数の勢力が集う。

 後に月軌道会戦と呼ばれることになる戦闘が幕を開けた。

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