その首置いてけザフト共 作:みども
ベニグセン級MS用軽航宙母艦“ベニグセン”。
ルントシュテット級巡航宇宙戦艦“アウグスト”。
この2隻の宇宙艦艇からなる部隊が、月軌道付近にて確認されたとあるナスカ級を探して航行していた。
第9航宙機動艦隊には、地球連合においてほとんど存在しないMS兵器を運用するために他の地球連合宇宙軍には見られない艦種の艦艇が存在する。
ベニグセン級やルントシュテット級はそのMS運用のためにユーラシア連邦にて設計・開発された第9航宙機動艦隊にのみ存在する艦種であり、地球連合宇宙軍において他の宇宙艦艇には見られない形状を持つ。
MSの運用に特化した軽母艦であるベニグセン級は、艦自体の武装は一切ないというその戦力を搭載する機動兵器に完全に依存している一方で、単艦の大気圏突入能力や大気圏内航行能力、潜水能力なども有する。
MS・MA混成部隊の運用を目的に設計されている巡航戦闘母艦という呼び方がふさわしいルントシュテット級は、対艦・対空戦闘用ミサイルを始めとする各種武装を有する艦艇であり、MA・MSの機動兵器の搭載機能を持つ。
かつてクルーゼ隊に沈められたグスタフもこのルントシュテット級の2番艦として建造された艦艇であり、アウグストは3番艦に当たる。
そのグスタフを騙し討ちで沈めたクルーゼ隊へ復讐するために、ヴェサリウスを目指して艦隊司令の許可を得ず独断で動いた2隻。
MS兵器を運用するため、他の地球連合宇宙軍には見られない特殊な艦種であるこの2隻の艦艇からなる部隊は、ヴェサリウスからプラント本国に発せられた通信を傍受した近郊に達するところにいたり、2隻のナスカ級からなるザフトの部隊及びそれと交戦する大西洋連邦に所属する友軍部隊を確認した。
2隻のナスカ級はパトリックを通じてクルーゼからアークエンジェルの追撃要請を受けたツヴァイの率いるゲラート隊であり、それと交戦しているのはアークエンジェルと第8艦隊が援軍として派遣したモントゴメリを旗艦とする先遣艦隊である。
戦況はゲラート隊の旗艦であるヴァレットがすでにアークエンジェルに接舷・突入したことで艦内において白兵戦が展開されており、僚艦であるハレヴィがモントゴメリらと対峙し互いに機動兵器を出して小競り合いを起こしている。
戦力的に有利なゲラート隊が押しており、未だに合流できず分断されている第8艦隊の方が苦戦を強いられている状況が見て取れた。
「隊長、ナスカ級を確認しました! 2隻いるようですが、どうやら大西洋連邦の第8艦隊の一部の部隊と交戦しているようです」
「クルーゼのヴェサリウスか?」
「分かりませんが、傍受した通信からあの未確認艦を狙っている様子です。それと交戦中ということは、おそらくあの白い艦艇に接舷している方がヴェサリウスかと。付近に隊長機と思われるシグーも確認できます」
アウグストのオペレーターの報告を受け、恋人でもあったグスタフの艦長のフェルナンドを殺された怒りの収まらないアルトリアは、アークエンジェルと戦闘中のゲラート隊をクルーゼ隊と誤認してしまう。
実際のところ、グスタフの仇であるクルーゼ隊の旗艦であるヴェサリウスはアークエンジェルとの戦闘中に大破し、少し離れた宙域にて動けない状態にあった。
しかしヴェサリウスと同じナスカ級であること、そしてツヴァイの愛機がクルーゼと同じシグーだったことから、アルトリア達第9航宙機動艦隊からでてきた部隊の目にはゲラート隊がクルーゼ隊に見えてしまった。
「クルーゼ……ついに見つけたぞ! 貴様は我らを怒らせすぎた! 目標、前方ナスカ級2隻! アウグストは友軍の艦隊と交戦している敵艦の方を沈めるぞ。MS・MA混成部隊の出撃用意! 主砲は射程に入り次第撃ちまくれ!」
「了解!」
「ベニグセンの部隊はあの白い艦艇に取り付いている方のナスカ級と周囲のMSの首を全て落とせ。特にあのシグーだけは絶対に逃がすな!」
『了解!』
「悔いる暇も与えるな! 降伏した相手以外には容赦するな! 奴らに関しては逃げることも許すな! 全ての首を落とせ、ザフト共は全員血祭りだ!!」
「「「了解!」」」
戦争をしているのだ。甘いことは言えない。
それは大切な仲間を殺された、最愛の人を殺された、その怒りと憎悪をぶつけるという身勝手な動機。
それでもアルトリアは、彼らは、クルーゼ隊を許すことができなかった。
怒りを湛えて2隻の特異な艦艇から、地球連合に所属するMS部隊が出撃していく。
アルトリアが率いるアウグストの部隊はモントゴメリらと対峙するハレヴィと直掩のMS部隊へ、そしてミハエルらが属するベニグセンの部隊はアークエンジェルに取り付くヴァレットとツヴァイの扱うシグーらがいる方へ。
モントゴメリらの先遣艦隊がニュートロンジャマーを散布していたことで周辺宙域の索敵システムや長距離通信網に障害が出ていたこともあり、この第9航宙機動艦隊からでてきた部隊の介入は双方ともに発見が遅れ、攻撃を受けたゲラート隊にとっては奇襲を受ける形となった。
最初に接敵することとなったのは、ハレヴィに所属するMS部隊の一機であるジンであった。
「えっ──?」
突如として戦場に入ってきた見慣れない連合の艦艇と、ザフトの象徴と言えるナチュラルには操作できないはずのMS。
その部隊の存在に気づいた直後、急速に接近してきたシグーの振るう重斬刀の一撃により機体を横一文字に切り裂かれ、コクピットもろとも2つに切られてそのパイロットは仲間に伝える間もなく撃墜された。
戦闘宙域に突入するなり、問答無用とジンをいきなり1機落としたことで、ハレヴィもモントゴメリらも突然の乱入者に気づく。
すでにMA部隊を半数近く損耗し、僚艦のローが中破に、旗艦であるモントゴメリに至っては航行不能の大破状態に追い込まれていた先遣艦隊にとって、その予期せぬ援軍は大きな幸運であった。
「あれはルントシュテット級!? ということはまさか、ユーラシア連邦のあの艦隊が──!」
航行能力を奪われ、護衛のMA部隊も近づけず、もはや沈められるしかないほどに追い詰められていたモントゴメリ。
その艦橋から突然戦場に現れた特異な外見を持つ艦艇を見て、艦長のコープマンはその艦がどこの所属であるかをすぐに察する。
ユーラシア連邦にて本国から迫害を受けながらも、ザフトを倒すべく志願したコーディネイターが多数所属する、ユーラシア連邦宇宙軍において唯一のMSを保有する艦隊。
艦隊の前身である地上軍の機甲連隊時代から、数でも質でも上回るザフト軍を相手に他の部隊の追随を許さぬ戦力差を覆す勝利を挙げてきた、どれほど不利な戦場にも挑む不屈の戦意を持つユーラシア連邦軍史上最強の部隊と言われている者達。
戦場に乱入してきたのは、その艦隊にのみ配属されているユーラシア連邦軍が開発したMS・MA混成部隊の運用のために設計開発された“ルントシュテット級”という大西洋連邦には存在しない艦種の宇宙艦艇、第9航宙機動艦隊にのみ配属されている戦艦だった。
アウグストの主砲がハレヴィを直撃する。
さらに飛来したシグーとジンが、モントゴメリを沈めようとしていたザフトのジンの部隊に数の劣勢を無視して突撃し、次々に落としていった。
「遅い!」
「ば、馬鹿な、これを躱すなんて──グオッ!?」
「その首置いてけザフト共!」
「重斬刀が──ぐああぁぁ!?」
ザフトのジンが放つ攻撃はことごとく躱され、逆にアルトリアの駆使するシグーともう1機のジンが繰り出す攻撃はことごとく命中する。
その上殴る蹴るで腕や頭部のモノアイを破壊するわ、敵の装備を掠め取るわ、重斬刀を投げるわといった、傍目から見てもイかれていると称したくなる攻撃でザフトのジンを翻弄し、2分とかからず4機のジン全てを撃破した。
とても同じコーディネイターが扱っているとは思えない一方的な殲滅。
自分たちを追い詰めていたザフトが、先ほどまで一方的に落とされていくメビウスのようにも見えてしまう戦いに、コープマンは言葉が出なかった。
そして、僚機もないナスカ級と、重武装を持つ戦艦のルントシュテット級の撃ち合いも一方的なものとなる。
もともと奇襲を受け混乱していたハレヴィはまともな抵抗もできず、アウグストの主砲に蜂の巣にされ火だるまとなり撃沈に追い込まれた。
「ザフトのMS部隊がこれほど一方的にやられるなど……これがあの、ユーラシア連邦最強と名高い第9航宙機動艦隊か……」
半壊状態に追い込まれていたのが一転、乱入してきた援軍により九死に一生を得た先遣艦隊。
その圧倒的な強さを見せつけられたコープマンは、艦長席に沈むように座りながらその光景を目に焼き付けることとなった。
2度目となる艦内の白兵戦が勃発したアークエンジェル。
ヴァレットから突入してきた多数のザフト兵と、2度目の艦内の白兵戦ということもあり迎撃のためにガモフに激突された時に比べ迅速にバリケードを構築し戦線を整えた連合兵士達との間で、銃撃戦が勃発する。
保安部員だけでなく、艦を守るために多数のクルー達が銃を手に集まったことで数の上で圧倒する連合軍側が銃撃戦を優勢に進めており、突入したザフト側は攻めあぐね足が止まってしまっていた。
「ナチュラルどもが……!」
ニコルとラスティを早く助けたいと先頭に立って進んでいたイザークだが、バリケードに阻まれてしまい焦りが募る。
ディアッカのバスターに座標を指定してMSによる攻撃でバリケードを吹き飛ばしてもらい突破することも考えたが、火力を誤れば自分たちの侵攻ルートを瓦礫でふさいでしまう可能性もある。
カタパルトは可能性が極めて低いから攻撃したが、ニコルとラスティがどこに囚われているかわからない以上MSの砲撃に巻き込む可能性もあるので、バスターの火力でアークエンジェルを攻撃するのは可能な限り控えたかった。
MSからの支援砲撃はあくまでも最終手段として、あくまでも白兵戦によるアークエンジェルの制圧を目指す。
バリケードを突破するために、イザークは近くに控えるザフト兵にグレネードランチャーを持ってくるように指示を出す。
「おい、グレネード持ってこい! バリケードを吹き飛ばす!」
「ちょっと待ってろ!」
指示を受けたザフト兵がグレネードを持ってくるためにヴァレットの方へ侵入ルートを逆走していく。
その間イザークは何とかバリケードから銃撃を仕掛けてくるナチュラル達を突破する手段がないかを考えるために、周囲を観察する。
事態が急転したのは、そんな時だった。
『イザーク! すぐにデュエルに戻れ!』
「──はぁ?」
突然ディアッカから焦った様子で今すぐデュエルに戻るようにという通信が入ってきたのである。
バリケードのせいで足止めをくらっているが、グレネードランチャーが来ればそんなものは吹き飛ばせる。ナチュラル共の抵抗は突破できないわけではない。
ニコルとラスティを助け出し、残る2機のG兵器を奪取し、あわよくば足つきを乗っ取れるというのに、突然の撤退を促すディアッカの言葉にイザークは怒りよりも困惑を強く感じた。
『状況が変わった。総員、直ちに足つきより撤退せよ』
イザークがディアッカにどういうことだと尋ねる前に、クルーゼが要請して派遣されてきた援軍のゲラート隊を率いる隊長であるツヴァイからヴァレット所属のザフト兵たちとイザークに対して撤退の指示が出される。
明らかに自軍が優位な戦況でなぜ撤退の指示が出るのか?
ツヴァイからの指示には、イザークだけでなく周囲のザフト兵達にも困惑の色が浮かんだ。
「どういうことだゲラート隊長!」
されど隊長の命令とあれば仕方がないとザフト兵達がアークエンジェルから撤退を始める中、さすがに納得いかなかったイザークがツヴァイに食ってかかる。
ツヴァイとしてはプラントの重鎮を母親に持つイザークの言葉を無下にするわけにもいかず、事情を説明した。
『敵の援軍が来た。ただの増援ならば迎撃するが、相手が悪い。君もすぐにG兵器とともにヴァレットに退避しろ』
「援軍だと……!?」
ツヴァイの説明を受け、イザークは納得するどころか怒りが湧き上がる。
人一倍プライド高い性格に加えコーディネイターの中でも一際優秀な能力も相成り、ナチュラル如きと連合を侮る思想の強いイザークにとって、連合などザフトのコーディネイターの前には数ばかりの弱者というイメージが強い。
ニコルとラスティを助けたいという感情が焦りを生んでいたこともあり、その増援が来たところで一息に蹴散らしてしまえばいいと、撤退する必要などないという考えが強く浮かび、周囲の友軍が隊長の指示に従う中でイザークは怒りをあらわにして反発した。
「臆したのかゲラート隊長! ナチュラル風情の増援など、いくら来ようが我々ザフトにとって物の数ではないはずだ! それともナチュラル如きに数で劣るからと尻尾を巻いて逃げ出せというのか!」
『お、おいイザーク。言っとくが──』
「うるさい! 貴様も臆病風に吹かれた口かディアッカ!」
アークエンジェルに接近してくるベニグセン。
そこから出撃したのがMS、つまり自分たちと同じコーディネイターが敵の援軍としてきていることを目の当たりにしているディアッカはイザークをなだめようとしたが、激昂したイザークは聞く耳を持たなかった。
「もういい、俺がデュエルでその増援とやらをすべて落とす! 臆病者は引っ込んでいろ!」
怒りのままにデュエルのもとに向かうイザーク。
しかしその目的はヴァレットへの撤退ではなく、新手の敵の撃滅のためだった。
『イザーク、話を聞け! 奴らは──』
「黙れ! 見損なったぞディアッカ、ナチュラル相手にニコル達よりも自分の身を案じるなど……貴様というやつは!」
『違うって! ゲラート隊長は──』
「臆病者に用はない!」
デュエルに乗り込んだイザークは、バスターとの通信を強制的に閉じてアークエンジェルの破壊されたカタパルトの穴から出撃。
ハレヴィの撃沈と一方的な撃滅を目の当たりにし相手が悪いと即座に撤退を判断したツヴァイの指示を無視して、ベニグセンへと向かっていった。
『イザーク! クッソ、仕方ねえ──』
「待ってくれエルスマン君。彼は私が連れ帰る。君は、クーデンブルグ君とともに離脱するヴァレットを守って欲しい」
短気をこじらせて指示を無視し出撃したイザークのデュエル。
それを連れ戻すために再出撃しようとしたディアッカをツヴァイが止めた。
『ゲラート隊長、でも──』
「プラントの未来を担う若者達を負け戦で散らすわけにはいかない。この手の役目は私たち年長者の務めだ、殿くらいは譲ってもらおう」
『……お願いします』
ツヴァイとともにハレヴィとその部隊がアウグストの参戦で一方的に蹴散らされた光景を見ていたディアッカは、敵の援軍が普通の連合の部隊ではないことを察し、ツヴァイの指示に従いヴァレットの護衛につく。
ディアッカを止めたツヴァイは偵察型ジンを容易く落としてこちらに向かってくるベニグセンへ突撃していくイザークを追い、シグーを飛ばした。
「“ベニグセン級軽母艦”を有するのはユーラシアのあの部隊だけだろう。鷲の首を落としたその力、存分に見せて貰おうか──!」
ベニグセンから出撃した2機のジン。
ミハエルとミランダが操縦するジンは、どちらも機動性を確保するために重い装備は外し、標準装備である重突撃機銃と重斬刀というフェイズシフト装甲のMSには非常に不利となる実体兵器の装備となっている。
偵察用に展開していたゲラート隊の偵察型ジンを一瞬で落とし、そのままアークエンジェルの方に向かっていた2機の前に、イザークのデュエルが出てきた。
2人にとっては初めて見る機体である。
本来は中立国オーブの軍需企業モルゲンレーテ社にて設計された連合軍用の機体だが、彼らの目にはザフトの新型MS兵器として映った。
「新型──!?」
『そんなの関係ないです! 首寄越せよザフト!』
新型機を冷静に警戒するミハエル。
対してミランダは初見の敵の機体にも全く臆することなく突撃していく。
「ミランダ、迂闊に近づくな!」
『マティアス艦長の仇!』
新型機の性能は未知数である。
ミランダを止めようとしたミハエルだが、彼女の耳には届いていない。
デュエルが構えたビームライフルを見てそれを主兵装と見たミランダは、ロックオンされる前にその射線から逃れ、射程に入るなり重突撃機銃をデュエルに発射した。
『ホラ、首を寄越せよザフト!』
ミランダの機銃がデュエルに突き刺さる。
盾で防ぎながらミランダのジンを狙うデュエルだが、ライフルの銃口とそれを持つデュエルの腕の動きなどから射線を見極めるミランダにはロックオンすらさせてもらえず、1発もうちかえせない。
『お行儀良くしか戦えない二流さんですか!? どっちでもいいけど、ユーさんたちにしたことは絶対に許さないですから! その首寄越せよテメエ、ザフト!』
だが、その2機の戦闘を見ているミハエルもまた困惑していた。
「機銃が効いてない──!?」
ミランダが一方的に機銃を撃ち込み続けているのだが、フェイズシフト装甲に守られているデュエルにはまともにダメージが通っていない。
MSの動きは滑らかだが、相手の動きの先読みがまともにできていないロックオン頼みだろう動きから、MS戦闘の経験が見るからに典型的な二流の腕だと見るデュエルのパイロット。
それは彼らにとって脅威とはならないが、初見となる実体兵器のダメージを軽減するフェイズシフト装甲には驚きを隠せなかった。
「なんだあのMSの装甲……? ミランダ、関節部を狙いなよ。そこなら機銃もさすがに通るはず」
『はいです、了解!』
相手がジンだったならばとっくに蜂の巣になっているはずなのに、装甲が頑強なのかミランダが撃ち込む機銃がまるで効いていない。
新型機の様子を見るミハエルは、ミランダに構造上どうしても分厚い装甲で覆うことが困難であり確実に脆弱である関節駆動部に狙いを定めるように指示を出す。
一方的にミランダ機からの銃撃を受け、その機動に振り回されているデュエル。
その関節部に、死角に回り込み続けるミランダ機からの銃撃が放たれる。
『ミューさん、ミューさん! お膝のところも効いてないですよ!』
「おいおいなんだよあのMSは? 何でできてんだよあの装甲……」
しかし、ミハエルの予想に反して膝裏関節駆動部という構造上確実に脆弱に作られているはずの場所すらも機銃の弾丸は弾かれてしまった。デュエルには傷1つ付いていない。
火力不足などではなく、本当にあの機体は機銃弾では傷1つつかないらしい。
理屈は不明だが、状況からそういう新型MS兵器であると納得するしかないと判断。
機銃が効かないとなればと、ミハエルは重斬刀を装備してデュエルへ突撃した。
「機銃が無意味というなら、接近戦しかないよな!」
ミハエル機の参戦に、イザークも即座に反応してデュエルのビームライフルを向ける。
しかしその向けた時には既に射線からミハエルのジンは外れており、撃たせるどころかロックオンすらさせずに接近したジンの重斬刀がシールドを上に構えたところガラ空きとなった胴体部を狙い横一文字に振られた。
デュエルの機体が衝撃に押されて飛ばされる。
重斬刀の刃が激突したコクピットには大きな衝撃が走るが、フェイズシフト装甲に護られる機体は両断されることなく無傷である。
「これも効いてねえのかよ、マジか……」
重斬刀でも傷1つつかない機体に思わずため息を吐きながらも、デュエルに近接戦闘を仕掛けるミハエル。
ミランダの方も機銃は効かないと判断し、重斬刀を装備してデュエルに向かっていく。
イザークも撃とうにもロックオンすらできない相手にビームライフルを装備しても意味がないと判断し、得意の近接戦闘を相手が仕掛けてくるならばとビームサーベルを装備してミハエル機に狙いを定めて突撃してきた。
『ビームサーベル!? な、なんですかあれカッコ良すぎますよ! 羨ましいです!』
「はいはい気持ちは分かるけど落ち着いて。当たらなければ問題ないから」
ビームサーベルに興奮するミランダを落ち着かせながら、デュエルの振り回すビームサーベルを回避するミハエル。
コクピットを狙う横振りを回避するとともに、デュエルの右足を掴みとるとミランダ機の方にハンマー投げのように振り回して投げ飛ばした。
「そっち行くぞミランダ!」
『はいです!』
投げ飛ばされた先にはミランダ機がおり、バーニアを駆使してなんとか姿勢制御を立て直すデュエルの背中にドロップキックを叩き込んだ。
それにより立て直しかけたところをまた大きく崩されるデュエル。
機銃も重斬刀も機体を駆使した質量攻撃も機体に傷1つ付いていないが、フェイズシフト装甲では衝撃までは殺せない。
そのことに気づいたミハエルは、内部のパイロットの意識を奪う攻撃を仕掛けることにした。
ミランダ機に蹴り飛ばされてきたデュエルだが、コクピットにて振り回されながらも怒り心頭となっているイザークがミハエル機に向かってビームサーベルを振り回す。
ビームライフルの銃口から射線を予測してロックオン前に回避してしまう機動を取るミハエルに怒りに任せた大ぶりの攻撃が掠るはずもなく回避され、カウンターで振られた重斬刀がデュエルのコクピットに直撃し大きな衝撃を内部に走らせた。
「重斬刀も機銃も効かないなら、内部のコクピットを揺らしてパイロットの意識を刈り取る。これで行くぞミランダ!」
『はいです! 頸椎へし折ってパイロットの首落とせばいいんですね、わかりました!』
デュエルの背中に重斬刀を叩きつけながら、ミハエルの作戦に了解を示すミランダ。
むしろコクピットの中のザフトの首を折るつもりで攻撃を仕掛ける。
「仲間の仇だ覚悟しろザフト!」
『首の一本くらい覚悟してもらいますから!』
デュエルへ向かって切り掛かる2機のジン。
度重なるコクピットを襲う衝撃に意識が半濁するほどに追い詰められているイザークにはそれに対応することが困難であり、意識を失うまで一方的に攻撃を受け続けることになるだろう。
だが、2機のジンが重斬刀を叩きつける直前にそこへ重突撃機銃が撃ち込まれてきた。
ロックオンをしていない牽制の銃撃。
一瞬の油断が命取りとなる戦場で研ぎ澄まされた第六感で同時にその攻撃の殺気を感じ取り、2人はジンを回避させる。
「彼を連れてヴァレットに戻りすぐに離脱しろ! 決して足を止めるな!」
『了解! 御武運をゲラート隊長!』
2機のジンをデュエルから剥がした銃撃を仕掛けてきた乱入者──ツヴァイの操るシグーは、すぐにデュエルに接近するとその機体をついてきていたオロールの操るイージスに向かって投げ飛ばして離脱させ、2機のジンの前に立ちふさがった。
突如として乱入し、2人にとってはこれも初見であるイージスにデュエルを回収させて離脱させ2機のジンの前に立ちふさがったシグー。
それを見た2人の脳裏に、クルーゼ隊の隊長機、騙し討ちでグスタフを沈めたあの仮面の男が浮かび上がる。
「シグー……!?」
『──ってことは、あいつがクルーゼですか!』
「……ああ、そうらしい。目標変更だミランダ、こいつを首切り落とすぞ!」
『はい!』
もはや既にデュエルは眼中にない。
フェルナンド達の仇である男が搭乗している機体だと認識しているシグーに向かって、2機のジンは重斬刀を手に突撃していった。