その首置いてけザフト共   作:みども

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月軌道会戦 4

 

 

 デュエルを撤退させたツヴァイのシグー。

 彼らをクルーゼ隊と誤認しているミハエルとミランダにとって、そのシグーはフェルナンドらの仇であるラウ・ル・クルーゼの乗機として映る。

 デュエルを確保してヴァレットへ撤退するイージスは他の仲間達に任せ、2人はツヴァイのシグーと対峙する。

 

「クズネツォフ機よりテオドール機へ。赤いMAと新型のMSがナスカ級に撤退している。追撃を任せたい」

 

『テオドール機、了解』

 

「クズネツォフ機よりベニグセンへ。ヴェサリウスと思われるナスカ級が離脱します、追撃を」

 

『ベニグセン、了解。バルドー機、ヨシュア機、敵ナスカ級の追撃を要請します』

 

『バルドー機、了解。追撃します』

『ヨシュア機、了解。追撃します』

 

 ミハエルからベニグセンと友軍のMSに要請が出され、それぞれイージスとデュエル、そしてヴェサリウスと誤認しているヴァレットの追撃に動く。

 ミハエルが各部隊へ要請を送る傍、ミランダの方は立ちふさがるクルーゼの乗機と誤認しているツヴァイのシグーへ向けて重斬刀を手に突撃した。

 

「マティアス艦長達の仇です! その首寄越せよ、ザフト!」

 

「速い──!? 上か!」

 

 突撃してくるミランダのジンに機銃を構えるツヴァイのシグーだが、すぐに射線から外れたミランダのジンが上方に飛び、重斬刀を振り下ろしてくる。

 縦方向の急な機動によりミランダのジンを見失ったシグーへ、重斬刀が振り下ろされ咄嗟に構えた右腕をキャットゥス諸共切り落とした。

 

「ほらそこ、足元お留守ですよ!」

 

「くっ──!?」

 

 当然一撃では終わらない。

 切り飛ばされたキャットゥスの砲身の残骸がシグーのモノアイを塞ぐ中、視界から逃れたミランダのジンがすぐに重斬刀を振り回しシグーの両脚の膝関節部を二本まとめて切り落とす。

 

 すぐさま死角をとる機動に、接近戦は不利と判断したツヴァイが急いでシグーのバーニアを吹かし距離をとろうとする。

 だが、そこへミハエルのジンが構えるなりロックオンすらせずに発射してきた機銃が突き刺さり、機体を次々に損傷を与えていく。

 

「ロックオンも無しに、おのれ──何ッ!?」

 

 ミハエルのジンへ機銃を構えるツヴァイだが、その時には既にミハエルのジンの姿はその射線には残っていない。

 銃撃しながらも距離を詰めつつ、敵が反撃の動きを見せた段階で既に死角に回り込んでいたミハエルは近接戦闘の距離まで近づいており、ツヴァイが姿を見失っている隙に腰に装備されている対空散弾銃を奪いその背中を蹴りつけていた。

 

「ぐぅ……!」

 

 機体を貫く衝撃にたじろぎながらも、なんとかシグーの姿勢を立て直そうとするツヴァイ。

 だが、そこに今度はミランダ機が接近し、側面からコクピットの直上へ回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ほらソコォ!」

 

「ガッ──!?」

 

 コクピットを大きく揺さぶられ、一瞬意識が遠のく衝撃を受けるツヴァイ。

 歯を食いしばり揺さぶられる意識を引き戻すが、そのときモニターにミランダ機によって切られたキャットゥスの残骸を握るシグーの片腕が飛んできた。

 

 咄嗟にそれを回避するツヴァイだが、まるで回避先を読んでいたのかのようにその背中にいつの間にか移動して対空散弾銃を構えていたミハエルのジンがいた。

 

「背中ががら空きだぞザフト」

 

「ぐああぁぁ!?」

 

 至近距離で発射される対空散弾銃がシグーの装甲を背中から破壊する。

 バーニアが破壊され、機体に大きな損害を受けたことを示すアラートが鳴り響く。

 コクピットの温度調節機能も壊されたのか、急激に機内の温度も上昇してきた。

 

「──遅いです」

「堕ちろザフト!」

 

 立て直す暇すら与えられない怒涛の攻撃。

 アラートの鳴り響くコクピットのモニター。そこに映るのは、ミランダ機が至近距離で重斬刀を振りかぶる姿。

 機銃を構えようにも狙いを定めるよりも早くその斬撃が撃ち込まれるのは理解できたし、そもそもその腕も散弾銃を後ろから投げつけてくるのいう乱暴な攻撃を仕掛けたミハエル機によって破壊され機銃がシグーの手から離れていた。

 

「一撃の反撃すら許さないか、妖怪め──」

 

 もはや打つ手なし。

 それ以前に、自らの技量では対峙することすらままならない相手であったらしい。

 なるほど、数々の戦場で積み上げ多くのザフトのエースを葬ってきたユーラシア連邦最強の部隊の名は伊達ではなかったということか。

 

 観念したかのように、捨て台詞を残しペストマスクの下で皮肉げな笑みを浮かべるツヴァイ。

 

 背面と正面から同時に振り回される重斬刀。

 2機のジンに挟まれるように、ツヴァイのシグーは頭部と背中を重斬刀によってそれぞれ同時に切り裂かれ、シグーの頭が宙を舞い機体はバーニア部を破壊されたことで暴走し爆発を起こした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ザフトの白服であるツヴァイの操るシグーが全く歯が立たないまま撃破される光景は、離脱するヴァレットの他に、先ほどまで艦内で白兵戦となり制圧されるまで時間の問題となるほど追い込まれていたところに来た突然の乱入者達に驚くしかできなかったアークエンジェルからも見えていた。

 

 ザフトの誇る隊長機のMSであるシグー。

 ジンを上回る機動性を持つ機体であり、さらにザフトの中でも部隊を預かる司令官である隊長クラス、白服を授かる者達に用いられることの多い機体。

 機体もパイロットもザフトの最精鋭と言えるその機体が、数的優勢があるとはいえ機体性能では劣るはずの2機のジンに一方的に撃破されれという事態に、アークエンジェルの面々は理解が追いついていない。

 

 そもそも、乱入してきた彼らは何者なのか? 

 なぜ地球連合軍の艦艇登録もできていないアークエンジェルをためらいなく助けてくれたのか? 

 なぜザフトを代表するコーディネイターにしか操れないとされるMSを有しているのか? 

 そんな部隊がなぜ地球連合である我々を助け、ザフトを撃退したのか? 

 おそらく味方なのだろうが、なぜあれほど強いのか? 

 

 フッカーもコーディネイターでありながら地球連合に志願し、鹵獲MSを操縦してザフトと戦う友軍の存在は知っている。

 彼らの母艦と思われる艦艇にも、MSにも、地球連合軍を示す友軍コードがあり、レーダー上では彼らは味方として表示されている。

 おそらく地球連合に与する友軍のコーディネイターなのだろう。

 

 だが、しかし。

 それでもフッカーには繰り広げられたMS同士の戦闘というものが驚愕せざるを得ないものだった。

 

 アカデミーで、士官学校で、MSの操縦に長年慣れ親しんだ上で戦場に降り立ったザフトの兵士の操るMSは、短時間の訓練という付け焼き刃でMSを操縦できるようになるなり最前線に放り込まれている連合に与しているコーディネイターたちのMSよりも基本的に強いはずである。

 機体だって整備士の腕からしてザフトの方がMSに慣れ親しんでいる分、パイロットに合わせたカスタマイズも繰り返され、ただ鹵獲された機体を用いているだけの連合の鹵獲ジンと比べ性能面で上を行くはず。

 

 同じMSを用いようとも、やはり連合を相手にザフトは質の面で優勢をいく存在のはずなのだ。

 

 だが、彼らはその常識を正面から砕く戦闘を見せつけた。

 

 モントゴメリの救援に入った方の部隊はナスカ級が1隻と5機のジンからなるザフトの部隊を、見慣れない戦艦1隻と2機のMSという数的劣勢の戦力で瞬く間に蹴散らし数分で殲滅。

 追い込まれていたコープマン大佐らの第8艦隊の先遣艦隊を救い、逆にザフトを圧倒して殲滅してしまった。

 

 そしてアークエンジェルに取り付いていた方のザフトに狙いを定めてこちらに来た方の部隊は、まず駆け付け一杯と言わんばかりに偵察型ジンを奇襲の形で一瞬にして宇宙の藻屑に変えてしまう。

 アークエンジェルに取り付いていたザフトは僚艦のナスカ級が沈められ殲滅された様子から撤退の判断を下したらしく、アークエンジェルの制圧を放棄して旗艦のナスカ級を離脱させた。

 デュエルが迎撃に出るが、先発したデュエルはフェイズシフト装甲がなければ確実に落とされていただろうといえる機体の性能差を覆す2機のジンの猛攻により一方的に削られ続け、援軍に入ったシグーがデュエルをイージスに託してG兵器の奪還は阻止するもののそれもまた圧倒されまともな反撃も許さずに撃破して見せたのである。

 

 数でも質でも上をいくはずのザフトをパイロットの技量だけでその優勢を覆し、まるで普段のザフトと連合の戦闘を否定するかのように数の劣勢を覆してザフトを次々と撃破していく部隊。

 そんな最近どこかで見たことがあるような光景を見せつけた部隊に、フッカーはある艦隊の存在を連想する。

 

「第9航宙機動艦隊……まさか、本物の……!?」

 

 曰く、コーディネイターでありながら祖国プラントを裏切った連中が属する部隊。

 曰く、ナチュラルに都合のいいコーディネイター達。

 曰く、プラントに情報を流す地球連合内部に潜む裏切り者達。

 曰く、シベリアの雪の如き冷酷無慈悲な心を持つ“凍土の魔女”が率いる不死身の化物達。

 曰く、ザフトを見たら理性をなくして襲いかかり銃で撃たれても足を止めずに首を寄越せと暴れる狂犬集団。

 曰く、ナチュラルが生み出した人型生体兵器軍団。

 

 ユーラシア連邦軍史上最強の部隊として名を知らしめる、数でも質でも上回るザフト軍をその戦力差を覆し幾度も撃破し多大な功績を挙げてきたと言われる、他の連合部隊にとっては存在そのものが伝説だという話も聞く、コーディネイターを多く擁する部隊。

 

 ユウのような、特別なエースの活躍が喧伝されたまゆつば物の部隊だと思っていた。

 だが、彼らの目の前で繰り広げられた戦闘は、その予想を裏切る光景だった。

 

 ああ、なるほどと納得せざるを得ない。

 情報を流す裏切り者などという信憑性が高そうなものよりも、ザフトを見たら理性をなくして襲いかかり銃で撃たれても足を止めずに首を寄越せと暴れる狂犬集団などという馬鹿げた噂の方が真実であることもあるのだ。

 

『此方は地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊所属“アウグスト”。私は艦長のアレクシス・シュティーゲ中佐です。あるザフト軍部隊を追撃中に貴艦の戦闘を確認し、微力ながら救援に入らせていただきました』

 

「地球連合宇宙軍大西洋連邦第8艦隊所属“アークエンジェル”艦長のウィリアム・フッカー大佐です。貴艦の救援に感謝いたします。本当に、ありがとうございます……」

 

 アークエンジェルのモニターにて映し出されたアウグストの艦長からの通信に、再び彼らコーディネイターたちによって窮地を救われた事に、フッカーは未だ眠っている恩人も含めた彼らに対して深い感謝を込め頭を下げた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、隊長であるツヴァイを殿にして自慢の速力を生かし離脱を図るヴァレットだが。

 気を失ったイザークの乗るデュエルを抱えたオロールの操縦するイージスが帰艦したことでG兵器の奪還は阻止できたものの、僚艦のハレヴィとクルーゼ隊を除くすべてのMSが撃破された上に、隊長までも犠牲にしての撤退という屈辱的な敗北。

 突然の乱入者により突きつけられたこの結果に、しかしその強さを目の当たりにし犠牲となったツヴァイからも撤退を命令されたことで、彼らは悔しさをかみしめて逃げることしかできなかった。

 

 しかし、そのヴァレットに対して、乱入者であるMSを有する敵部隊は1隻の艦艇を追撃に差し向ける。

 第9航宙機動艦隊のみに配属されているMS兵器運用のために開発された“ベニグセン級軽航宙母艦”は、艦自身の戦闘能力は一切ない搭載されている機動兵器にその戦力を依存している艦艇だが、ナスカ級とすら渡り合える高速艦でもある。

 そのベニグセンがフェルナンドたちの仇であるヴェサリウスと誤認しているヴァレットを逃すはずもなく、執拗な追撃を受け振り切れないままに地球に向かって逃走を続けていた。

 

「どこまでついてくるつもりだ……!」

 

 ヴァレットの艦長であるゲラート隊の副官、フランツ・ゲルガーは悪態つきながらも、なんとか振り切ろうと地球に向かって──正確には連合軍から逃げる形で──振り切るために艦を進める。

 

 悪態つきながらも、同時に頭の中に浮かぶあの部隊ならばザフトを地の果てまでも追いかけてくるだろうことを理解し、考えられる中で一番狙われたくない敵に遭遇してしまった不幸と、その結果隊長を犠牲にしてまでこうして逃げている情けない姿に悔しさがこみ上げていた。

 

 しかしながら、この感情に任せて反転してもあの敵はそんなもので勝てる相手ではない。

 何しろ奴らは、かつて白服と2つ名を授かるザフトのエースの1人であった彼の兄を討ち取った者たちなのだから。

 

「まさか凍土の魔女に目をつけられるとは……全く、敵討ちの機会を与えるならもう少し時期を選んでいただきたいものだ」

 

「凍土の魔女?」

 

 ゲルガーのこぼした言葉が聞こえたディアッカが、その単語に反応する。

 話しぶりからして、追撃してくるナチュラル共──連合でありながらMSを有するという、彼の常識ではありえない敵に混乱している中、その敵の情報を知る様子のゲルガーの言葉は普段見下しているナチュラルの敵に関心をほとんど抱くことがないディアッカの関心を強く引く。

 

「ゲルガー副長、あいつらは一体何者なんですか!? ナチュラルがMSを使えるなんてありえねえ!」

 

「その話は生き残ってからだ! 話せば長くなる!」

 

「分かりました!」

 

 今はこの追撃を振り切り、隊長に託された彼らプラントの未来を担う若者たちを無事にザフトの勢力圏に帰すこと。

 それに集中するために、ディアッカの質問に関しては後で答えることとして艦の指揮に集中する。

 

 付近に展開している友軍はいない。

 ナスカ級に追いついてくる速力を持つ艦艇をあのユーラシア軍史上最強と噂される敵が駆使しているならば、振り切るのは困難を極める。場合によっては地球に接近することにもなるだろう。

 

 それに、プラントの未来を担うこととなる彼らには、本国の憎しみと人種差別を増長させるような教育には書かれていない戦争の現実についても知ってもらう必要がある。

 この戦争が生みそして隠された悲劇と、それによって生まれたブルーコスモス以上にプラントを敵視しているコーディネイターたちの存在というものを。

 

(そのためにも、彼らは必ず守ってみせる……!)

 

 自分たちの隊長が命を賭して託した若者たちを守りきるため、ゲルガーはベニグセンをかわすためにヴァレットを飛ばした。

 

 2隻の追撃戦は、やがて地球近郊にまで届くこととなる。




月軌道会戦は以上になります。
グスタフが沈められた時、ガモフはヘリオポリスにて監視をしてました。つまりイザークやディアッカ、そしてゲラート隊はグスタフ撃沈に関して一切関わっていないです。
まあ、戦場だと勘違いなんてよくあること。
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