その首置いてけザフト共 作:みども
強奪したG兵器を動員したクルーゼ隊及び要請を受けて足つき追撃のために来たゲラート隊、2隻のナスカ級と3機のG兵器を含める合計10機のMSからなるザフト。
クルーゼ隊の追撃からの逃避行を続けるアークエンジェルと、第8艦隊から派遣されたモントゴメリ、ロー、バーナードという3隻の艦艇と15機のMAで構成される援軍、そしてクルーゼ隊追撃を行うためにヴァレットをヴェサリウスと誤認して戦場に乱入してきたアウグストとベニグセンからなる地球連合。
これらの勢力が集いぶつかり合った、月軌道会戦と呼ばれる戦闘は、両軍合わせて8隻の宇宙艦艇と、16機のMS、22機のMAが集いぶつかり合うという大規模な戦闘となった。
戦力的には質を考慮すればザフト側が圧倒的に優勢だったが、結果はゲラート隊の2隻のナスカ級のうち1隻が撃沈、ザフト側のMSは3機のG兵器を除き全滅という大損害を受け、目標であるアークエンジェルと搭載されている残る2機のG兵器の奪取または破壊に失敗し撤退するという、ザフトの敗北で終わる。
地球連合もモントゴメリが大破、アークエンジェル及びローが中破、MA部隊も15機中未帰還11機という損害を受けたが、それでもアークエンジェルとG兵器を守り抜き第8艦隊の友軍との合流という目的を達することができた。
この月軌道会戦は、まぎれもない地球連合の勝利であった。
敗北したザフトは残るヴァレットにG兵器を収容し、戦場から離脱。
それをベニグセンが追撃し、アウグストの方はのちにベニグセンと合流することとしてひとまずはモントゴメリらの救援活動に従事することとなった。
もともと兵器ではなく、宇宙開発事業における様々な作業を行う事を目的として開発されたMS。
その本来の開発目的を果たすように、モントゴメリなどの修理作業に用いられ、人の手をはるかに上回る速さで作業は進められる。
ジンを有しコーディネイターも多数在籍するアウグストの部隊の協力により、想定をはるかに上回る短時間でアークエンジェルら第8艦隊所属の各艦艇は航行可能な応急修理を完了することができた。
大西洋連邦軍においては珍しいコーディネイターに対する差別思想が希薄な第8艦隊に属するコープマンとフッカーは、ゲラート隊との戦闘における救援、そして今回の復旧支援活動を受け、アウグスト艦長のアレクシスとMS部隊の隊長であるアルトリアに対して直接頭を下げ感謝を述べた。
それから、フッカーはアークエンジェルが保護し、そして何度も助けてくれた恩人であるユウを引き渡す事を決意する。
G兵器という機密情報に触れた彼は、月本部に到達すればしかるべき処置が終わるまでは拘束されることとなる。
ならば、最初から負傷兵として保護しており何も見ていなかったことにして、古巣である彼女たちの元に帰すことが自分にできる報いであるとフッカーは判断した。
「アルトリア大佐。貴官に、会って頂きたい人がいるのですが」
「……私に、ですか?」
モントゴメリの修理任務についていたミハエルとミランダのジンもアウグストに帰投し、目的が月本部への帰還とヴァレットの追撃という道を違える者同士ということから、これでお別れとなる。
コーディネイターを差別しない友軍の存在にあえて幸運だけでも良いものだと思えたアルトリアたちだったが、フッカーから突然そう言われ、アークエンジェルの医務室に向かうこととなった。
そこで彼女は、既に死んだと思っていた部下と再会することとなる。
医務室のベッドで眠る、左半身に大やけどを負った1人の黒髪の少年に見える童顔の持ち主。
「ユウ……!?」
ミハエルの証言で、乗機のMSを撃墜され行方不明となり、戦死したと思っていた部下。
ユウ・ナガトがいた。
「何で、ユウが、あなた方の艦に……?」
「実は──」
死んだと思っていた部下が生きていた。
それだけでも驚きを隠せなかったアルトリアだが、何故こいつは生存しており大西洋連邦の軍艦に拾われたのか。
ユウの生存という事実を目の当たりにして、喜びの感情が満ちるとともに疑問が浮かぶアルトリアに、フッカーが開かせる範囲で経緯を説明する。
月本部へ航行中に偶然通りかかったデブリベルトにて生体反応を確認したこと。
それがユウであり、人道的観点から人命救助を行いアークエンジェルに保護したこと。
月本部への道中にザフトの襲撃を受け、それを迎撃するために鹵獲ジンを駆使して戦ってくれたこと。
その結果、一命こそとりとめたものの半身に大やけどを負ってしまったことを。
「そうですか……」
G兵器のことなどの機密情報を隠した範囲での経緯をフッカーから聞いたアルトリアは、短くそう呟くと、フッカーに対して頭を下げてきた。
「貴官の人命救助により、私は大切な仲間を……1人失わずに済みました。このことは感謝してもしきれません。本当に、ありがとうございます……!」
「頭をあげてください、アルトリア大佐!」
ユウを拾ったのは、あくまでも人道的観点に基づく行い。
その後の彼に対する待遇と治療の名の下拘束したにもかかわらず負傷者の身を押して戦ってくれたことを思えば、感謝されるような資格はない。
「感謝を申し上げるべきなのは我々の方です。彼は負傷者の身でありながら、ユーラシア連邦軍に属する身でありながら、当艦艇と多くのクルーを守るために戦ってくれたのですから」
フッカーはそう言うが、コーディネイターだからと地球を故郷とする仲間たちから、味方からの冷遇が当たり前であるアルトリアたちにとって、その当たり前のような人命救助と治療をしてくれる地球連合の友軍という存在はとても貴重である。
「あなた方は、あいつが──ナガト少尉がコーディネイターであることを承知の上で、それでも助けてくれた」
「…………」
「あなたのような存在がいるから、私たちは地球を故郷とする人々に仲間として受け入れてくれる同胞がいることを認識できる。コーディネイターであっても、同じ地球を故郷とする仲間だと胸を張る自信を持てる。地球連合の一員として、ザフトの首をとるために戦う大義に殉ずる資格があると主張できる」
「アルトリア大佐……」
アルトリアのその言葉が、フッカーの胸に刺さる。
ナチュラルとコーディネイター。
自然に生まれた人類と、遺伝子操作で生まれた人類。
プラントと地球連合の戦争を2つに切り裂き、彼女たちのような同じ故郷を持つ同胞からの迫害を受ける存在を生んでしまった隔たり。
フッカーにはコーディネイターを差別する思想はほとんどないが、それでも地球連合にコーディネイターだから敵だという考えが蔓延していることは否定できなかった。
彼らは故郷を同じくする者たちに仲間であると受け入れられるという当たり前の権利すら奪われ、それを取り戻すために戦っている。
ザフトだけでなく、味方であるはずの地球連合からもどれほど冷遇されてきたのか、それがどれほど辛いものなのか、ナチュラルであるフッカーには想像もできない。
それでも、こんな自分でも、恩人である彼女たちにとって存在だけで助けになれるというなら、少しでも役に立っていると思われているならば、ほんの少しでも彼らに受けた恩に報いることができたかもしれないと気分が楽になれた。
だからこそ、月本部にアークエンジェルに乗せた状態で彼を向かわせるわけにはいかない。
既にハルバートンにはG兵器の機密情報に触れたことを報告してしまっているが、それでも自分たちの利権を守るための犠牲にしないためにも彼の本当の仲間たちの元に帰すべきだと、改めて強く思う。
「アルトリア大佐。彼を、あなた方にお返ししたい」
「了解しました」
大西洋連邦の未来の敵国となるユーラシア連邦に、G兵器の機密情報を見知ったユウを返すのは、のちの大きな火種になる可能性が高い。
大西洋連邦軍に属する軍人としては、許されざる行いなのだろう。
それでも、フッカーはユウをアルトリアたちに第9航宙機動艦隊に帰すことにした。
こうして、ユウ・ナガトはアークエンジェルからアウグストに移ることとなる。
未だに目を覚まさないが、死んだと思っていた仲間の生存と再会に、ミハエルもミランダも多くの仲間たちが歓喜し涙を流した。
そして、アウグストはアークエンジェルらと別れ、ベニグセンに追随し進路を地球に向ける。
目標は当然、彼女たちがフェルナンドらの仇であるヴェサリウス──と誤認している同じナスカ級のヴァレットである。
「目標、敵ナスカ級ヴェサリウス! グスタフの仇、奴らの首を必ず取るぞ!」
アウグストの医務室。
アークエンジェルから返還されたユウは、何度も聞いたことのある自分の脈拍の状況を知らせる機器が鳴らす電子音を耳にして、闇に沈んだ意識を浮上させた。
もともと眼球を摘出していたため義眼となっていたが、火傷でただれたせいで瞼もまともに開けられなくなった左目の視界は無い。
残る右目の視界に映ったのは、アークエンジェルとは違う、むしろ見覚えのある医務室の天井だった。
「……グスタフ?」
その医務室の天井を見て、ユウが最初に思ったのは、グスタフの医務室の天井。
同型艦であるアウグストも天井の設計と塗装は同じのため、天井の見分けはつきにくい。
だが、グスタフは沈んだはず。
そのことを思い出したユウは、次にゆっくりと首を動かし、ベッドに頭を預けて眠っている部下の姿を発見した。
「うぅ……あれ、ユーさん起きたんですか〜?」
ユウが動いたことに反応し、その部下も目をさます。
ヨダレを垂らすみっともない姿に本物だと確信し、そして彼女は沈むグスタフと運命をともにしたと思っているユウは、ここが死後の世界のグスタフであると推測した。
「そうか……俺は、死んだのか……」
「むにゃむにゃ……」
寝ぼけているミランダは、ユウの言葉を拾えていない。
実は生きていたことに歓喜し、しかしいつ起きるのかと心配して、そして眠気に勝てず負傷者のベッドに頭を預けて昼寝をしてしまった。
つい先ほど目を覚ましたばかりのミランダは、まだ頭の方は冴えておらず、夢と現実の世界を行き来しているような状態である。
ミランダの頭を撫でると、気持ちよさげな表情を浮かべる。
暖かく幽霊とは思えない感触だったが、自分も死者であるならばこういうものかと1人で納得するユウ。
すると、頭を撫でられたことに最初は気持ち良さげにしていたミランダの頭も覚醒してきて、ユウが起きたことを認識した。
「……あれ? ゆ、ユーさんが起きたああぁぁぁ!」
「ぐおっ!?」
ユウが起きたことを認識したミランダは、子供のように飛び上がり、そして嬉しさのあまりユウに対して負傷者であることを忘れて飛びついた。
──いや、飛びついたという生易しいものではない。
もはやタックルである。
童顔な上に小柄なので、半身に大やけどを負っていることも相成り、ミランダのタックルはユウにとって非常に大きなダメージとなる危険な行為だった。
「ユーさんが、ユーさんが生きてる! ふええぇぇぇん!」
「このクソガキ、あの世でも俺を殺す気か……! ──って、生きてる?」
ミランダに悪態つきながらも、その言葉の内容から違和感を拾い上げるユウ。
死後の世界と誤認しているユウは、ミランダに飛びかかられた激痛と彼女の言葉から自分がまだ生きている事実を知ることとなった。
「生きてたのか……」
「うぅ……良かったです、本当に……! ユーさんが生きてて……!」
「ミランダ……」
タックルを食らった時には殺す気かと怒鳴りつけたくなったが、しかし彼女が本気で自分のことを心配してくれていたのを見れば、怒る気も失せる。
「ふえぇん……ズビィーッ!」
「汚ないから止めろ。ほら、鼻紙、これを使え」
直後にミランダがユウの病衣で鼻チーンしたので、すぐにその感動する気持ちは沈むこととなったが。
見た目は年下だが、これでもユウはミランダの上官であり人生においても先達である。
ため息まじりに鼻紙をミランダの鼻に当てて世話を焼く姿は、幼い娘か妹を持つ実年齢相応のおっさんだった。
鬼ごっこは攻守交代。
首置いてけ集団が鬼となり、ザフト(ヴェサリウスと誤認されているヴァレット)が追いかけ回される番になります。