その首置いてけザフト共   作:みども

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ヴァレット追撃戦 2

 

 

 アウグストの医務室の扉が開かれる。

 ミランダの声を聞いてユウが目を覚ましたことを知り入ってきたのは、初陣となるシベリア・蒙古戦線の頃より互いの背中をあずけ轡を並べてきた相棒、戦友といえる存在のミハエル・クズネツォフである。

 

「起きたみたいだな、ユウ。年齢詐欺師の童顔の次は、隻眼ミイラのコスプレかよ」

 

「ほざいていろ。否定はできないがな」

 

 ユウが生きていたことを知った時は取り乱していたミハエルだが、引き渡し後命に別条はなく休めばいずれ目を覚ますことを軍医に知らされていたため、ミランダよりは落ち着いている。

 顔を合わせて早々に憎まれ口を叩きながらも表情は心底安堵していることを見抜いたユウも、久しぶりの再会で年齢詐欺師だのミイラだのという発言については流す。

 

 お互い理解があるので2人の冗談交じりの軽口の叩き合いはそこで終わるはずだったが、しかしこの場にいたもう1人が耳聡く余計なことに興味を抱いてきた。

 半身に大やけどを負っているユウの体は包帯で巻かれており、その外見は現在ミイラである。

 そのことにミハエルの発言で気づいたミランダが、これ幸いとばかりにバカにしてきた。

 

「隻眼ミイラ? あ、本当だ! ププッ、ユーさんミイラで死人みたいですね! 童顔も隠せるし、今度こそ見た目も誤魔化せずにおっさんじゃないですか!」

 

「否定はできないな」

 

 早速人差し指を突きつけて笑うミランダに、ユウはいつものことだと冷静な対応を取る。

 しかしミランダを妹のように可愛がり甘やかすミハエルの方もこれ幸いとばかりに同調し、ミランダと一緒になってユウに人差し指を突きつけてきた。

 

「だろ! お前、三十路に片足突っ込みそうな歳にもなってミイラの仮装はおかしいだろ! まあ見た目はガキだけどな!」

 

「何のつもりだミハエル」

 

「ほんとですよ! ちっちゃくて童顔なのに、歳だけは無駄に重ねている中身はおっさんなんですから!」

 

「そういう貴様は図体ばかりデカくなった割に中身はガキだがな」

 

「へへーん、そんな挑発なんかで私が怒るなんて大違いですよ! 外見も中身も、立派なレディなんですから!」

 

「「それはない」」

 

「なんでですか!?」

 

 ミハエルの援護射撃に調子付いたミランダだが、いつの間にかユウとミハエルから同時に口撃の矛先を向けられる標的にされており、大人の淑女発言を同時に否定された。

 ユウとしてはミハエルに対しても、三十路に片足突っ込みつつあるのはお互い様だろうと言い返したいところではあるが、それはひとまず置いておく。どうせ外見詐欺師、見た目は子供、10年分歳を偽っているなどという反論を食らい、負傷者の身で余計なエネルギーを使ってしまうのが予想できたからである。

 

 ミハエルの方も最近は自分の年齢を気にする機会が多くなっているので、この手の嘲笑には過敏に反応するのである。

 似たような反撃を食らうのが目に見えているので、予想できる面倒ごとは避ける気質のユウは触れずに置いたが、しかしミランダの方が援護してくれていたはずなのにいつの間にかユウの側に回っていたミハエルに対して反撃してきた。

 

「ミューさんだってもう28歳じゃないですか! ユーさんのこと笑えないと思いますよ、おっさんですよ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 ユウからのおっさん呼ばわりは受け流せるし反撃できるが、妹分からのおっさん呼ばわりは精神的に大きなダメージとなるらしい。

 ミランダに年齢を突きつけられ、その場に膝をつく。

 

「まだだ……まだこれでも20代だ!」

 

「でもユーさんよりも年上じゃないですか! やーい最年長!」

 

「これでもアルトリア連隊長と同い年だっての! あの人のこと中年呼ばわりできるのか!?」

 

「無理だな」

「それは無理ですね」

 

「この……外身ガキと中身ガキコンビ!」

 

「ガキじゃないもん!」

 

「病室で騒ぐな、ガキか貴様ら」

 

「お前が言うな外見詐欺師!」

「ユーさんには言われたくないです!」

 

 仲間と再会できたのは嬉しいしこの騒がしさも懐かしいが、多感な子供の兄弟を引率する父親の気分になるユウであった。

 こういう時、包帯の下に隠れている10歳は幼く見えるという童顔と小柄な体躯が気に入らないと思う。

 

「……貴様ら、医務室で静かにすることもできないのか?」

 

 そんな中、扉のところから室温が数度下がるような錯覚を覚える冷たい声が響く。

 息を飲んだ3人の目が向かった先に、第9航宙機動艦隊のMS・MA混成機動兵器部隊の連隊長であり彼らの上官である、アルトリア・ホーエンハイム大佐が立っていた。

 

 すぐさま姿勢を正し敬礼をとる3人。

 ユウに関しては立ち上がれる状態ではないためベッドの上で座った状態となる。

 

 室内に入ってきたアルトリアは、呆れたようにため息をこぼすと──

 

「この馬鹿者が!!」

 

「──ッ!?」

 

 岩のような拳で繰り出す渾身のストレートを包帯で巻かれたユウの顔面に突き刺した。

 

「「…………」」

 

 一応、よく作戦行動を共にするこの3人の中で大体責任者になっているのはユウなので、何かあれば大抵アルトリアの鉄拳制裁を受けるのはユウなのだが。

 まさかの負傷者の状態でも容赦しない鉄拳制裁を食らわせた“凍土の魔女”の異名で恐れられるアルトリアに、さすがのミハエルとミランダも顔を青くして引いている。

 怪我人でも容赦なしなのか……と。

 

「馬鹿騒ぎの分は以上だ。次、友軍に保護されておきながら生存報告を怠った分だ。歯を食いしばれ!」

 

「了解! ──ッ!?」

 

 一方殴られたユウはベッドの上に沈むが、馬乗りになったアルトリアに襟を引っ張り上げられ、生存報告を行わなかった件についての2発目の鉄拳による制裁を顔面に打ち込まれた。

 

 ユウの生存を聞き涙を流して喜ぶなど仲間を大切に思うアルトリアだが、それとこれは別問題。

 軍人としての彼女は自分にも他人にも非常に厳しい。

 ……厳しいというか、異名通りの魔女である。ある意味ここまでくると妖怪よりも恐ろしい。

 

「1発で済ますと思うのか?」

 

「いえ。存分に──ッ!?」

 

「言われるまでもない」

 

 3発目。

 陥没するのではと思える音を鳴らして、やはり顔面に鉄拳制裁が加えられる。

 今回は火傷により包帯が巻かれているため見られないが、ユウの童顔はアルトリアの鉄拳制裁を受けると原型が崩壊するとして27機甲連隊時代から名物呼ばわりされることもあるなど、第9航宙機動艦隊の面々にとってはよく見られる光景だった。

 

 その後、ミハエルたちと医務室で騒いだ件、アークエンジェルに保護されてから生存報告をしていなかった件、貴重な鹵獲ジンを破壊された件、迅速な原隊復帰の行動をとらずアークエンジェルの庇護下に甘んじた件、ミハエルが中年呼びしようとした件、ミランダの鼻水で病衣を汚した件など、若干言いがかりとか冤罪に近いものもあったがそれらの件についての罰として起きたばかりの意識が飛びそうになる程に数発殴られた。

 包帯とベッド、病衣が赤くなっているが、すべて鉄拳制裁によるものである。

 

「今回はこれで許す」

 

「りょ……了解!」

 

 ユウにしてみれば意識が飛ぶ直前まで繰り広げられる制裁は慣れたものであるが、ミハエルとミランダはやっぱり見慣れることができないとアルトリアの容赦ない制裁に2人が受けたわけでもないのにユウ以上に怯えていた。

 

 アルトリアがアウグストの医務室を訪れた用件は、当然ユウに対する鉄拳制裁もあるが、アークエンジェルに保護されそしてこうして合流を果たしたまでの経緯について隠されていることなどを知るためと、ユウの方が知らないグスタフ撃沈から月軌道会戦に至るまでの第9航宙機動艦隊の動向を説明するためだった。

 

「まず貴様が説明しろ。クルーゼ隊に乗機を撃破されてから、この医務室で目をさますまでの覚えていることを」

 

 ミハエルとミランダも同席を許す形で椅子に並んで座ったアルトリアは、先ずはユウの話を聞くことにして、彼に説明するよう命令する。

 グスタフ撃沈の顛末についてはミハエルから既に報告を受けているので、ユウがどうやって生き残り、アークエンジェルに拾われ、今まで生存報告ができなかった理由などを聞き出すためである。

 

 ユウの方はG兵器などの機密情報の詳細については恩あるアークエンジェルの面々が隠しておきたいことであるのは聞いているため、それらについては隠して説明を始めた。

 

「了解しました。グスタフ撃沈時のことですが──」

 

 とはいえ、グスタフを沈められザフトのジンに乗機の偵察型ジンを破壊されてからアークエンジェルに拾われたのは偶然である。

 彼の記憶にあるのはアークエンジェルの病室で目を覚ましたところからになる。

 

 大西洋連邦第8艦隊所属の新型艦艇“アークエンジェル”に拾われ、そこの医務室で目を覚ましたこと。

 エンデュミオンの鷹として名をはせる連合でも随一の知名度を誇るMAパイロットのエースであるムウ・ラ・フラガが護衛をしている新型兵器を搭載した艦艇であり、それを狙うクルーゼ隊の追撃を仕掛けられたこと。

 アルテミス近郊にてガモフらの包囲網を突破したが、クルーゼ隊の旗艦であるヴェサリウスに捕まり、ガモフを含めたザフト軍艦2隻とそれに属するMS部隊と交戦状態となったこと。

 ガモフの特攻と撃沈、ザフト艦に潜入しMSを強奪、新兵器強奪を図るザフトにその新兵器のうち3機を奪われたが残る2機の強奪は阻止しザフトの重要人物を捕虜にしたこと。その捕虜はアークエンジェルにいること。

 ガモフを撃破した後、ヴェサリウスからの追撃を受けアークエンジェルからの要請に応じ鹵獲ジンで出撃、交戦するもクルーゼのシグーに撃破されてしまったこと。

 そして、その後意識を失い、こうしてアウグストの医務室にて眠っていたことを。

 

「新兵器とは何だ?」

 

「極秘事項につき教えてもらうことはできず、詳細は分かりません」

 

「……隠しているな?」

 

「……黙秘します」

 

「……まあいい。次はこちらの番だな」

 

 G兵器に関する説明には納得いかない部分はあったようだが、ユウが決して口を割るつもりがないことを察したアルトリアは深くは追求しなかった。

 この件についても鉄拳が飛んできそうではあったが、理由が恩に報いるためであることを察したからか、その手合いには弱いアルトリアは黙認してくれるようである。

 

 次に、アルトリアの方からユウに対してグスタフ撃沈からの動向を教えられる。

 

 ミハエルが唯一の生存者であるミランダを守り艦隊に帰還したこと。

 クルーゼ隊を追う中で、アルテミスからの救援要請を受けて、ユーラシア連邦の誇る難攻不落の要塞アルテミスが陥落した事実を知ったこと。

 クーロンらが駐留するアルテミスの奪還に向けて攻撃を行い、アルテミスから脱出した生き残りと共に要塞を奪還したこと。

 クルーゼ隊のヴェサリウスから発せられたプラント本国への遠距離通信を傍受し、アウグストとベニグセンでそれを追跡したこと。

 その先で交戦しているアークエンジェルとモントゴメリら第8艦隊から派遣された一部の大西洋連邦の友軍と、2隻のナスカ級と数機の未確認新型MSからなるザフト軍を発見し、ナスカ級とシグーからクルーゼ隊と推測し介入、ザフトへ攻撃を仕掛けたこと。

 ヴェサリウスと思われるナスカ級こそ逃したが、1隻を撃沈、新型機を除くすべてのMSを撃破し、救援に成功したこと。

 逃したナスカ級をベニグセンに追撃させ、アークエンジェルらの救援活動に従事したこと。

 そして、アークエンジェルで眠っていたユウと再会し、フッカーから引き渡してもらったこと。

 撃破したシグーのパイロットがクルーゼではなかったことから、グスタフの仇であるクルーゼ隊が捕捉できておらず、ベニグセンに合流する当初の予定通りに動くべきか悩んでいる状態でありアウグストの進路が未定の状態にあることを。

 

 アークエンジェルとアウグストが合流できたのは、ただの偶然である。

 それを果たしたのがあのクルーゼ隊によるものだと思うと複雑ではあるが。

 

 本来の目標であるヴェサリウスが未だ捕捉できていない状況のため、ベニグセンと合流しヴァレットを追撃するべきか、それともアークエンジェルと同行するべきか迷っているアウグストの現状を聞き、ふとアルトリアの話の中に出ていた新型の未確認MSについて思い至った。

 

「連隊長、未確認の新型MSについてですが、3機とおっしゃいましたか?」

 

「ああ」

 

「形態を変化させる赤い機体、群青と白のビーム兵器を持つ機体、2つの遠距離砲撃武装を持つ機体ですか?」

 

「知っているのか?」

 

 アルトリアに確認すると、その新型MSはユウの知る強奪された3機のG兵器と一致した。

 つまり、クルーゼとヴェサリウスはいなかったが、クルーゼ隊は一方で援軍を用意するとともにG兵器だけでアークエンジェルに攻撃を仕掛けてきたということになる。

 そして、そのG兵器3機はヴァレットが収容し、ベニグセンが現在追撃に従事しているという。

 

 クルーゼ隊が強奪に成功しているのは、イージス、デュエル、バスターの3機。アルトリアの証言と一致する。

 つまり、クルーゼ隊の目的であるG兵器奪還のためにヴァレット追撃に向けて動けば、それを阻止するためにヴァレット救援に向かってくる可能性の高いクルーゼのヴェサリウスと接敵する可能性が高くなるということである。

 

 つまり、クルーゼ隊撃破を目的とするアウグストのとるべき進路はベニグセンとの合流。

 場合によっては奪われたG兵器の奪還も果たせるかもしれない。

 そのことを説明するためには、アークエンジェルとG兵器についてアルトリアにも説明する必要がある。

 

「連隊長、意見具申いたします」

 

「言ってみろ」

 

「その前に、アークエンジェルとの通信許可を。自分の推測が正しければ、大西洋連邦と共同でクルーゼ隊を確実に撃破する算段が立てられるかもしれません。奴らの目的について、未確認のMSについて、説明する必要があります」

 

「…………」

 

 ユウの言葉に、少し考え込むアルトリア。

 しかしクルーゼを討ち果たすならばとすぐに決断し、頷いた。

 

「許可する。私も同席しろということだな」

 

「お手数をおかけ致します」

 

「ミハエル、ミランダ、お前たちはしばらく待機していろ」

 

「「了解!」」

 

「立てるか?」

 

「問題ありません」

 

「よし、行くぞ」

 

「了解!」

 

 アルトリアの命令を受け、ミハエルとミランダは待機のために部屋から出て行く。

 そしてベッドから立ち上がったユウは上着を羽織ると、アルトリアとともにアウグストのブリッジへと向かった。

 

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