その首置いてけザフト共 作:みども
アウグストのブリッジにて、アークエンジェル、モントゴメリと通信をつないだユウは、ナタルに依頼しフッカーやコープマンら主だった第8艦隊側の士官達のうちG兵器に関しての情報を承知している、もしくは開示しても問題ないものたちを集めてもらった。
アウグストのブリッジからは一時的にユウとアルトリア、艦長のアレクシス、副艦長のハウゼンを除く者達を一時的に退室させている。
その上で、ユウはフッカーにG兵器に関する情報をこの場にいる者達に開示する許可を要求した。
『……ユーラシア連邦軍である君たちに、我々の機密情報を見せろと?』
「ナガト少尉、G兵器というのは?」
「申し訳ありません艦長。今は」
G兵器に関して何も知らないシュティーゲが何のことだと尋ねるが、今は黙っていてくれと頭を下げるユウ。
アルトリアはあの時黙秘を貫いた新兵器とやらに関するものだと察した様子である。
一方、渋い顔をするフッカーにユウは交渉を重ねる。
クルーゼ隊を討伐するために彼らの助力は必要であり、それを引き出すメリットとして提示する内容にG兵器に関する事柄をアルトリア達に説明するのは必須になるからである。
とにかくクルーゼの首を上げなければグスタフを沈められた怒りが、恩あるアークエンジェルのクルーを傷つけた奴らの首を上げなければ、ニコルと対面した時から腹の底から吹き上がり続ける怒りが収まりそうになかった。
現在のユウの頭の中にはクルーゼの首を上げてフェルナンド達の仇を取ることが最優先事項であり、それを為すためにフッカーに対して卑劣な手札を着ることも辞さなかった。
「失礼。フッカー艦長、卑怯な手を使わせてもらいたい。ザフトと
第9艦隊の協力がなければ、G兵器も守れなかったし、アークエンジェルもモントゴメリも沈められていただろう?
窮地に陥っている友軍を助けるという当然の義務を果たしたにすぎないことを恩着せがましく貸しにして突きつけ、G兵器の情報開示に関する許可を要請した。
何度も第9艦隊に助けられているフッカーの心につけ込む卑劣な手段だが、フッカーもユウの待遇などに関して後ろめたさがあったこともあり、その要求には逆らいきれず折れてくれた。
『……そういうことならば。承知しました、そのブリッジにいる方々に対してのみ、貴方が把握しているG兵器に関する情報を開示を許可します』
『フッカー!?』
驚くコープマンに、フッカーは首を横に振る。
『責任なら私が取る。これを言われてしまえば、私は彼らの要求に逆らえない』
『むむむ……』
G兵器という最高機密の情報を将来の敵国となる軍、それもコーディネイターたちに開示する。
大西洋連邦の軍人としては断固阻止しなければならないことだが、アウグストとベニグセンは命の恩人でもある。彼らの要求を無下にすることはコープマンにもできなかった。
渋々といった様子で、第8艦隊の面々はG兵器に関する情報開示の許可を出す。
「ありがとうございます。では──」
そしてユウは、アルトリアたちに己の知るG兵器の情報を開示した。
デュエル、イージス、ブリッツ、バスター、ストライク。
5機からなるナチュラル用MS兵器として、第8艦隊提督ハルバートン准将が主導しオーブの軍需企業モルゲンレーテ社と共同開発された、地球連合軍製のMS兵器。
フェイズシフト装甲、光学兵器、MA形態への可変機構、ミラージュコロイド、外部装備による多様な兵装の換装機能、遠距離砲撃を主体とする支援兵器といった武装や特殊機構。
それはユーラシア連邦で作られているジンの模倣品ではない、地球連合側の資本と技術の結晶と言える、大戦の様相を変える画期的な新型MS兵器である。
それがミハエルたちが対峙したデュエルをはじめとする、クルーゼ隊の狙う大西洋連邦の開発した新兵器であること。
そしてそのうちの3機が強奪されており、残る2機も狙われていることを。
「なるほどな……事情は理解した。クルーゼはそれを狙っているということか」
「はい。クルーゼ隊はG兵器の奪取、もしくは奪還阻止に動いてくるはず。ここから、現在位置を特定できていないクルーゼ隊の動向を予想することが可能となります」
先ほどまでアークエンジェルを狙っていたザフト部隊のうち、奪取されたG兵器3機以外、つまりあの2隻のナスカ級とそれに属するMS部隊は全て
つまりヴェサリウスの所在は不明であり、クルーゼ隊がG兵器奪取に向けてアークエンジェルを狙う可能性は高い。
第9艦隊はクルーゼを落とし仇を取りたい。
第8艦隊はG兵器を狙うクルーゼ隊を撃破して安全を確保し、可能であれば奪取されている3機のG兵器を取り戻したい。
そして、クルーゼ隊はアークエンジェルに残されている2機のG兵器の強奪と、捕虜となっているニコル及びラスティの救助か、もしくは奪取している3機のG兵器が搭載されているベニグセンが追撃しているヴァレットを救援し奪還を阻止に動く可能性が高い。
「──これが、現状の各陣営の状況、目的、そしてそれから推測される未だ捕捉できていない目下最大の脅威と言えるクルーゼ隊の動向の予想です」
これらの現状と、互いの目的、そしてクルーゼ隊の目的から推測される動きなどを並べ、ユウはフッカーとコープマンにある提案をした。
「これらを踏まえた上で、第8艦隊の方に意見具申をいたしたい。我々の目的はクルーゼ隊の殲滅、あなた方の目的はG兵器の奪還、そしてクルーゼの目的はアークエンジェルの残る2機のG兵器の奪取かヴァレットの救援による他3機のG兵器奪還阻止です。故に、共通の敵となるクルーゼ隊を排除するために、第9艦隊と第8艦隊の共闘を提案します」
『共闘?
「その通りです」
G兵器を狙うクルーゼは、現状ではアークエンジェルを狙うか、ヴァレットの救援に動くかわからない。
だからこそ、クルーゼの狙いと推測されるアークエンジェルとヴァレットを同じ戦場に集める。
そうなれば確実にクルーゼの行方を誘導できる。
姿を現したヴェサリウスを第8艦隊と第9艦隊の共同部隊で叩き潰すという、ザフトの誇るエースであるラウ・ル・クルーゼを倒すための、ユーラシア連邦と大西洋連邦という国家、ナチュラルとコーディネイターという人種の垣根をこえた地球連合の共同戦線である。
「G兵器──ナチュラル用に開発された連合製新型MS。これがザフトの手に渡り、本国に機体を持ち帰られフェイズシフト装甲などを解析、模倣され量産されれば、ザフトのMSは我々に対抗できない大きな進化を許すことになる。大戦の行方を大きく変えるこの兵器は、地球連合としてもザフトとしても無視できる存在ではない」
『…………』
「しかし、フッカー艦長。ブリッツの奪還阻止、そして実践におけるデュエルとイージスとの戦闘……第9艦隊と第8艦隊の共同戦線を展開すれば、G兵器を有するクルーゼ隊に勝利する可能性があり、奪取された機体の奪還も不可能ではない。クルーゼ隊の殲滅と、G兵器全機の確保。お互いの目的を果たすために、同じ地球連合の側に集った者同士の共闘は不可能ではないと、それこそが両陣営にとっての最大の利益を生むことになると自分は考えています」
共闘の提案。
第9艦隊はクルーゼの首を上げヴェサリウスを沈めたい。
第8艦隊は奪われたG兵器3機の奪還を果たしたい。
その障害であるクルーゼ隊の殲滅のために、コーディネイターの操る新型MSに対抗するために、共闘してクルーゼ隊に対抗する。
利害の一致。
両者の目的を達成するためには、お互いが共同戦線を構築することが最善にして最短の道となる。
ユウが提示した共闘案を受け、フッカーは少しの沈黙を挟み──
『……コープマン、私はやるぞ』
『フッカー!?』
フッカーは、共闘を受け入れた。
『悪いなコープマン。アークエンジェルはこれより奪取されたG兵器の奪還のため、第9航宙機動艦隊と共同部隊を結成し、クルーゼ隊殲滅のためにヴァレット追撃に従軍する』
1艦長による独断の決定。
今までの大西洋連邦の利益を考え忠実に命令を受けてきたフッカーを、クビが飛ぶどころでは済まないこのらしくない決断に走らせたのは、第9艦隊に幾度も救われてきたことだろう。
『お前というやつは……』
『これでも昔は喧嘩屋だのと素行不良として知られていたのでな。まあ、たまには軍人ではなく己の心に従ってみるのもありかもしれないと思ってな』
厳つい顔を子供のように笑わせて破天荒な行動に出ることを宣言したフッカーに、コープマンは頭を抱えながらも下手したら一緒に首が飛びかねない発言をする。
『馬鹿にするなよ。私も閣下の心血が注がれたG兵器を盗まれてはらわたが煮え繰り返っている1人だ。我々も当然参加するぞ! やられっ放しでは済まさないタチだからな!』
フッカーとコープマンが、ユウたちに画面の向こうで手を差し出した。
『共闘の提案、願っても無いこと。G兵器奪還のため、あなた方のお力を貸していただきたい』
『その提案受けましょう。時間がない、すぐに動きましょう、シュティーゲ艦長!』
「──はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
アルトリアとシュティーゲ、ハウゼンが拳を画面に向かって突き出す。
──ここに、月軌道会戦に集い死線を共にくぐり抜けた者たちによる、G兵器奪還とクルーゼ隊殲滅を目的とする第8艦隊と第9艦隊の共同部隊が結成されることとなった。
戦力は十分。
最初の目標はG兵器を載せ敗走を続けているヴァレットの追撃である。
お互い艦隊の司令官であるハルバートンとカリオンに許可を得ない独断による行動という大問題であるが、それでも彼らはこの独断専行の結果クビになろうとも気にする様子はなかった。
「行くぞ! アウグスト、推進器再始動!」
『アークエンジェル、発進!』
『機関いけるな? モントゴメリ、再起動!』
「『『目標、ヴァレット!』』」
アウグスト、アークエンジェル、モントゴメリ、バーナード、ロー。
国家と人種の垣根を超えた5隻──いや、先行するベニグセンを合わせれば6隻からなる合同艦隊が、クルーゼ隊の撃破に向けヴァレットを追撃するべく出陣した。
一方、ユウが出て行った後のアウグストの医務室では。
別の病室にて眠るもう1人の負傷者であり、先の戦闘で撃破されたシグーから救助された捕虜である、ツヴァイ・ゲラートを名乗る白服を授かるザフトが眠っていた。
その顔を隠すペストマスクと、体型を隠すほどに大きかった白服はない。
「…………」
ザフトを激しく憎んでいるはずの第9航宙機動艦隊が、なぜザフトであるツヴァイを生かし治療しているのか。
それはコルシカ条約による人道的観点からの負傷兵の保護による人命救助というのもあるが、それよりも
ベッドに眠るツヴァイの素顔は、その姿は──
「何で、こいつ……連隊長に瓜二つなんだよ?」
凍土の魔女の異名で恐れられる、彼らのエース。
第27機甲連隊時代より特区出身の彼らの部隊を率いてきた、アルトリア・ホーエンハイムに瓜二つだったからである。
2《ツヴァイ》などというあからさまにおかしな名前の持ち主のペストマスクがなくなりました。
その素顔を見て驚いたミハエルが持ち帰ってきたのですが……