その首置いてけザフト共 作:みども
遭難している可能性がある大西洋連邦の部隊の救助に向かった先で、その大西洋連邦の部隊が国際救難信号を発する民間シャトルを撃ち落そうと追い回しているという想定外の事態に遭遇したユウとミランダ。
どのような理由があるかは不明だが、例え交戦中の敵国籍であっても民間機に対する攻撃は重大な国際法違反であり、その蛮行を許すことはできないと止めに入るが、大西洋連邦の部隊はあろうことか同盟国の軍属であるユウ達に対しても攻撃を仕掛けてきた。
再三に渡って友軍であることを説明し攻撃の即時停止を求めるもコーディネイターだからと聞き入れられず、シャトル保護と自衛権の行使として止むを得ずユウは攻撃してくるMAに対して反撃。
連合同士の互いを友軍と認識した上での同士討ちにより、ユウ達はジンの右足を失い、大西洋連邦も11機のメビウスのうち7機が撃墜され5人の死者を出す事態にまで発展する。
それでもMA編隊の方は脱出に成功した仲間の保護を行うために離脱した機体以外は攻撃を止めず追撃してきた上に、ミサイルを満載した新手のMA編隊が接近していたため、シャトルの民間人を守るためにも交戦中の編隊の壊滅を考慮したユウだったが。
そこに異変を察知しジンを飛ばして駆けつけてくれたミハエル機が到着したことで、ミハエルにMA編隊の足止めを任せてユウはシャトルの安全を確保するために急いでグスタフへと離脱していった。
到着したばかりで状況をつかめていなかったミハエルだが、ボロボロの民間シャトルを抱えてMA編隊から執拗な攻撃を受けているユウ達の機体を見てどちらに加勢するべきかをすぐに判断し、ユウ達を攻撃していたメビウス3機を増援が来る前に瞬く間に撃破。
リニアガンの砲身を重斬刀で切り落とし、バルカン砲を重突撃機銃で破壊。ついでに推進部にも損害を与え、攻撃能力と行動能力を奪い制圧した。
艦隊の方から本部に問い合わせたところ大西洋連邦は存在を否定していたので、最悪海賊と見間違えたという言い訳も通るだろうと、警告を繰り返した上で自衛のために戦闘を行ったユウと比較して攻撃にためらいがなかった。
一応は友軍なので、さすがに命を奪う攻撃はしていないが。
「後ろからきている味方にでも拾ってもらいな」
置き土産だと最後にチャフをばら撒いてから、ジンをグスタフの方に向けて飛ばし離脱していく。
30機以上のメビウスからなる本隊が多数の脱落機を出しながら追撃しようとしたが、ミハエルのばらまいたチャフにカメラやセンサー類を潰されたことで2機のジンを見失うこととなり、撤退することとなった。
蔡瑁の救難信号無視。
ユニウスセブン追悼慰霊団の搭乗していたプラント民間機に対する攻撃。
ユーラシア連邦軍所属のMSに対する攻撃。
後日、これらの件について把握した東アジア共和国やユーラシア連邦などの各国から大西洋連邦に対し非難が殺到するが、それらを大西洋連邦はユニウスセブン跡が残るデブリベルトにて作戦行動中の部隊はいなかった故に無関係であると否定する。
大西洋連邦の方は死者まで出す事態であったにもかかわらず、あくまでも大西洋連邦軍を語る何者かによる事件であったという姿勢を崩さず、ラクス・クライン暗殺未遂事件には一貫して無関係の立場を取り続けた。
その裏で味方に撃ち落とされて死ぬという悲劇に見舞われたメビウスのパイロット達の遺族へ、作戦行動中の行方不明として処理された遺族年金が支払われ、事実は闇に葬り去られることとなった。
のちにこの一件に関わった地球連合各国でそのようなやり取りが行われることになるとは知らず、誰が搭乗しているかも分からぬままにユニウスセブン追悼慰霊団を乗せた民間シャトルを保護したユウ達。
蔡瑁の修理も終わり、発進準備を整えつつあったグスタフの元へ足を落とされた状態で帰投したユウは、ドッグにてシャトルを下ろし艦長へ報告を行っていた。
「──以上です。自衛のためとはいえ友軍に対し死者を出す攻撃を行ったのは事実。この件に関しては提督にも報告を行い、本国にて事実確認の必要があると考えます。また、本件に関する友軍機への攻撃は機長である自分の独断によるものであり、サブパイロットであるミランダ・トゥハエスフカヤ准尉は任務中の体調不良により当時の状況を把握できる状態にはなく、事件に関して一切関与していないことを証言いたします」
『そうか……分かった。場合によっては軍法会議にかけられ重大な処分が降る可能性もある。此方としても可能な限り庇うつもりだが、覚悟を決めておいてくれ』
「民間人保護及び自衛のためとはいえ、友軍機に対する意図的な攻撃を行い死者を出したことは事実。相応の処分を覚悟の上で反撃を行いました。いかなる罰も受け入れる所存です」
『すまない。こんな結果になるなら、向かわせるべきではなかった』
報告を終え、グスタフとの通信を終える。
そして命令を遵守し今まで目をつむり伏せていた同乗者の背中を優しく叩いた。
「……ユーさん?」
「もう終わった。開いていいぞ」
「は、はい! それで、シャトルの皆さんは?」
目を閉じていても味方に追われているというのは感じていたのだろう。
恐怖でかなり疲れた顔をしていたが、それでも終わったと聞くなりすぐに持ち前の明るさでとり繕い、そして真っ先にシャトルの安否を尋ねてきた。
その無類のお人好しぶりが、さすがに今回の件はストレスになっていたユウにも荒れた大地に振る優しい雨のように沁みて、心に溜まった澱を取り除いてくれた。
「……シャトルは無事だ」
「良かったぁ〜」
それを聞いたミランダは心底安堵したように表情を緩めた。
ザフト相手ならば一切容赦ない彼女だが、やはり本質は殺し合いを職務とする軍人には向いていない純真な少女である。
ヘルメット越しにその頭を撫でながら、ユウは少し前まで同士討ちで味方と殺し合いを演じていた時とは違う毒気を抜かれたような穏やかな表情を浮かべた。
「ちょっと、子供扱いしないでくださいよ童顔のくせに!」
「実際、貴様はガキだ。おとな扱いされたければあと5年歳を重ねることだ」
「なんですかそれはぁ! 私これでも23歳ですよ! 立派な大人です!」
「図体ばかりで精神が未熟すぎる。十分にガキの範疇だ」
「むうぅぅぅ!」
頬を膨らませて抗議の意を示してくるが、それがすでに子供っぽいことを自覚していないのが精神的にまだまだ子供に見えてしまう要因である。
穏やかな表情から少し小馬鹿にした胡散臭い笑みに変わったユウに、グスタフのオペレーターから通信が入った。
『此方、グスタフ。ナガト少尉、トゥハエスフカヤ准尉、両名に艦長より招集命令が出されています。1200秒後、CICに集合願います』
「此方、ナガト。了解しました」
「こちら、トゥハエスフカヤ! はいです、了解しました!」
グスタフの艦長からの招集命令に了解の返事をして、ジンを停止させコクピットのハッチを開く。
ジンを降りたところ、回収したシャトルの方には整備兵や銃を携行した保安部員のほか、数名の士官とシャトルの乗員と思わしき人々の姿があった。
彼らを士官が誘導していく。
その服装は単なる旅行客というには見るからに高価な服に身を包むものが多く、面倒な拾い物をしてしまった予感のする一団に見えた。
「あれって──」
「お前はさっさとシャワーを浴びて着替えろ。集合場所はCICだ」
「わかってますよ! もう、子供扱いしないでくださいって言ってるのに! ふんだ!」
ミランダを余計な問題に巻き込ませるつもりはない。
興味を持たれる前にさっさと追い払い、おそらくこの場で軽く事情を聞かされていただろう保安部員の1人に声をかける。
「レオンハルト」
「どうした童顔少尉?」
「その呼び名はやめろと再三言っているはずだ。それより聞きたいことがある」
いつもの茶化すような冗談交じりのあだ名でよぶ保安部員──レオンハルトにやめろと聞きもしない釘をさしながら近づき、身元確認くらいの事情聴取はここでしただろうとそのことを聞いていないかを尋ねる。
「シャトルの一団だが、何者だ?」
「え、知った上で保護したんじゃねえのか!?」
「シャトルの方がバッテリー切れに陥った事もあり通信出来なかったから、拾ってきた身だが彼らが何者か把握していない」
「……ちょっとこっち来い」
レオンハルトにドッグの片隅まで連れて行かれ、整備兵らから距離を取る。
大西洋連邦が民間機を狙っていたほどだから、やはりプラントの重要人物が乗っていたらしい。それこそ、一般の整備兵達に知られるわけにはいかないとレオンハルトが判断するくらいには。
聞かれないようにドッグ内の人間から距離を取ったところで、レオンハルトは小声でシャトルに乗っていた一団をユウに伝えた。
「あのシャトルに乗っていたの、プラントのユニウスセブン追悼慰霊団だ。そしてその代表者はシーゲル・クラインの娘、ラクス・クラインだった」
「──ッ!?」
それを聞いたユウは、予想を上回るその名前に目を見開き、驚愕の声をあげようとしたところ慌てて自分の手で口をふさぐほどに衝撃を受けた。
ラクス・クライン。
それはユーラシア連邦を始めとする地球連合と交戦しているプラントの意思決定機関“プラント最高評議会”の議長であり、血のバレンタインの報復として“ニュートロンジャマー”を地球全土に打ち込み、地球の深刻なエネルギー不足を引き起こし10億人を超える餓死者を発生させることとなった“エイプリル・フール・クライシス”を起こした張本人、あの“シーゲル・クライン”の実の娘である。
ザフトの広告塔など様々な場で活動しており、“プラントの歌姫”とも呼ばれ、プラントのみならず地球でも彼女の歌を愛する人々は多い絶大な人気を誇る人物でもある。
連合・プラント間の開戦と血のバレンタインから1年近くの月日が経過している。
ユニウスセブン崩壊の一周年の追悼式典がプラントで行われるという話をミハエルから聞いたことがあったと思い出す。
大西洋連邦──いや、おそらく地球連合のコーディネイター差別の過激派であるブルーコスモスが同様にその情報を入手して、襲撃を計画し実行したのだろうとユウは推測した。
あの過激な思想の手先であるテロリスト達には、コーディネイターとあれば民間人でも躊躇なく手にかけるような連中も多い。
もしも今回の慰霊団襲撃とラクス暗殺がユニウスセブンの跡地で成功していたとすれば、プラントの反ナチュラル感情はさらなる昂りを見せ、地球でもファンの多い歌姫の死は連合側にも大きな影響を及ぼしていたかもしれない。戦争はより一層泥沼の様相を見せることになっていたのは容易に想像がつく。
「ラクス・クライン……」
ユウの心境は複雑だった。
予想を超える面倒な事態に関わってしまった。
ラクス・クライン暗殺を阻止できたのは、大きな出来事だろう。もしくは戦争の行く末を変えるほどのターニングポイントになったかもしれないと言えるほどに。成功していたとすればプラントとの講話の道が一層遠のく、つまり戦争がさらに長引いたかもしれないから。
だが、助けた相手があのシーゲルの娘というのか複雑だった。
シーゲル・クラインはプラントのトップであり、そしてあのエイプリル・フール・クライシスを起こした男だ。
あの、あと少しで完成するはずだった理想郷を破壊した──
「クソがッ!」
「うおっ!?」
拭いきれない感情を吐き出すように、壁を殴りつけた。
隣でレオンハルトが驚いているが、ユウはそんなこと気にしていられるほどに感情がぐちゃぐちゃになっていた。
頭では理解している。
ラクス・クラインはザフトの広告塔として活動していることもあるが、彼女はシーゲルの娘であってもプラントの評議会には一切の発言権を持たないプラントの民間人である。たとえシーゲルの娘だとしても、エイプリル・フール・クライシスの件に関して恨みの矛先を向けるべきはザフトであり、彼女は責められる謂れはない。
だが、どうしてもドス黒い感情を押し込めることができない。
憎悪の念が湧き上がり、クラインを殺せという黒い感情の訴えが浮かんでくる。
「……頭を冷やしてくる」
「あ、ああ……」
いきなり壁を殴りつけたことに困惑しているレオンハルトを置いて、ユウは1人ドッグから離れていった。
今後の展開ですが、ユウ達の過去編を何話か挟み、その後クルーゼ隊の方に視点を移す予定です。