その首置いてけザフト共 作:みども
第8艦隊と第9艦隊による、クルーゼ隊討伐を目的とした合同部隊の結成。
両艦隊を率いる提督に許可を得ず結成されたこの問題児たちの合同艦隊は、G兵器の奪還を目指し地球に向かって逃避行を続けるヴァレットの追撃に加わるべく、ベニグセンの航跡を頼りに月の軌道から地球に向かって宇宙空間を進んでいた。
第9航宙機動艦隊のMSパイロット達は、実戦となればザフトのパイロットを技量で圧倒する。
それこそ実体兵器が主武装のジンでG兵器を駆使するザフトを相手に優勢に戦闘を進め、イージスやデュエルに実質的な勝利をつかんだほどに。
だが、それでもフェイズシフト装甲を有するG兵器は、戦闘を重ねるごとにデータが蓄積されていき、ザフトのパイロットたちもクルーゼのように第9航宙機動艦隊の面々が行う高機動戦闘に対応してくる可能性もある。いずれジンで対抗することは困難になるだろうことは明白であり、対抗手段としてこちらもビーム兵器を有するG兵器2機の実戦配備を進める必要があった。
お行儀よい二流の技量しか持たないザフトのパイロットが駆使するMSならば、G兵器でもユウたちは自分たちのジンだけで対抗できると主張したが、フッカーはザフトにG兵器の機体を奪われることが最悪の事態でありそれを防ぐために戦力の出し惜しみはできないと、ブリッツとストライクの出撃を譲らなかった。
本音を言えば、ユウたちとしてはむやみに前線に出したブリッツやストライクの鹵獲を許す状況を作りたくないというのと、G兵器の鹵獲を目的とするならばフェイズシフト装甲を突破できない実体弾主体のジンの方が長期戦にはなるが都合がいいので、G兵器の出撃には反対だった。
しかしG兵器の性能を開発した身ゆえに理解しているフッカーたちは、性能面で圧倒的劣勢を強いられるジンではいかに妖怪集団といえどもその性能差から第9艦隊にも被害が出る可能性が高かった。
現に、フッカーたちの目の前でユウは一度撃破されてしまっている。命こそ助かったが、死んでもおかしくない状況だった。
恩人である彼らに犠牲者を出すくらいなら、出し惜しみなどしていられない。
作り直せる兵器と失えば2度と帰ってこない人命の天秤をかければ奪われたG兵器の破壊も辞さずという覚悟はあった。
そういう経緯からストライクとブリッツの実戦投入が決定された。
難色を示すのはむしろ第8艦隊の方だと思っていた第9艦隊の面々にとって、G兵器の実戦投入を強く要望したのがむしろ第8艦隊の方だったというのが想定外ではあったが。
問題はパイロットである。
未完成のナチュラル用OSでは実戦など到底困難であり、書き換えられたコーディネイター用のOSを使うしかないのだが、その場合パイロットは当然第9航宙機動艦隊のメンバーに担ってもらう必要がある。
というよりも、そもそもザフトの赤服が乗りこなすG兵器にたとえ完成していたとしてもナチュラルのMSが勝てるわけがないので。
機密情報の塊であるG兵器をユーラシア連邦に所属する第9航宙機動艦隊に操縦させるのは大西洋連邦としては大きな問題ではないかという懸念を示したが、フッカーは首が飛んでも構わないという覚悟が合同部隊結成の時にできたのかどこか吹っ切れた様子であり、命の恩人に預けるくらいどうということはないと承諾した。
コープマンは一度待ったをかけたものの、コーディネイターの操縦するG兵器に対抗するにはコーディネイターの操縦するG兵器しかないと最終的に納得し、こちらも承諾したことで、ストライクとブリッツの出撃が決定することとなった。
そこで2機のパイロットをどうするかを話し合った結果、アルトリアとユウが選出されることとなり、2人は一時的にアークエンジェルに移動することとなった。
担当はアルトリアがブリッツ、ユウがストライクである。
ニコルたちが書き換えたOSもようやく基礎的な動作で動かせる程度の不十分なものだったので、そこから機体の特性や武装を考慮したコーディネイターの扱う実戦用のOSに書き換えていくことになったのだが。
「…………」
「どうしたんだ少尉殿? なんか、変なものでも書き加えられていたのか?」
OSの修正中に、アルトリアがさっさと書き換えを終わらせた一方でユウは途中でその手が止まってしまった。
ラスティ・マッケンジーが何かをしたのか?
不審に思ったマードックが声をかける。
「いえ、そういった類があるわけではないのですが……」
するとユウは首を横に振り、特にそういう爆弾みたいなものが書き込まれていたわけではないと否定する。
しかし何か気になることでもあるのか、顎に手を当ててOSの表示されるモニターとにらみ合うユウ。
「おい坊主。いつ戦闘になるか分からねえんだ、問題ないなら早くしてくれよ」
クルーゼのヴェサリウスはいつ現れるかわからない。
緊張感の漂うアークエンジェルの格納庫の空気に、問題がないなら早く戦闘態勢に移行できるようにしてくれとマードックが焦る。
一方でOSとにらみ合っていたユウは、コーディネイターの反射神経と繊細な操縦技術を持ってようやく基本的な動作を可能とする、ナチュラルからすれば難解でありコーディネイターからすれば簡素であるOSを見て、ふと思いついた。
「──マードック軍曹、ラミアス大尉とフッカー艦長に通信をつなげられますか?」
「一体何故?」
突然技術班の責任者と艦のトップに通信をつないでくれと言ったユウに、この場で何を言い出すんだと少し口調が乱暴になりながらその意図を尋ねるマードック。
それに対し、ユウはとんでもない爆弾発言を落とした。
「ナチュラルの使える戦闘機動用OS、作れるかもしれません」
「…………はあああぁぁぁ!?」
一拍の時間を置いて、顎が外れるのではないかと心配になるくらいに大口を開けたマードックの絶叫が格納庫に響き渡った。
無理もないだろう。
彼らが心血注いで研究を続け、未だに完成していないナチュラルがMSを動かすためのOS。
それがユーラシアのMSの操縦を専門とする技術やではなくあくまでパイロットの若造が作れるかもしれないと言い出したのだ。
驚くし怒りもするだろう。
「バカぬかしてんじゃねえよ坊主! 俺たちがどれだけ時間をかけてそれを完成させるために奮闘してきたと思ってんだ!」
ナチュラルからすれば気が狂うような、高度な反射神経と空間認識能力、姿勢制御だけでも恐ろしく高い操縦技術を要求されるコーディネイター用のMSの操縦用OS。
そんなものをホイホイ扱えるコーディネイターに、ナチュラルの苦労がわかってたまるかと、マードックは怒りをあらわにする。
そんなマードックに、ユウはラスティの作ったコーディネイターにとっては簡素で基礎的な動作しかまともにできないOSを見てひらめいたことを冷静に伝える。
「すべてパイロットの技量に任せるのではなく、各動作に対応したパターンを人工知能のソフトに与えて、操縦者が状況に応じてそのパターンに沿った動きを機体に命令する操縦を行わせれば、ナチュラルでもMSを動かせるOSが作れるかもしれない」
「──ッ!」
ユウの言葉は、怒りをあらわにするマードックにそれを一瞬で忘れさせる衝撃を与えた。
技術屋だからこそわかる。
ユウのその提案が、今まで遠い夢の中にあったナチュラルでもMSを動かせるOSに非常に適したものであることが。
ナチュラルにコーディネイターのような操縦技術を要求することは不可能である。
だが、それが困難なのは『歩く』という動作1つを取ってもMSの制御は極めて複雑なものだからだ。
だが、それらの細かい制御などを、例えば人工知能に学ばせてパターン化した『歩く』という1つの動作として集約し、パイロットの操縦においてはその『歩く』という命令を出すようにして機体の細かい制御は人工知能に任せてしまえば、ナチュラルでもMSを歩かせることができる。
それらの動作のパターンを増やし、外部の地形データなどへの対応パターンも人工知能に学ばせそのサポートを受けた様々な行動パターンの命令を出す形のOSを組み上げれば、ナチュラルでも戦闘機動を行えるMSになれる。
「その手があったのか……!」
技術屋のプライドが、自分の子供のような存在であるG兵器の答えの1つを他人に見つけられたことに対する嫉妬などは多少あったかもしれない。
それでも、マードックにはそのユウが出した1つの答えというものがどれだけ価値があるかを理解しており、そんなくだらない嫉妬も怒りもどこかに吹き飛んでしまった。
「でかした坊主!」
階級的には上官であること、見た目に反して二十代後半であることを忘れ、ユウの頭の背中をぶっ叩いて坊主呼ばわりしその場から飛び出していったマードック。
その背中を見て、ユウは小さくこぼした。
「これでも俺、26歳なんですが……」
いく先々で言われ続ける年齢の誤解。
さすがに気にしていた様子である。
……まあ、今は包帯ミイラなので童顔は隠れているのだが。
人工知能のサポートを受けた、ナチュラルでも扱える簡略化された機体へのパターン化された命令で動かすOS。
ナチュラルも扱えるMSのOSに関する1つの答えといえるユウの提案には、フッカーとマリューも驚きを隠せなかった。
パターン化された命令を出す操縦なので、どうしてもロボットじみた単調な動作になりがちになるかもしれないが、それでもユウの提案したOSは機体性能差や数の力があればナチュラルのMSでも十分にコーディネイターのMSと戦闘ができるようになる画期的な代物である。
今までの手探りで闇の中を進んでいたような頃とは全く違う、明確にナチュラルのパイロットがMSに戦闘機動の操作を行わせることができるビジョンが見えるものだった。
幸い、パターン化する命令のデータを入れるにも、地球でも宇宙でも、雪原、砂漠、高地などなどの多様な環境でMSによる戦闘を繰り広げてきたMS戦闘のスペシャリストといえるもの達がこの場にいる。
彼らの戦闘経験を基にした無数の動作パターンのデータが人工知能ソフトに組み込まれていき、それらを『歩く』『盾を構える』『横に回避する』などなど簡素的な命令プログラムに集約されていき、ストライクに人工知能のサポートを受けたナチュラル用OSの雛形といえるものが完成し搭載された。
とはいえ、それでもかなりの数の動作パターンがある。
コーディネイターの扱うそれと比べればはるかに簡易化され容易に操縦できるようになったとはいえ、それでもパイロットに求める技量と才覚、空間把握能力などはナチュラルにとっては高度なものが必要だった。
本来のストライクのパイロット候補には、これでも普通に動かしたり艦艇修理などの作業を行うには問題ないが、コーディネイターのMSを相手に戦闘機動をとるのは困難であった。
ならば、このアークエンジェルにこのストライクを扱えるだろうパイロットは1人しかいない。
彼のMAも現在は修理中であり、手持ち無沙汰になっていた連合において最も有名なエースの1人である彼に白羽の矢がたつのは必然であった。
「おいおい……俺はMA乗りだぜ」
「不可能を可能にする男。その真髄を見せてもらいたい、ムウ・ラ・フラガ大尉」
「いやまあ、これだったら俺も使えると思うけどよ……そうだ! 俺がこいつを使いこなせたら、ラミアス大尉、一回デートしてくれよ!」
「…………」
こうして、ストライクのパイロットはムウが担うこととなり、彼らの夢であるナチュラルの操縦するMSがついに完成した。
ユウはミランダとともにストライクの代わりにアークエンジェルでの戦闘時にガモフから強奪したマシューの偵察型ジンに、ミハエルは遊ばせておくわけにもいかないとブリッツに搭乗することで空席となったアルトリアのシグーに乗ることとなり、MS部隊の態勢も整った。
そして、アウグストらはついにベニグセンとヴァレットを補足する。
ベニグセンを交わすために様々な機動を取りながら地球へ向かっていたヴァレットと、それをまっすぐ追いかけたアウグスト達。
両者が互いの敵を認識したのは、すでに地球の重力圏に近い旧時代の衛星軌道付近であった。
すでに振り切ることを諦めたのか、ヴァレットは艦首を反転する態勢に移行し3機のG兵器が出撃、戦闘態勢を展開している。
ベニグセンの方もMS部隊が出撃し、戦闘が勃発していた。
「ベニグセン及びヴァレットを補足!」
「各艦戦闘態勢! MS部隊出撃せよ!」
「主砲、目標敵ナスカ級! 対艦ミサイル斉射!」
「ヴェサリウスは確実に来る! 警戒を怠るな!」
アウグスト達もMSやMAを展開し、戦闘態勢に入る。
艦艇の主砲が撃たれる中、ユウ達も出撃した。
『地球の重力に囚われる可能性があります。ご注意ください』
「ナガト機、了解。長距離偵察型ジン、出撃します!」
「今度こそマティアス艦長の仇、取らせてもらう! ミハエル・クズネツォフ、シグー、出撃する!」
アークエンジェルからも、2機のG兵器が出撃する。
「約束忘れないでくれよ。ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出る!」
「アルトリア・ホーエンハイム、ブリッツ、出るぞ!」
続々と出撃していく連合の機動兵器部隊。
その戦局を決定づける絶望的な敵の増援は、ヴァレットと展開する3機のG兵器たちにも見えていた。
というわけで、原作よりもかなり早いですが頼れる兄貴がストライクに搭乗しました。
圧倒的戦力の連合を打ち破る低軌道会戦を見せてくれ、クルーゼ隊の諸君!