その首置いてけザフト共 作:みども
ナスカ級と渡り合える高速艦であるベニグセンを振り切れないと、ついに地球の重力圏まで追い詰められたことで、迎撃を決断したヴァレット。
イザークのデュエル、ディアッカのバスター、オロールのイージスという保有するMSを出撃・展開し、ヴァレット自身もベニグセンとの決戦に臨む。
対するベニグセンも保有するMS部隊を出撃。
ベニグセン自身は武装を持たない艦艇のため、その戦力は搭載する機動兵器に依存する。
ベニグセンが展開したのは、ジン3機。ベニグセンは武装を持たないため戦力にはならない。
対するザフト側の戦力は、ジンを性能面で大幅に上回るG兵器が3機と、母艦であり戦艦でもあるヴァレット。
この時点では、戦力的にザフト側が圧倒的に優勢であった。
だが、出撃したイザーク達は苦戦を強いられる。
「チィ! ちょこまかと、鬱陶しい奴らめ!」
「クッソ、当たらねえ! 何なんだよこいつら、ロックオンする暇もねえぞ!」
「ヤベ、背後取られて──うぐっ!?」
何しろ、彼らが対峙しているのはシベリア戦線よりザフトを相手に数の劣勢、物資の不足という足かせを受けながら戦い続けてきた対MS戦闘のスペシャリスト達、ロックオンを使う暇も惜しいという高機動戦闘を展開する第9航宙機動艦隊のMSである。
純粋なMSの操縦技術ならばその才能もありイザーク達が上を行くが、実戦経験は未だ浅く本気のMS同士の殺し合いの戦闘経験が少ない若者たちと、MSとの戦闘に関する経験値はこの宇宙で最も多いと言っても過言ではない妖怪達では土俵が違う。
フェイズシフト装甲のおかげで撃墜こそしていないが、こちらの攻撃は撃つ前にことごとく躱されるのに、向こうの攻撃は構えるなり撃ってくるロックオンすらしないのに回避先まで予測する正確無比で恐ろしく速い攻撃であり、一方的に被弾する展開となっていた。
「クソッ! ナチュラル共に尻尾を振る裏切り者が、調子にのるなぁ!」
「おいイザークむやみに突っ込むな!」
「ぐあっ!? ディアッカ、支援してくれ振りきれねえ!」
「ああもう、こっちだって手一杯だっての!」
怒りに任せて突撃しては躱され反撃を食らうイザークと、キャットゥスを装備しているジンに背中を取られ砲撃をくらいまくることでもっともバッテリーの消耗が大きくなっているオロール。
突撃脳のイザークを孤立しないように援護しつつ、オロールの救援要請にも応え、ヴァレットを守りながら必死で立ち回るディアッカだが、そこに新手の敵の接近を知らせる通信が届く。
『3人とも、新手だ! ドレイク級2、ネルソン級1、ルントシュテット級1! 足つきとG兵器1機を含めるMSが3、メビウス7!』
「おいおい冗談きついぜ! こんなの持つわけねえって!」
対MS戦闘という面に関しては自分たちの尊敬するかつての教官であり、ザフトの国防委員長直轄の特務隊FAITHの隊長を務める“レイ・ユウキ”すら上回るのではないかと感じるイカれた技量の敵のジン3機だけでも苦戦しているというのに、そこに新手の大軍が加われば持ち堪えられるはずもない。
しかも敵の増援にはG兵器がいるという。
敵が一方的に攻撃を当てて来ている現状で持ちこたえられているのはフェイズシフト装甲のおかげと言っても過言ではない状況だが、それを突破できる兵装を持つMSが参戦すれば負けは確定的になる。
ナチュラルを劣等な存在とする教育を受けてきたディアッカは連合を見下す思考が強いが、それでも現実に目を背けるほどの愚か者ではない。
ザフトのプライドだのというものでどうにかなる戦力差ではないことをすぐに理解し、頭に血が上っているイザークと追いかけ回されて恐慌状態になっているオロールの話が聞こえていない2人にすぐに指示を出した。
「イザーク! オロール! すぐにヴァレットに帰還しろ! 敵の増援だ、このままじゃ宇宙のチリに変えられちまう! 逃げるぞ!」
「嘘だろ!?」
「貴様も臆したかディアッカ! あんなもの俺が蹴散らしてやる! なめるなよナチュラルどもが!」
ディアッカの言葉に驚愕するオロールと激昂するイザーク。
オロールはすぐに戦況の圧倒的劣勢を理解して撤退に動くが、イザークは頭に血が上っておりディアッカの言葉が耳に入っていない。
無謀にもアークエンジェルの方へ突撃を敢行した。
「バカ! やめろイザーク!」
ディアッカは何とかイザークの背中を狙うジンに対してライフルで牽制射撃を行い援護しつつ退路を確保しようとするが、イザークは無視してアークエンジェルに突撃する。
手当たり次第にビームライフルを撃ちながら突っ込むイザークのデュエルをメビウスやジンは躱し、あえてアークエンジェルに相手を任せてヴァレットに向かってきた。
「イザーク戻れ! ──って、ヤベェこっちに群がってきた!」
イザークを連れ戻そうとするディアッカだが、バスターと母艦であるヴァレットを狙う敵部隊の攻撃にさらされて動けなくなる。
「俺がつれもどす! ヴァレット頼むぞ!」
「悪いオロール!」
イザークを連れ戻すため、一度はヴァレットまで下がってきたオロールがMA形態に変形したイージスでデュエルを追いかけた。
その間単機でヴァレットを守らなければならなくなったディアッカは、ヴァレットの艦砲射撃と合わせてどうせロックオンすらさせてくれないならとりつかせなければいいとバスターの火力と手数を活かしたハリネズミのような手当たり次第の攻撃で弾幕を展開した。
「数が多すぎるっての!」
イージスはフェイズシフト装甲を持つ。
実体兵器が主兵装であるメビウスやジンの攻撃を受けてもその装甲が傷を受けることはない。
敵の迎撃を目的とするには相手の技量が高すぎで一方的な被弾を許しているが、突破とデュエルの回収だけを目的とするならば砲火の飛び交う戦場を駆け抜けることは不可能ではない。
MA形態の速力を持って一気に敵部隊を突破し、デュエルへ向かう。
一方のデュエルの前には、敵が繰り出してきたフェイズシフト装甲の機体にとって大きな脅威となるG兵器、ストライクが立ちふさがった。
「邪魔だぁ!」
ビームライフルを乱射しながら、ストライクへ突撃するデュエル。
それをムウは冷静に、初の実戦用ナチュラル用OSの搭載されたMSであるストライクを操縦して回避していく。
もともと血筋の才能か、ムウはメビウス・ゼロを乗りこなせるナチュラルとしては非常に高度な空間認識能力を持つ。
初のナチュラルの操作するMS、まだまだ発展途上のOSによる戦闘機動としても、回避に集中するならばデュエルのビームライフルの乱射程度問題はない。
「おうおう、やんちゃな攻撃してくるじゃないの。そういや、こいつを盗もうとした連中と同世代だったっけ? 若いっていいねえ」
現在のストライクの装備はエールパックである。
ビームライフル、ビームサーベル、シールドというシンプルな構成の中近距離戦闘用装備であり、背中のエールパックのブースターが機動力を底上げしてくれる、様々な戦況に対応可能なオールラウンダーの装備である。
慣らし運転も兼ね反撃はせず、回避に集中するストライク。
それを挑発を受け取ったイザークがより怒りを募らせる。
「おのレェ……舐めるのも大概にしろ、ストライク!」
接近し、ビームライフルを収納してビームサーベルを抜刀。
そのままストライクに切り込んだ。
「おっと!」
それに対し、ムウもシールドを使って防御。
人工知能のサポートを受けたストライクは、その仕様上動きがやや単調になってしまうが、正面からビームサーベルに切りかかれた場合の対応という防御行動は問題なく機能した。
「防御行動も問題なし、だな。じゃあ、反撃させてもらうぜ!」
防御行動の命令機能は十分に発揮される。
それを確認したムウが、至近距離から頭部のイーゲルシュテルンを眼前のデュエルに対して発射する。
実弾兵器のイーゲルシュテルンではデュエルのフェイズシフト装甲を貫けないが、ムウの狙いはデュエルの頭部カメラに狙いを定めてイーゲルシュテルンを乱射することによりデュエルの視界を塞ぐことだった。
「貴様、バカにしているのか!」
装甲を貫けない攻撃で視界を塞がれるという攻撃は、イザークにとって苛立ちを募らせるだけの挑発行為に映る。
ムウの反撃という名の挑発に激怒し、盾を捨てて2本目のビームサーベルを抜こうとする。
「その程度で視野狭窄に陥り、防具を捨てる……その愚行、己の首で贖えザフト!」
ストライクしか目に入らず、盾を捨てたタイミングで、ミラージュコロイドにより隠れ背中を取っていたブリッツが姿を現し、トリケロスのビームサーベルでデュエルの腕を切り落とした。
「何ッ──!?」
「助かるぜ連隊長!」
突然の奇襲に驚くイザークに、今度はストライクがシールドでデュエルのビームサーベルを押し返し、腰に構えたビームライフルを発射した。
「ぐああぁぁ!?」
コクピットを掠めるビームライフル。
デュエルのフェイズシフト装甲は実体兵器を防ぎビーム兵器のダメージも軽減させるが、至近距離で放たれたビームライフルの直撃は防ぎきれるものではなかった。
幸いイザークの命を奪うことはなかったが、コクピットのモニターが砕け破片が襲いかかる。
さらに直撃の衝撃で砕けた機体の破片がコクピットに侵入し、ヘルメットのバイザーをかすめたことで破片がイザークの顔面を襲った。
「イザーク!」
「痛い……痛いぃ……!」
痛みに呻くイザークの乗るコクピットにアラートが鳴り響く。
破片がコクピットの隔壁を破壊したせいで、内部の空気が抜け始めており、加えてパイロットスーツにも重大な損傷を受けたことでイザークは命の危機に瀕する事態に陥っていた。
トドメを刺そうとしたブリッツとストライクに、イージスがビームサーベルを振り回して突撃、2機を引きはがしデュエルを掴み取る。
「イザーク、ちょっと待ってろ! すぐにヴァレットに連れ帰るから!」
「ぐぅ……おのれ、ストライクゥ……!」
そのままMA形態でヴァレットに機首を返すと、オロールはイージスを全速でヴァレットに向かわせる。
「逃がすか!」
「ぐっ……!」
すぐにブリッツがビームライフルを撃ちながら追撃に移行。
イージスに数発ビームを当てその装甲を削り取るが、MA形態のイージスの速力はブリッツでは追付けるものではなく、瞬く間に引き離される。
「許すと思うか! その首置いてけ!」
「ちょっ、連隊長殿! ……あらら、行っちゃったか」
ブリッツはそれでも逃がすかとバーニアを吹かして追跡。
一方のムウはイージスには追いつけないだろうと追撃を早々に断念し完全に置いていかれることとなった。
ブリッツの援護もあったが、ナチュラルの操縦するMSは初陣でザフトのMSに勝利を収めるというマリューらG兵器の製作に携わってきた技術班にとって最高の戦果を上げることとなった。
「待てザフト! 貴様らの首、そうやすやすと逃してなるものか!」
「逃げられると思うな! 首寄越せ!」
「待ってくださいよ、首くらい置いていきなさいよザフトでしょうが!」
そして初陣を終えて止まっているストライクの横を、アウグストから出撃した2機のMSが物騒なことを叫びながら過ぎ去り、イージスの追撃を敢行する。
「…………」
その姿を遠い目で追うムウであった。
オロールはアスランを恨んでいいかもしれない……