その首置いてけザフト共 作:みども
時系列的にはイルクーツクとシベリア鉄道の奪還に成功してから10日ほど経過した頃になります。
シベリア・蒙古戦線。
地球に存在する地球連合勢力下にある宇宙港施設全てを制圧し、地球連合の地球戦力と宇宙戦力を分断することにより、戦争の主導権を握る。
オペレーション・ウロボロスの一環として、東アジア共和国の保有する宇宙港“カオシュン”攻略に向けた支作戦として、ユーラシア連邦と東アジア共和国を分断するために、シベリア、モンゴル高原、ゴビ砂漠、パミール、新疆ウイグル自治区などに降下したザフト軍が構築した新たな戦線である。
戦線構築当初は、ザフト側が物量で圧倒する地球連合を相手にMSを主力とする部隊で連戦連勝を重ね、過酷な自然環境の広がるこの戦線における補給の大動脈というべき存在のシベリア鉄道を掌握するまでに至った。
これにより補給線が寸断された地球連合はその数が補給の大きな足かせとなったことで一気に劣勢に陥り、最前線では餓死者などが続出するという事態に発展。
ついにはモンゴル高原とハバロフスク地方、パミール高原、ゴビ砂漠にて東アジア共和国とユーラシア連邦は陸路の支援ルートを完全に断絶させられる事態に至った。
シベリア鉄道による陸路の両国間の支援ルートは絶たれた。
これにより残る海路が流氷で塞がれれば、東アジア共和国とユーラシア連邦間の支援ルートは断絶することとなり、来る本命のカオシュン宇宙港制圧の攻防戦において東アジア共和国はユーラシア連邦の援軍を得られなくなる。
この時点でシベリア・蒙古戦線を構築したザフト側の戦略目標は達成されており、戦線における戦況の趨勢はザフトの勝利として固まりそうになっていた。
しかし、北海道に雪が降る時期になってその戦況が動く。
ユーラシア連邦は戦況の打開を図るべく、シベリア鉄道の要衝であるイルクーツクの攻略に地球連合内において異彩を放つある連隊を投入。
それは敵対勢力であるプラントの人口の大半を占めることから、地球連合においてナチュラル達から敵性人種と差別され、ユーラシア連邦では行政が大々的にシベリア特区への追放を行ったコーディネイター達の志願兵を集めて作った部隊であった。
彼等の特色は、何と言ってもザフトの主力兵器であるMSを運用する部隊であるということ。
ザフトから鹵獲したジン1機と数両の戦車を主力とするその連隊は“第27機甲連隊”の名を与えられ、第5方面軍司令官アレクセイ・コズイノフの采配によりザフト軍1個師団が死守するイルクーツクの攻略を成し遂げた。
シベリア鉄道の要衝イルクーツクの奪還は、それまでザフトの優勢で進み勝利が目前であったシベリア・蒙古戦線の趨勢をひっくり返すこととなる。
イルクーツクの奪還によりシベリア鉄道を取り戻した地球連合は苦しめられていた補給問題の改善に成功し、再びその力を発揮した数の優勢を持って徐々にザフトを押し返し始めた。
27機甲連隊が奪還したイルクーツクに置ける60万以上の民間人の虐殺事件も相成り、それまでの劣勢と補給不足問題から広がっていた厭戦気分が一転、前線の地球連合の士気は大いに高まった。
一方、ユーラシア連邦が大々的に喧伝したイルクーツクの大虐殺はザフトの情報統制によりプラント側には広がることがなく、パトリック・ザラは逆にイルクーツクにおける捕虜の虐殺を誇張して大々的にザフトに広め、プラントの反ナチュラル感情を煽った。
特に昨日まで笑いあっていた仲間を虐殺されたシベリア・蒙古戦線に展開しているザフトはこのパトリックの演説を受けてイルクーツクの捕虜虐殺を行った27機甲連隊に対し激しい憎悪を抱く。
イルクーツクの惨劇は両勢力の相手に対する敵愾心と憎悪をより深くするものとなり、シベリア・蒙古戦線の最前線は怒りを敵にぶつける互いの兵士達が攻防を激化させ地獄の戦場を作り上げた。
シベリア・蒙古戦線におけるユーラシア連邦軍を率いる、第5方面軍司令官アレクセイ・コズイノフ中将は、シベリア鉄道の奪還により補給問題が改善したことを受け、これを好機とし本格的に戦線を押し戻すことを決定する。
目標はザフトにより断絶してしまったユーラシア連邦と東アジア共和国の陸の支援ルートの解放である。
流氷が降りてくるまで時間は限られている。
海が氷で閉ざされれば、冬季間における両国が断絶することとなり、有事の際に援軍の派遣を行うことが困難となる。
シベリア・蒙古戦線を構築したザフトの狙いが両国の分断にあることを察知していたコズイノフは、この支援ルートの解放こそ戦線における地球連合の戦略的勝利となることに確信を持っていた。
両国間の支援ルートの候補は主に5つ。
カムチャッカ半島経由のオホーツク海。
シベリア鉄道の通るハバロフスク地方。
かつて新疆ウイグル自治区が存在したパミール方面。
灼熱の世界が広がるゴビ砂漠。
そして長大なモンゴルハイウェイの通るモンゴル高原である。
オホーツク海はすでに氷が張っており使えない。
パミール方面も雪が積もっており、地上軍で進むのは得策ではない。
ゴビ砂漠にはザフトが多数の地雷を設置している。
以上の3つのルートはザフト軍も展開していないが、諸々の事情により支援ルートの候補からは外された。
ザフト側も地球連合の選択肢を想定しており、シベリア鉄道のハバロフスク地方と高速道路の通るモンゴル高原に部隊を展開させていた。
コズイノフは支援ルートの確保のためにはこの2つの戦場のうちどちらかのザフト軍の撃破が必要と判断。
シベリア・蒙古戦線の勝敗を左右することとなるユーラシア連邦と東アジア共和国の支援ルートを確立するため、第5方面軍は27機甲連隊を含める第13師団をウランバートル攻略に派遣する決定を出した。
イルクーツクの奪還を成功させた27機甲連隊を警戒するザフトはウランバートルが本命と判断し、ハバロフスク防衛線の部隊を除く多くの戦力をモンゴル高原に集結させ迎撃の構えをとった。
しかし、ウランバートル攻略の部隊は囮。
それを陽動とし、コズイノフは第5方面軍の主力部隊である7個師団をシベリア鉄道を用いてハバロフスク地方に展開。
手薄となったハバロフスク防衛線に対し総攻撃を敢行した。
ハバロフスクへの攻撃も想定していたザフトは防衛線を崩壊させまいと奮闘。
ハバロフスク地方の戦場は両軍が熾烈な攻防戦を展開する。
一方、支援ルート解放のための支作戦、陽動として集められたウランバートル攻略部隊は既にその役目を果たしていたが、第5方面軍参謀のオスマンド・ユベールにより、ザフトの大軍が守るウランバートルへ第27機甲連隊による単独攻撃命令が発せられることとなる。
ハバロフスク地方にモンゴルのザフトが向かうことを阻止するためという名目だが、ウランバートルは1個連隊がぶつかったところでコンクリの壁に投げつける生卵のように砕け散るのが目に見える戦力差である。
ユベールはこのウランバートルを守るザフトを利用し、イルクーツク奪還という功績を成し遂げた27機甲連隊を潰すつもりだった。
その戦力差はイルクーツクの攻略戦の時の比ではない。
イルクーツクで見せたような奇策を準備する舞台も時間も無い。
撤退は後ろに控える第13師団が許さない。
27機甲連隊が生き残るには、本来第5方面軍の主力を迎え撃つために用意されたウランバートルを守るシベリア・蒙古戦線におけるザフトの主力部隊を撃破しウランバートルを攻略するしかなかった。
無謀──いや、自殺行為と称するほか無い戦い。
27機甲連隊にとって最大の激戦となった戦い、ウランバートル攻防戦の幕が開ける。
「ふざけんじゃねえ!」
戦力差を考えれば自殺行為にしかならないウランバートルへの攻撃、それも撤退を許さない勝利か
今にも掴みかかろりそうな勢いだが、そんなことをすればユベールがこれ幸いと友軍に対する暴力行為としてアルトリアの粛清に動くのが目に見えているので、最低限の理性はあるが。
それでも、ユベールが今回下した命令は理不尽極まりないものであり、彼が怒鳴り声を上げなければ連隊の兵士たちが伝令将校に殴りかかりかねないほどの怒りを抱く内容だった。
何しろウランバートルへザフトが主力を展開した現状、ハバロフスク防衛線突破のための陽動は成功しており、ウランバートルに対して攻撃を仕掛ける意味は無い。
しかも27機甲連隊単独で攻勢をかけろというもの。
ウランバートルに集まったのはこの戦線におけるザフトの主力部隊である。本気で攻略を目指すならば、それこそハバロフスクに展開する主戦力級の大部隊が必要であり、1個連隊で挑むような戦力では無い。
イルクーツク攻略を成し遂げた27機甲連隊を消すためにザフトを利用しようとしているユベールの企みが見え透いていた。
「命令は伝えました。期限は3日です。3日以内にウランバートルを攻略できなかった場合、アルトリア連隊長以下少尉以上の連隊士官の皆さんには軍法会議への出廷命令が出されるでしょう」
「──ッ!」
「勝利か、然らずんば死か。銃殺刑を免れたいならば、死ぬ気でウランバートルを攻略することです、敵性人種の皆さん。では、失礼」
命令を一方的に告げた伝令将校が駐屯地を後にする。
残された27機甲連隊の面々には、重い空気が漂った。
「ふざけんじゃねえぞユベールの野郎!」
伝令将校が去っていった拠点にて、怒りのままにアルトーが机を蹴りつける。
物に対する八つ当たりだが、今回の命令の理不尽には我慢ならないものがあった。
勝利か死か。
3日という期限でウランバートルの攻略を命じ、成し遂げられなければ少尉以上の士官は軍法会議の出来レースで銃殺刑になるという脅迫。
そうなれば連隊は解散となり、ユーラシア連邦軍への志願の引き換えに得た一部の私有財産の権利すら剥奪され、シベリア特区に残してきた家族達は飢え死ぬこととなるだろう。
ウランバートルの攻略は1個連隊では絶対に不可能である。
イルクーツクと違い、乾燥したモンゴル高原の大地はザフトのザウートやディン、バクゥの戦場だ。イルクーツク攻略戦の時のような奇策は使えない。
挑んでも勝てる未来が見えない。
しかし挑まなければ、しかも3日であのザフトの大軍を撃破しなければ今度こそ特区に残してきた家族達が白い死神の迎えを受けることとなる。
無謀でしか無いが、それでも27機甲連隊にはウランバートルに挑む選択肢しかなかった。
イルクーツク攻略戦における鹵獲MSで戦力を補充したとはいえ、それでも彼我の戦力差は圧倒的である。
本来友軍であるはずの第13師団は27機甲連隊が逃げられないために展開している監視部隊である。友軍の戦力として頼ることはできない。
撤退の許されない戦い。
絶望的な戦力差。
生き残れるビジョンが浮かばない。
頭を抱えて理不尽な命令を出すユベールへ恨みつらみを叫ぶくらいしかできないと、勝てる戦力では無いと連隊の面々の多くが止まってしまう中にあって。
それでも、彼らを率いるアルトリアだけは諦めていなかった。
「ピサロ」
「……連隊長?」
連隊の面々の怒りを代弁し吐き出してくれている副官を落ち着かせるように、アルトリアが声をかける。
尊敬する隊長の声に反応してその方向に振り向いたアルトーの目には、負けることなど想定していない、勝利を確信している自信に満ち溢れた表情を浮かべるアルトリアがいた。
「私を信じろ。お前たちと共にあれば、必ず勝つ」
「「「──ッ!」」」
イルクーツクでも絶望的な戦力差だった。
それを覆し、ユーラシア連邦軍上層部の予想を裏切る勝利をもたらした彼女が、今度もお前達と一緒なら勝てると一切疑いを抱いていない目で言っている。
尊敬する連隊長が自分たちを信頼し負けると思っていないのに、自分たちが戦う前から挫けているなどなんと情けない話か。
アルトリアのその言葉だけで、鎮火しそうになっていた27機甲連隊の面々の心に戦意の炎が再び燃え上がった。
「行くぞ! ウランバートルを攻略する!」
「「「了解!」」」
この世界の理不尽の元凶たるザフトに勝利し、理想郷を取り戻す。
27機甲連隊にとって最大の激戦となる、ウランバートル攻防戦が幕をあける。