その首置いてけザフト共   作:みども

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ウランバートル攻防戦 3

 

 

 ハバロフスク攻略の支作戦として、戦線のザフト戦力を陽動するためにウランバートルに展開したユーラシア連邦地上軍第13師団。

 敵戦力の陽動が目的であるウランバートルは本来戦場にならないはずであったが、第5方面軍参謀オスマンド・ユベールの命令により、第一次ハバロフスク攻防戦が勃発した3日後、第13師団に臨時編入されたシベリア特区からの志願兵で構成される第27機甲連隊が攻撃を開始した。

 

 イルクーツクで数・質ともに圧倒的に優勢な戦力を有する雪原の鷲が率いたザフト1個師団が守る都市を攻略し、そして降伏したザフトの捕虜を多数殺害した27機甲連隊は、ただの一戦で既にザフトにおいてもその名を知らしめている。

 数の劣勢を覆す勝利を挙げたこの連隊を強く警戒しているウランバートルの守備隊長は、守備隊全軍に向け都市外に出撃することを禁じ消極的な籠城による迎撃態勢をとる。

 数の優勢を持って形成された弾薬を惜しまない濃密な弾幕には、27機甲連隊といえどても足も出ず、ウランバートル攻防戦の1日目は一方的に損害を受けた27機甲連隊が何もできずに撤退するだけで終わった。

 

 この戦いの結果は、圧倒的戦力差を覆し雪原の鷲の首をとった27機甲連隊にたいする評価を大きく変えることとなる。

 

 ユーラシア連邦の上層部、特にこのウランバートル攻撃を命令した第5方面軍司令官アレクセイ・コズイノフは、元々彼らをザフトに潰してもらうために無謀なウランバートル攻略を命じたがイルクーツクの二の舞はないだろうと、27機甲連隊の壊滅という結果に終わることを確信する。

 

 ザフトはやはり劣等人種であるハーフコーディネイターやナチュラルを抱え、同胞に刃を向け連合に与する裏切り者らしく、所詮ザフトには遠く及ばない取るに足らないもの達だと認識を改める。

 そして同時に、プラント国内においてパトリック・ザラが戦意高揚のために大々的に、誇張して公表し避難したイルクーツクの捕虜虐殺に対する怒りが湧き上がる。

 それにより、消極的な籠城策を展開した守備隊長に対する諸隊の不満が多いに募り、統率が崩れ守備隊長の命令に反発しウランバートルから出撃して27機甲連隊に対する逆攻勢を仕掛ける積極的な方針を取る部隊が多数出てくるようになる。

 

 いずれも共通して27機甲連隊のイルクーツク攻略は奇跡の産物であり、その実力は想定をはるかに下回るものだったと思い込む、その実力を侮るものだった。

 

 そして、彼らが警戒し敗北を見て評価を改めた対象であるウランバートル攻防戦の初日を敗北で終わることとなった27機甲連隊では。

 1日目の戦いにて中枢の戦力を担うMSのうち隊長であるアルトリアのジンが中破、バクゥ1機が大破する。特に大破したバクゥの方は運悪くコクピットを貫通する命中弾を受けたことで、パイロットが死亡してしまった。

 加えてMSに次ぐ主戦力の一角であるクマネズミで構成される戦車部隊も1両を残して壊滅、数百人の死傷者を出すという大損害を被った。

 

 1日目の戦闘で27機甲連隊がザフトに与えることができた損害といえば、弾幕のために大量の砲弾・銃弾を消費させたくらいであり、一矢報いることすらできず一方的に被害を受けるという結果で終わる。

 

 ──だが、この1日目の敗北は、アルトリアの作戦の一環だった。

 

 堅牢な要塞にされたウランバートルを正面から攻略するなど、たとえ戦力的に優勢であったとしても困難を極める。

 当然ながら、現状の戦力差では不可能だ。これはもう精神論で片付けられる問題ではない。

 

 故にアルトリアは、イルクーツク同様にザフトをウランバートルから釣りだし、有利な戦場に誘き出して撃破するという作戦を立てた。

 

 たとえイルクーツクの情報から27機甲連隊を警戒する者がいたとしても、ナチュラルを、地球連合を見下すザフトならば一度大々的な勝利を得れば警戒を自信が上回り、自分たちを侮ると。

 

 ウランバートルの守備隊は戦線の各部隊をかき集めた寄せ集めの側面が強い軍勢であり、その類の軍勢を統率するというのは非常に難しい。

 そこに勝利の余韻を受けて跳ね上がった士気の暴発を誘引すれば、軍としての統率が崩壊する。

 階級を持たない義勇軍であるため、統制よりも個人の意思や意見が尊重されやすいという軍としての致命的な欠陥。そして高い能力が自尊心を肥大化させやすいプラントのコーディネイターの特徴。

 イルクーツクにおける捕虜虐殺の一件が憎悪を駆り立てているのも、士気の暴発の一助となる。

 

 ナチュラルを劣等とみなす選民思想による教育の賜物としてプラントのコーディネイターが持つことが多い、自分たちを優等人種と見なす高いプライド。

 同胞を重んじる故にナチュラルに対し排他的であり、感情的になりやすく仲間の仇をより敵視する強い同族意識。

 個人主義と階級のない義勇軍であるザフトという、非常に統率が崩れやすい組織の欠陥。

 これらザフトの特性と敵の心理を巧みに利用し、アルトリアは1度の敗北でウランバートル守備軍のザフトの統率の崩壊を招いた。

 敗北を承知の上で挑んだ1日目の戦いにおける犠牲は少なくなかったが、この統率の崩壊が起こしたザフトの亀裂はそれ以上に大きく、理想郷を奪われ仲間を多く殺された復讐に燃える27機甲連隊の報復にさらされることとなる。

 

 アルトリアの計略通り、ウランバートルの守備隊はもはや統率が効かなくなっている。

 制空権を確保する手段がないと思い込ませるために、1日目の戦闘にディンを動員せず地上戦力だけで挑んだこともザフト側のさらなる油断を招いた。

 守備隊長はあくまでも27機甲連隊を強く警戒し籠城の方針を取ろうとしているが、それを臆病だと認識され多くの部隊が独自に出撃して動くという意向をあらわにし、27機甲連隊を侮るザフト各隊はもはや友軍との連携すらまともに取ろうせず、独自の部隊同士で動き味方は27機甲連隊という標的を狙うライバルと見做す者まで出る始末であった。

 

 さらに、1日目の戦いにてウランバートルからの迎撃の弾幕がもたらした破壊の跡は、ウランバートルの支援砲撃が届く範囲を27機甲連隊に教えてくれることにも繋がった。

 これにより、ウランバートルからの支援攻撃が届かない距離を把握でき、敵をどこまで釣り出すのが理想かの指標となる。

 

 偵察部隊の配置、各部隊の情報をやり取りするための通信網の構築、2日目の戦いの舞台の選定と罠の数々。

 両陣営が1日目の戦闘結果を見て27機甲連隊に対する強い警戒心を解き、完全に侮った状況の中で、27機甲連隊は寝静まった夜のうちに翌日の戦いに備えて準備を整えた。

 

 モンゴル高原の夜、それも初冬ともなればその寒さは身を凍えさせるに充分だが、彼らはシベリア特区の日々を生き残り白い死神の迎えを免れたもの達である。寒さには慣れており、極寒の夜の中でも作業をするのに支障はほとんどなかった。

 

 全ての準備を終えてから、最後に1日目の戦いの中で犠牲となった仲間達の遺体を弔い、2日目の戦いの勝利を彼らに誓う。

 モンゴル高原を照らす朝日が東の空に見えたのは、彼らが誓いを終えて間も無くの頃だった。

 

「──始めるぞ! 総員、配置につけ!」

 

「「「了解!」」」

 

 アルトリアの号令に、連隊の兵士たちが敬礼にて応える。

 各々持ち場につき準備を整える隊員たちの中には、ユウの姿もあった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 朝日とともに、早速と言わんばかりにウランバートルから出撃してくるザフトの部隊が確認されている。

 アルトリアの狙い通り独断で動いた一隊であり、数は多くない。

 早朝、日の出とともにウランバートルから繰り出してきたザフトの部隊は、他のザフト部隊に潰される前にイルクーツクを落とした27機甲連隊を自部隊のみで倒そうと気を逸らせて出撃したユリシーズ率いる部隊である。

 

「早朝、この寒さで奴らは動けなくなっている頃だろう。あの腑抜けの指揮下で籠城などできるか、ナチュラルの手先に堕ちた裏切り者共は1人残らず殺す! 行くぞ!」

 

 陣容はMS偏重主義のザフトらしく、ディン7機とMSばかりである。

 彼らは1日目の戦闘における27機甲連隊の陣容から航空戦力を持っていないと判断し、制空権を確保し一方的に殲滅するべく他の友軍を出し抜く形で機動性に優れるディンのみで構成される部隊で出てきた。

 

 籠城の方針を崩そうとしない守備隊長の命令を無視し勝手な出撃をしたこと、雪原の鷲を落としイルクーツクの捕虜虐殺を行った27機甲連隊の殲滅を自分たちだけで成し遂げようと逸り気を起こしたために他の友軍を出し抜き一切の通達をせずに独自に動いたことと問題だらけの部隊だったが、最大の問題はウランバートルの守備戦力であるディン9機のうち7機を動員した経緯にあった。

 

「隊長……本当によろしいのですか? 後々大きな問題になりますが」

 

「構わないさ。どうせ籠城する腑抜けにもたせていても宝の持ち腐れだ。ディンは飛ばしてこそその真価を発揮する」

 

 あろうことかこの逸り気を起こした部隊、ウランバートルの守備隊の保有するディンを友軍がまだ多く寝静まっているのをいいことに無断で占拠し利用したのである。

 

「守備隊長! ユリシーズ隊が我々の保有するディンを奪いウランバートルから出撃しました!」

 

「勝手な死にたがり共は──って、ディンを奪った!? ふざけるな彼奴ら!」

 

 ユリシーズ隊の出撃とディンの強奪にウランバートルの守備隊長は激怒したが、空を高速で飛ぶディンにはバクゥらも追いつけずユリシーズ隊を追うことはできなかった。

 

 やがて勝手な出撃をする部隊が出たことにウランバートル守備に集った他の部隊も叩き起こされ混乱が始まった頃、妨害を受けることなくディンの機動力を持って27機甲連隊の駐屯地まで飛行してきたユリシーズ隊が空からの奇襲を敢行した。

 

「奴らまだ寝ているようだな。無抵抗の同胞が受けた苦痛、百倍にしてあの裏切り者共に知らしめてやれ! MSを先に潰すぞ、攻撃開始!」

 

 ザウートやグーンが見える駐屯地は静かなもので、ユリシーズはまだ27機甲連隊が寝静まっていると判断。

 急降下からの散弾銃や機銃による攻撃を仕掛け、駐屯地を破壊する。

 ディンの接近を受けてもなんの反応も見せない駐屯地は無抵抗のまま破壊され、弾薬類に引火したのか次々に爆発を起こしたちまち煙と炎で地上は焼かれていった。

 

「ハハハッ! いい気味だ!」

 

「1人も生かすな。降下して瓦礫をひっくり返し、生き残りを踏み潰して行け!」

 

 ユリシーズは連隊を1人も生かすつもりがなく、わずかな生き残りすら殲滅するべく降下を指示。

 制空権を完全に掌握している余裕もあり、火の手があがる駐屯地に隊長のユリシーズをはじめとするディンが次々に降り立ち、手当たり次第に形の残っている車両やMS、建物などへ片っ端から攻撃を撃ち込み破壊をしていく。

 

 戦いは奇襲も相成り一方的な展開で進むが、しかしユリシーズ隊は違和感を覚えた。

 

「……おかしい。敵兵が1人もいない」

 

 駐屯地が焼かれるという事態にもかかわらず、幾ら破壊を巻き散らそうとも敵兵の姿が死体1つすら見当たらないのである。

 

「どこに隠れやがった彼奴ら──うっ!?」

 

 敵兵の姿がない。

 この異常事態に不安と苛立ちが募る中、突如としてディンのモノアイに飛んできた閃光弾が次々に強烈な光をカメラ越しにコクピットのモニターへ放ち、ユリシーズ隊のMSパイロットたちの視界を7機全て同時に奪った。

 

「く、くそ! 小癪な真似を──」

 

 敵兵の生き残りをしらみつぶしに探すべく目を凝らしていたところ、モニター全面を突如として照らした閃光にユリシーズ隊のパイロット達は目を眩ませる。

 

 だが、敵兵がいる証拠でもある。

 すぐにでも視野を取り戻して今度こそ見つけ出し血祭りに上げてやると、姑息な手段で抵抗してくる連隊をなぶり殺しにしてやると苛立ちと殺意をみなぎらせる中、ディンのコクピットのハッチが()()()()()

 

「何──」

 

「その首置いてけザフト共!」

 

 閃光に絡んだ視界が治ったユリシーズが見た光景は、開いたハッチの向こうで拳銃を構える地球連合軍兵士の服を着た小柄な体格の影だった。

 

 そして、その光景が彼の人生で見た最後の光景であり、怒りと恨みが篭る首置いてけという物騒な言葉が最後に聞いた音となる。

 

 直後、構えられた拳銃が鉛玉をヘルメット越しに眉間へと撃ち込み、ユリシーズの命を奪った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 昨夜のうちに偵察部隊を展開していた27機甲連隊にはユリシーズ隊の出撃はウランバートルから飛び立った時点で既に知られており、その位置情報や陣容などの詳細は連隊全員へと行き渡っていた。

 

 ユリシーズ隊の編成を確認したアルトリアは、駐屯地に対する奇襲攻撃を企んでいることを察すると、昨晩のうちに移転した上でベニヤ板などを用いて作ったMSや車両、建物がある偽物の駐屯地の近くにククリの代わりに閃光弾を弾頭とする携行ミサイルを所持したユウ達の小隊を配置。

 敵の襲撃に合わせて偽の駐屯地の火薬などを爆破して、恰も奇襲攻撃を受けて駐屯地が壊滅したかのように見せた。

 

 日の出からウランバートルより出てきて空襲を仕掛けるほどの部隊である。

 イルクーツクの捕虜虐殺の件を聞き27機甲連隊に対して強い憎しみを抱いている連中ならば、火事の起きた偽の駐屯地に降りて生き残りを殲滅しようとするだろう。

 

 アルトリアの読み通り、ユリシーズ隊は敵の航空戦力がないという思い込みから空の優位性を自ら捨て、火事が起きている偽の駐屯地に降りてきた。

 そこに煙に紛れて接近したユウの率いる小隊が閃光弾で目くらましを仕掛けるとともにその隙に機体に取り付き、本来は内部からの脱出が出来なくなった時に外部からパイロットを救助するための手段としてある緊急脱出装置を利用してコクピットを開き、内部のパイロットを倒して機体の奪取を成功させたのである。

 

 イルクーツクで鹵獲したディンを利用し、緊急脱出装置の場所の確認やワイヤーガンを用いた素早いコクピットへの取り付き、そして内部の制圧というシミュレーションを繰り返していたユウ達は、初めてとは思えないほど正確にかつ素早いMSの強奪に成功した。

 

「こちらナガト小隊。全てのディンの制圧に成功しました」

 

『良くやった。すでにウランバートルから後続のザフトが出撃している。作戦通りに動け』

 

「了解」

 

 ユリシーズの死体をコクピットから蹴り落とし、ディンの強奪に成功したことをアルトリアに報告するユウ。

 MS間の短距離通信の繋がっているモニター越しにその報告を受けたアルトリアから、ウランバートルよりの新手が出撃してきたという情報と次の作戦に動けという指示を聞く。

 

 ほぼ同時にユウの小隊は全てのディンの強奪に成功した。

 独断専行で出てきたこと、偽駐屯地の火事で視界も遮断されていたことから、ユリシーズ達が殺されMSを奪われたことはまだウランバートルのザフトには伝わっていない。

 つまりこれら7機のディンはまだザフト側からすれば()()()()()として認識されている可能性が高いということである。

 

 もちろん、アルトリアはこれを利用するつもりである。

 早朝から奇襲を仕掛けたつもりが味方にその死を知られることもなく返討ちとなったユリシーズ隊との初戦を制した27機甲連隊は、次々とウランバートルから出てくるザフトを迎え撃つべく、作戦を新たな段階へと進めた。

 

 ウランバートル攻防戦の2日目は、まだ始まったばかりである──




武器が足りないって?なら敵から略奪……ではなく、補給すればいいじゃないか!
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