その首置いてけザフト共 作:みども
ユリシーズ隊の独断専行により火蓋を切ったウランバートル攻防戦の2日目。
ザフトがウランバートルに篭り27機甲連隊が正面から要塞化された都市へ攻撃を仕掛け撃退された1日目とは打って変わり、2日目はザフト側が攻勢に出る展開となった。
ユリシーズ隊が他部隊のディンの一部を盗んで出撃し、27機甲連隊の駐屯地へ攻撃を仕掛けた頃。
遅れてはならないとウランバートルより籠城の方針に反対するザフト部隊が続々と出撃していく。
守備隊長直属の部隊や、籠城策の方針に素直に従った一部の部隊を除くほぼ全軍が足並みをそろえることなく我先に出撃したことで、ウランバートルの防衛戦力は著しく低下する事となった。
27機甲連隊とそれを率いる魔女を強く警戒するウランバートルの守備隊長はイルクーツクにおける戦いの詳細を調べており、その戦略が“敵軍を拠点をより出撃させ、自軍の有利な戦場に誘き出した上で殲滅する”という誘引からの包囲殲滅や各個撃破にあることを承知していたためウランバートルからの出撃を固く禁じていたが、1日目の戦いで27機甲連隊を侮り捕虜虐殺の件による怒りが上回っていたザフトの各部隊はその方針に反発。
結果、見事にアルトリアの計略にはまりウランバートルを出撃していく友軍を止められず、その姿を見送る事となった。
「……残った戦力は?」
「MSは例のバクゥの改良機を除けば、バクゥ2機を残し全ての機体を持ち出されました。兵力も1,000名ほどしか残っておらず、正直なところ外にいる敵師団の本隊が攻めてくればかなり厳しい戦いになる可能性が高いと思われます」
「……副官、私は辞表を書こうと思うぞ」
「受理されないかと」
「チクショウ!」
副官にウランバートルに残された守備隊の戦力を尋ねたところ、主戦力となるMSが4足歩行の機体ばかりという状況を聞かされ、こんな部隊まとめ上げるのは嫌だと守備隊長は頭を抱えて嘆いた。
辞表を書きたいがこの情勢で受理されるはずもないと、副官はその嘆きを冷静に切り捨てる。
ついでの慰め代わりに、出撃していったザフトの大部隊という名の烏合の衆が敵師団に勝利することを期待しウランバートルの守備に徹するべきという楽観論を口にする。
「ディン、ジン、ザウートなどMS28機、その他ヘリ部隊、地上部隊合わせ8,000名からなる大戦力です。彼らが外の敵を全て引き受け殲滅してくれることを信じ、我々はおとなしくウランバートルを守りましょう」
「他人の部隊のMSをパクる輩が信用できるか! あの統率のかけらもない烏合の衆では、鷲の首を落とした魔女には丁度いい贄だ!」
しかし守備隊長の悩みを取り除くには至らず、むしろ足並みの揃わないままアルトリアの得意とする誘引策に見事に嵌った友軍が逆に撃破される未来が見えていると怒鳴り返された。
コーディネイターがナチュラルよりも優れているというプラントの選民思想に染まっている副官は、いくらコーディネイターが多数いると言っても半数はナチュラルである27機甲連隊を下に見ており、守備隊長と違い27機甲連隊に友軍が負けるとは思っていないようである。
「……隊長、いくらなんでも第27機甲連隊を警戒しすぎでは? コーディネイターが多く在籍し鹵獲MSを有するとはいえ、あれでも半数はナチュラルが占める連隊です。あの劣等人種に尻尾を振る連中など、たかが知れている」
「そのたかが知れている連中に、雪原の鷲と謳われた我らがザフトの誇るエースの1人であるハインリヒ・ゲルガーは討たれた。そしてイルクーツクは攻略され、シベリア・蒙古戦線の補給の要であるシベリア鉄道を奪還された。ただ戦いに勝ったわけではない、戦線の趨勢を変えた27機甲連隊の実績を、その高を、お前は知っているのか? 言っておくが私は知らんぞ。アルトリア・ホーエンハイムの強さは底が見えない」
27機甲連隊とアルトリア・ホーエンハイムを強く警戒する守備隊長は、副官の反論を否定する。
それに副官は眉間にしわを寄せたが、喉元にでかかった不満は胸にしまい込み言葉にすることはしなかった。
「……出撃した以上、止めても無駄でしょう。残った戦力でのウランバートル守備体制の見直しを進めます」
「そうしてくれ。……ハア」
不満を飲み込み職務に戻る副官が出て行った扉を眺めながら、ウランバートルの守備隊長はプラントに蔓延し凝り固まってしまったナチュラルを見下す選民思想に、現実を正確に理解する努力すら放棄してしまうある種盲目的なこの考えが主流のプラントの姿に不安と悲しみのこもった溜息を零した。
第27機甲連隊を囮とした第13師団によるウランバートルへの攻撃を警戒し、戻るよう呼びかけても無駄とわかる友軍をもう知らんと言うかのように、残った守備隊は要塞化した都市の守りを固め引き続き籠城を続けることとした。
一方、偵察部隊からの報告でウランバートルから続々とザフトが出撃していることを聞いたアルトリアは、ユリシーズ隊のディンの強奪に成功したユウ達に次の指示を出す。
現状、ユリシーズ隊から奪ったこのディン部隊はまだウランバートルのザフトには友軍として認識されている可能性が高い。
これを利用し、ただでさえ足並みの揃っていないザフト部隊のさらなる撹乱と統率の乱れを誘引するつもりである。
ウランバートルの支援砲撃が届かない場所、自分たちの罠を仕掛けた戦場に誘引し各個撃破していく段階へと作戦を移すために、釣り餌──つまり囮を作る。
偽の駐屯地に動かしてきたトラック部隊とイルクーツクで獲得した鹵獲ザウートをザフト側から見えるようにして偽装撤退させ、またアルトリアのジンをウランバートルの方に動かす。
そして双方の部隊を追撃しているように、ユリシーズ隊から奪ったユウたちのディンが機銃を撃ちながら後を追うという、MSを用いた戦闘の芝居を行いながら、偽の駐屯地跡から出撃した。
ザウートとトラック部隊を追撃するディンの方は、空砲を撃ちながらの追撃の演技をするが、アルトリアのジンを追いかけるユウのディンたちに関しては距離的に近いことからより芝居の信憑性を的に与えるために、本気で実弾を撃って追いかけるようアルトリアは指示を出した。
「連隊長……被弾は──」
『気にせず撃て。貴様ごときの銃撃に当たるような無様をさらすつもりはない』
「ならば遠慮なく、失礼します!」
アルトリア自身が全て避けてみせると言ったため、ならば遠慮なくと実弾を込めた機銃を本気でジンに狙いを定めて撃ちながら追撃の演技をするユウ。
しかしアルトリアの言は伊達ではなく、本当に照準を定めてロックオンする前に躱してしまうため、全く機銃の弾丸がその機体を掠めることができなかった。
(この人は本当に人間なのか……?)
機銃の連射を易々と回避するアルトリアの操縦技術に驚嘆しながらも、あくまでも誘引のための芝居であることを忘れずウランバートルからこちらに向かってくるザフトも注視するユウ。
ウランバートルから出撃したザフトは釣り餌となる追撃の芝居をしている27機甲連隊の姿を確認すると、ザウートとトラック部隊を追撃しに動く部隊と、アルトリアのジンを挟み撃ちにするつもりでこちらに来る部隊とに大きく分かれた。
敵は大気圏内ではディンほど機敏な機動は取れないとはいえ、ザウートと違い飛行能力を持つアルトリアのジンを警戒してかディンなどの航空戦力はアルトリアの方に集中した編成となっている。
ザフトは実弾をぶっ放しながら白塗りのジンを追撃しているディンの姿にユウ達を友軍と信じ込んだらしく、通信を呼びかけてきた。
今すぐ機銃の銃口をアルトリアのジンから敵のジンに向けたかったユウだが、敵から情報を入手する絶好の機会を棒に振るわけにはいかず、理性を最大限に動員しアルトリアにも聞こえるようにモニターを表示させず音声通信のみをつなげた。
『おいユリシーズ、てめえ抜け駆けしてんじゃねえよ! そいつが鷲を落とした魔女のジンか。ディンを盗んだことは目をつむってやる、俺の指揮下に入れ! その魔女を生け捕りにするぞ! 仲間が受けた苦痛を百倍にして返し、徹底的になぶってから魔女らしく火あぶりだ!』
「…………」
通信先のザフトの汚い言葉に、ユウの理性は溶けてしまった。
その銃口をアルトリアのジンから通信を呼びかけてきたジンに向ける。
ああ、味方と信じているからか避ける気配すらない。
ロックオンするまでもない。連隊長のあの動きに比べれば、こんな動かない的──
『待てナガト!』
「──その首置いてけザフト共!!」
『テメエ、何のつもり──!?』
アルトリアの制止を待たず、ユウは敵のジンに向けて発砲。
コクピットに直撃を受けたジンは機銃の連射により機体の胴体を蜂の巣にされ、友軍と信じ込んでいた敵からの攻撃を受けてその命を奪われた。
『後で懲罰だ。今は目の前の敵をあしらうぞ!』
「了解! ザフト共、その首晒せェ!!」」
本来ならばこの敵部隊を誘引し味方が待ち伏せしているところに引きつけて包囲、さりげなく後方に動かしたユウ達が退路を塞ぐ形で殲滅戦を仕掛けるつもりだったが、ユウの暴走により仕方なくアルトリアは作戦を変更する。
ユリシーズ隊のディンが奪われている事実を他のザフトに知らされることを阻止するために、数の劣勢を承知の上で攻撃命令を出した。
アルトリアのゴーサインを受け、迷うことなく即座に敵中へ飛び込むユウ。
散弾銃と機銃を撃ちまくり混乱する敵のヘリ部隊を蹴散らすと、胸部の6連装多目的ランチャーからミサイルを発射。
混乱から目に見えて反応が遅れている敵のMSや地上部隊に次々に被弾させていく。
『舐めるなよ裏切り者が!』
とはいえザフトの中にもすぐに動く者もいる。
混乱する友軍への誤射を避けるために銃ではなく近接戦用装備である重斬刀を構え、ユウのディンへと切り掛かってきた。
「貴様らザフトに与したことなど一度もなければ、命を失うことになろうと与することは決してない! 裏切り者呼ばわりされる筋合いは無い! その首で詫びろザフト!」
散弾銃を持つ片腕を切られながらも、ジンのコクピットがある胴体部を蹴りつけ、体勢が崩れた所にモノアイへ機銃を撃ち込んでカメラを破壊する。
視界を失い混乱するジンを、すかさず駆けつけたアルトリアのジンが重斬刀で両断し撃破した。
『突出しすぎた自重しろ!』
「貴様ら決して許さん! 首で贖え、首で償え! 理想郷を、家族を奪ったこの怨念、これしきで鎮まると思うな!」
ザウートに飛びかかり、砲台を蹴り壊すとその傷口に機銃を撃ち込み撃破する。
ジンに飛びつき重斬刀で頭部を切り飛ばされると、カメラを失い暗くなったモニター代わりにハッチを開き生身を晒して直接目視で視界を確保し、破片や跳弾が飛んでくるリスクを無視して機銃でジンを殴りつけで怯ませその隙にコクピットを蜂の巣にする。
そして弾切れとなった機銃代わりにそのジンから重斬刀を奪い、ジンの残骸を装甲車へ蹴り飛ばして潰し、首をなくしたディンはまだ混乱で動けなかった別のジンに切り掛かりその機体を両断した。
「ぐっ……! ザフトザフトザフトザフトォォォオオオ!! 首寄越せ貴様らァ!!」
その切り捨てたジンの破片が開かれたコクピットに飛びユウの左腕をかすめたが、その傷を無視してユウはなおも暴れた。
『私の部下に何をするか貴様ら!』
『連隊長貴方までですか!?』
そして、ユウが自業自得で傷を負ったことに、アルトリアも怒りをあらわにした。
それまでユウを止めようとしていたのに、血相を変えて怒りのままに重斬刀を投げ飛ばしてキャットゥスを撃つ。
ザフトの方は縦横無尽に暴れまわるこの2機のMSに翻弄され、混乱や友軍への誤射を恐れて動けない部隊が続出し、そこを獣のように暴れるユウやアルトリアに次々と撃破された。
『まあ、気持ちはわかる。──というわけだ、首置いてけザフト共!』
『理想郷を、家族を奪った恨み、その首で贖え!』
ユウたちとともにアルトリア追撃の芝居を打っていたナガト小隊の他のディン2機も、ユウが暴発したためにある程度あしらい挑発してから予定地点への誘引を行う方針に変更していたところ、それがさらに変更となった方針に従い混乱しているザフトの部隊に突撃を仕掛ける。
憎悪が爆発した彼らは止まらず、もはや誘引もへったくれもあったものではない。
ならばと待っていられないと、狐の巣穴に隠れ誘引ポイントに待ち伏せしていた部隊や偵察要員として身を潜めていた近くの部隊も各々ククリや銃器を携え、トラックに乗ったり走ってきたりとこの戦場に突っ込んできた。
「首置いてけザフト!」
「首寄越せザフト!」
「貴様ら絶対に許さねえ!」
「突撃だぁ!」
「なんなんだよこいつら!?」
「クソッ! こんなの──ギャアアァァァ!?」
混乱して反抗もままならない、足並みも揃っておらず統率も崩壊している。
烏合の衆で籠城の方針に反発し各々バラバラに出撃してきた者達。当然まとめられるような者もいない。
数で勝るザフトだが、統率は崩壊し混乱しでその力を全く発揮できず、そして数・質の優勢を覆す強烈な戦意をみなぎらせて突撃してくる27機甲連隊の前に、次々と撃破され損害が増加していった。
予定とは違い力押しのような形となったが、それでもウランバートル守備隊長の懸念どおり、見事に魔女の贄にされてこれらの部隊は壊滅。
統率が崩壊し逃げ散る敵を逃がすかと、アルトリア達は追撃を敢行。
数の差があり包囲網も敷いていない状態で勃発した戦闘だったため逃してしまう敵部隊もいたが、それでも自分たちの勝利を一片も疑わずに出撃してきたザフトの一軍を相手に負傷兵が多少出たのみという非常に少ない被害で抑え、戦ったザフトへはほぼ一方的に損害を与えて蹴散らした。
「ぐっ……! まだ……俺は……!」
『小隊長! 無茶しすぎだ!』
そしてモノアイを失ったからとコクピットを開いて視界を確保しながら戦うという無茶をしたせいで、飛んできた破片により大小多くの傷を負い、それでも暴れたせいで血を流しすぎたユウは、途中で気を失ってしまう。
その後、負傷により丸2日寝込むこととなったユウのウランバートルの攻防戦はここで終わりを告げることとなるが、怒りの収まらないアルトリアは負傷者の保護を済ませるともう1つのウランバートルから出てきた敵軍に狙いを定めて突撃の号令を出した。
「ザフトはまだいる! あちらの敵軍は確実に包囲し1人残らず首をあげるぞ! 続けぇ!」
アルトリアが示す先には、ザウートとトラック部隊への追撃の芝居をしながら偽駐屯地より出た方の部隊を追撃した結果、こちらは誘引からの包囲の罠に見事にはまった方のザフトの部隊の姿が見える。
そちらの方には、副官のアルトー・ピサロが率いる別働隊のなかでモンゴル高原の大地を疾走する4足歩行MSバクゥに搭乗し活躍するミハエルの姿があった。