その首置いてけザフト共   作:みども

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攻め落とす都市がなくなろうとも、戦いは終わりません。


ウランバートル攻防戦 7

 

 

 ──地獄へ通じる扉が開いた。

 

 ウランバートルを飲み込んだサイクロプスによって作られた、巨大な灼熱のクレーター。

 100万人を超える人命と都市1つを消した惨劇の跡地を見た者は、その惨状をそう称した。

 

「これが……これが人間のやることかよ!?」

 

 27機甲連隊とザフトの捕虜の多くが言葉を失う中、夜景を赤く照らすクレーターに向かって最初にそう声をあげたのは27機甲連隊副長のアルトー・ピサロだった。

 

 都市にはウランバートルを奪還した第13師団だけではない、多くの民間人がザフトの占領下の中で生きていたはず。

 それらを全て、ウランバートルもろともあの地獄の扉の中に飲み込んだ。

 

 モンゴル・ハイウェイの崩壊による、奪還したウランバートルを使った東アジア共和国に対する支援ルートの消失。

 奪われたのならば、都市もろとも消してしまえばいいという戦略なのかもしれない。

 

 それでも、躊躇いなくユーラシアの大地にまた軍民問わない殺戮の舞台を作り上げたザフトに、連隊の兵士たちは深い悲しみと猛烈な怒りを覚えた。

 

「ザフト……これがお前らのやり方か。連合に勝つためなら、お前らこんなことまで平気でやるのか! ふざけるな!」

 

 第13師団に対して、27機甲連隊は確かに怒りを覚えた。

 ウランバートル攻略の成功を信じて倒れた仲間たちを侮辱するようなその汚いやり方には腹が立った。

 

 それでも、こんな一方的な殺戮にさらされてしまえなんて思ったことはない。

 たとえ差別してくる奴らでも、たとえ相手が認めずとも、連隊の面々にとっては故郷を同じくするユーラシアの同胞だったから。

 

 それは当然、ウランバートルの民間人も同じである。

 シベリア特区に追放された自分たちを顧みないユーラシアの人々には腹が立ったし、謝れと怒鳴りつけたかった。

 

 ……それでも、死んでしまえなんて思ったことはない。

 

 だが、ザフトはウランバートルを放棄するとともに大量殺戮の引き金をまたも引いた。

 

 ユニウスセブンに核を撃ち込んだのは大西洋連邦だ。

 ユーラシア連邦の民間人がその憎悪をぶつけられる謂れはないし、ユニウスセブンの報復ならばニュートロン・ジャマーを撃ち込みエイプリル・フール・クライシスという惨劇をすでに奴らは起こしている。

 

「まだ殺したりないのか? そんなにも、地球で生きる人々の生存を否定したいのか? 平穏を勝ち取るために、生きるのに必死になっているだけの人々の未来を躊躇なく奪って! お前らのやってることは自由と独立のための戦いじゃねえ、下らねえ大義を振りかざして無力な人々を虐げ殺しまくるただの虐殺じゃねえか!」

 

 やはり、ザフト(奴ら)は見境いのない殺戮者共だ。

 こいつらは、生かしてはいけない組織だ。

 

 ショックを受け、赤いクレーターを呆然としてみていた連隊の面々に、アルトー・ピサロの言葉が火つけとなり烈火のごとき強烈な怒りと憎悪の炎が湧き上がった。

 

「ザフト……!」

「貴様ら……!」

「絶対に……!」

 

「「「許さねえ!!!」」」

 

 ウランバートルを飲み込んだ灼熱のクレーター。

 その惨劇に飲まれた者たちの怨念の声に突き動かされるように、連隊の兵士たちはザフトに対する怒りを露わにする。

 

 そして、その怒りをぶつける対象として、絶好の的となるザフト達がこの駐屯地には山のようにいるではないか。

 

「ま、待ってくれ!」

「違う、俺たちは何も知らないんだ!」

 

「黙れ!」

「テメエら絶対に許さない! よくもやってくれたな!」

「知らなかったで済ますかよ!」

 

 イルクーツクの惨劇を見た時にも、胸に抱いた激情。

 それに身を任せ、捕虜となったザフトに武器を向ける。

 

 一方、抵抗する術を奪われ拘束されているザフトの捕虜たちは、指揮官クラスやウランバートルに元々駐屯していた守備隊所属の者以外には存在を秘匿されていたサイクロプスを知らなかった者がほとんどである。

 

 プラント独立の大義の旗の下、自分たちが正義と信じて戦ってきた矢先に知らされた、イルクーツクの大量殺戮という事件。

 そして今自分たちの目の前でザフトが起こしたウランバートルの惨劇。

 自分たちが正義と信じた組織の見せる無差別殺戮の連続に衝撃と混乱が収まっていない状況で、その殺戮に対する報復の刃が自分たちに向けられそうになっていることを受け、何を信じればいいのかわからずパニックになりみっともなくともとにかく命乞いをするしかなかった。

 

「あんなことして許せるわけねえだろうが!」

 

 だが、怒りに我を忘れた27機甲連隊の面々に、そんな命乞いは通じない。

 むしろあれだけの殺戮をしておいて、そのザフトが命乞いをする姿は怒りの業火に油を注ぐようなものだった。

 

「…………」

 

 周りの仲間たちがパニックになる中で、この捕虜となった者たちの中で数少ないサイクロプスの存在を知らされていたリーニは、あの時アルトリアと問答を交わした時にすでに捕虜となった自分たちはこういう結末を迎えるのだという予想していた事もあり、1人落ち着いている。

 撃たれたとしても、ザフト(自分たち)は捕虜の権利を剥奪され殺されても文句の言えない所業を示したのだから。

 サイクロプスをウランバートルにいた仲間たちが使った時点で、こうなる運命だったと。

 理解していたから、覚悟も既に決まっており、怒りのままに振るわれる凶刃を受けても仕方のないことだと既に自分の生存を諦めていた。

 

「まずはお前からだザフトレッド!」

 

 アルトー・ピサロが周囲のパニックになり命乞いをする仲間たちの喧騒に反し1人静かにしているリーニに向け、構えた拳銃の撃鉄を上げる。

 

「やはり、こうなるか……」

 

「同胞の怨念を知れ、ザフト!」

 

 その引き金をリーニの眉間に向けて発射し──

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「やめろ貴様ら!」

 

 放たれた凶弾が、その前に割り込んだアルトリアの下腹部を貫いた。

 

「ぐっ……!」

 

 銃弾を受け、血の流れる傷口を押さえ、その場に膝をつくアルトリア。

 その光景は、パニックになっているザフトの捕虜たちと憎悪の怒りに飲み込まれかけていた連隊の兵士たち全員の頭の中を、一瞬にして真っ白に変えた。

 

「何で……?」

 

 目の前で倒れこむ、報復の資格を持つ彼らを率いる連隊のトップ、魔女の異名を持つ人物の背中に、リーニは困惑で埋め尽くされた思考の中で呟きをこぼす。

 ──何で、あの殺戮を起こしたザフトである自分を庇ったのか? と。

 

「そんな……連隊長!!」

 

 怒りと憎悪で我を忘れかけていたアルトー・ピサロは、表情を真っ白に、そして真っ青に変化させ、拳銃を放り出し撃ってしまった自分たちの敬愛する連隊長にすぐさま駆け寄る。

 

「連隊長!」

「そんな……何で!?」

「と、とにかく止血を!」

「連隊長! ダメです、そんなの!」

「連隊長ッ!!」

 

 アルトー・ピサロが駆け寄り支えるアルトリアが血を流している光景に、他の連隊の面々も次々に怒りと共に凶器を放り出してアルトリアへと駆け寄る。

 アルトー・ピサロが必死に傷口を押さえているが、アルトリアの顔色は青くなっており怪我の重さを物語っている。

 

 寸前まで爆発させていたザフトに対する怒りなど、尊敬する連隊長の瀕死の姿の前では瞬く間に消え去ってしまっていた。

 

「退けピサロ! 連隊長、すぐに止血します!」

 

 すぐさま駆け寄った衛生兵が、アルトー・ピサロを押しのけて応急手当を行う。

 

「連隊長……ッ! も、申し訳ありません! 申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!!」

 

 突き飛ばされたピサロは、自分の仕出かしてしまったことに理解が追いついていないのか、頭をかきむしりながらアルトリアに向かって地面に額を打ち付けながら謝罪を繰り返した。

 

 治療を受ける中、額に脂汗を浮かべながら、アルトリアが口を開いた。

 

「うっ……よせ、ピサロ。お前の責任では、ない……」

 

「……ッ!!」

 

「連隊長、喋らないでください!」

 

「ダメだ……!」

 

 喋れば余計な体力を消耗し、怪我も悪化する可能性がある。

 銃弾を摘出して止血を施しながらアルトリアに今は喋らないでくれと懇願する衛生兵だが、アルトリアは拒否した。

 

「貴様ら、よく聞け……!」

 

 そして、彼女を心配し囲む連隊の兵士たちに向けて、言葉を紡ぐ。

 怒りに、憎悪に囚われそうになっていた彼らに向けて、戦場の地獄で心を失う前に彼らを人としてつなぎとめるために。

 

「抵抗できない、捕虜に……手を、かけるな……! 教えた、はずだ……! 軍人が……己の判断で、凶器を向けるなと……!」

 

「「「────ッ!!」」」

 

 アルトリアの言葉は、連隊の兵士たちの理性を取り戻させた。

 

 ……ここでザフトの捕虜たちに手をかけても、ウランバートルの地獄を巻き戻せるわけじゃない。

 例えザフトだとしても、すでに彼らは白旗を上げた捕虜である。

 無抵抗の相手を殺せば、その瞬間に──あのイルクーツクの大量殺戮をしたゲルガーたちと同じ修羅に落ちてしまう。

 

「そいつらが……ウランバートルを、沈めた兵器を、起動したのか……? 違うはずだ……!」

 

「「「…………」」」

 

 アルトリアの言葉の通りだ。

 サイクロプスを起動したのは、ウランバートルから撤退していったザフトの部隊であって、降伏した彼らではない。

 

 ウランバートルの報復として彼らを手にかければ。

 ユニウスセブンを破壊した核ミサイルを撃った大西洋連邦に対する報復に、連合だからと一緒くたにして地球全土を巻き込むあの大惨事を起こした奴らと、同じ外道になる。

 

 自分たちが怒り、恨み、そして理想郷を取り戻すために倒すと誓った、目の前でまた惨劇を起こしたザフト共と……。

 

「……貴様らが、修羅に落ちるな。ザフトを倒し……その後の世界で……取り戻した、理想郷で……平和を享受する……光を……見失うな……」

 

「「「…………」」」

 

 コルシカ条約は、戦争という地獄に矛盾を突きつける戦時下の人道的国際条約は、決して殺されるもの達だけを守るものではない。

 戦争に無関係の者たちを守るためにあり、そして撃つ側の兵士たちの心を守るためにもある条約なのだと。

 戦場という地獄で、人としての光を、心を、見失わず、来る平和な世界に胸を張って戻れるように繋ぎとめるためにあるものなのだと。

 

 アルトリアのその言葉を受け、1人、また1人凶器を手から落としていく。

 そして、連隊の兵士たちは涙を流しながら彼女を囲み、膝をついて頭を地面にぶつけて、命をかけて自分たちを修羅に──最も忌み嫌う存在と同列に堕ちる前に引き止めてくれた上官に頭を下げた。

 

「「「申し訳ありませんでした!!!」」」

 

「……分かれば、いい……」

 

 修羅に落ちる直前に、踏みとどまることができた部下たちを見て。

 アルトリアは、魔女と恐れられる普段の様子とはかけ離れた慈愛と優しさに満ちた微笑みを浮かべ──目を閉じた。

 

「連隊長……?」

 

「…………」

 

「「「連隊長ォォォオオオ!!」」」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──こうして、ウランバートルの攻防戦は幕を下ろした。

 

 サイクロプスによってウランバートルは灼熱のクレーターに沈み、軍民合わせ約113万という多大な犠牲を生み出した悲惨な戦いは、ザフト側がウランバートルを放棄したことにより地球連合が勝利を宣言している。

 

 しかし、戦略目標であった東アジア共和国とユーラシア連邦間の支援ルートの確立は、ザフトがウランバートルを物理的に消し飛ばしたことにより達成不可能となった。

 このことから、ウランバートルの攻防戦に関してはザフト側の戦略的勝利とみなす見方もある。

 

 しかし、戦いに関わりその結末を見届けたものたちは、口を揃えてこう言い残している。

 

「あの戦いに、勝者なんてものはなかった。この悲惨な戦争の負の面を物語るような地獄だった」と。

 

 イルクーツクの大量殺戮を上回る死者を出したウランバートル攻防戦。

 かつてグリマルディ戦役で両陣営に多大な損害を与えたサイクロプスを用いたこの戦いは、東アジア共和国の民間人にも多大な犠牲者を出した事も相成り、ユーラシア連邦だけでなく東アジア共和国の反プラント感情も爆発させた。

 

 一方で、ウランバートルにザフトの主戦力を集めた隙を狙い行われた、本命のハバロフスク防衛線に対する攻勢だが。

 此方はザフト側の強固な抵抗により攻勢は頓挫。

 ユーラシア連邦第5方面軍の主力である7個師団を投入し1週間にわたって攻撃を繰り返した地球連合軍だが、多大な犠牲を払い遂に攻略を断念することとなった。

 

 結果、12月に入り流氷が下りてきたことで海路の支援ルートも塞がれてしまった中にあって、未だにユーラシア連邦と東アジア共和国間の支援ルートの確立を成し遂げていないという状況が続くこととなる。

 

 ザフトはウランバートルを放棄後、プラント国内にはサイクロプスを用いたエンデュミオン・クレーターの報復として第13師団の殲滅に成功したという内容を発表し、100万人を超える民間人の大量殺戮を行った件は伏せられた。

 

 ウランバートルを放棄したシベリア・蒙古戦線のザフトは、ウランバートルの戦いから逃げ延び生き残った部隊をハバロフスクの防衛線に集結させ、その防備をより強固なものとした上で、同時にカーペンタリアなどにて本格的なカオシュン宇宙港の攻略に向けた部隊の編成を開始する。

 台湾に対する攻撃は年明け早々の時期と定められ、オペレーション・ウロボロスの完遂に向けた動きが活発化することとなった。

 

 そして、最後に第27機甲連隊だが──

 ウランバートル崩壊後、連隊長アルトリア・ホーエンハイムが味方の誤射により負傷してしまう。

 迅速な処置により一命は取り留めたものの、この不運により連隊は一時的な指揮系統の麻痺という事態に陥ることとなった。

 

 その混乱を知ってかしらずか、捕虜となったザフト兵たちの奪還と連隊の壊滅を目指す3機のバクゥからなる元ウランバートル守備隊の夜襲を受けることとなる。

 

 ウランバートル攻防戦の3日目。

 攻めとるべき、あるいは守り抜くべき都市が消えた戦場で、第27機甲連隊はウランバートル攻防戦の最後の戦いに挑むこととなった。

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