その首置いてけザフト共 作:みども
後に第一次連合・プラント大戦と呼ばれる今戦争が勃発することとなるよりも前。
プラント理事国の一角であるユーラシア連邦では、コーディネイター出生の禁止がなされてからもなお増え続ける地球在住のコーディネイターに対する差別意識が過激化しており、プラントにおいて独立の気運が高まるようになってからはより一層その敵意が激しくなるようになっていた。
この情勢を受けたユーラシア連邦最高会議は、差別を受ける国民に対しそれを庇護するどころか、コーディネイターを敵性人種に指定しその財産を徴収し極寒のシベリアの大地に設けられた特区へ強制収容する法案を可決。
当時からブルーコスモスの活動が活発化していた大西洋連邦なども行なっていなかった、行政が直接主導するコーディネイターに対する迫害政策を実行に移したのである。
こうして多くの資産を国に奪われ、コーディネイターたちはほとんど着の身着のまま強制的に極寒のシベリア特区に移住させられた。
隠れコーディネイターに至るまで敵性人種を一掃するというユーラシア連邦のこの政策は大規模なものであり、またコーディネイターを見つけたものには賞金が出されたことから民衆階層までコーディネイター狩りが発展し、コーディネイターだけでなくその親族やハーフコーディネイター、果ては賞金欲しさや疑心暗鬼から密告されたことで巻き込まれた何の関係もないナチュラルまで、累計で2000万人以上の人々が財産を没収された上で特区への追放を受けることとなった。
ユウもまた、この政策により一家全員で特区への追放を受けたコーディネイターの1人であった。
もともと人類が住むには適さない環境の上、再構築戦争の爪痕も多く残ることから、久しく人類が居住地としてこなかった極寒のシベリアの大地。
そこはまさに白い死神が人種など関係なくすべての人類に凍えと死を平等にもたらす世界であり、当初は感情から対立していた特区へ追放された人々もこのシベリアの白い死神の脅威にさらされたなかで命を守るために団結せざるを得ず、特区への追放を失せた人々は“生きるため”という目的のためにこのシベリアに生活圏を1から構築していった。
白い死神は平等に死を与える存在である。
それを前にすれば、ナチュラルだのコーディネイターだのといった啀み合いは何の意味も成さないものだった。
シベリアの大地で生きるためには、どんなことでもしなければいけなかった。意地を張っている暇なんてなかった。
寒さにさらされ多くの死者を出したが、互いに人種などなく協力し合い、特区に追放された人々は少しずつ生活圏を作り上げていった。
外の世界がナチュラルとコーディネイター、プラントと国連という、差別と隔絶が広がる世界において、この特区は人種も出自も一切関係ないナチュラルもコーディネイターもハーフコーディネイターも全てが平等に生き、そして全てが平等に死神の脅威にさらされる、差別も隔絶もないたった1つの世界が出来上がりつつあった。
再構築戦争の負の遺産である核物質の残骸が残っていたのは、彼らにとって不幸であるとともに幸運でもあった。
これらの負の遺産を使い、原子力によるエネルギー供給体制を作り上げることに成功したことで、特区は大きく発展していく。
原発が完成し、生活圏が発展し凍死の恐怖に怯える機会が少なくなってきた頃、外の世界と隔離された特区の人々は自分たちの世界を人種差別のない唯一の理想郷と呼び、自分たちをこの特区に追放したユーラシア連邦に対してすらある種理想郷実現のきっかけをくれた相手として感謝の念まで抱くほどになっていた。
──だが、その理想郷はあと一歩で実現するというところで、全てが破壊されることとなった。
ニュートロンジャマーの大量散布による核兵器の無力化及び、地球規模の深刻なエネルギー不足の発生。
血のバレンタインの報復として行われた、ザフトによるオペレーション・ウロボロスの一環。
これにより当時化石燃料の枯渇により地球にて火力発電の代替として多く利用されていた原発が全て強制停止させられることとなり、突如として起こった未曾有のエネルギー不足による産業やインフラの崩壊により、10億人以上とも言われる餓死者が発生することとなった事件。
エイプリル・フール・クライシスが発生した。
この深刻なエネルギー不足は血のバレンタイを引き起こした大西洋連邦だけでなく、地球全土に影響を及ぼす。
そしてこのエイプリル・フール・クライシスは、外界と隔離されたが故にナチュラル・コーディネイター間の人種差別問題を初めて解決する理想郷となりえたシベリア特区にも、容赦なく牙を向いた。
あと少しだった。
シベリアの4月は未だに極寒の季節であり、エネルギーがなければ凍死を免れない世界である。
突如として発電が停止し、完成間近であった理想郷はザフトの手によって完膚なきまでに破壊され、再び白い死神の脅威にさらされることとなった。
ユウはシベリア特区に追放されて早くに父を亡くし、そしてこのエイプリル・フール・クライシスにより母と兄、そして祖父を亡くした。
たった1人残された血の繋がった家族である妹を守るために、悲しんでいる暇はなかった。泣いている暇はなかった。
白い死神が与える死はどこまでも平等であり、どこまでも冷血である。
飢えと凍えという地獄から身を守るためには、止まることは許されず働き続けなければならなかった。
破壊されたなら一から作り直さなければならない。
悲しんでいる暇などない。悲しみに囚われて立ち止まれば、白い死神に包まれ寒さに凍え死ぬだけなのだから。
生きるためには作り直すしかないから、特区の人々は再びこの理想郷を実現するために、破壊された生活圏の再構築に向けて動き出した。
このエイプリル・フール・クライシスで、ユウの家族を含め特区では500万人以上の餓死者や凍死者を出すこととなった。
ザフトに対する憎悪はあったが、そんなことに気を取られている暇などなかった。
生きるために、寒さから身を守るために、外界の些事に一喜一憂しているしている暇などなかったのだから。
そんな中であった。
特区にも地球連合に向け、オペレーション・ウロボロスを発動したプラントのトップであるシーゲル・クラインからの黒衣の独立宣言をはじめとする地球連合に対する非難とエイプリル・フール・クライシスの正当性を主張する評議会員たちの数々の演説の情報が入るようになったのは。
コーディネイターの自由と独立のため。
非道なナチュラルへの報復行為。
──それを聞いた時、ユウ達特区の人々の中で何かが壊れた。
腹の底からドス黒い感情が湧きあがってきた。
コーディネイターの為? そのコーディネイターの為とほざいたオペレーション・ウロボロスで、俺たち地球のコーディネイターがどれだけ死んだと思っている!?
非道なナチュラルへの報復? 貴様らのいう非道なナチュラルの行為に対し、コーディネイターだけでもユニウスセブンの何倍の人々が死に追いやられたと思っている!? 血のバレンタインの惨劇を非道というならば、このエイプリル・フール・クライシスの所業は何だというのだ!
貴様ら外界のくだらない人種差別のせいで、あと少しで完成するはずだった理想郷が破壊された! 完膚なきまでに!
お前らザフトは、地球連合に何の協力もしていなかった無関係な人々を、お前らが同胞というコーディネイターを、自分たちの都合のためならばその生存の権利すら否定して殺戮することを是というつもりか? ふざけるな!
ザフトがいる限り、理想郷は何度作っても何度でも壊される。
同じ地球の大地で育ってきたコーディネイターが、俺たち特区の人間がユーラシアの仲間として受け入れられる日はこない。
ザフトがいる限り、この世界は何も変わらない!
この時、特区の人々の反ザフト感情は烈火のごとく爆発した。
そして、エイプリル・フール・クライシスにより人的資源にも大きな影響を受けたユーラシア連邦が、一部人権の保全と財産権の返還を条件として特区に対しても志願兵の徴用を実施。
これに多くの特区からの志願兵が募られ、多数のコーディネイターが属する特区の志願兵によって作られたのが、現在のユウ達が所属している第9航宙機動艦隊の前身となる、ユーラシア連邦の唯一のMS保有部隊である“地球連合地上軍ユーラシア連邦第27機甲連隊”であった。
エイプリル・フール・クライシスによって、ユーラシア連邦内でも反コーディネイター感情が苛烈化しており、結成当初は特区の志願兵で構成されるこの部隊を受け入れたがるもの達はいなかった。
そのため27機甲連隊はほぼ単独で、最初に配属されたシベリア・蒙古戦線で活動することとなる。
能力の高いコーディネイター達が多数在籍している上に、ナチュラルに至るまで極寒のシベリアと戦いながら生活圏を作り上げてきた兵士達が在籍するこの部隊は、“地球連合の仲間として受け入れてもらうために理想郷を破壊した憎きザフトを討つ”という非常にわかりやすい理由で団結し戦うもの達が構成している。
その戦意と能力は他のユーラシアの部隊や同戦線で共闘している東アジアの部隊と比較して群を抜いて高く、鹵獲した多数のMSを運用し不屈の闘志で兵数的に劣勢であるにもかかわらずこの自然の脅威が強い戦線にて次々にザフト軍を粉砕していった。
ユーラシア連邦地上軍唯一のMSを運用する27機甲連隊は非常に目立つ。
地球連合をナチュラルと侮るザフトだが、シベリアに降りたザフトの兵士達はそのあまりの強さから27機甲連隊の姿を見ただけで戦線を放棄して撤退する部隊が続出するほどだったという。
シベリア・蒙古戦線をザフトを相手に数的劣勢から地球連合の勝利に導いた第27機甲連隊は、MSの高い性能をみてユーラシア連邦で解析・生産されることとなったものの扱えず大量に残っていたジンをはじめとする連合製のMSを与えられることとなり、新たに募られた特区出身の兵士達とともに部隊が再編され戦いの舞台を宇宙に移すこととなる。
そして結成されたのが、当時ユーラシア連邦の将官達の中で数少ないコーディネイターに対する差別思想を持たなかったカリオン・ウェイブ少将を司令官とする、現在のユウ達が所属する“地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊”であった。
理想郷の実現と、それを破壊し自分たちの生存を否定したザフトへの復讐。
コーディネイターを敵性人種として迫害したユーラシア連邦軍に志願し、コーディネイターの独立を大義に掲げるザフトとの戦いに身を投じることを決意し、そして強力なMS兵器を主軸とするザフト相手に地球上でも連敗を繰り返していた地球連合軍の中にあって強烈な光を放つコーディネイター達の、戦いの物語。
──その始まりは、ラクス救出の2ヶ月前、東アジア共和国の保有する宇宙港カオシュンの制圧をめざす支作戦として、東アジア共和国とユーラシア連邦を分断するために空より舞い降りたザフトが新たに築いた戦線、シベリア・蒙古戦線が存在していた頃まで遡る。
ザフトに対する憎悪ならブルーコスモスにも負けていないユーラシア最強の部隊、という設定です。