その首置いてけザフト共   作:みども

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ウランバートル攻防戦の最後になります。


ウランバートル攻防戦 8

 

 

 命がけで連隊の凶行を止めてくれたアルトリア。

 彼女の言葉が刺さったのは、連隊の兵士たちだけではない。

 プラント独立の大義のため、ユニウスセブンの惨劇を2度と行さないため、家族と故郷を守るため、武器をとり戦争に挑み、そして捕虜となり、今までザフトの掲げる表の大義を信じてきた先で殺戮を見せつけられた捕虜たちの胸にも深く突き刺さっていた。

 

 迅速な処置によりアルトリアは一命を取り留めた。

 しかし、怨念に囚われた部下を戻すために彼女の体が受けた銃弾による代償は大きかった。

 

 アルトリアという連隊が敬愛する指揮官の離脱は、彼らの精神的支柱が抜けたことに等しく、指揮系統は麻痺することとなる。

 彼らは元々特区で暮らしていた一般人が大半である。特区の人々は不足した人的資源の補填として徴兵されたこともあり、大した訓練期間も与えられずに最前線に送られた。

 当然ながら士官学校を出た者など数えるほどしかいない。

 そんな彼らの中に、圧倒的不利な戦力を覆し連隊を導いてきた絶対的なリーダーであるアルトリアに代われる存在などいるはずもなかった。

 

 指揮官としてだけでなく精神的支柱としても常に連隊を導いてきたリーダーの負傷により、指揮系統が麻痺し意気消沈する連隊の混乱を知ってかしらずか。

 その日の夜、連隊駐屯地に接近する3機のバクゥを主力とするザフトの部隊が接近してくるという情報が斥候からもたらされた。

 

「こんな時に……! 駐屯地に近づけるな、動ける者は迎撃に出ろ!」

 

 アルトリアを撃ってしまったショックで、副官のアルトー・ピサロも役に立たない。

 連隊長と副官が不在という中で臨時の連隊指揮官の任務に就くこととなったモロリンカ・ラウドン中尉は、ザフト接近の報告を聞くと、多数の捕虜と何より意識の回復していないアルトリアが居る駐屯地にザフトを近づけないために、即応可能な部隊に一兵卒単位での出撃を命令する。

 それに従い、連隊駐屯地より即時出撃可能だった隊員たちが兵装やMSを用意し、ククリを装備した歩兵を乗せたトラックが6台、クマネズミが1両、ザウート1機とディン1機、地上戦にはあまり向いていないが即時出撃が可能な状態にあったことからグーン2機、そして彼らを纏めた即席の中隊を率いるミハエルの搭乗するバクゥ1機からなる戦力が、迎撃のために出撃した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、奇襲を仕掛けられながらも早期に察知し数で勝るMSを迎撃に繰り出してきた連隊の迅速な対応を見た元ウランバートル守備隊長は、夜陰に紛れた奇襲攻撃の目論見がばれた事でその優位性を崩されたことを察する。

 

「うーん、マジかぁ……対応早いなあいつら。駐屯地を軽く焼き払ってから、捕虜になったアホどもの処理してさっさとトンズラするだけのつもりだったのに……こりゃ本格的な戦闘になるぞ」

 

 夜襲を仕掛けるため、機動力に優れるバクゥ2機とラゴゥ1機からなる3機の4足歩行型MSだけで夜の闇に潜みながら接近していたが、駐屯地にたどり着くよりもはるかに前で存在を発見されてしまった。

 

 地球全土に撃ち込まれたニュートロン・ジャマーの影響が広がる地球では、レーダーなどの索敵システムや長距離通信網などに大きな障害が出ているため、ウランバートルを沈めた直後ということもあり、さすがの魔女も油断していると、そう簡単に発見されることはないと踏んだのだが。

 

 守備隊長は連隊が各地に隠れさせている偵察兵の存在を把握していなかったため、ここまで早く発見され奇襲を看破されたのは想定外だった。

 

 しかし、ディンがいる以上、現場で背中を見せれば的になる。

 魔女の部隊が逃げるザフトを逃すほど甘い部隊ではないことを知らしめられている守備隊長は、夜襲の作戦を変更し迎撃に出てきた敵と本格的な戦闘を行うことを決めた。

 

「まあ、しょうがないということで。魔女の白いジンが出てきていないのが不気味だけど、とにかく目の前の敵を蹴散らして突破することを優先しようかい。足の速いバクゥとディンにまともにかかるのは非効率なんで、突破点は鈍足なザウートとグーンを狙って行くぞ!」

 

「「了解!」」

 

 元ウランバートル守備隊長の目的は、捕虜となっているザフトの解放、そしてあわよくばアルトリアの首をとることである。

 

 アルトリアの首に関してはウランバートル失陥の汚名返上と、ザフトにとって大きな脅威となる火種を確実に潰し未来の同胞の被害を抑えるというのが目的だが、それは運が向けば程度の認識である。

 

 最優先はあくまでも捕虜となった同胞の救出──もしくは、始末にある。

 

 国防委員長パトリック・ザラの意向を汲むならば、サイクロプスによる殺戮を、ザフトによる大義なきジェノサイドという陰の面を見てしまったリーニらは確実に確保し、その口を封じる必要があった。

 

 プラントが表向き国内に向けている大義。

 自分たちザフトは悪逆非道な地球連合のナチュラルたちに虐げられている同胞とプラントの解放のために戦う正義の組織であるというプロパガンダを守りプラントの士気を下げないためにも、民間人も巻き込む大量殺戮が行われた光景を俯瞰する立場で見てしまった同胞の存在というのは放置できない。

 それが地球連合の捕虜として生かされているともなれば、連合に利用される可能性が高く、早急に対応する必要があったからである。

 

 優先するべきはあくまでも捕虜の確保。

 すなわち、それを成すには迎撃に出てきた敵を突破し駐屯地へ到達する必要がある。

 

 守備隊長はラゴゥについてくる2機のバクゥのパイロットたち──バルデュス・グストンとヴィンス・ロッゾに向け、突破を目的とした作戦を立て指示を出した。

 

「グストン機はミサイルで敵のバクゥとディンを牽制、ロッゾ機はレールガンでザウートを狙撃しつつ援護だ! 私はトラックを引きつけつつグーンに肉薄してこれを仕留め戦列に穴を作るから、そこで一気に縦陣を組んで一点突破するぞ! タイミングを見失うなよ、それから足だけは絶対に止めるな! これだけ要注意!」

 

「「了解!」」

 

 バクゥの機動力を失えば、ディンを要する敵部隊を振り切るのは困難を極める。

 脅威となる敵のバクゥとディンに対しては手数に優れるミサイルポッドを搭載しているグストンのバクゥで牽制射撃を行い、支援砲撃に徹すると地味に厄介となるザウートはレールガンを装備したロッゾ機が対応し、残るトラック部隊の対応はラゴゥが矢面に立ち引きつけつつ地上戦では足の遅いグーンの位置をクズネツォフ隊突破の起点にするつもりである。

 

「副官、砲手は任せる! しくじったら私と心中だぞ、嫌なら全力出せよな!」

 

「失敗の代償が悍ましいですね。必ず仕留めてみせます」

 

「ねえ、そんなに嫌いなの!?」

 

「「…………」」

 

 この突破に際して重要な敵陣に穴を開ける役目を同乗者の副官に頼んだところ、辛辣な対応を返された守備隊長。

 端から見れば戦闘前の緊張をほぐすようなやりとりだが、サイクロプスで大量殺戮をしたばかりな上に、場合によっては同胞を轢き殺さなければならないかもしれない戦場に赴くにしては軽薄すぎる上官の態度に、グストンとロッゾはむしろ不気味さを感じ冷や汗が額に浮かんだ。

 

「ちなみに足を止められたら躊躇いなく捨てるんで、ちゃんと()()()()()()()()()()()自爆してね。間違っても連合の捕虜に落ちるのは禁止だから。なので、死にたくなければ死ぬ気でついてきてくること、よろしく!」

 

「「……了解!」」

 

「良い返事だことで。さて、グストン君とロッゾ君よ、やってしまいなさい!」

 

「ミサイル発射!」

「レールガン発射!」

 

 射程に入るとほぼ同時に、グストンの操縦するバクゥのミサイルがディンとミハエルのバクゥに、ロッゾの操縦するバクゥのレールガンがザウートに向けて発射される。

 

「敵ミサイル発射!」

「こっちも撃つぞ! ザフト共、その首置いてけ!」

 

 対してクズネツォフ隊の方も、ミハエルのバクゥがラゴゥを狙ってミサイルを発射し、ディンが上空から機銃を撃ち込み、ザウートとグーンが後方より砲撃を仕掛け、トラックから向けられるククリが次々と発射された。

 

 両軍の発射したミサイルはそれぞれがロックオンした目標に向かって飛んでいき、着弾して爆発を起こす。

 

「やった──何だと!?」

 

 グストンとロッゾはうまくバクゥの機動性を活かして被弾を最小限に抑え、ラゴゥはミサイルをレールガンとクローで撃墜し爆炎を煙幕代わりにしてミハエル機に肉薄して、ザフト側は1機の脱落もなく初撃を凌いだ。

 

「遅いな。バクゥの扱いがなってないぞ、魔女の部下君よ!」

 

 一方でクズネツォフ隊の方は、パイロットがディンの操縦にまだ慣れていないこともあり2機とももろにグストン機からのミサイルの直撃を翼や脚部、武装を持つ腕、あるいはコクピットのある胴体部などに受けて撃墜されてしまう。

 ザウートの方は距離があったこと、ロッゾの放ったレールガンはあくまで牽制のつもりだったこともあり命中しなかったが、ミハエルのバクゥは爆炎を煙幕代わりにして肉薄してきたラゴゥに接近されすれ違いざまにクローで右前脚のキャタピラを切り裂かれた。

 

「ぐっ──!?」

 

「ミハエル!」

 

 ミハエルの操縦するバクゥが横転する。

 

「いまだよ副官!」

 

「レールガン発射!」

 

「避けきれないッ……!?」

 

 砲手を務める副官により、バクゥよりも大型で出力の大きい分武装も重くできるラゴゥが搭載した4門のレールガンが放たれ、2機のグーンに反撃すらさせずにその装甲を貫き破壊、クズネツォフ隊の陣形に穴を開けた。

 

「よし穴が空いたな、突破するぞ!」

 

「了解!」

「了解──ぐあっ!?」

 

 すかさず空いた隙間に向かって、3機のMSは縦陣を作り一点突破を図る。

 グーンが沈黙して空いた隙間を機動力を生かして突っ切ることに成功したが、しかし最後尾についていたロッゾ機がトラック部隊のククリに被弾し横転してしまった。

 

「隊長、ロッゾが──」

 

「コケたのかい、ロッゾ。では、サヨナラだな」

 

 グストンはロッゾを見捨てられないとラゴゥに通信を飛ばすが、守備隊長は普段と同じように剽軽ながら、しかしその奥に不気味さを覚える声で躊躇なくロッゾを見捨てた。

 

「……!」

 

 止まることなく置いていき躊躇いなく見捨てた守備隊長に、ロッゾは息を飲む。

 ウランバートルのサイクロプスを起動した一員である自分が地球連合に捕まればどうなるかなど、想像に難くない。

 恨みをぶつける拷問と処刑を受けるくらいならば、自爆する方がはるかに楽だ。

 

「敵の横転したバクゥに集中砲火だ! 仲間の仇、首晒せザフト!」

「首置いてけ!」

 

「隊長、待って──ぐああぁぁ!?」

 

 だが、そんなことを考える時間すらなかった。

 機動力を失い横転したバクゥなど、連隊にとっては格好の的となる。

 グーンやディンに乗った仲間たちの命を奪った仇であるザフトのバクゥを見逃す道理などあるはずもなく、ロッゾのバクゥに多数のククリが、そしてザウートの砲撃が突き刺さり、機体は自爆する暇も脱出する暇も与えられず爆発した。

 

 一方、ロッゾのバクゥにクズネツォフ隊の砲火が集中した隙を見逃さず、守備隊長はラゴゥを駐屯地に向けて走らせる。

 

「いいタイミングでトカゲの尻尾が切れた、このまま駆け抜けるよ。ついてきたまえ、グストン君!」

 

「……了解」

 

 撃たれたロッゾをトカゲの尻尾と称して躊躇なく見捨て駐屯地めがけて駆け抜けるラゴゥを追い、仲間を見捨てる非情を噛み締めながらグストンはバクゥを走らせた。

 

 こうしてクズネツォフ隊を切り抜けたラゴゥが、連隊駐屯地を捕捉する。

 

「いやマジかい……」

 

 しかしその先にいたのは、クズネツォフ隊の稼いだ時間で駐屯地の前に展開が完了していた、ユリシーズ隊からのMSの強奪により事前情報よりも多い機数を確保していたディンの部隊が立ちふさがっていた。

 

 想定外の障害に、思わずため息がこぼれる守備隊長。

 

「行くぞ……敵を迎撃する!」

 

 アルトリアを守るため、駐屯地を守るため、ラゴゥとバクゥの前にディンの部隊を率いて立ちふさがったラウドン。

 

 それを見た守備隊長は、後ろをついてくるバクゥのパイロットに命令を出した。

 

「……グストン君、あいつら引きつけてもらえるかね」

 

「それは──」

 

「それと、後ろから来る連中も足止めしてよ。それから自爆、ヨロシクね」

 

「──ッ! ……りょ、了解」

 

 その命令は、クズネツォフ隊とラウドンたちを引き受け、最後には自爆しろというもの。

 先ほど躊躇なく捨てられたロッゾと同様に、トカゲの尻尾切りにされたのである。

 

 一瞬ふざけるなと反論しかけたが、しかし自分に逃げ道などないことを思い出し、命令を遂行するためにバクゥを突撃させる。

 

「全く、余計な足止めが多いから手間がかかるな。もう説得する暇ないし、というか面倒くさいし、どうせあいつら私の命令無視したアホばっかだし……良し、リーニたちは生き残ってたらみな殺しとしよう。それが一番手っ取り早い解決策だね」

 

 そして、躊躇いなくグストンをトカゲの尻尾にした守備隊長は、もう口止めの手段に説得と説明は面倒な上に時間がないからと、リーニたちが生き残っていた場合にはラゴゥで焼き尽くすことを決定し、グストンがラウドンたちを引き受けている横をすり抜けて駐屯地に向かって走った。

 

「逃がすか! 絶対に行かせない、待てザフト!」

 

「──!?」

 

 だが、駐屯地に向かうラゴゥの背中にミサイルが直撃する。

 それはミハエルがキャタピラを1つ失ったバクゥからマニュアル操作で発射したミサイルであり、ロックオンされていなかったことで守備隊長には完全な奇襲となる攻撃だった。

 

 ミサイルの直撃により背部の4連装レールガンが破壊されるラゴゥ。

 

「……これは無理かな。撤収しよう」

「それが最善かと」

 

 武装を失ったことを受けた守備隊長の動きは速かった。

 即座にラゴゥの踵を返すと、命がけでラウドンたちと戦い足止めしているグストンを一切顧みることなく放置して戦線から離脱していった。

 

「あの野郎、待ちやがれデカブツバクゥ! テメエ逃げるなザフト! 首置いてけ!」

 

 機動力に優れるラゴゥの疾走に、ミサイルのロックオンが間に合わない。

 足をやられていたミハエルは逃げるラゴゥにかすらないミサイルを飛ばすくらいしかできず、連隊の仲間に犠牲を出した守備隊長の撤退する姿を見送ることしかなかった。

 

「……ここまでか」

 

 短時間の戦闘でラウドン隊とクズネツォフ隊から猛攻撃を食らっていたグストンは、ラゴゥの離脱を見届けた後、機体はボロボロにされミサイルも弾切れとなったバクゥを自爆させ、機体諸共自ら命を絶った。

 

「プラントに栄光あれ!」

 

「じ、自爆しやがった!?」

 

 被弾した味方をすぐさま見捨てることといい、隊長と思われる機体はすぐに離脱したというのに殿に自爆を強要することといい、いくらザフト共といえどもまともとは思えない敵の行動に、連隊の兵士たちは驚く。

 自爆したバクゥからは、血まみれのボロボロとなったヘルメットが飛び上がり、パイロットがどうなったかはヘルメットの中に残る肉片が物語っていた。

 

「「「…………」」」

 

 残された連隊の面々には、味方を見捨て殿が自爆する異様な敵のMS2機の撃破という戦果と、グーンのパイロット他6名の死者を出してしまったという到底戦果に見合わない被害に、アルトリアのいない状態だと自分たちがどれだけ弱くなるのかという無力さと、同族どころか仲間すら冷遇するザフトに対する怒りから勝利など喜べない後味の悪さだけが残されていた。




これにて過去編“ウランバートル攻防戦”は終了となります。
次から本編に戻り、戦いの舞台は北アフリカに移ります。
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