その首置いてけザフト共 作:みども
親プラント勢力である“アフリカ共同体”の領土、北アフリカのサハラ砂漠が広がる大地“リビア”。
100kmほど北に進めば地中海が見える砂漠の大地に不時着したヴァレットは、大気圏への無理な突入により装甲が半分融解しており、砂漠に落ちたことでその艦体は大きく破壊され、すべての機能が完全に失われていた。
内部も悲惨な有様であり、大気圏に突入した際の高温によって船員の多くがリビアに落ちるまえに焼死していた。
それでもクルーゼ隊の若者たちを守ってみせると耐えた生き残りは、ブリッジにて最後まで艦の制御に従事し、そしてヴァレットを砂漠に落とした際の衝撃と破壊によって命を奪われた。
舵のレバーに黒く焦げそして溶けた皮膚が癒着して残った片手などが、死ぬ瞬間まで戦ったヴァレットのクルーたちの奮闘を物語っていた。
「…………」
『行くぞイザーク。足つき達が追ってきている。……ゲルガーさんやゲラートさんの犠牲を無駄にしないためにも、俺たちは生きのこらなきゃいけねえだろ』
「分かっている」
そのヴァレットの中において。
最後までヴァレットから供給されるバッテリーを補充し続け、そして展開したフェイズシフト装甲により生きながらえたデュエルに乗るイザークが、同じくバスターに乗って無事だったディアッカに促され、ヴァレットから砂漠の大地に出た。
(このご恩、決して忘れません……)
自分達クルーゼ隊とG兵器を守るために命をかけてくれたゲラート隊の戦士達に、コクピットの中から敬礼をするイザーク。
本当ならば彼らを弔ってやりたいところだが、しかし今はアークエンジェルとベニグセンがヴァレットを追いかけ大気圏に突入し、このリビアに接近してきている。
アフリカ共同体の領土内とはいえ、G兵器3機しか現状の自分たちの戦力は残されていない。
今は彼らの犠牲を無駄にしないためにも、機体と自分たちをジブラルタルにたどり着かせなければならない。
奴らはこの顔の傷をつけた相手であり、ニコル達を捕まえた相手であり、そしてゲラート隊の仇でもある。
迫っている足つきを今すぐにでも沈めてやりたいが、しかしコーディネイターの能力を過信し無策で挑んで勝てる敵ではないことは、多くの代償により思い知らされた。
少し前までのイザークならば腰抜けと唾棄しただろう、敵前逃亡の選択をしたヴァレット。
しかしプラントの未来を担う若者を守るために命をかけた彼らを見て、イザークの中で少なくない変化があった。
「……行くぞ、ディアッカ、オロール」
『おう』
『あいよ──うおっと!?』
命を失った仲間の仇を取るよりも、命をかけた仲間が成し遂げようとした意思を尊重すること。
死んだ仲間の無念を晴らす手段が敵討ち以外にもあることを知ったイザークは、ゲラート隊の意思を尊重し、追撃してくるアークエンジェルとベニグセンの迎撃ではなくヴァレットの残骸を置いてジブラルタルを目指すことを選択した。
しかし、地球と宇宙の環境はまるで違う。
それまで宇宙空間で戦闘を繰り返してきたG兵器に地球の重力と砂漠の大地の影響は大きく、早速イージスが転んでしまった。
「何をしている馬鹿者! さっさと立て──何っ!?」
『お前も転けてるじゃねえかイザーク!』
「うるさい! チッ……直ぐにOSを修正するぞ。足つきに捕まって仕舞うようなことがあれば、ゲラート隊の連中に顔向けできん!」
『なんか、変わったなイザーク──くくくぅっ!?』
直ぐにOSの修正に取り掛かるイザークと、そんな彼の言動から変化を敏感に察知し直後に前例2つを見ておきながらもバスターを転がすディアッカ。
『通信……頼む届いてくれ……ッ』
一方オロールは、アフリカ共同体やジブラルタルのザフトに向け救援要請の信号を発信した。
傍受されれば連合が位置を特定し群がってくるかもしれないが、足つきに位置が割れている以上ヴァレットの墜落ポイントがバレたところで今更である。
それよりも足となる艦艇を失い地球の戦闘は未経験のG兵器という現状で、北アフリカの友軍の支援なしに足つきとあのデタラメな操縦技術を持つ敵のMS部隊を乗せた艦の追撃を交わせると思うほど楽観的ではないので、指揮官機として製造されたことで他のG兵器よりも通信設備が充実しているイージスを使い友軍に助けを求めることを優先した。
地球の重力を反映させ修正したOSにより、デュエルを立て直す。
OSの修正を終えたイザークは、そのデータを友軍への救援要請などをしていたことで作業の遅れているオロールに提供する。
「オロール、此方で地球重力に合わせ修正したOSのデータを送る。参考にしてさっさと修正しろ」
『助かるわ──って、どうしたイザーク!? な、何か悪いものでも食ったのか?』
普段のイザークならば、遅い仲間に叱責や文句を飛ばすことはあっても手を差し伸べることはない。
そんな彼が突然見せた手助けに、オロールは驚愕する。
彼の知る普段のイザークではありえない行動だった。
「貴様は俺を何だと思っているんだ!」
思わずいつもの様に怒鳴り返したイザーク。
そんな彼の様子に、なんだかんだで仲間を心の底では大切に思っているイザークを知るディアッカがオロールにこれが何であるかを嬉しそうに教えた。
『ツンデレってやつだぜ、オロール』
「誰がツンデレだ! 余計なことを吹き込むなディアッカ!」
『これがツンデレか……』
「貴様はさっさとOSを修正しろオロール!」
『エザリアさんを想像してみろよ。いいだろツンデレ?』
『最高だなツンデレ』
「その汚らわしい妄想を今直ぐ止めろ! コクピットを撃ち抜くぞ貴様ら!」
『イザークも想像してみろよ! エザリアさんのツンデレ!』
「……うるさい! いいから作業を急げ貴様ら!」
『あいつも一瞬想像したな』
『うんいつものイザークだ』
「殺すぞ貴様ら!」
先ほどまで重苦しい雰囲気を纏っていたが、ディアッカとオロールの馬鹿なやり取りによりいつものイザークに戻ってきた。
デュエルにライフルの銃口を向けられながらも、OSを修正して立ち上がるイージスとバスター。
ひとまず地球の重力と砂漠の大地で最低限の機動ができる程度に修正した程度であり、武装の方は手つかずのままであるが。
それでも最低限この砂漠の大地を歩けるようになっただけでも先ほどのコケまくる状況よりもだいぶ改善された。
しかし、それがタイムリミットとなる。
大気圏に突入してきたベニグセン、そしてそのあとに続くアークエンジェルが空から降りてきた。
『しつこいっての!』
『迎撃するか?』
「彼らの死を無駄にしろというのか? ふざけるな! 撤退だ、ジブラルタルまで逃げるぞ!」
『だよな!』
『おうよ!』
高度を下げたベニグセンから砂漠の大地に降りてきた2機のMSに背を向け、迷うことなく撤退の決断をしたイザークの指示により3機のG兵器はジブラルタルを目指して逃走を開始する。
G兵器をめぐる追走劇は、舞台を地球に移すこととなった。
リビアに逃げ込んだヴァレットを追いかけ、砂漠の虎の異名を持つザフトの名将の率いる部隊が駐屯する勢力圏の北アフリカにためらうことなく飛び込んできたベニグセン。
『敵ナスカ級の残骸を確認! いました、強奪されたG兵器を確認!』
『ベニグセンよりナガト機並びにクズネツォフ機へ。連隊長より出撃命令が出ました、発艦願います』
ヴァレットの残骸とそこから出てきていた3機のG兵器を確認するなり、アルトリアはすぐさま出撃を命令。
ベニグセンのオペレーターから出撃命令を受け、マジューから強奪した偵察型ジンに乗るユウと、フェイズシフト装甲に有効なバルルス改ではなく実弾兵器である無反動砲キャットゥスを装備したミハエルの乗るシグーが出撃する。
「ナガト機、了解。長距離偵察型ジン、出撃します」
『クズネツォフ機、了解。シグー、出撃する!』
スナイパーライフル、重突撃機銃、キャットゥス、重斬刀と、どちらもフェイズシフト装甲を突破できない装備ばかり。
だが、この武装でもパイロットの技量次第では対抗可能であることは証明されている。
何よりザフトを前にして彼らが戦場に背を向けることはない。
砂漠の大地に降り立った2機のMSは、かつて地球を舞台に戦ってきた経験からベニグセンで既に地上戦闘用に変換していたOSにより、地球の重力を物ともせず無様にコケることもなく逃げるG兵器の追撃を開始した。
『ゴビ砂漠とは少し砂の質が違うな』
「誤差の範囲だ。走りながら修正するぞ」
『了解』
サハラ砂漠の砂質は彼らが蒙古戦線で経験したモンゴル高原やゴビ砂漠、新疆のタクラマカン砂漠とはまた違ったものだが、イザークたちよりも砂漠戦の経験が圧倒的に豊富な2人はMSを走らせながら片手間で早急にOSの修正を行い、最適なパターンに変換する。
これによりバーニアで加速を加えながら走るユウとミハエルのMSの速度が上昇し、最低限の動きができる程度にしか修正できていないデュエルらとの距離が縮まっていく。
逃げの一手を選択するG兵器は、ユウたちにとってはやたら短気だったという印象のあるデュエルも挑みかかってくる様子はない。
時間をかけずに追いつけるのでこのまま走って追いかけるのもいいが、イージスから周辺のザフトに救援要請が発信されていることを傍受したアークエンジェルから知らされており、いつ北アフリカのザフトの増援が来るか分からなかったため、ミハエルは早急に撃破することを決める。
『ミランダ、G兵器の位置情報をリアルタイムで観測してデータ送ってくれ。ユウに狙撃させるから』
『此方ベニグセン、はいです了解しました! これをこうで……送りますよユーさん!』
「此方ナガト機、受信しました」
ミハエルがベニグセンにいるミランダに向けてG兵器の位置情報の観測とそのデータ提供を要請し、それを受けたミランダが得意の情報処理能力を発揮しG兵器3機の位置情報から速度や機動予測まで解析したデータを作りそれをユウの偵察型ジンに飛ばす。
それを受け取ったユウが一旦停止しスナイパーライフルを構え、G兵器を動かすイザーク達を足止めするべくロックオンを使わない提供されたデータを頼りにした狙撃でスナイパーライフルを発射した。
威力は乏しいが射程に優れているスナイパーライフルは、最後尾を走るイージスの左脚部に直撃する。
地球の重力下用に合わせた即興のOSでは機体制御も不十分であり、フェイズシフト装甲が守った機体の装甲は無傷で済んだがライフル弾の衝撃にバランスを崩しイージスは再び砂漠の大地に転倒した。
「目を一瞬潰す」
『なら、その隙にこっちは空から仕掛ける』
「バスターだ」
『OK、そっちをコカす』
イージスの転倒に反応したデュエルとバスターの足も止まる。
すかさずユウは足を止めて振り返った2機のG兵器に向け、頭部カメラに狙いを定めた狙撃を行う。
放たれた弾丸はフェイズシフト装甲で防がれたが、そのカメラが映す映像には飛んでくるライフルの弾丸が命中する瞬間までが出ており、命中の瞬間にはその視界が塞がれてしまう。
視界を阻害され反応が遅れたデュエルとバスターの隙をつき、バーニアを全力で吹かし翼を広げミハエルはシグーを跳躍させる。
そして相棒と一瞬のやり取りで決めた攻め筋に沿って、空からキャットゥスをG兵器に次々と発射した。
当然、ミハエルはお行儀良くしか戦えない二流の技量ではないので、ロックオンなど必要とせず連射だろうとマニュアル操作で軽々としかし正確に命中させる。
空からのシグーの攻撃に、デュエル、バスター、イージスは次々に被弾し、シールドで対応したデュエルは何とか防御するがバスターはその衝撃を機体に受けてしまい砂漠の大地にバランスを崩して転がされた。
すでに転倒していたイージスは避けようがなく、ギリギリまでヴァレットから供給を受けていたとはいえバッテリーも他の2機と比べて不足していたため、容赦ない攻撃を防ぐフェイズシフト装甲にバッテリーが消耗を受け瞬く間に危険域に突入した。
『逃すと思うか!』
「同胞の無念思い知れ!」
「『その首置いてけザフト共!!』」
声を揃え、重斬刀を抜いた2機が、まだ立っているデュエルに向かって斬りかかるべく突撃する。
イザークは空と地上から突撃してくる2機を牽制しようと、ビームライフルを撃つが、宇宙空間と違い大気や重力の影響がビームを歪ませる地球上の戦場はそのビームの軌道を狙いとは全く別の方向に飛ばし消えていった。
「地上の戦場がもたらす特性を全く理解できていないようだな、ザフト!」
『典型的な温室プラント育ちが! 地球は命溢れる星だが、この環境は甘くないんだよ!』
実弾兵器よりも大気の影響を大きく受けるビーム兵器は、地上の戦闘ではそれ相応の改良をする必要がある。
ミハエルがバルルス改ではなくキャットゥスで出たのも、G兵器の無力化に都合がいいからというのもあるが、未調整のビーム兵器で地上に降り立つことを嫌ったからでもある。
そして、プラント育ちのイザークたちは地球の大地を舞台とする戦場を知らない。
立っているのがビーム兵器が主武装であるデュエルのみというのも最悪だった。
ユウが最初の銃撃でイージスを狙ったのは、MA形態となり他の2機を連れて一気に離脱されることを防ぐため。
ミハエルがキャットゥスを次々に撃ったのは、地球上でも影響をさほど受けず使用可能でMS相手に一撃で撃破できるランチャーを装備するバスターを確実に転倒させて無力化するため。イージスのバッテリーを削り取るだけでなく、デュエルに砲撃を防げるシールドをバスターに手渡す余裕を与えないためにも3機に向かってキャットゥスを撃ち込みまくったのである。
デュエルだけが立っており、歪むビームライフルくらいしかないというもはや接近する2機を牽制すらできない状況は、あの短いやり取りですでにユウとミハエルが組み上げていた詰みとなる道筋の上にあった。
もちろん未調整のビームサーベルも大気の影響を受けてしまうためまともな武器にならない。
接近戦に持ち込まれれば、あとは重斬刀にフェイズシフト装甲を削り取られるかパイロットが気絶するまで殴られまくるという状況となる。
G兵器の制圧はまさに目前だった。
『ユーさん! 敵増援が──』
「あっ──?」
──イージスの救援要請に迅速に動いてくる敵の増援が来なければ、だったが。
ミランダの警告の途中、ユウのジンは砂漠を疾走して駆けつけたレセップス級の放った40cm連装砲に撃ち抜かれ、砂漠の大地に倒れ伏した。
『ユウ!? クソッ!』
ミハエルのシグーに対しても、対空ミサイルなどが撃ち込まれ、離脱を余儀なくされる。
「逃すかぁ!」
それでも機体を立て直したユウだが、素早く撤退したシグーよりも諦めないと立ち上がったジンを脅威とみなしたのか、続けて発射された連装砲はジンの胴体部を貫き、それがバーニアを暴走させジンは炎に包まれた。
「ザフト、貴様等ぁぁぁあああ!!」
『ユウ! 分が悪い一旦撤退するぞ!』
機体が爆発するコクピットにて緊急脱出装置を作動して何とか脱出に成功したユウは、あと少しで撃破できたところに駆けつけてきた敵の増援であるレセップス級大型陸上戦艦に向けて憎悪の叫びをあげながら、ミハエルのシグーに回収されて撤退する。
「……一時撤退する!」
MSを多数搭載可能な大型陸上戦艦であるレセップス級と、艦自体には武装のないベニグセン級では、勝負にならない。
ユウの偵察型ジンが撃たれ、ブリッツはまだ重力圏内の戦闘用に調整が終わっていない。
ベニグセンの戦力だけではレセップス級に勝てないと判断したアルトリアは不利を認め、その速力を生かしミハエルのシグーを収容すると早々にアークエンジェルと合流するべく撤退を決断する。
レセップス級は無理な追撃を仕掛けることなく、まだ状況をよく飲み込めておらず止まっているイザーク達G兵器の収容を優先しベニグセンを見逃した。
「砂漠の虎か……」
去り際、モニターに映るレセップス級の姿に、その部隊を率いる男に思い至ったアルトリアがその有名な異名をつぶやく。
G兵器奪還のための戦いを展開する上で、彼女には次に相対することになる敵を見据え、勝つための作戦の構築に取り掛かるべくブリッジから出て行く。
「…………」
艦長席にて彼女のこぼした呟きを拾っていたベニグセン艦長のアルトー・ピサロは、ユーラシア連邦をアフリカ戦線で何度も敗北に追い込み、今回ユウのジンを奇襲とはいえたやすく叩いてみせた敵に、一筋縄ではいかない戦いになることを覚悟し表情をはりつめる。
こうして北アフリカにおけるG兵器を巡る最初の戦いは、ザフト側がG兵器を制圧されそうになる程追い詰められながらも早急に駆けつけてくれた増援のおかげでベニグセンを撤退に追い込むことに成功する形で終わった。
──そしてアルトリアの予想通り、G兵器を巡る戦いは凍土の魔女と砂漠の虎がぶつかる展開を見せることとなる。