その首置いてけザフト共 作:みども
トリポリを出港したレセップスは、ジブラルタルを目指して西に進路を進める。
アフリカ大陸北部を進む陸上艦艇は、数時間ほど地中海を北にしたルートを進むと、西方へ進めばアフリカ北部最大の塩湖として有名なジェリド湖が存在する地中海沿岸の港町の1つガベスに到着した。
「ここからは地球連合の地中海海軍の拠点も多いアルジェリア地域が広がっているからね、ザフトにとっては沿岸よりも砂漠の中を突き進む方が楽になる。ここで補給を終えたら、次は砂の大地をひたすら走る長旅になるからね。サハラ砂漠を突き進むことにことになるからしっかり準備しておくように」
ガベスに到着後、バルトフェルドはサハラ砂漠突破のための補給を指示しそれを受けたレセップスのクルー達がガベスに繰り出していった。
「さてと……時間もできたことだし、君たちにはこれから戦うことになるかもしれない相手について話しておこう。君たちの隊長は何にも教えてくれていないようだし」
それを見送った後、艦長室に残る3人のクルーゼ隊の若者達と向き合ったバルトフェルドは、新作ブレンドのコーヒーが入ったカップを4つ並べると、出港前に置いていた“魔女”に関する話題を切り出した。
「うーん、僕も凍土の魔女とは対面したこともなければ対峙したこともないから為人を把握しているわけではないけど、さてどこから話せばいいのか……」
「ゲルガー艦長が言っていました。凍土の魔女、と。MSを操縦する連合の兵士といい、あいつらは一体何者なんですか?」
「そうだねえ……では、まずは彼女たちが表舞台に出た時の話から始めようか」
地球連合に属するMS。
それはザフトから鹵獲したMSなどを用いて戦う、コーディネイターでありながらプラントではなく地球連合に与することを選んだ者達が乗る機体。
コーディネイターでありながらプラントではなく地球連合に与し、MSを操縦してザフトに歯向かってくる裏切り者達がいるという話は、イザークたちも知っている。
MSを駆使する以上、その裏切り者なのだろう。
そう思っているイザークたちに、バルトフェルドはジブラルタルで実際に凍土の魔女と対峙したことがあるという人物から聞いた話と、ザフトの隊長として調べて知ることとなった第9航宙機動艦隊──その前身である第27機甲連隊に属する者たちの来歴について話し始めた。
「君たちの予想通り、彼らは地球連合に所属しているコーディネイターたちだ。全員がというわけでは無いけどね。そして“凍土の魔女”というのは、かつてシベリア戦線で“雪原の鷲”の異名を持ったザフトのエースの1人であるハインリヒ・ゲルガーを倒し、イルクーツクの攻略を成し遂げた連隊の指揮官を務めていた人物だ。それまで圧倒的優勢を保っていたシベリア・蒙古戦線の戦況を一変させた第27機甲連隊という部隊を率いていてね、恐ろしく強かったらしい」
「第27機甲連隊、イルクーツク──まさか、イルクーツクの捕虜虐殺をやった奴らですか!?」
イルクーツクと第27機甲連隊。
この名前を聞いて、プラント本国にいる者たちが最初に思い浮かべるのは、シベリア・蒙古戦線におけるザフトの初めての敗戦となった戦いである“イルクーツク攻防戦”である。
プラント本国において非常に注目を集めたこの戦いは、イザークたちも聞いたことのあるものだった。
それまでザフトも地球連合の戦闘というのは、基本的に物量で圧倒する地球連合軍を相手に、能力的にナチュラルを上回るコーディネイターで構成される技術力において上をいくザフトが質で対抗するというものが主流だった。
そんな中で1個連隊の地球連合軍に、“雪原の鷲”の異名を持つエースの1人であるハインリヒ・ゲルガーが率いる1個師団のザフトが守る都市が陥落したというのは、ザフト全体に響く衝撃的な出来事であった。
しかし、局地戦に過ぎないイルクーツク攻防戦がプラント本国においても有名になった最大の要因は、別にある。
それは、数でも質でも上回っていたザフトが敗北した上に、雪原の鷲を討たれ、イルクーツクも陥落した後に起きた出来事にある。
イルクーツク守備隊であったザフトは地球連合に降伏したのだが、攻略したユーラシア連邦軍の連隊が降伏したにもかかわらず無抵抗の捕虜を皆殺しにしたというのである。
イルクーツクの捕虜虐殺として、プラント本国においては大々的にこの事件が喧伝され、イザークたちも知ることとなった。
「イルクーツクの捕虜虐殺か……僕としてはむしろゲルガー隊を撃破した彼らの戦術にこそ注目するべきだと思っているのだが、捕虜の虐殺以外に詳しいことは聞いていないんじゃないのかい?」
「それは……奴らが裏切り者共であることと、卑劣な手段で勝ったこと、後は……イルクーツクの捕虜虐殺事件を……」
「……やはりね。その卑劣な手段とやらも、卑劣という部分ばかり謳って詳しい内容については何1つ聞かされていないんじゃ無いかな?」
「…………」
バルトフェルドの言葉に、イザークは言葉が詰まる。
実際、彼らはイルクーツク攻防戦という色々な意味で大きく取り上げられるべきこの戦いについて、詳しいことは聞かされていない。
ザフトの士気に関わるからと戦闘の詳細については情報統制が敷かれており、聞いた話は雪原の鷲がナチュラルの罠に嵌められ討たれたこと、裏切り者のコーディネイターの属する部隊の卑劣な攻撃によりイルクーツクが陥落し捕虜となったザフトが
「最高評議会の発表は真相を伝えるよりも戦意高揚を目的としたものが多い。いずれ親の跡を継ぐならば、そういったものも見抜けるようになっておく事をお勧めするよ」
当然プラントでは反ナチュラル感情にさらなる火を焚べる事件となったのだが、実のところプラント本国で発表された内容には事実を隠したり捻じ曲げたりする箇所があった。
そしてその件に関して、バルトフェルドはアルトリア・ホーエンハイムを強く警戒し、彼女がいかにしてゲルガー隊を打ち破ったのかを知るべくイルクーツクの戦いに生き残った知人が真相を聞いていたのである。
「知っての通り、僕はアフリカ戦線の指揮官でもある。ユーラシア連邦が主敵だからこそ相対することになるかもしれない相手だったし、物量差が言い訳にならない本当の意味でザフトが連合に初めて完全に負けたと言えるこの戦いについて本国の発表になかった部分についても独自に調べたのさ。そして、その過程で話を聞くことができたんだ。実際にイルクーツクの戦いに参加したというザフトの生存者からね」
「イルクーツクの生き残り!?」
「生存者がいたんですか!?」
「そんな、皆殺しに遭ったって──!?」
プラントで発表されたイルクーツク攻防戦に関しての顛末では、守備隊のザフトは全員が殺害されたという。
しかし、バルトフェルドは生存者から話を聞いたと言った。
本国の発表を信じるならばいるはずの無い生存者から。
「いたんだよ、これが。そして彼から話を聞いて、僕はイルクーツクの真相について知ることができた」
驚くイザークたちに、バルトフェルドはコーヒーを一口飲んでから真剣な表情となって本国の発表を否定した。
「イルクーツクで捕虜が全員殺されたというのは虚偽だった。実際のところ、降伏したザフトの中で殺害されたのは一部であり、大半の捕虜は第27機甲連隊からは危害を加えられなかったそうだ。それも、捕虜殺害を行ったのは暴走した1人の士官による凶行で、連隊が組織的に捕虜を殺したという話も虚偽だった」
「そ、そんなはずは──」
「落ち着けイザーク。バルトフェルド隊長の話の方が、多分、本当だ」
イザークは思わず感情的になって立ち上がったが、隣のディアッカがその腕を掴んで止める。
イザークに比べ冷静に話を受け止めているディアッカは、プラント本国の発表と実際にいたという生存者の話とではどちらに信憑性があるのかを理解しており、バルトフェルドには自分たちに対して連合を庇うような話をする理由も無いことから、どちらの話が真相を語っているのかの客観的な視点での判断ができた。
その上で、ディアッカには理解できた。
プラント本国のイルクーツク攻略戦に関する発表は、反ナチュラル感情を煽るためのプロパガンダの意味が強く虐殺の件を誇張して大々的に喧伝したものであり、齟齬が生じないようにするためか他に隠さなければいけないことがあったからか、何らかの理由で本来ザフト側にて最優先で共有するべきザフトを言い訳の余地なく撃破した連隊の戦いぶりに関する情報を秘匿したものになったのだと。
バルトフェルドの話によれば、そいつらには裏切り者のコーディネイターもいる。
裏切り者のコーディネイターが、数でも質でも圧倒的に優勢なザフトを撃破し、異名を持つエースを倒した。
言い訳の余地の無い敗北だけでもザフトの士気に関わるというのに、その上相手が裏切り者のコーディネイターが在籍する部隊だったなど、真実のままに発表できるものでは無い。
おそらく、第27機甲連隊を裏切り者であり同胞を殺戮した敵として祀り上げるためにそういった捻じ曲げられた内容で発表されたのだろう、と。
「お前もエザリアさんの秘書として政治に関わったならわかるだろ。真相が捻じ曲げられるなんてことは多々あることだって」
「くっ……」
平時は母の秘書として働いており、政治が清廉潔白にはいかないものであることを承知しているイザークは、感情では納得いかなかったが頭ではディアッカの言葉通りバルトフェルド隊長の聞いた話の方が真実なのだろうと理解できた。
冷静に考えれば、プラント本国の発表はおかしなことが多かった。
それでも誇張され脚色され捻じ曲げられた末の捕虜の皆殺しという発表は、プラントの反ナチュラル感情を大きく燃え上がらせた。
無様に負けましたと、卑劣な手段で負けた上に捕虜を皆殺しにされましたでは、プロパガンダとしての効果に大きな差が出る。
ディアッカに諭され冷静になれたイザークは、喚きたい気持ちを抑えて椅子に座りなおした。
それを確認した上で、バルトフェルドは話を続ける。
「その士官は捕虜虐殺の責任を取り、その場で自殺したらしい。残った捕虜たちはユーラシア連邦本国に移送され、その道中で武装した民間人の襲撃に遭い多くが殺された。僕が話を聞けた知人は、その襲撃に乗じて逃げることに成功したそうだ」
「民間人に?」
「ブルーコスモスのテロリストじゃないんすか?」
その内容は、捕虜たちの顛末の真相である。
連隊により組織的に殺されたことになっていた彼らは、イルクーツクからユーラシア連邦本国に捕虜として搬送される途中で武装した民間人により襲撃され、そこで多くが殺されたという。
バルトフェルドが話を聞けたという生存者は、その混乱に乗じて逃げ出しザフトに帰還したという。
武装した民間人。
それを聞いて真っ先に思い浮かべるのは、コーディネイター排斥を掲げる地球連合の過激派である“ブルーコスモス”の刺客だろう。
オロールもそう思ったのだが、バルトフェルドはそれを否定した。
「いや。彼の話によれば、襲撃してきたのはブルーコスモスではなく、イルクーツクで殺された民間人の遺族たちだそうだ」
「……ん?」
「どういう事ですか?」
「申し訳ありません、バルトフェルド隊長。イルクーツクで殺された民間人、というのは? 戦闘に巻き込まれて死んだ、民間人という事でしょうか?」
バルトフェルドは襲撃犯をブルーコスモスではなく、イルクーツクにて殺された民間人の遺族と言った。
戦闘に巻き込まれ犠牲になった民間人の遺族がザフトを逆恨みしたのか。
そう思ったイザークたちだったが、バルトフェルドからこの次に聞かされた話に背筋を凍らせる事となる。
「違う。捕虜となったゲルガー隊を襲撃したのは、彼らが手にかけた民間人の遺族だ。ゲルガー隊はイルクーツクを占領した際、そこにいた住人を老若男女問わず殺し尽くしていたんだ」
「「「────ッ!?」」」
プラント本国が隠したイルクーツク攻略戦における最大の闇。
60万人以上の民間人が殺された事件、イルクーツクの大虐殺。
何も知らなかったイザークたちは、その話を聞いて思わず言葉を失った。
「……プラントでは秘匿されている話だ。僕も彼から初めてこの話を聞かされた時には、君たちと同じ反応をしたよ」
バルトフェルドはもう一口コーヒーを飲むと、プラント本国が捕虜を虐殺された事ばかりを打ち出したプロパガンダの影に隠した、イルクーツクの真実について話した。
「ハインリヒ・ゲルガーは、ナチュラルに対して強い敵愾心を持つ男であり、国防委員長パトリック・ザラを信奉する過激な男だった。シベリア戦線では大いに活躍し雪原の鷲と謳われていたが、占領政策は酷いものだったそうだ。“ナチュラルは存在そのものを許されず、軍民問わず皆殺しにするべし。一切の例外はなく、
「そんな、事が……!」
「僕が話を聞いた彼もまた、ゲルガー隊に満ちる異常な熱に犯されためらいなく無力な人々を殺したそうだ。彼はその時の事を、自分も仲間も止められなかったと深く悔やんでいるとも言っていた」
「…………」
「そして、第27機甲連隊の暴走した士官……その男もまた、このイルクーツクの惨劇を見て凶行に及んだと、連隊の兵士から聞かされたそうだ」
確かに、イザークたちもナチュラルに、地球連合に対して強い怒りと憎悪、敵意を抱いている。
しかしそれでも都市1つの人口を消し去る、それも抵抗する術を持たない民間人を一方的に殺戮するという話には戦慄を覚えた。
「……本国は、この事を知っているのでしょうか?」
「知っていたからこそ、発表があんな杜撰で曖昧な上に嘘だらけのものになったのではないかね?」
「…………」
バルトフェルドの言葉に、イザークは何も言えなかった。
捕虜にも手をかけるのが当たり前になっているこの戦争は、民間人が巻き込まれるのも珍しくはない。
そもそもプラントにおいて反ナチュラル感情を爆発させたユニウスセブンに対する核攻撃、血のバレンタインでも犠牲になった24万人以上の同胞もほとんどが民間人だった。
だが、ユニウスセブンの報復を謳おうにも流石にこれはプラント国内からも反発を招きかねない事件である。
血のバレンタインと同じく、民間人を標的に一方的な虐殺を行った。
しかも、犠牲者の数はユニウスセブンの倍を超えるという。
ハインリヒ・ゲルガーは、ザフトにおいてシベリア戦線で大活躍し勇敢に戦った英雄として喧伝されている。
その英雄が民間人の大量虐殺をしていたなど……
最高評議会が真相を隠す選択をするのは容易に想像ができた。
そして、捕虜となった同胞たちが民間人に襲われるのも理解ができた。
自分たちが同じ立場だとすれば、怒りに身を任せて殺戮者への報復に走る事が容易に想像できたのだから。
「……話が逸れてしまったね。君たちには真実を知ってもらいたかった。魔女についての話に戻ろうか」
3人の沈んだ表情を見て、バルトフェルドは本来の話題であるイルクーツクを攻略した凍土の魔女──アルトリアに関する話に戻る。
「凍土の魔女ことアルトリア・ホーエンハイム。彼女が率いる第27機甲連隊は、イルクーツクの攻略に始まり、ウランバートル攻防戦、ゴビ砂漠の戦い、新疆攻防戦、パミール高原、バイカル湖畔の戦い、第二次ハバロフスク攻防戦、ヤクーツクの戦いと、シベリア・蒙古戦線後期の戦い全てに勝利してきた。このすべての戦いにおいて第27機甲連隊はザフトに数的劣勢の状態で戦い抜いたというのだから、凄まじい強さだろう」
「全てに!? 嘘だろ!?」
「今挙げたのって、シベリア・蒙古戦線でザフトが黒星をつけられた全部の戦いだぞ……!?」
「つまり、あの戦線は1個連隊にひっくり返されたのか……!?」
バルトフェルドが並べた、第27機甲連隊のシベリア・蒙古戦線の戦歴。
それはカオシュン攻略の失敗につながったシベリア・蒙古戦線におけるザフトの敗戦した戦いの数々である。
それが示しているのは、第27機甲連隊によってシベリア・蒙古戦線のザフトは敗退に追い込まれ、そしてユーラシア連邦の援軍を得た東アジア共和国にカオシュンで敗れたということ。
たった1個連隊の活躍が、2つの戦線の趨勢に影響を与えたということである。
「その強さから、第27機甲連隊を率いている白いジンを駆使する女は“凍土の魔女”と呼ばれ恐れられた。彼女の率いる連隊が、ユーラシア連邦の新規宇宙軍艦隊の機動兵器部隊として配属され結成されたのが、君たちを追撃してきたMS運用に特化した連合の航宙軽母艦“ベニグセン”の所属する第9航宙機動艦隊だ」
「…………」
足つきの援軍に現れ横槍を入れたあの敵の正体。
それを聞かされたイザークたちは、自分たちがどのような敵と相対していたのかを知った。
雪原の鷲を落とし、シベリア・蒙古戦線を連合の勝利に導き、カオシュン攻略を断念させる原因を作った。
その上、数でも質でも勝るはずのザフトを相手になんども勝利を重ねてきた。
あの化物じみたMSの操縦技術ならば、数で上回っていたとしても、兵器の性能で上回っていたとしても、そんなもの覆されてしまってもおかしくはない。
「彼らには他の連合にはない特徴がある。まず、コーディネイターが部隊には多数在籍しており、MSを運用していること。そして、MSを運用していることを考慮しても恐ろしく強い上に、どんな劣勢な戦場でも戦いを挑むことをためらわない異常なほど高い戦意を持つこと。そして、隊の結束が非常に強いこと。最後に、とても頭がキレることだ」
その強さは、今聞かされた戦歴を考えればわかる。
高い戦意というのも、イルクーツクの件を聞かされた今ならば理解できる。
頭がキレるというのは、彼らを率いる隊長の凍土の魔女のことを指しており、戦歴を調べたというバルトフェルドによると彼女の指揮は非常に的確でありその罠に嵌められたことで戦力差を覆され敗北したザフトは数多くいるという。
「凍土の魔女の恐ろしさは、MSの操縦技術だけではなく、相対する敵の心理を読み解き必ずと言っていいほどに罠にはめてしまうことだ。イルクーツクも、ウランバートルも、新疆も、第27機甲連隊に敗れた戦いは多くが彼女の用意した狩場に誘引されたことで大損害を受けている」
ハインリヒ・ゲルガーが釣り出されたイルクーツク。
集結したザフトの大部分が要塞から打って出てしまったウランバートル。
第27機甲連隊の戦いでは、多くがザフト側が誘引された先で罠にはまり大損害を受け、そして戦力差を覆されるという流れが非常に多かった。
シベリア・蒙古戦線のザフトも第27機甲連隊の得意とする釣り出しは警戒したが、アルトリアはその上をいく心理戦で幾度もザフトをつり出し殲滅してきた。
頭がキレるというのは、相手の性質を的確に見抜き誘導する心理戦、そして多彩で魔法のような罠を仕組む知略にある。
「どれだけ警戒しても引っ張り出す。そして引っ張り出した先で、予想だにしない光景を見せつけて大混乱に陥れ、強烈な一撃をそこに叩き込み大損害を与える。部下も死地に喜んで飛び込む猛者ばかり。調べれば調べるほど強いことがわかる」
相対したことはない。
第27機甲連隊の結成に至る経緯も知らない。
しかしバルトフェルドはアルトリアを高く評価しており、そして強く警戒していた。
「……僕の知る凍土の魔女に関する情報はこれくらいかな。君たちが今まで相手にしてきた連合とは違う相手であることは、相対した君たちの方がむしろ僕より強く理解していると思う」
「…………」
バルトフェルドの言葉に、イザークたちの頭に浮かぶのは月軌道会戦で戦った魔女たちの操るMSである。
その言葉通り、ナチュルどもの連合などと侮っていた考えを打ち砕かれた敵。
今の自分たちが何と戦っているのかを改めて強く認識させられる。
バルトフェルドがアルトリアについて知っていることを話し終えた頃、4人のカップの中のコーヒーは空となっていた。
──そんな中、レセップスに警報が鳴り響いた。
「バルトフェルド隊長、敵の新型艦及びベニグセン級を確認! 当艦の進路上に布陣しており、既にMSなどが展開しています!」
「新型って──」
「足つきだ!」
「ストライクか!」
警報は、今まさに彼らが話していた相手である魔女を擁するベニグセンと、イザークにとって因縁あるストライクを乗せた足つき──アークエンジェルがレセップスの進路を塞ぐように展開していることを艦内に告げるものだった。
「やれやれ、やはり読まれていたか。総員、戦闘配置! 君たちにも働いてもらおう、クルーゼ隊の諸君」
「「「了解!」」」
バルトフェルドの号令により、レセップスも戦闘態勢に入る。
クルーゼ隊の3人もまた、敬礼をしてG兵器を駆使するべく艦長室から飛び出して行った。
ちなみにバルトフェルド隊、トリポリでデュエルの装備を解析しており、すでにバクゥにはビームサーベルを搭載しています。