その首置いてけザフト共 作:みども
デュエルとバクゥ1機を制圧されたが、戦闘が終結したわけではない。
アークエンジェルと艦砲の撃ち合いをしていたレセップスが、突破を図るために2隻の艦艇と距離を詰めてくる。
「ベニグセンは邪魔だ! 一度距離を取り此方に来い!」
『了解!』
ユウのブルドックに釣られたデュエルを待ち伏せするために長時間のミラージュコロイドを展開して潜伏していたことでバッテリーを消耗しており、フェイズシフト装甲も解除しているブリッツのアルトリアから、至近距離の艦砲射撃の撃ち合いとなればアークエンジェルの邪魔にしかならないベニグセンに退避命令が出される。
それに従い、ベニグセンの艦長アルトー・ピサロは艦の護衛である地上部隊を残して離れていく。
ベニグセンはMSの輸送・運用に特化した艦艇であり、艦自体に自衛用の武装は一切もたない。
その場にいてもアークエンジェルの戦闘の邪魔にしかならないため、速力を持って一度離脱。デュエルとバクゥの収容及びブリッツのバッテリーの補充のために移動する。
その様子はレセップスと、アークエンジェルと護衛の地上部隊と交戦し撹乱することで援護しているバルトフェルドのバクゥからも確認できた。
『バルトフェルド隊長、ベニグセンが離れます!』
「今は気にしなくていい! あれは艦自体には機銃の1門も持たないほとんど輸送艦みたいなものだ! このままレセップスは全速でアークエンジェルを潜り抜けろ!」
バルトフェルドは今は突破する時だとレセップスに前進を指示する。
見事に罠にはめられイザークのデュエルとハダトのバクゥを失うこととなったが、最大の懸念である姿を隠したブリッツの所在は判明した。
今のアークエンジェルの周囲には脅威となるMSが残っていない。今ならば損傷を与える攻撃をしてからの突破がかなりやり易くなっている好機でもある。
「アークエンジェルをかわした後は、G兵器を乗せた状態でそのまま砂漠を突っ走れ!」
『待ってくださいバルトフェルド隊長! イザークが──』
「安心したまえ。デュエルは僕が取り戻そう」
レセップスに交わした後は全速で離脱を指示したバルトフェルドに、イザークが捕まえられたままにはできないとオロールが食い下がると、バルトフェルドは自分が行くと言ってオロールを黙らせた。
『おいおい、動きがだいぶぎこちないぞヒヨッコ! それでもストライクの正規パイロットか?』
「コーディネイターと一緒にしないでくださいよ大尉!」
3度目の攻撃でレセップスの右弦後方側の砂漠魚雷発射管を破壊して離脱したムウから、イージスとライフルの撃ち合いをするのが精一杯でレセップスに抜けられたストライクを操縦するトーマスに茶々が飛ばされる。
レセップスから飛んでくるミサイルや魚雷にも被弾しながら、フェイズシフト装甲とビームシールドに守られ未だに健在のトーマスは、シールドを前にしてライフルを撃っているだけだがこれでも必死なんだとスカイグラスパーで暴れまわるムウに言い返した。
アークエンジェルの方は、バルトフェルドとカークウッドのバクゥに翻弄され多数のミサイルに被弾しながらも、レセップスにゴッドフリートやバリアントなどでダメージを与えていた。すでに主砲である40cm連装砲はすべて沈黙している。
そのレセップスがストライクを突破して接近してくる。
距離が詰められ、主砲であるゴッドフリートの射線上からレセップスが外れ、アークエンジェルの下に入られた。
「艦長、敵レセップス級がゴッドフリートの死角に!」
「奴らの目的は突破だ! 後方に抜けられたところを狙いスレッジハマーを叩き込むぞ! アークエンジェルも加速させろ!」
「了解!」
レセップスの目的はジブラルタルへの撤退であり、アークエンジェルの突破である。
潜り抜けられたところに対艦ミサイルを叩き込んで航行不能に追い込もうとするフッカーは、敢えてアークエンジェルを前に出してレセップスの突破を許す動きをとった。
しかし、今度は砂漠の虎の読みが上回る。
「今だディアッカ君!」
『グゥレイト! 決めるぜ!』
レセップスに隠れていたバスターが姿を現し、主武装である350mmガンランチャーと94mm高エネルギー収束火線ライフルを連結させた対装甲散弾砲をすれ違いざまにアークエンジェルの後部に撃ち込んだ。
「艦後方に被弾!」
「1番推進器破損! 高度が維持できません!」
「艦長! スレッジハマー砲門も被弾! ミサイル発射不能です!」
「やられた……! 攻撃中止、艦を立て直せ!」
至近距離で撃ち込まれたバスターの対装甲散弾砲は、ビーム兵器には強いが実弾兵器には決して特別堅牢では無いラミネート装甲を大きく傷つけ、推進器や艦尾ミサイル発射口を破壊した。
艦の制御すら困難となり、高度を維持できずアークエンジェルが砂漠の大地に落ちていく。
「よくやった! そのままレセップスは離脱しろ!」
『ご武運を!』
『バルトフェルド隊長、イザークを頼みます!』
敵領土内の砂漠の真ん中で母艦を落とされたとなれば、ベニグセンの方もアークエンジェルを放置して無理な追撃を仕掛けることはできない。
アークエンジェルを突破し、主砲を潰したことで油断していたところに隠していたバスターで致命的な一撃をたたき込みその航行能力を奪い砂漠の大地に落としたことで、レセップスの目的である合同部隊の突破は成功した。
後はイザークのデュエルを取り戻すのみ。
アークエンジェルを突破してイージスとバスターを乗せジブラルタルへ向かうレセップスを見送ると、バルトフェルドはアークエンジェルの救援に向かうスカイグラスパーとストライクを無視してバクゥをブリッツの方へと走らせた。
デュエルの奪還のために向かってくるバクゥの姿は、アルトリアの方でも確認できた。
「さて、これでお互い遠慮なく一騎打ちができる。相手をしてもらえるかな、凍土の魔女さん?」
「酔狂なことだが、嫌いじゃない。お相手しよう、砂漠の虎」
デュエルの残存バッテリーを吸い上げることで、消耗したバッテリーをある程度回復させたブリッツ。
ユウのブルドックはミサイルを切らしているため、今のブルドックは単なるからのミサイルポッドをつけただけの装甲トラックである。
ベニグセンはアークエンジェルの護衛に地上部隊も全ておろしており、艦の武装もないためきたところで戦力にはならない。
アークエンジェルは砂漠の大地に不時着しており、ストライクやスカイグラスパー、残った地上部隊もその救援に向かっている。
現状、単機で突っ込んでくるバルトフェルドのバクゥを迎え撃てるのはこのブリッツのみである。
「ナガト、この場は任せる」
『了解。ご武運を』
バルトフェルドがデュエルを賭けて一騎打ちを望んでいることを察し、現状でまさにそれに最適な戦況が出来上がっていることを見たアルトリアは、ここで応じなければ戦士ではないとユウにその場を任せてコクピットの中で好戦的な笑みを浮かべながら虎の誘いに応じるべくブリッツを疾走させた。
「応じてくれたか、嬉しいねえ」
イザークたちを人質にとるわけでもなく、むしろ誤射などに巻き込まれないようにするために此方に単機で向かってきたアルトリアを見て、バルトフェルドもコクピットの中で思わず笑みが浮かぶ。
一騎打ちの誘いに迷いなく乗ってきた。
それも、お互い一切気兼ねなく戦えるようにわざわざ単機でデュエルらから離れて。
捕虜や民間人を傷つけずコルシカ条約を遵守する、絶滅戦争の様相を見せるこの悲惨な戦争において数少ない存在。
一騎打ちなどという我儘にも迷いなく応じてくれたその相手は、さながら英雄譚に登場する騎士のような、魔女などという物騒な異名にそぐわない高潔さを感じさせる。
「こんなに気持ちのいい戦いは初めてだ。イザーク君を返してもらおう、凍土の魔女!」
「かかってこい、砂漠の虎!」
バクゥは頭部の、ブリッツはトリケロスのビームサーベルを抜刀し、障害物のない砂漠の大地で邪魔するもののいない一騎打ちを開始した。
次回は砂漠の虎と凍土の魔女による、MS同士の一騎打ちです。