その首置いてけザフト共   作:みども

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クズネツォフ隊→レセップス→ジブラルタルのザフトの順番で視点が切り替わります。


明けの砂漠 1

 

 

 アフリカ共同体領土内に駐屯するザフト軍、バルトフェルド隊は、アフリカ戦線の主戦場であるビクトリアの前線に展開している主力部隊とアフリカ共同体からの要請により明けの砂漠討伐に動いていたレセップスの他に、駐屯部隊の拠点としてアフリカ共同体より提供されているバナディーヤに有事の際の予備戦力が存在している。

 ガベスに到達し、そしてG兵器奪還を目指すアークエンジェルとベニグセンの合同部隊の待ち伏せを受けたバルトフェルドは、ジブラルタル基地の他にこのバナディーヤの予備戦力にも援軍の要請を打診していた。

 

 ビクトリア攻略のための支作戦として、ビクトリア守備のユーラシア連邦軍戦力の引き抜きを誘うべくジブラルタル基地のザフト軍が行った欧州本土への侵攻、イベリア半島侵攻作戦。

 それにより勃発した、ピレネー山脈突破を前にアラゴンにて地球連合地上軍ユーラシア連邦第3方面軍と激突したアラゴンの戦い。

 この戦いで大損害を受け敗退したジブラルタルのザフトは戦力が不足しており、バルトフェルドの要請に対しそれを理由に援軍の派遣を拒否している。

 

 一方でバナディーヤの駐屯部隊はバルトフェルドの打診を受けるとすぐにピートリー級陸上戦艦“ヘンリー・カーター”を出撃させ、ジェリド湖方面に向け砂漠の大地を疾走していた。

 

 だが、その道中にて援軍が東から来ることを読んでいたアルトリアが隠していた、ミハエルのシグーを中心とする部隊の奇襲を受けることとなる。

 

 ヘンリー・カーターは予測された進路にあらかじめ工作部隊の敷設した地雷にはまり、死角などないはずの砂の大地にて敵影の見えない中で起こる多数の爆発に混乱し、その船足が止まる。

 地雷の爆発による振動。

 そして砂漠に掘られた狐の巣穴に隠れる偵察部隊がその位置を観測し、地雷攻撃で混乱するピートリー級を見て攻撃の好機と判断。有線通信によりミハエルへ攻撃開始の合図が送られた。

 

「お、これは地雷の爆発。てことは……よし、合図が来た! それじゃ、行きますか!」

 

 偵察部隊の観測により待ち伏せポイントに接近してきたピートリー級が捕捉され、砂の中に隠れるシグーに乗るミハエルに合図が送られてきた。

 それを受け、ミハエルはシグーを起こし砂の大地から飛び出す。

 

「行くぞザフト! その首置いてけ!」

 

 敵影の見えない中で起こる爆発。

 突然砂の中から姿を現し艦に攻撃を仕掛けてきた、ナチュラルには扱えないザフトの兵器であるはずのシグー。

 

 意表をつく奇襲攻撃により瞬く間に混乱に陥ったヘンリー・カーターは、ミハエルの操縦するシグーにまともな迎撃もできず、武装と機関を破壊され戦闘能力と航行能力を完全に失うこととなった。

 

 抵抗の術を奪われ沈黙したヘンリー・カーター。

 それでも船員たちは歩兵になっても銃を持ち出し戦意を失っていなかったため、艦もろともトドメを刺そうとしたシグーだったが、そこへジェリド湖方面に展開していた合同部隊とレセップスと戦いの結果が知らされた。

 

『クズネツォフ少尉、連隊長がやりました! アークエンジェルが被弾し不時着したことでレセップスとG兵器2機には抜けられましたが、デュエルを奪還しバクゥ2機を撃破! 砂漠の虎の捕縛に成功したとのことです!』

 

「よっしゃ、さすが連隊長! 各員、突入は一旦中止! 砂漠の虎を生け捕りにしたから、それを交渉材料にしてもう一回降伏勧告を行うぞ!」

 

 バルトフェルドを捕虜にしたという連絡を受けたミハエルは、ヘンリー・カーターに対する強行突入を決行直前に中止。

 艦は沈黙したが乗組員たちは抵抗の意思を崩さないヘンリー・カーターのバルトフェルド隊に対し、隊長を捕虜としたことを交渉材料として再度の降伏を促す。

 

「──というわけで、ピートリー級の皆さん白旗あげてくれよ! 俺たちに勝ってもこんな砂漠の大地の真ん中に動けない船で放置されてもミイラになるだけ、そちらの隊長も降伏したので抵抗する理由はないはずだ。此方としても無意味な戦いで死傷者を出したくないからさ。まあ、それでも抵抗するなら本当に容赦しねえぞ。虎と生きて再会するか、腐った生首になって再会するか、今すぐ選べよザフト共!」

 

 バルトフェルドが捕らわれたことを聞いたヘンリー・カーターの乗組員達は、当初はミハエルの言葉を信用していなかったが、ベニグセンより送られてきた捕虜となったバルトフェルドの画像データを見せつけたことでついに戦意を喪失。

 突入直前の段階になって、ついにヘンリー・カーターは降伏の意思を示した。

 

『白旗を確認。武装を放棄した敵兵が艦より出てきました』

 

「よしよし、これにて任務完了だな。フッ……我ながら完璧な仕事振りだぜ」

 

『何格好つけているんですか、連隊長の作戦に従っただけですよね。砂漠の虎を捕らえたのも連隊長ですし』

 

「うぐっ……いやそうだけど、少しくらい自画自賛してもいいだろ。ああ、それから怪我人がいたら治療してやるように」

 

 勝利の余韻に浸るミハエルに、部下から冷たい言葉が飛んできた。

 シグーの操縦を理由に、捕虜の拘束や武装の没収などの事後処理をすべて部下達に任せきりにしアルトリアの作戦勝ちのところを自分の勝利と格好つけているからである。

 

 こうしてバルトフェルド隊と合同部隊との二度目の戦闘は、待ち伏せと罠を駆使し有利な態勢で戦闘体制を整えていた合同部隊の勝利で終わることとなる。

 アークエンジェルが被弾しレセップスを取り逃がしてしまったが、ビクトリアの前線に展開している主力部隊を除くバルトフェルド隊を相手に隊長アンドリュー・バルトフェルドをはじめ多くのザフトを捕縛しバクゥ2機と援軍のピートリー級を撃破し、目標のG兵器の1機であるデュエルの奪還に成功するという戦果を挙げた。

 

 航行能力を失っていたヘンリー・カーターは放棄され、降伏したザフト兵たちは武装解除した上でミハエル達のトラックに乗せられて、シグーが先導する車列となり合同部隊の方に向けて出発することとなる。

 

 アークエンジェルの不時着地点にて再結集した合同部隊は、アークエンジェルの修復を進めながら、艦長らは今後の方針について協議することとなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 バルトフェルドとイザークを犠牲にして難を逃れたレセップスは、ジブラルタルに向け砂漠の大地を走っていた。

 

「そうか、ヘンリー・カーターが……分かった。バナディーヤの放棄を許可する。ビクトリアの主力部隊と合流してから前線を放棄、カサブランカに撤退するように。そこで落ち合おう」

 

 バナディーヤに残っていた部隊から援軍のヘンリー・カーターも待ち伏せを受け撃破されたことを聞いたマーチン・ダコスタが、今回の敗北によりもはやビクトリア攻略は不可能な段階になってしまったことを理解し、バルトフェルド隊の生き残り達に前線の放棄とザフト勢力圏であるアフリカ西部の都市カサブランカへの撤退を指示して無線を切った。

 

 アラゴンの戦いの結果、ビクトリアからユーラシア連邦の戦力を引き抜くつもりだったザフトのアフリカ戦線は、むしろ埋められないほどの戦力差ができてしまっている。

 今のビクトリア基地の駐屯戦力はバルトフェルド隊にどうにかできるレベルをはるかに超えており、ビクトリア攻略はおろか攻勢に出られればむしろこちらの戦線が破壊されかねない戦況となっている。

 

 そんな中にあって、これまでアフリカ戦線を支えてきてくれた名将であるアンドリュー・バルトフェルドが捕虜となった。

 ジブラルタルの援軍も望めない現状、もはやアフリカ戦線の戦略目標であるビクトリア攻略は不可能となってしまっていた。

 

 ならば、敵がこのことに気づく前に1人でも多くの仲間を生き残らせるために、ジブラルタルの近くまで後退させる。

 隊長の不在によりバルトフェルド隊の指揮官代理となったダコスタは、ビクトリアの前線に展開するアフリカ戦線の主力部隊を後退させることを決断。

 1人でも多くの仲間を無事にプラントに返すことを優先し、アフリカ各地に残るバルトフェルド隊の撤退を指示した。

 

 ビクトリアからの前線の大幅な後退は、アフリカ共同体を実質的に見捨てることも意味する。

 バルトフェルド隊の撤退を知れば、南アフリカ統一機構はユーラシア連邦とともにそれまでの守勢から一転、本格的なアフリカ共同体への侵攻を開始する可能性が高い。

 アフリカ共同体には単独で地球連合に対抗できる戦力はない。

 本国は親プラント国とはいえナチュラルの国家がどうなろうと知ったことではないというだろうが、大洋州連合や汎ムスリム会議などの親プラント国の心象を悪化させ、下手をすればカーペンタリアを危険にさらすことにもつながりかねない。

 

「せめて、本国がジブラルタルに増援を派遣してくれれば……」

 

 本国がジブラルタルに増援を派遣し戦力を増強してくれれば、或いはまだ戦える道は残るかもしれないが、しかし今のプラント本国はカオシュン攻略の失敗に続きアラゴンの敗戦の影響からクライン政権が揺らいでいるという。

 そんな情勢では宇宙からのザフトの増援が来る可能性は低いだろう。

 それがカオシュンに続くビクトリアの攻略失敗につながり、ひいてはザフトの戦略方針であるオペレーション・ウロボロスの瓦解につながる。

 そうなれば、オペレーション・ウロボロスを裁可・発令したシーゲル・クラインはその失敗の責任を負う形となり、政権は今や不動の人気を獲得しつつある強硬派の国防委員長パトリック・ザラのものになる。

 ザフトのトップであるパトリック・ザラはそれを見越してジブラルタルに援軍を派遣していないとすれば──

 

「……いや、まさかそんなはずは」

 

 恐ろしい想像が頭をよぎり、マーチン・ダコスタはすぐにそれを振り払うように否定した。

 もしそれば本当ならば、政権のために自分たちの部隊は見捨てられ、バルトフェルドが捕虜になってしまったこととなる。

 

「……止めよう、こんな妄想は」

 

 そう、これは妄想だ。

 そう自分に言い聞かせるダコスタ。

 

「副長、ジブラルタル基地司令官より通信が」

 

「……代わりました。バルトフェルド隊隊長代理、副官のマーチン・ダコスタです。……はい、了解しました。すぐにアフリカ戦線の各部隊に向け指示を出します。……はい、失礼します」

 

 そのダコスタの元に、ジブラルタル基地からの通信がもたらされる。

 応答したダコスタに、バルトフェルドが捕虜となった情報を聞いていたジブラルタル基地の司令官はアフリカ戦線の放棄を命令。

 バルトフェルドの救出に動いて戦力を損耗させる事がないようにと念押しした上で、バルトフェルド隊の総員をジブラルタルに撤退させるようダコスタに指示を出した。

 

「…………」

 

 ビクトリア攻略が不可能となった以上、アフリカ戦線の維持に固執する理由はない。

 宇宙からの援軍を望めない今、戦略的に考えればジブラルタル守備のために戦力を集中させることが正しいことはわかる。バルトフェルドがいたとしても、おそらくジブラルタルへの撤退を指示しただろうことも想像できる。

 それでも、尊敬する隊長を敵の手に落ちたまま見捨てて撤退しろという指示を受けたダコスタの心境は複雑だった。

 

 だが、個人的な感情を優先して動くなど軍人失格である。

 生きているかどうかもわからないアンドリュー・バルトフェルドの奪還と、ジブラルタルの防衛。どちらを優先させるべきか、それは火を見るよりも明らかなこと。

 嗚咽と涙を心の奥底に押し込め、ダコスタは勤めを果たすために無線を取り、再度アフリカ各地のバルトフェルド隊に向けてカサブランカを集合地点として合流後ジブラルタルへの撤退の方針を通達。

 その際バルトフェルド奪還などに勝手に動くことがないように、戦闘は極力避ける事を冷たい声で厳命した。

 

 バルトフェルドを取り戻したいと考える隊員達からの反発はあったが、すべて黙らせた。

 本国の援軍が望めないジブラルタルを守り抜くために、今のザフトには余計な戦いで消耗していい戦力は残っていない。

 

 隊長を取り返したいという思いはダコスタにもあったが、それでもザフトの戦士として正しい事をなさなければならない。

 憎まれ役となり、副官としてバルトフェルド隊の敗北の責任を負うこととなっても、プラントの勝利のために果たすべき事を果たすのが副官の務めだから。

 

「…………」

 

 主人のいなくなったレセップスの艦長室で、無線を切り一人きりとなったダコスタは短い時間、静かに涙を流した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 プラントの地球における二大拠点の一角である、ジブラルタル基地。

 半月ほど前に行なわれ、ザフトの大敗に終わったアラゴンの戦いの結果、当時のジブラルタル基地司令官はその責任を取り更迭となり、代わってその司令官の地位にはザフトの白服の1人であるヘルマン・スコルツェニーが就任していた。

 

 カオシュン攻略失敗の影響もあり、プラント本国は政権が不安定な情勢となっている。

 強硬派であるパトリック・ザラを支持する所謂ザラ派に属するザフトの1人であるスコルツェニーは、かつてそのカオシュン攻略失敗の遠因にもなった蒙古戦線においてウランバートルの守備隊長を務めていたことがある。

 ウランバートルを失陥したものの、地球連合に対する罠としてウランバートルに用意していたサイクロプスを用いて都市ごと敵の師団を消しとばし、ユーラシア連邦に大損害を与えた上で攻略されたウランバートルの戦略的価値を喪失させ、さらにはザフト相手に戦力差を覆す奇跡的な勝利を幾度もあげ未だ一度の敗北もしていない名将“凍土の魔女”に対しても一矢報いた人物。

 民間人の大量虐殺を行ったものの、その件に関してはパトリック・ザラが不問としウランバートルでの活躍の功績から逆に勲章を授かるに至った。

 

 そんな経歴を持つスコルツェニーは、ジブラルタル基地司令官に就任してからまずビクトリア攻略を停止させる。

 アラゴンの敗戦による戦力不足を理由にバルトフェルド隊への支援を行わず、ジブラルタル失陥を防ぐためと基地に戦力を籠城させて守りに徹した。

 余裕が出てきたユーラシア連邦により欧州から大規模な援軍がビクリトアに派遣され、明けの砂漠の活動により後方を荒らされたこともあり、バルトフェルド隊によるビクトリア攻略は止まることとなる。

 

 これによりビクトリア攻略も事実上の失敗となったことで、クライン政権に対する最高評議会における反発がさらに強まることとなり、本国は穏健派であるシーゲル・クラインよりも対ナチュラル強硬派であるパトリック・ザラへの支持がさらに集まることとなった。

 

 カオシュン攻略の失敗などを全てシーゲルの責任にして、パトリックがプラントのトップに立つ。

 そしてジブラルタル赴任後に行っていた工作で情勢を大きく動かし、ビクトリア攻略の土台を整えてザラ政権として発動するオペレーション・ウロボロスの最初の成功例とする。

 この筋書きに従い、バルトフェルド隊を支援せずにビクトリア攻略を凍らせていた。

 

 クライン派が崩れパトリックに政権が移るのを待ってから、その後に送られる予定の援軍と共にビクトリア攻略に向けて戦略を立てていくという方針で進めていたスコルツェニー。

 

 しかし、そんな彼の元にもたらされたのは明けの砂漠討伐に動いているはずのレセップスからの援軍要請と、砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドが捕虜になったという寝耳に水の報告だった。

 

「……は?」

 

「ですから、レセップスが援軍要請を出しておりカサブランカに向けて撤退中というのと、アンドリュー・バルトフェルドらは敵の捕虜となりましたと」

 

「待て待て待て! 何がどうなったらそんなことになるんだよ、この数日に一体何があったんだよ! まずはそこから説明してくれよ! こちとら経緯が全くわからねえんだけど!?」

 

「……チッ」

 

「おうコラ副官、今舌打ちしたよな? 舌打ちしたいのはこっちだバカ! 君は上官の胃に穴を開けたいのかね!?」

 

 ジブラルタル基地司令官としての任務の他にも色々とやることがあり多忙だったスコルツェニーは、1週間ほど前のアフリカ共同体からの要請に応えて明けの砂漠討伐のためにレセップスが動いたというところから、バルトフェルド隊の動向とアフリカ戦線の情勢についてはほとんど聞いていない。

 特にこの3日間で大きくアフリカの情勢が動くことになった情報については何も聞かされておらず、そんな中でいきなり副官の持ってきたレセップスからの救援要請とバルトフェルドが捕虜になったという報告には混乱するしかなかった。

 

「待ってくれ、マジで待ってほしい。全然話に追いつかないんだけど。まずなんでバルトフェルドが捕まったについてだが、明けの砂漠とかいうゲリラ相手にポカやらかしたとか? あの砂漠の虎が?」

 

「何を言っているんですか。砂漠の虎を捕らえたのは凍土の魔女です」

 

「マジかよ、あの魔女強いなぁ──って、何を言っているんですかはこっちのセリフだ! 意味わからないよ! 何で今は宇宙に上がっているはずの魔女がアフリカにいるんだよ、いつ来たんだよ!? そして何でビクトリアから離れてリビアで活動していたはずの砂漠の虎を取っ捕まえることができたんだよ!?」

 

「レセップスの救援要請についてですが──」

 

「話を進めるな! 凍土の魔女がアフリカにきた件と砂漠の虎を捕まえるに至った経緯を話せよ! まずはそっからだろうが!」

 

「うるさい」

 

「誰のせいだと!?」

 

 全くついていけずに喚き散らすスコルツェニーに、深々とため息を吐いた副官が、この数日の経緯に関して説明を始める。

 

 凍土の魔女がアフリカに降り立った発端である、クルーゼ隊とゲラート隊、そしてユーラシア連邦と大西洋連邦がぶつかり合った月軌道会戦。

 その結果敗北し、地球に向けて敗走したクルーゼ隊を乗せたヴァレット。そしてそれを追撃するかたちで、大西洋連邦の新造艦であるアークエンジェルと、第9艦隊のベニグセンが地球に降下してきたこと。

 降下先が北アフリカのプラント勢力圏リビアであり、生き残ったクルーゼ隊の救援要請にたまたま近くにいたレセップスが動きベニグセンを迎撃したこと。

 この最初の戦いはベニグセンを撃退したレセップスの勝利で終わり、クルーゼ隊とG兵器の回収に成功したこと。

 しかしG兵器とクルーゼ隊をジブラルタルに向けて護送する道中にて再びアークエンジェルを加えた凍土の魔女に襲撃を受け、レセップスは離脱に成功したものの、デュエルとバルトフェルド隊のバクゥ2機がやられ、そしてバクゥの1機に搭乗していたアンドリュー・バルトフェルドを始めザフト3名が捕虜になったこと。

 

 ヘリオポリスにて新兵器が開発されていたこと、その強奪にクルーゼ隊が動いており5機中3機のG兵器を奪うことに成功していたこと、アルテミスを攻略しそして攻略された事などについてはすでに聞いていたスコルツェニーだが、大西洋連邦である第8艦隊とユーラシア連邦である第9艦隊が共同戦線を展開していたことについては全く知らなかったので、想像をはるかに超えてきたこの数日にて起きた新たな出来事の数々は理解するのに時間が必要だった。

 

「ま、マジかぁ……ということは、あの凍土の魔女がアフリカに来たということか?」

 

「そうなります」

 

「……それで、来て早々に砂漠の虎をとっ捕まえて、クルーゼが華麗に奪ったG兵器とかいうMSも1機奪還したと?」

 

「そうなります」

 

「……奪還されたということは、そこに乗っていたパイロットは?」

 

「イザーク・ジュールは捕虜となりました」

 

「よりにもよってジュール家の御子息ですか……そこはザラ家嫡男殿の代わりにきていた補欠要員であって欲しかった……!」

 

 もはや胃に穴があきそうなスコルツェニーだが、副官は御構い無しに話を続ける。

 

「話を戻します」

 

「戻すの? 私の胃の心配はしないの?」

 

「離脱に成功したレセップスですが、戦闘開始前に救援要請を出しています。援軍を送りますか?」

 

「要請出してきた時に言って来てほしかったよ。今更出しても戦闘終わっているんだから意味ねえだろ!」

 

「では出しませんか?」

 

「出しても意味ないでしょ。とりあえず、レセップスにはジブラルタルまで来るように指示してくれ。それから受け入れ準備」

 

「了解しました」

 

 バルトフェルドが捕虜となった件とともに持ってきたもう1つの要件、レセップスの援軍要請に関して。

 基本的にバルトフェルド隊からの援軍要請は時期が来るまで断り続けるようにというスコルツェニーの指示を守った副官によりだいぶ遅れて届けられたその要請はすでに意味がなく、スコルツェニーは援軍は派遣しないこととする。

 

「……ビクトリア攻略、一旦中止にしたほうがいいな」

 

 その後顎に手を当てて考えていたスコルツェニーは、今のアフリカ戦線の状況を改めて見直し、ビクトリア攻略に関しては一旦諦めて、隊長を失い遠い前線に取り残されているバルトフェルド隊の主力を引き上げることを決めた。

 

「レセップスに通信を繋げられるか?」

 

「何をするつもりですか?」

 

「いちいち変な疑いかけるな。バルトフェルド隊を引き上げてアフリカ戦線を放棄する。バルトフェルド捕縛の情報は南アフリカもすぐ知ることになるだろうし、前線に取り残すくらいなら戦力が残っているうちにジブラルタルに引き上げてしまったほうがいい」

 

「アフリカ共同体は? 彼ら単体ではユーラシア連邦の援軍を加えた南アフリカ統一機構には対抗しきれません」

 

「明けの砂漠にすら手こずるようなザコは味方にいても足を引っ張るだけだから見捨てる。あいつら全く使えないからな」

 

「了解しました。レセップスにつなげます」

 

 レセップスとつながった通信にて、スコルツェニーはバルトフェルド隊の隊長代理となったダコスタに残るバルトフェルド隊を全てジブラルタルに撤退させることを指示。

 無駄な戦闘は避け、戦力を極力温存した状態でということも付け加える。

 

「それから、国防委員長にもアフリカ戦線の放棄を伝えるのと、攻略目標の変更について具申したい。この際、バルトフェルドが捕まった件とアフリカ戦線放棄の責任もクライン政権に押し付けて仕舞えばいいでしょ。あと、南アメリカの反体制派の人を──」

 

 バルトフェルドが捕まったことにより方針の変更を余儀なくされたスコルツェニーは、このことをパトリック・ザラに伝え予定していたザラ政権のオペレーション・ウロボロスに向けた戦略に関しての意見具申をするべくプラント本国とのやりとりに向けて、そしてジブラルタル基地司令官としての任務の他に受けている務めを果たすために動く。

 

 

 

 ──それから10日後。

 三月上旬に、カサブランカにて集結したレセップスを旗艦とするバルトフェルド隊の残存戦力がジブラルタルに海路で入港することとなる。

 

 予想通りビクトリアの前線からザフトが撤退するなり南アフリカ統一機構はアフリカの統一に向けて動き出し、アフリカ共同体は各地で敗戦を重ね大きく領土を北に押し込まれていた。

 アフリカ戦線の放棄によりビクトリア攻略が不可能となったことで、オペレーション・ウロボロスの目標である地球連合勢力圏の宇宙港全ての制圧は、カオシュンに続きビクトリアも失敗という結果となった。

 

 そして、戦況の不利が続くザフトに対し、追い討ちのように大西洋連邦がウェールズより大規模な艦隊をジブラルタル攻略に向けて出港させたという情報がもたらされた。

 

 この情報によりスコルツェニーの胃により強烈なストレスが与えられたことは言うまでもなかった。

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