その首置いてけザフト共   作:みども

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明けの砂漠 2

 

 

 アークエンジェルの被弾によりレセップスを取り逃がした合同部隊。

 しかし目的であるG兵器の奪還は、デュエルを制圧して1機を取り戻すことに成功した。

 その上、アフリカ戦線にてユーラシア連邦を幾度も破り続けてきた砂漠の虎の異名を持つザフトの名将、アンドリュー・バルトフェルドを捕虜とすることに成功した。

 これによりユーラシア連邦もアフリカ戦線にて散々にかぶってきた汚名を濯ぐことが出来たため、第9艦隊は予期せぬ形ながらも本国に1つ貸しを作ることができた。

 これは彼らのトップである第9艦隊の提督、カリオン・ウェイブにとって追い風となり、また本国で肩身の狭い思いをしている特区の家族達の待遇改善に向けた働きにも助けになる大きな戦果だった。

 

 また、アークエンジェルが所属する第8艦隊に取ってもこの戦果は大きなものがあった。

 なにしろ、バルトフェルドの操縦するバクゥを相手に一騎打ちで勝利したのはブリッツである。

 これは第8艦隊提督デュエイン・ハルバートンが推し進め完成にこぎつけたG兵器の優秀さを物語る上で非常に大きな勝利であり、ハルバートンに取っても大きな追い風となる戦果だったからである。

 これにより地球連合はモントゴメリが月本部に持ち帰ってきたAIサポートによるナチュラルでも操縦できるMSのデータをもとに、ハルバートンの推し進めるG兵器計画の有用性を認め、地球連合製MSの生産に向けて大きく舵を切った。

 

 そしてG兵器の有用性が認められたということは、同時にザフトの手に渡った今までのMSを大きく凌駕する性能を持つG兵器が大きな脅威であることも地球連合上層部に認識させることとなる。

 

 カサブランカに入り、ビクトリアから撤退したバルトフェルド隊の主力部隊と合流するレセップスに残る2機のG兵器の奪還にむけて地球連合上層部も動かすことにもつながり、大西洋連邦はレセップスが撤退すると目される地球におけるザフトの二大拠点の1つジブラルタル攻略のために大規模な艦隊の派遣を決定した。

 

 そして、バルトフェルドの捕縛を受けたザフトはアフリカ戦線を放棄する。

 ビクトリアに展開していたバルトフェルド隊の主力をはじめとするアフリカ各地のザフトはカサブランカに向けて撤退を始めた。

 これは同時に、ザフトがビクトリア攻略を諦めた意思表示であり、カオシュンに続きビクトリアにおいても地球連合が宇宙港をかけた戦いに勝利したことを示すものであり、ザフトの推し進める地球と宇宙の地球連合戦力の分断を目的とするオペレーション・ウロボロスの破綻につながる大きな戦果だった。

 

 これを受け、南アフリカ統一機構とビクトリアに展開するユーラシア連邦はそれまでの守勢から一気に攻勢に方針を転換。

 ビクトリアから打って出て、ザフトという後ろ盾を失ったアフリカ共同体の地上部隊を次々に撃破しその勢力を北に押し込み、これまでバルトフェルド隊に受けた敗北を巻き返すように怒涛の進軍を進めている。

 

 ザフト勢力圏であるサハラ砂漠の中に取り残されてしまった合同部隊だが、バルトフェルドを捕えることに成功した今回の勝利により戦況は大きく動くこととなった。

 アークエンジェルの修理を終えた合同部隊は、ビクトリアから降りて来た第8艦隊の援軍であるカサンドロスとセレコウスの2隻からなる艦隊と合流し、これらの情報を知ることとなる。

 カサンドロスの補給も受けて再び空に上がることができたアークエンジェルをはじめとする合同部隊は、ジブラルタル攻略に合わせて残るバスターとイージスの奪還を果たすべくその準備に向け、ザフトが撤退した後北上してきた地球連合によって制圧されたバルトフェルド隊の拠点であった砂漠の街バナディーヤに入った。

 

 バナディーヤに入った合同部隊はそこで情報と補給を得て、ジブラルタル攻略とG兵器奪還に向けた作戦を練るべく、ビクトリア基地経由で月本部にいる第8艦隊及び第9艦隊とも通信をつなげ作戦会議を開いていた。

 

「──というわけで、アフリカ戦線のザフトはカサブランカにて集結しており、海路にてジブラルタルに撤退していくことが推測されます」

 

 ナタルがレセップスの動向に関する報告を終える。

 それを受け、モニター越しに会議に参加しているハルバートンの副官で第8艦隊所属のホフマン大佐から、大西洋連邦がジブラルタル攻略に向けて動いていることが伝えられる。

 

『ジブラルタル攻略に向け、既に大西洋方面海軍の第5、第6艦隊がウェールズに集結しており、3月4日に出港を予定しています。ウェイブ少将、ジブラルタル攻略に際しユーラシア連邦はどう動かれますか?』

 

『陸軍戦力は欧州の第3方面軍がイベリア半島に展開しており、海軍戦力は地中海艦隊がシチリアとトゥーロンからそれぞれ3月9日に出港予定とのことです』

 

『……承知しました』

 

 ユーラシア連邦の動きも確認したホフマンが、一瞬薄っすらと暗い笑みを浮かべてから何事もなかったかのように真顔に戻る。

 大西洋連邦側の海軍の動きが早いことが面白いのか。

 どうにも彼の頭の中はジブラルタルをユーラシアより先に制圧できそうだという思惑が浮かんでいるらしい。

 ジブラルタルが数日で落とせるような要塞ではないことをホフマンは正しく認識出来ていない様子である。

 

 ホフマンの表情の変化を見逃さなかったウェイブは、ハルバートンの第8艦隊でもこういう輩はいるのかと内心で呆れながら、それを表情に出すことはせず話を続ける。

 

『それでは、ベニグセンは3月7日までにアフリカ方面の地上軍と協力してカサブランカを攻略。アークエンジェル、カサンドロス、セレコウスもそれに参加していただき、その後ジブラルタル攻略軍に合流してG兵器奪還に向けて動いてもらうという方針としましょう。ハルバートン提督、よろしいですか?』

 

『第8艦隊としても異論はありません。フッカー大佐、カサンドロス及びセレコウスの指揮権を預ける。カサブランカ攻略とバスター及びイージスの奪還を必ず成し遂げてくれ』

 

「了解!」

 

 ハルバートンからの命令を受け、敬礼をもって応えるフッカー。

 隣でナタルらアークエンジェルの士官と、援軍として派遣されたカサンドロスおよびセレコウスの士官たちも提督に向け期待に応えてみせるとフッカーとともに敬礼をする。

 

『明日にはツィーテンがビクトリアから地球に降りるから、バナディーヤで合流した後、アークエンジェルとともにジブラルタル攻略に参加、これを落としG兵器を奪還すること。頼むよ、ホーエンハイム大佐』

 

「了解!」

 

 カリオンもまた、カサンドロスら第8艦隊の援軍に少し遅れる形で第9艦隊からも月本部にて試作された連合製MS1機を乗せたドレイク級護衛艦“ツィーテン”を出発させている。

 明日ビクトリアから地球に降りる予定のツィーテンは、バナディーヤにてベニグセンら合同部隊と合流する予定である。

 このツィーテンと合流した後、ジブラルタル攻略に向けて動くようにアルトリアに命令した。

 

 カリオンからの命令に、アルトリアたちも敬礼を持って応える。

 こうして合同部隊の方針はツィーテン降下後バナディーヤにて合流し、地球連合のアフリカ戦線地上軍と足並みをそろえて3月7日を期日にカサブランカを攻略後、ジブラルタル攻略に向けて動くことで決定した。

 

『それで諸君、健闘を祈る』

 

 そう締めくくり、ハルバートンたちとの通信が終わる。

 アークエンジェルのCICに集まっていたフッカーとアルトリアをはじめとする合同部隊の士官たちも解散となり、各々の艦の指揮に戻るべくCICを後にする。

 

「ホーエンハイム大佐、少しよろしいですか?」

 

 それに混じってアークエンジェルからベニグセンに戻ろうとしていたアルトリアをナタルが呼び止めた。

 

 足を止め振り向いたアルトリアに、ナタルが呼び止めた用件を伝える。

 

「先日捕虜としたアンドリュー・バルトフェルドですが、尋問に応じる代わりにホーエンハイム大佐を出せと要求しており……ご協力いただけないでしょうか?」

 

 その用件とは、バルトフェルドの尋問に関することである。

 ザフト側の情報を引き出すために、現在アークエンジェルにて他のザフトの捕虜たちとともに収容しているアフリカ戦線の隊長であるバルトフェルドの尋問を行っていたナタルだったが、対話には応じてくれるものの聞き出したい情報となるとよく回る口でのらりくらりとナタルを交わしており、なかなか情報を引き出せずにいた。

 

 しまいにはナタルを口説き出すなどやりたい放題でむしろ尋問を楽しんでいるバルトフェルドだが、前回の尋問の際にナタルにそこまで聞きたいことがあるなら凍土の魔女と会わせて欲しいと要求してきたのである。

 

「砂漠の虎が……なるほど、了解した。案内してもらえるか?」

 

「はい、こちらです」

 

 ナタルからバルトフェルドが尋問相手に自分を指名していることを聞いたアルトリアは、ベニグセンのことをアルトー・ピサロに任せると、ベニグセンに戻る第9艦隊の仲間たちと別れナタルの案内のもとバルトフェルドのいる居房区画へと向かった。

 

 砂漠の虎と凍土の魔女。

 与する勢力を違えた2人のコーディネイターは、今度は面と向かって剣ではなく言葉を交わすこととなる──筈だった。

 

「……砂漠の虎は?」

 

「ど、どこに行った!?」

 

 アークエンジェルの居房区画に到着した時、彼を捕らえている筈の独房はまさかの空になっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、バナディーヤにてツィーテンの到着を待つことになった合同部隊。

 先日までバルトフェルド隊が拠点を構えていた街に降りたユウ、ミハエル、ミランダの3人は、バナディーヤに到着する前にコンタクトに成功した北アフリカにて活動する反プラントの武装勢力“明けの砂漠”のリーダーと待ち合わせをしており、その指定された場所に向かっていた。

 

 その中でバナディーヤの街を見ている3人は、シベリア・蒙古戦線ではイルクーツクなどの例からザフトに占領された街はナチュラルを軍民・老若男女問わず殺しまくるという惨劇ばかり見てきたこともあり、悲惨な姿になっているという想像をしていた。

 しかしそんな彼らの予想に反して、バナディーヤの街はザフト撤退により戦闘もなく制圧できたことと、それまで殺戮や掠奪とは無縁の融和的な統治をしてきたバルトフェルド隊により、とても最近までザフトに占領されていたようには見えない活気ある平和な姿があった。

 

「砂漠の虎は獰猛で民間人にも容赦しないとか聞いてたけど……やっぱり、本国の発表する情報はあてにならないな。ザフトが占領していた街で家畜のくらいしか死体が見当たらない街なんて初めて見たわ」

 

「……此処はアフリカ共同体の領土だった街だ。親プラント勢力だから融和的な占領をしていたという可能性も否定できない」

 

「俺は砂漠の虎の人柄によるものだと思うけど。……まあ“明けの砂漠”とかいうゲリラが暴れるくらいだし、あながち否定できないかもしれないな」

 

 ミハエルは街の人々の姿に、バルトフェルドは今までの自分たちが知るザフトとは違うかもしれないという印象を抱く。

 一方でザフトに対する憎悪が人一倍強く地球降下早々にジンを撃ち抜かれたことからバルトフェルドに対して拭えない悪感情のあるユウの方は、バナディーヤの光景を見てもあくまで親プラント国に対する姿勢であり、地球連合に加盟するナチュラル相手ならハインリヒ・ゲルガーのような蛮行に走る可能性も否定できないと疑念を捨てずに見ていた。

 

「ユーさんユーさん、こっち来てください! なんかものすごく美味しそうなものがありますよ! ドネルケバブですって!」

 

「……変わらないね、ミランダのやつは。まあ、それに助けられることもあるけど」

「……毒気が抜かれるとはこのことだな。こちらの悩みも吹き飛ばしてくれる」

 

 そんな2人の心情など気にもせず、ミランダはバナディーヤの街を楽しんでいる。

 ドネルケバブの屋台の香ばしい匂いにつられて離れ、笑顔で手を振り2人を大声で呼んでいた。

 

「呼んでいるぞ。行ってこい兄貴分」

「ご指名だぜ。行ってこいよお父さん」

 

 そんな子供の様にはしゃぐ妹分の姿に2人は苦笑いを浮かべ、お互いの肩に手を置いた。

 お互い考えていることは一緒の様子である。

 

「ここはお前が行けよユウ。あいつのお世話はお前の仕事だろ」

 

「あいつの世話は貴様の仕事だろ。それと誰がお父さんだ」

 

「だって、お前外見はガキだけど中身は完全なおっさんだし。お兄さんよりお父さんって呼ぶ方がしっくりくるだろ?」

 

「黙れデカブツ」

 

「煩いチビ」

 

「「…………」」

 

 直後、同時にお互いの顔面に拳を飛ばす。

 それを見たミランダが、慌ててこちらに走ってきた。

 

「ちょっ、何やってるんですか! 喧嘩は止めてください、子供ですか!?」

 

「「お前にだけは言われたくない!」」

 

「息ピッタリ!?」

 

 どっちもどっちである。

 この場にアルトリアがいたら即座にミハエルとミランダに拳骨が振り下ろされ、ユウには全治1週間の鉄拳制裁が下されるところだが、残念ながらこの場に凍土の魔女と恐れられる彼らの上官はいない。

 

「ほら、ドネルケバブでも食べて落ち着きましょうよ!」

 

「そうそう、腹が満たされれば怒りも鎮まるというものだよ。両人とも落ち着きなさい」

 

「「「!?」」」

 

 2人の殴り合いはヒートアップすると思われたが、そこに仲裁する人物が現れた。

 ひょっこりとミランダの後ろから登場したカンカン帽を被った長身の人物は、陽気な笑みとともに2人の間に入るとコーディネイターである2人の拳をつかんで止める。

 突然現れユウとミハエルの拳を止めて見せたその謎の人物に、3人は驚きの表情を浮かべる。

 

 見た目は観光客にも見えるが、万力のように掴まれたまま動けない腕に、只者ではないと感じるユウとミハエル。

 騒ぎを聞きつけて注目を集めていることもあり、ひとまずは拳を収めた。

 

「うん、喧嘩は良いが往来で殴り合いをするのはよくない。君たち、ここで会ったのも何かの縁だ。バナディーヤ自慢のドネルケバブをご馳走しようじゃないか!」

 

 バナディーヤの街で出会った謎のカンカン帽に誘導されるがままに、3人はドネルケバブの屋台に向かうのだった。




明けの砂漠、いつ登場するのか……
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