その首置いてけザフト共 作:みども
謎のカンカン帽に誘導され、バナディーヤの名物だというドネルケバブの屋台を訪れたユウたち一行。
流されるがままに来たが、呑気に昼飯を嗜んでいる場合ではない。
「──いや待て。呑気にケバブを楽しむ場合か、すぐに約束の場所に向かうぞ」
「そ、そんな……! ユーさん、待ってください! せめて1つ食べさせてください!」
「いやまだ約束の時間まで余裕あるし良いでしょ」
「一度テーブルについたなら、食べるのがマナーだよ少年」
「3対1……仕方ないか」
正気に戻ったユウが任務に戻ろうとする。
しかしドネルケバブが食べたいミランダ、ミランダには甘いミハエル、ドネルケバブの屋台に連れ込んだ謎のカンカン帽に三方向から反論され、多数決に従い椅子に座り直した。
なんだかんだ言って、世話焼きな面のあるユウもミランダには弱いところがある。
こうして任務そっちのけでドネルケバブを食べることになった一行のテーブルに、出来立てのドネルケバブが2種類のソースとともに運ばれてきた。
「うん、いつ見ても美味しそうだ。さて、ドネルケバブといえばヨーグルトソース1択! チリソースなんて物は邪道だよ」
運ばれてきたドネルケバブを見て、早速カンカン帽の男は赤いソースの入った容器をテーブルの端に退かし、白いソースの入った容器を手に取る。
名前と色合いから、赤い方のチリソースは辛そうで、白い方のヨーグルトソースは甘そうである。
カンカン帽の男はソースにこだわりがあるのか、もしくは甘党なのかもしれない。
「〜〜♪」
よほどヨーグルトソースのケバブが好きなのか、鼻歌まじりに笑顔でケバブにヨーグルトソースをかけている。
一方で邪道呼ばわりされたチリソースはテーブルの隅に追いやられていた。
「さあ、召し上がれ!」
わざわざ自分の分だけでなく、ユウたちの3人のケバブにもヨーグルトソースをかけて、遠慮はいらないとケバブを進める謎のカンカン帽の男。
ユウは「いや、それは普通客ではなく店員のセリフだろ」と内心でツッコミをしながらもヨーグルトソースのかかったケバブを手に取る。
カンカン帽の男を警戒しつつも一口かじり、目を見開いた。
「これは──」
「ん〜! お、美味しいです! なんですかこの食べ物!!」
横から飛んできた大声に妨害されたが、出来立てのケバブの味はそんなことなど気にならない温かく肉の旨みがしっかりと効いている、軍で支給される糧食とは比べ物にならない美味な食べ物だった。
ユウの隣ではミランダが美味しいという感想を言葉だけでなく、表情と身体の動きで強く主張しながら頬張っている。
「これは美味い!」
ミハエルの方も思わず頬が緩み、口元に白いソースをつけながらだらしない表情を浮かべた。
「うーん、いつ食べてもやはり良いねバナディーヤのドネルケバブは! このためだけに降りてきた甲斐があったというものだよ!」
カンカン帽の男はソースにこだわりがあるように、バナディーヤのドネルケバブに馴染みがあるらしい。
どこかの民間の飛行船に乗ってきたのか、このドネルケバブを食べるためだけにバナディーヤに来たような口ぶりで、慣れた手つきで嗜んでいる。
しかしながら本当に好きな食べ物だということが、その童心に返ったような笑顔が物語っていた。
「ユーさんユーさん! ユーさんの分もください! まだまだ食べ足りないです!」
「ならばもう1つ注文すれば──」
「スキありなのです!」
「お前な……行儀が悪いぞ。わかった、俺の分もやるからちゃんと自分の手で持って食べろ」
早々に自分の分を平らげてしまったミハエルが、隣のユウの食べてる途中のドネルケバブを要求し、さらにはスキありとかぶりついてしまう。
身体だけは大きくなった手のかかる妹分に呆れながらも、ユウはかぶりつかれた自分のドネルケバブを穏やかな笑みを浮かべながら手渡した。
「相変わらず妹分には甘いなユウ。見た目だけならお前が断トツで年下なのにさ」
そんな2人のやりとりをいつもの光景だなとミハエルが口元のソースを拭いながら見ている。
気分は仲の良い兄妹を引率し見守る父親である。
一方、ドネルケバブを楽しむ3人のやりとりを穏やかな表情で見ていたカンカン帽の男は、ふと外見と実年齢がそぐわないユウとミランダを見てミハエルに素朴な疑問を投げかけた。
「君たちは家族かな?」
「そんなわけないでしょ。見ての通り人種も違う3人組ですよ」
カンカン帽の男の質問に、ないないと手を振りながら答えるミハエル。
まあ、関係性は仲間であり家族みたいなものだが。3人には絆はあっても血の繋がりはない。
ミハエルの言う通り、ユウは見るからにアジア系の黄色人種であり、一方でミハエルとミランダはスラヴ系の白人である。
カンカン帽の男は彼らがコーディネイターであると直感で見抜いていたが、遺伝子操作で外見を自由に弄れるコーディネイターとはいえ流石にここまで違う兄妹が作られるとは考えにくい。
なるほど一理あるねと納得したカンカン帽の男は、顎に手を当てながらそういえばと先ほどのミハエルの発言について浮かんだ疑問を口にする。
「そういえばユウ君、と言ったかな。見た目だけなら1番年下と言ったが、実際君たちの中では一番の年少だよね? 彼」
「いや、あんな見た目でもあいつ26歳ですよ」
「何だってぇ!? 26歳!? その外見で!?」
いくらアジア系と言っても、それでもかなりの小柄。
二重のタレ目で顎が短く、顔のパーツが全体的に中央によっている見た目よりも幼く見えがちの、いわゆるタヌキ顔。
左目を隠す眼帯とその周囲に残る痛々しい火傷の跡がアンバランスながら、ヒゲもシミもシワもないツルツルの卵肌。
カンカン帽の男からすればどう見ても10代半ばの子供にしか見えないユウだが、ミハエルから告げられた実年齢に衝撃を受けた。
「ちなみに俺は28歳。そこの他人の食い物くすねる中身がガキなのは、ああ見えて23歳さ」
「……あそこまで来ると詐欺だね」
「なぜそこまで言われなければ……貴方とは初対面ですよね?」
「いや君、だってその外見で26歳とは信じられないよ……」
あんまりな言われように、年齢詐欺師呼ばわりは慣れているとはいえ思わずユウもカンカン帽の男にツッコんでしまう。
「嘘だろ!?」
すると突然、隣のテーブルからも声が。
4人が反応すると、そこにはユウたちのテーブルを指差して驚愕の表情を浮かべている金髪の少女ら、謎の3人組の姿があった。
騒ぎを聞いてこちらのテーブルに目が行ったらしい。
おそらく、先ほどのカンカン帽の男の発言を聞いて驚いているのだろう。
また詐欺師呼ばわりされるのかとユウがげんなりとする中、3人組の中で声を上げた金髪の少女が驚愕の声を上げた。
「ど、ドネルケバブにヨーグルトソースなんて……邪道だ! ドネルケバブにはチリソースだろ!」
((いや
ユウとミハエルは、金髪の少女が全然違うことに衝撃を受けていたことに対して、声には出さなかったものの内心で同時にツッコミをせずにはいられなかった。
「〜〜ッ!!」
2人がどうでも良いことにツッコミを内心でかましている中、ミランダはいきなり大声をあげたカンカン帽の男と隣のテーブルの金髪の少女に驚き、ユウから貰ったケバブを喉に詰まらせている。
「ほら、水」
「ぷは〜っ! し、死ぬかと思いました……」
あのシベリア特区で何を食べて育てばそこまで大きくなるのかという胸を揺らしながら叩き、それに気づいたユウから差し出された水を飲んでひとまず落ち着いた。
そしてこのカオスな状況に、さらなる混沌をもたらすのがケバブのソースにこだわりを持つカンカン帽の男である。
ドネルケバブにはチリソースだと主張し、ヨーグルトソースを邪道と言い放った相容れない主張を持つ金髪の少女に、カンカン帽の男は椅子から立ち上がると腕を組んで仁王立ちし堂々たる態度で反論した。
「何を言うかと思えば……君はこのドネルケバブを何も分かっていないようだな! ヨーグルトソースが邪道とは、聞き捨てならない! ドネルケバブには酸味と甘みのあるまろやかながらもさっぱりなヨーグルトソース1択! 薄っぺらい辛みがついたチリソースなどは邪道だ!」
「な、何だと……!?」
カンカン帽の男の主張に、衝撃を受ける金髪の少女。
彼女と同席している残りの2人は関わり合いになりたくないのか、他人のフリをしているようである。
しかし、金髪の少女はカンカン帽の男と同じく強いこだわりがあるらしい。
舞台役者よろしく大仰な手振りとともに、不思議とよく通る凛とした声でカンカン帽の男に正面から反論を返した。
「お前の方こそこのケバブを理解していないぞ! バナディーヤのドネルケバブにはチリソースこそが至高のお供だ! 甘ったるいヨーグルトソースでは肉の旨みを引き出せない、砂漠の暑さを吹き飛ばし肉の旨みを引き立てる辛味と酸味を効かせるチリソースことが正道だ!」
騒ぎを聞きつけて集まってくる野次馬たちのざわめきの中でも透き通るように耳に響いてくる声。
言ってる内容が非常にどうでも良い論争なのが残念だが、少女の声には不思議と人を惹きつけるものがあった。
……重ねて言うが、内容が非常にどうでも良いのが残念なのだが。
「何だよこの無意味な争いは……」
ミハエルは呆れながらも、ヨーグルトソースのケバブを味わう。
それを見た少女は口を開いて愕然とし、カンカン帽の男は追い風を得たと言わんばかりに自信に満ちた笑みを浮かべた。
「ハハハ! 彼の舌もヨーグルトソースこそドネルケバブの至高のお供だと同意している!」
「嘘だろ!? ヨーグルトソースだけのケバブなんて邪道なのに……!」
しかし、反対側のテーブルでは少女と他人のフリをしてケバブを楽しんでいる1人がチリソースだけがかかったケバブを口にした。
それを見て、今度はカンカン帽の男が愕然とした表情となる。
反対に衝撃を受けたカンカン帽の男の視線を追って先ほどまで自分も座っていたテーブルを見た少女な方は驚愕の表情を一変、ビシッという効果音がつきそうなキレのある動きで人差し指をカンカン帽の男に突きつけて勝利を確信する笑顔を浮かべた。
「そんなバカな……! チリソースをかけたケバブを食べるというのか……!?」
「ハハハ! 私の仲間はチリソースこそが至高のお供だということをよく知っているぞ! お前の友人は味音痴らしいな!」
「何で俺に飛び火するの……?」
「仲間にしないで欲しかった今だけは……!」
参加する気がないのに飛び火したミハエルと、全力で他人のフリをしていたのに仲間と大声で言われ巻き込まれたことにげんなりとする向こうのテーブルの哀れな被害者。
2人を巻き込んだカンカン帽の男と金髪の少女のドネルケバブのソース論争は、他の面々にも飛び火した。
「君たちも味わい、そして知っただろう! バナディーヤのドネルケバブと、ヨーグルトソースのコントラストを!」
「何言ってんだこのおっさん……」
「お前たちも思うだろう!? ヨーグルトソースなんて邪道、チリソースこそがこのバナディーヤのドネルケバブに最もふさわしい相棒だと!」
「勘弁してください姫様……」
ドネルケバブの屋台を舞台に、繰り広げられるドネルケバブのソースはどっちだ論争。
白熱している2人以外は至極どっちでもいいと感じている人がほとんどの中で、場の中心にいる騒がしい2人はならばと言わんばかりにそれぞれチリソースとヨーグルトソースをかけたドネルケバブを突きつけて叫んだ。
「「そこまで言うなら、試してみるがいい!」」
そして同時に突き返した。
「「誰が邪道ソースのかかったケバブなど食うものか!」」
……何なんだよこいつら。
「すみません、ドネルケバブを1つ……いえ、4つお願いします」
頭を抱えたくなったユウは、他人のフリを決め込んで店員に自分とお代わりを欲しがるミランダの分の新しいケバブを注文した。
「「む!」」
しかし、その注文を耳聡く聞きつける人物が2名。
屋台の真ん中でソース論争を繰り広げるカンカン帽の男と金髪の少女である。
「少年! ──いや失礼、ユウ君! 君はヨーグルトソースの美味しさを理解してくれる同志だよね!?」
「待てそこの黒髪! 食わずに否定するなどソースとケバブに対する冒涜だ! チリソースをかけてみろ、ひとくち食べてみればチリソースこそが至高のお供だと知るはずだ!」
「余計なことをしないでもらえるか少女よ! ……少女だよね?」
「失礼なカンカン帽だな! 私は16歳だ!」
「よし、こっちはしっかり少女だ。間違った大人になる前に、チリソースから目を覚まさせなければ!」
「子供扱いするな!」
「なぜこっちに来る……!」
それぞれ白と赤のソースをかけたケバブを手にした2人に詰め寄られるユウ。
カンカン帽の男はユウの前例があったので一瞬金髪の少女を本当に見た目通りの年齢かと疑ったが、彼女の返答にしっかり年相応だということを知ることができて安心する。
一方の金髪の少女は16歳と言い張りながらも、背伸びをしたい年頃なのか子供扱いするカンカン帽の少女呼ばわりに噛み付いてきた。
「チリソースこそが正道だ!」
「いいや、ヨーグルトソースこそが至高だ!」
ソースとケバブを手に2人に詰め寄られるユウ。
しばらく争った2人だが、それに潰されソースの中身がぶちまけられる。
「──ひゃん!?」
そして不運にも飛び出たソースは隣にいたミランダにかかり、彼女の身体は赤と白の液体によって汚れてしまった。
「うう……何するんですかぁ……」
「……ご、ごめん」
「……す、すまない」
事故によってソースまみれになってしまったミランダに、さすがに申し訳ないことをしてしまったと途端に白熱していた2人は大人しくなる。
こうしてケバブのソース戦争は、被害者1名を出して両者が引き下がる形で幕を降ろすこととなった。
執筆中は正気じゃなかったかもしれないです。
しかしどうしても書きたかったんです……!