その首置いてけザフト共 作:みども
バナディーヤ名物のドネルケバブを楽しんでいる騒がしい一団と、その喧騒に引き寄せられた観衆から少し離れた場所にて。
バナディーヤの占領を行う地球連合軍の兵士を相手に商魂たくましい砂漠の旅商人たちがトリポリビアで集めた食べ物などを売り出している市場にて、補給物資となる野菜を買い込んでいる連合軍兵士たちに混じり、ドネルケバブの屋台の方を遠巻きに見ている男たちがいた。
「……情報通りだ。コーディネイターの分際で地球連合にいる敵性人種共だぞ」
「あのカンカン帽の男……まさか、砂漠の虎か?」
「だとしたら、奴らはやはりザフトとつながっている」
「何が砂漠の虎を捕らえアフリカ戦線を勝利に導いた英雄だ。やはり奴らは魔女の手先、排除するべき人類の癌だ」
「この際、砂漠の虎も目標とともに殲滅しよう」
「コーディネイターはいずれ必ず絶滅させるのだ。例外はない」
「良し。計画通り、奴らを殲滅する」
「「「青き清浄なる世界のために!」」」
男たちは不穏な会話を交わすと、自分たちの所属するコーディネイター絶滅を謳う地球連合の過激派組織“ブルーコスモス”の掲げるスローガンを叫び、屋台を囲む民間人がいるのも構わずに手に持つ銃器をケバブを楽しんでいるコーディネイターたちに向けて乱射した。
「「「青き清浄なる世界のために!」」」
その声が聞こえた直後、地球連合の占領軍を相手に商魂たくましい商人たちが開いている市場の方から、多数の銃弾が飛んできた。
「──ッ!」
突如として、平和な街は恐怖のどん底に突き落とされる。
無数の鉛玉が屋台に向けて放たれ、ユウたちの一団と集まっていた群衆に無差別に襲いかかってきた。
鮮血が飛び散り、多数のけが人が発生し群衆は途端にパニックに陥る。
ブルーコスモスに属する連合の兵士たちは、同じナチュラルのはずの群衆に被害が出るのも一切省みず銃を乱射してくる。
「危ねえ!」
「伏せろ!」
ユウたちと謎のカンカン帽の男はコーディネイターの反射神経を活かし即座に反応する。
反応が遅れ蜂の巣になりそうになっていた隣のテーブルの3人のうち、金髪の少女はミハエルがすぐに手を引いて自分の胸に抱えて守り、カンカン帽の男は残りの2人に飛びかかって頭を押さえるように地面に押し倒して銃撃からかばった。
一瞬のアイコンタクトでミハエルに金髪の少女を任せることを決めたユウとミランダも、すぐに対応する。
ミランダがテーブルをひっくり返して即席の盾とし、ユウはコーディネイターの身体能力を活かして跳躍し飛び出した。
「死ねコーディネイター!」
1番目立つ行動をとるユウに気を取られ、ブルーコスモスの連合兵士たちの銃口が飛び上がったユウに向けられる。
これにより一時的に群衆へ向けられる銃撃がなくなるとともに、ミランダたちが動ける隙ができた。
「そこだッ!」
その隙にミランダが飛び出し群衆の隙間をすり抜けるように転がりブルーコスモスの連合兵士たちとの距離を詰め、ミハエルが金髪の少女を守りながら拳銃を取り出し正確かつ素早い射撃でマシンガンを持つ手に銃撃を当てて武器を落とさせる。
「いっ──!?」
「テメエ──グアッ!?」
「頭上注意だ、悪く思え」
今度はミハエルの銃撃に気を取られ、単純なブルーコスモスの襲撃者たちはユウから一斉にミハエルの方に意識を取られる。
その隙にユウは1人の顔面を蹴りつけて着地の緩衝材代わりにすると、すかさず拳銃で襲撃犯たちの銃を撃ち落としていく。
「いっ──!?」
「ぐっ──!?」
「ぎっ──!?」
「チッ! この、クソミュータント風情がぁ!」
狙いを定めるまでもなく正確な射線を構えると同時にすでに作り上げてしまうのは、MSの操縦と同様である。むしろ操縦桿を介さず自分の手で構える銃の方が早い。
「貴様ら──」
「スキありなのです!」
「──グフッ!?」
ユウの着地地点から少し離れた場所にいた襲撃犯が、ユウにマシンガンを向ける。
しかしそこに飛び込んできたミランダが顎にアッパーカットをたたき込み、殴り飛ばした。
「クソ……! 調子にのるなコーディネイター風情が! こいつがどうなってもいいのか!?」
残る襲撃犯は1人。
その襲撃犯はとっさに近場にいた味方のはずの兵士の首根っこを掴むと、人質にとった。
「お、おい! 何してんだよ!?」
さすがにこれには状況についていけてておらず混乱するしかなかった他の連合の兵士たちも困惑する。
慌てて止めに入ろうとするが、狂った目をしたブルーコスモスの襲撃犯は止めようとしたその兵士に向かって銃を突きつけ──
「うるせえ、ぶっ殺されてえのか──ぶっ!?」
飛んできたカンカン帽が顔にぶつかり視界がふさがれた。
とっさにそれを取り除こうと、襲撃犯が銃を持った手でカンカン帽をつかみスキが生まれた。
「おのれ砂漠の虎──」
「今だ!」
「観念しろ、なのです!」
カンカン帽を投げた男の声に、ミランダがそのスキを見逃さず襲撃犯の股間を全力で蹴り上げる。
「お、オ゛オ゛ォォォォォ゛……!!」
股間を蹴り上げられた襲撃犯は顔面を真っ青にしてムンクの叫びのような悲痛な表情となり、声にならない悲鳴をあげて股間を押さえながら倒れこんだ。
「よ、容赦ねえ……」
迷わず急所に蹴りを叩き込んだミランダに、ミハエルが内股になりながらぼやく。
「青き、清浄なる……!」
「……寝ていろ」
「ぐぶっ!?」
銃に手を伸ばそうとしていた襲撃犯の顔面を蹴りつけて気絶させ、ユウたちはコーディネイターでありながら地球連合として戦う自分たちの存在を気にくわないと襲撃してきたブルーコスモスの手先たちを制圧した。
彼らにとってはよくあることだった。
コーディネイターは全て否定するという、ナチュラル至上主義を掲げコーディネイターの絶滅を目的に動く地球連合の過激派組織。
連合軍の中にもブルーコスモスの手先は多数在籍しており、友軍に撃たれるということも多々あったものである。
さすがに彼らが同族として認めるナチュラルの民間人が多数行き交う町の往来で襲撃を仕掛けられたのは、ユウたちにとっては初めてのことだったが。
おかげで銃撃に巻き込まれた負傷者が多数出ており、一瞬前まで平和だったら往来は阿鼻叫喚の絵図となっていた。
「またブルーコスモスの人でしょうか……?」
「お馴染みのスローガンをほざいていたからそんなところだろうが……まずはけが人の手当てを優先しろ。俺はこいつらを拘束する」
「了解です!」
ユウはブルーコスモスの襲撃犯を拘束し、怪我人の治療にあたるよう指示を受けたミランダは巻き込まれた民間人の手当を行う。
「ちょっと何しているんですか! 皆さんも手伝ってください、民間人に怪我人が出ているんですよ!」
「あ、ああ……分かった!」
怪我人の手当をしながら、ミランダは仲間の突然の凶行に混乱している連合の兵士たちにも手当に手を貸すよう頼む。
ミランダの声に促され、状況がまだうまく理解できていない連合の兵士たちもさすがにこのまま傍観するわけにはいかないと、群衆の怪我人の手当に参加した。
「やれやれ、大変なことになったね〜」
カンカン帽を投げて視界をふさいだことで、人質を取った襲撃犯の制圧に手を貸してくれたカンカン帽の男。
あれだけのドンパチの直後だというのにやけに冷静なその男に、ブルーコスモスの襲撃犯の言葉を聞き逃していなかったミハエルが金髪の少女を背中に下げつつ拳銃を向けた。
「……その物騒なものを向けるとは、どういうつもりかな?」
「とぼけるな」
抵抗の意思はないと両手を上げる男に、ミハエルは警戒を解くことなくここにいるはずのないその男の正体を口にする。
「なぜアークエンジェルに捕らわれているはずのお前がここにいる? 答えろ、アンドリュー・バルトフェルド」
「…………」
ブルーコスモスの襲撃犯が、カンカン帽を投げつけられた時に確かに言った男の異名“砂漠の虎”。
それは先の戦いでバクゥをアルトリアのブリッツに撃破され、降伏しアークエンジェルの独房に閉じ込められているはずのアフリカ戦線におけるザフトの指揮官である。
ザフトのエースの1人として名を馳せ、アフリカ戦線で幾度もユーラシア連邦を打ち破ってきた男。
その名はこのバナディーヤ占領軍を含めたユーラシア連邦のアフリカ方面軍にとって最も憎む敵の隊長のものであり、ミハエルの言葉に怪我人の治療などに当たっていた連合の兵士たちも驚愕の表情となり、反射的に銃を構えた。
さすがに民間人が多数いるこの状況。
先ほど凶行に走ったブルーコスモスの襲撃犯を見ていたこともあり、今すぐ発砲という愚行に出る短慮な者はいなかったが、それでも一触即発の空気となる。
「やれやれ……困ったものだ」
その渦中の男はといえば。
多数の銃を向けられ憎悪の視線に囲まれている中で、命を狙われているというのにまるで他人事のような呑気な態度でその状況を見ていた。
その後、民間人を巻き込む恐れがあること、既に一度降伏しており脱走したとはいえバルトフェルドが抵抗の意思を示さなかったことから、ユウがなんとか友軍を説得し、ひとまずバルトフェルドはミハエルに拘束させて再度アークエンジェルに連行することにした。
ユウとミランダは襲撃の後始末と、襲撃犯の引き渡し、そして明けの砂漠のリーダーとの接触という本来の任務をこなすために、バルトフェルドを連行するミハエルとは別れバナディーヤに残っている。
アークエンジェルの方もバルトフェルドが行方不明となっていたことを知っていたらしく、ミハエルが戻ってきた時アークエンジェルは慌ただしく兵士たちが駆け回っている状況だった。
ナタルとともにバルトフェルドを捜索していたアルトリアに、バルトフェルドを連行してきたミハエルがブルーコスモス襲撃に関することも含めた事件の顛末を報告する。
その際早速1発殴られたが、事情が事情なので幸いにもその1発のみで許された。
そしてアークエンジェルに引き渡されたバルトフェルドは、独房ではなく尋問のための部屋に連行され、彼が要望した通り凍土の魔女と対面することとなった。
「直接面を合わせるのは初めてだな、砂漠の虎。私は地球連合宇宙軍ユーラシア連邦第9航宙機動艦隊MS・MA混成機動兵器連隊長、アルトリア・ホーエンハイム。
「お会いできて光栄だ、凍土の魔女。うーん、異名の通り実に美しい人だ。君のような人物があれほどのMSの操縦技術を持つとは、未だに信じられない自分がいるよ。砂漠の虎なんて異名で呼ばれるようになってからは負けなしだったが、井の中の蛙大海を知らずというべきか、世界は僕の思っているよりもはるかに広いことを思い知らされたよ。地球連合に君のような美貌と強さを持つ姫騎士がいたとはね」
「砂漠の虎からそのように評価されるとは光栄なことだ。貴様の方こそ、砂漠の土俵とはいえ性能面で圧倒する機体を駆使した私をあそこまでてこずらせたのは、さすが虎と評されることはある。異名を持つエースというだけあり、お行儀の良い戦いしかできない雑多な二流とは違うらしい。同じ機体ならば勝負は貴様に軍配が上がっていたとしてもおかしくなかった」
「それはどうかな? 僕にはバクゥで戦っていたとしても、あのような機動を取れる魔女には勝てるビジョンが浮かばないね」
「謙遜のつもりか? バクゥで空を飛んで見せた男に言われても信じられんな」
MSを介さず、初めて互いに直接顔を合わせるかたちで対面したアルトリアとバルトフェルド。
地球連合とプラント。与する勢力を違え、戦場で名を馳せた2人のコーディネイター。
刃を交えた2人は、今度は言葉を交える。
「……尋問相手に私を名指ししたそうだな?」
「ああ。君とは刃だけではなく、言葉を交わしてみたかった」
そう言うと、余裕の表れなのかバルトフェルドは捕虜の身でありながら不敵な笑みを浮かべた。