その首置いてけザフト共 作:みども
連隊長の過去が少しだけ明かされます。
君とは刃だけではなく、言葉を交わしてみたかった──
ザフトから魔女の異名で怖れられ、裏切り者と蔑まれる。
そんなアルトリアを尋問相手に指名し、刃ではなく言葉を交わしたいと言ってきたバルトフェルド。
その目に既に敵意はなく、部下に負傷者を出しその身柄を捕虜としたことに関する遺恨は抱いていない様子である。
味方である地球連合からは敵性人種だと、敵であるザフトからは裏切り者だと、常に敵意を向けられ続けてきたアルトリアにとって、バルトフェルドの向けるその目は真意を測りかねるものだった。
「……貴様らザフト共が裏切り者と蔑む魔女を相手に言葉を交わしたいなどと言ってきたのは貴様が初めてだ。何が目的だ?」
先ほどのやりとりもそうだが、バルトフェルド自身はプラントを出生としながら地球連合に身を置くコーディネイターであるアルトリアに対して、他のザフトが見せるような敵意の類が無い。
地球を出自とする部下達にとっては謂れのない中傷だが、碌な思い出がなかったとはいえ生まれ故郷であるプラントを捨てユーラシア連邦についた自分だけはザフト共から裏切り者と呼ばれる理由がある。
しかしバルトフェルドはそれを知らないのか、はたまた知っている上でそんなことに囚われるつもりはないとでもいうのか、彼らザフトから見ればプラントを捨てたコーディネイターであるアルトリアを責めることもなく彼女の言葉を否定するようにただ疑問だけを感じているかのような表情を浮かべた。
「うーん、他のザフトの仲間が君を魔女だ裏切り者だと呼ぶのはともかく、その境遇を考えれば僕は君がプラントを見限るのも納得できるし、裏切り者だと思ったことはないけどねぇ。目的と言われても、僕はザフトの砂漠の虎としてではなく、アンドリュー・バルトフェルドという一個人として君と話がしたかっただけだよ」
「……私の過去を知っているのか?」
「ユーラシア連邦を主敵とする以上、凍土の魔女殿と相見える日があるかもしれなかったからさ。それに、東アジアには“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”という言葉があるじゃないか」
「孫子か」
バルトフェルドはアフリカ戦線にてユーラシア連邦を主敵として戦ってきたザフトの将であり、アルトリアはユーラシア連邦に所属している。
相対するかもしれない、ましてザフトを相手に質だけでなく数でも劣りながら勝利するような敵の情報をバルトフェルドは調べていた。
そしてその過程で彼はプラント本国が隠している部分を知り、魔女と怖れられる彼女の戦歴だけでなく、ユーラシア連邦の軍人として表舞台に上がる前のプラントにおける彼女の過去も知ることとなった。
バルトフェルドの発言からこの男が自分の過去を知っている事を察したアルトリアは、ならばなおのこと彼らの愛する故郷であるプラントの未来のために作られた存在である自分がプラントを捨てたことを糾弾したりしないのか、それが分からなかった。
「私の過去を知ってなお、何故お前は私に敵意を向けない? 連隊の部下達の来歴も調べているならば、彼らが貴様らザフトに裏切り者呼ばわりされることが御門違いであることを理解することもあるだろう。だが私はプラントが出自だぞ? 私はもう使えないが、この
「それって、“ゲラートシリーズ”のことかな?」
「…………」
バルトフェルドの言葉に、アルトリアは無言を返答とする。
それは肯定であり、そしてバルトフェルドがその言葉を口にしたことが自分の過去を知っている決定的な証拠だった。
(ゲラートシリーズ……?)
後ろで2人の会話を聞いているナタルは、聞き慣れない単語に困惑する。
前身である27機甲連隊の構成員がシベリア特区を出自としている中、それを率いるアルトリアがプラントを出自としているコーディネイターであることはそれなりに地球連合軍部内においては知られている話であり、軍人家系に生まれたナタルもまた父から聞かされたことで知っている。
しかしアルトリアのプラントにおける過去の詳細な話となると、その内容は全くと言っていいほど知らなかった。
話を理解できていないナタル達だが、アルトリアは特に自分の過去について説明することはなく、そしてこの場で本人が説明しないというならばわざわざ知らぬ者達に語る必要はないだろうと、無言を彼女の返答として受け取ったバルトフェルドもナタル達を置いて会話を続けた。
「同情とは違うけど、僕個人としては君がプラントを見限り地球連合に志願したとしてもなんら不思議はなく責められるいわれもない思っている。ザフトを討つと決意したとしても、裏切り呼ばわりされるのは筋違いだろう」
「奇特なものだな」
「よく言われるよ」
変わり者だなと評するアルトリアに、バルトフェルドは笑って答える。
自分がザフトの中でも浮いた思想を持っている自覚はあるらしい。
そんなザフトの中でも浮いた男は、プラントを出自としながらも、コーディネイターを敵視しプラントを支配・場合によっては滅ぼさんとする地球連合に与することを選び、その半生を知ればザフトではなくプラントそのものを恨んでもおかしくないのに国際法を順守し民間人どころか降伏すれば敵であるザフトすらその生命と尊厳を守ることを信念とするアルトリアに、彼が彼女に1番尋ねたかった質問をする。
「そんな変わり者の僕には常日頃から考えていることがある。プラントを出自とし、しかし地球連合に与する事を選んだ、2つの勢力それぞれに立場を持ったことのある君に聞きたい。君はこの戦争はどうすれば終わると思う?」
どうすればこの戦争が終わるのか。
それは戦場に立つ兵士達の誰もが抱く疑問だろう。
しかし、片方の立場にしか立ったことがない者と、ぶつかり合う両方の勢力で生きた経験のある者では、戦争に対して見える景色が違う。
地球連合に与し、ザフトを憎み、しかし民間人は決して傷つけず、敵であっても降伏するなどした相手には決して武器を向けることはしない。
この絶滅戦争の様相を呈してきた連合・プラント大戦において、それでも形骸化しつつある戦時国際法とコルシカ条約を遵守し続けるアルトリアにバルトフェルドは聞いてみたかった。
君はどうすればこの戦争が終わると考えているのか? と。
「何故貴様が質問をする! 捕虜の立場をわきまえろ!」
「…………」
バルトフェルドの問いに、後ろで話を聞いていたが途中でついていけなくなっていたナタルがそういえばこれはバルトフェルドに対する尋問だったと思い出し、先程から捕虜の立場を忘れかけているような会話していくるバルトフェルドに向かって地球連合の軍人として怒りをあらわにする。
一方で問いを投げられたアルトリアは、ナタルを気にせず返事を待つバルトフェルドの顔を無言で見つめ返し、しばらく間を置いてから、口を開いた。
「……戦争の終着点というならば、幾つかあるだろう」
「幾つか、ねえ……」
「ホーエンハイム大佐!?」
「それはつまり戦争が終わる道は複数ある、ということかな?」
「私見だがな」
「…………」
アルトリアがバルトフェルドの質問に答えたことで、ナタルも口を閉じて椅子に座らざるをえなかった。
バルトフェルドの方が尋問相手を指名してきたからと頼んだ手前、この場においてバルトフェルドと言葉を交わす権限はアルトリアの方がナタルよりも大きい。
彼女がバルトフェルドの会話に応じるならば、階級的には上官ということもありそれを遮るわけにはいかない。
バルトフェルドのどうすれば戦争が終わると考えるかという抽象的な質問に、アルトリアはあくまでも私見だと言った上で、彼女の考える戦争の終着点について答える。
アルトリアにとってこの戦争の終結の形には単純などちらかの勝利だけでなく、複数の筋道があり、例外を除けばその終結に向かう過程には共通するものがあると見ていた。
「戦争を終わらせると一口に言っても、戦争の形態によってその終着点は変化する。本来、戦争なんてものは外交の一種に過ぎない。話し合いではなく武力で解決しようとしているだけで、その本質は当時国たちの交渉だ」
「殺し合いを交渉とは、ずいぶん物騒な考え方だね」
アルトリアが考える“戦争”というのは、本質的には交渉手段の1つである。
その交渉手段が話し合いではなく武力行使によるものであり、その根幹は軍部ではなく外交──すなわち政治の領分に当たる。
よって、戦争を終結させるためにはそもそもの互いの要求と武力行使という手段によって生じる不利益や損失の天秤をかけた結果の妥協点を模索し合えばいい。
武力をぶつけ合い屍の山を築くことによる交渉の積み重ね。たとえ相容れない要求をぶつけ合おうとも、武力行使を通じて見える妥協点というものがある。戦争とは、それを互いに探り合う交渉と言っていい。
武力行使による外交という本質を理解すれば、自ずと戦争の終着点は見えてくる。それが彼女の考える戦争の終結である。
「武力行使を用いることで当事国達の目的をぶつけ合い妥協点を模索し合う交渉──それが私の考える戦争の本質だ」
「なるほど、戦争はあくまで矢面に立つ軍人ではなく軍事力を行使する政治屋の領分であると」
「軍というのは、所詮外交におけるの手札の1つだ。秩序を保つための警察組織と違い、軍は行使する政治家と対象となる敵国がいなければ必要ない存在だからな」
治安を担う警察と違い、軍隊というのは利害の対立する敵国が存在しなければ不必要な組織である。
犯罪の都合によってではなく政治の思惑によって動く戦争に善悪などという二面性はなく、そこにあるのは結局のところ当事国の思惑と利害の対立である。
戦争を終わらせたいと思うならば、その原因である当事国の思惑を整理するところから始まる。
「では、魔女殿が思う当事国の目的は何かな?」
ならば、その当事国──プラントと地球連合の目的とは何なのか。
戦争の原因である当事国の思惑について尋ねるバルトフェルドに、アルトリアはこの場において客観的視点から見た両勢力の目的について答えた。
「連合の目的はプラントの支配であり、プラントの目的はプラント理事国からの独立にある。この戦争の当事国、プラント理事国の戦争目的はつまるところプラントの生み出す権益を守る事にある。対してプラントの目的はその理事国の支配から脱することだ。完全なる独立か一定の自治の獲得か、それは当事者であるシーゲル・クライン次第だがな」
この戦争、連合・プラント大戦を両勢力間の要求のぶつけ合いである交渉の1つと捉えた場合、互いの陣営の要求はプラントの独立をかけたものとなる。
地球連合の中心国であるプラント理事国はプラントを支配したい。
対してプラントは独立を果たしたい。
互いの交渉と捉えれば、妥協点はプラント側に一定の自治を与えるか、それとも完全な独立を容認するか、はたまた一切の権限を与えずに開戦前の情勢を維持するか、それを突き詰めることとなる。
「ザフトが暴れることにより、戦争を継続することによる不利益が増加しプラントを支配するよりも一定の自治権を与えた独立を容認する方がまだ利益となるという考えが地球連合に広がるような事態になれば、妥協点が見え戦争は終結に向かう。個人的な考えだが、結末の1つはこんなところだろうか。ならばザフトの勝利条件は、完全な支配に対する抵抗がより大きな不利益を生むと連合に思い知らせるように戦えばいいということとなる」
「逆に言えば、地球連合がザフトを駆逐することによって武力を喪失したプラント側が再び理事国の支配を受け入れることになる。それもまた1つの結末といったところかな」
「あくまで可能性の話だがな」
アルトリアはザフトが目指す戦争の終結点を、バルトフェルドは地球連合が目指す戦争の終結点を上げることで、アルトリアの考えるこの戦争の複数ある結末の例を出し合った。
その上で、アルトリアはザフトであるバルトフェルドに言う。
「地球の反プラント感情が強すぎるせいでザフト共は誤解しているが、地球連合の戦争目的はプラントの殲滅ではなく支配にある。ザフトの無力化のためにヤキン・ドゥーエを消し飛ばすなどという事を仕出かす可能性はあるかもしれないが、地球連合がプラント全てを滅ぼす可能性は極めて低い。ザフトが暴れる度合い次第だが、戦争を終結させる選択──プラントの自治権の度合いを決めるのはプラント理事国が握っている」
「……僕たちザフトには、戦争を終わらせる流れを作ることはできても、終結させることはできない、ということかな?」
「本来の戦争の意味を履き違えなければ、だがな。結局のところ戦争の結末を決めるのはカードに過ぎない軍隊ではなく、ゲームを行うプレイヤーである政治屋達だ。ただし、例外はある」
ザフトの暴れ方次第だが、プラント理事国に戦争の継続とプラント支配の利益を天秤にかけた結果、支配よりも独立、あるいは一定の自治を認める方がマシだという判断を出させれば戦争は終結に向かう。
それを履き違えなければ、戦争を終わらせる選択の権利を握っているのはプラント理事国──すなわち地球連合側にある。
ザフトであるバルトフェルドに向かって、お前達プラント側に戦争を終結させることはできないと言ったが、しかし例外はあるとアルトリアは続けた。
「結末は複数あると言った。ザフトにも戦争を終わらせる道はある」
「ザフトに属する身としては是非とも聞いてみたいね」
「ザフトが戦争を終わらせる手段……それは交渉の域を逸脱した戦争の例外、“
「────!」
「そんな……!?」
アルトリアの言葉に、バルトフェルドだけでなくナタルも驚く。
絶滅戦争。
相手の人種、国家を全て破壊し尽くすことを目的とする、講和も何もないまさに交渉の形の1つであるという戦争の形を逸脱した戦争である。
コーディネイター排斥の過激派であるブルーコスモスならばいざ知らず、コルシカ条約を遵守する彼女がそれを戦争を終わらせる1つの形として示すとはバルトフェルドはもちろん、ナタルも想定外だった。
驚く2人に、アルトリアは続ける。
地球連合とプラント、2つの勢力にいたことがあるアルトリアが考える、地球連合ではなくザフトが戦争を終わらせる結末というものについて。
「地球連合の目的はプラントの支配だ。故にザフトを排除することが目的であり、プラントそのものを滅ぼす選択をとるという可能性というのは極めて低い。だが、ザフトの目的はプラントを理事国の支配から解放することならば、独立を容認させる以外にもう1つ──中立国を含めた地球全土を焼き尽くし相手を全て滅ぼすということでも目的を達成することができる。連合と違い、ザフトには脅しでもなんでもない本当の意味での相手を全て殲滅する絶滅戦争の選択肢が存在する」
「……穏やかな話じゃないね。理屈の上ではそうかも知れないけど、いくら過激派の国防委員長でもさすがにそこまでするとは僕は思えないけどねえ。ザフトだって愚かじゃない、プラントだけで経済を回すには限界があるし、第三世代以降のコーディネイターの出生率低下などの問題だってある。第一、地球を焼き尽くすなんてザフトの軍事力じゃ無理があるし、中立国だって巻き込むことになる」
いくらナチュラル憎しのパトリック・ザラであってもプラントの抱える問題を考慮すればさすがにそこまではしないだろうし、そもそも地球を焼き尽くすなんて選択肢は中立国や地球在住の関係ないコーディネイターなども巻き込むことになるし、ザフトの軍事力的にも星を焼き尽くすというのは不可能だというバルトフェルド。
しかしアルトリアはバルトフェルドの推測に対し首を横に振り否定の意を示した。
「軍事力的には困難であっても、技術的には不可能ではないだろう? 例えば、ニュートロンジャマーの作用を無効化する技術を生み出し、それにより復活するだろう人類の叡智の炎を使えば、星の1つ程度を焼き尽くすことは可能だろう」
「まさか──!?」
アルトリアが示した地球を焼き尽くす手段は、核兵器の復活。
たしかに核分裂反応を抑制するニュートロンジャマーはプラントが生み出した技術である。それを無力化し、一度は封じられた核の力を復活させる技術の研究が進められていたとしてもおかしくはない。
しかし、同時に核兵器はプラントの多くの人々の記憶に焼きつけられている悲劇──血のバレンタインを引き起こした忌むべき対象である。
ユニウスセブンの報復とともに、二度とこの悲劇が繰り返されないようにと核兵器という大量破壊兵器を封印することを大義にエイプリルフール・クライシスをザフトは引き起こした。
10億人を超える死者を出し未だに飢えや寒さにあえぐ人々を増やし続けている、地球全土に広がった深刻なエネルギー不足。
ザフトが核の力を行使するというのは、ましてそれを戦争に勝つために無関係な人々も巻き込む手段として行使するというのは、地球人類の反プラント感情を爆発させたあの事件とは比較にならない悲劇を生むとともに、ユニウスセブンの犠牲者達に対する最大の冒涜となる行いである。
技術的に不可能ではないかも知れないが、それでもザフトだけは絶対に使ってはいけない禁じ手。
「──ナチュラルの殲滅を謳う国防委員長も、その憎悪の根幹にある家族を奪った核の炎を使うことだけは避けるはずだ。かの第二次世界大戦を引き起こした独裁者も、己を苦しめた化学兵器にだけは手をつけなかったように」
たとえ過激派であるパトリック・ザラであっても、それだけは使わないはずだとバルトフェルドは真剣な表情で反論する。
「……気分を害したのならば謝罪しよう。所詮は可能性の1つに過ぎない話だ。現実的に考えれば、理事国から譲歩を引き出すために暴れる方が何も残らない絶滅戦争などよりもよほど手間も犠牲も少なくて済む」
冗談だとしても笑えない話である。
さすがにその一線だけは否定するというバルトフェルドに、アルトリアは所詮1つの可能性に過ぎない推測を例としてあげたに過ぎないと言う。
「合理的に考えれば、独立後のプラントが生み出す莫大なエネルギーの供給先となる交易相手を絶滅させるなどという悪行に走る愚物ならば、そもそも政治屋の地位などに立っていないはずだろう」
「…………」
「ユニウスセブンの悲劇を目の当たりにしてなお、核の炎に手を出すようなら、身の振り方を考えるところだ」
ユニウスセブンで身内を亡くしたことでもあるのか、バルトフェルドは核兵器に対してかなりの嫌悪感を抱いているらしい。
最高評議会が核の炎に手を出すようならば、プラントを見限る選択肢すら視野に入れる。
そう言ったバルトフェルドの目は嘘をついている様子なかった。
「ならばザフトを見限り連合につく気はないか? 第9艦隊ならばコーディネイターでも肩身の狭い思いをしないで済むことは保証しよう」
「うーん、嬉しい誘いだけど遠慮するよ。捕虜となったが、これでも大事な部下を残している身だ。貴女の部下になるのも居心地良さそうだけど、ザフトを裏切るつもりは無いよ。たとえ死ぬことになったとしても、ね」
「義理堅いことだ。かの砂漠の虎ならばいつでも歓迎する、気が変わったら言うがいい」
試しに一度勧誘をしたアルトリアだが、飄々としているように見えて義理堅い性格をしているのか、バルトフェルドは死んでもザフトを裏切るつもりはないと勧誘を蹴った。
別に拒絶されたからといって、アルトリアは癇癪を起こすほど狭量ではない。
誘いを受ける気になったらいつでも来いとだけ言い残し、席を立った。
「お前の要求には応えたぞ。あまりアークエンジェルの方々の手を煩わせないでもらいたい」
「できれば尋問の方も魔女殿にしていただけたら面白いけど、執着するのは格好悪い。貴重なお話ありがとう。実に有意義な時間だった」
尋問するのかと思いきや、バルトフェルドの方が満足したならば自分の役目はこれまでだと、アルトリアはナタルに後を任せて出て行ってしまった。
「……バジルール少尉、これでまともに応じるはずだ。捕虜への尋問は貴女に任せる」
「え、連隊長!? あーと、申し訳ない、あと頼みますよナタル少尉!」
「は、はい。……って、大佐殿!?」
頬を腫らしているミハエルもアルトリアを追っていき、尋問室にはナタル達大西洋連邦側の面々だけが残されることとなった。
結局必要なことを何1つ聞き出しなかったアルトリアだが、この後のバルトフェルドはそれまでののらりくらりと交わす態度を止め、ザフトの隊長としての一線こそ保ちながらもナタルの尋問に応じ、G兵器を乗せたレセップスの進路の予想やクルーゼ隊に関することなど知る限りの情報を開示した。
「クルーゼか……僕は嫌いだねあいつ。仮面とか趣味悪いし、何より目を見せない奴は信用できないからね」
個人的に毛嫌いしているのか、クルーゼのことに関して尋ねられた際にはやや棘のある言葉を漏らしてもいたが。
「連隊長! ま、待ってください!」
尋問室を出たミハエルは、ベニグセンに戻ろうとしていたアルトリアに追いつくと、先ほどのバルトフェルドとの会話の中に出てきたある言葉が気にかかり、上官を呼び止めた。
ミハエルの声に反応し足を止めたアルトリアが振り向く。
「何だ?」
「1つ、聞かせていただいたいことが。“ゲラートシリーズ”とは何ですか?」
バルトフェルドとの会話の中に出てきたゲラートシリーズという言葉。
その場でアルトリアが何も言わなかったということは部下やナタル達は知る必要がないことだと判断したからだろうが、しかしミハエルはどうしても気にかかっていた。
ゲラートシリーズ。
それが何であるかは知らないが、しかしゲラートという言葉で思い浮かぶのがある。
それは月軌道会戦でぶつかり合い、そして現在はアウグストに捕らえられているザフトの白服、アルトリアと瓜二つの容姿を持つツヴァイ・ゲラートの姓と同じ単語だ。
アルトリアは何かを知っているようだし、ミハエルには無関係とは思えなかった。
「……貴様が知る必要はない」
アルトリアはミハエルの疑問に一瞬言葉を詰まらせたが、しかし軍人然とした厳しい表情で知る必要はないとだけ言い、再び前を向いて歩き出す。
「…………」
関わること、知ることを拒絶されたミハエルは、それ以上は何も言えずその場にしばらくの間立ち尽くした。