その首置いてけザフト共   作:みども

64 / 95
今回はジブラルタルのザフト視点となります。


ジブラルタル攻防戦 1

 

 

 

 

 バナディーヤで事件はあったものの、サイーブ・アシュマンとの接触に成功し、サハラ砂漠の地理に詳しい明けの砂漠の協力を取り付けることに成功した地球連合。

 これにより地の利を味方につけた連合軍は、ザフトに見捨てられながらも抵抗を続けたアフリカ共同体の勢力を次々と駆逐していき、その前線をトリポリビアやエジプトまで押し上げることに成功する。

 月が明けた3月1日にはトリポリの占領にも成功し地中海に到達したことで、カサブランカやジブラルタルの大西洋方面と、中東及びスエズ方面のザフト勢力との陸路の分断を成し遂げ、アフリカ戦線の優勢を確立する。

 流石にスエズにはモラシム率いるザフトの海軍がプラント本国より配備されたばかりの最新型水中戦闘用MSである“ゾノ”を動員し増援に出てきたこと、中東の親プラント国である“汎ムスリム会議”がプラントよりだったとはいえあくまで今まで中立だった姿勢を崩し正式に地球連合に対して宣戦布告し交戦状態に入ったことなどにより、スエズを前に戦線が膠着することとなったが、トリポリの制圧を持ってアフリカ共同体は無力化され降伏することとなり、アフリカ戦線は実質的な地球連合の勝利となった。

 

 アフリカを二分しプラントと地球連合までも巻き込んだアフリカ戦争は南アフリカ統一機構の勝利となり、3月6日にナイロビにて行われた講和にてアフリカ共同体の解体が決定される。

 結果、ザフトが占領するエジプトとモロッコを除く地中海沿岸のアフリカ大陸北部はユーラシア連邦に併合となり、大西洋方面ではリベリアが大西洋連邦に参加、それ以外のアフリカ大陸領土は全て南アフリカ統一機構の勢力下に収まりその中でスーダンからナイジェリアやマリにかけてのアフリカ中央部に点在する街々が明けの砂漠に参加していた者達の自治を認める地域として返還されることとなった。

 

 アフリカ戦線においてG兵器の奪還とクルーゼ隊の殲滅を目的とする独自の作戦行動をとる第8・第9艦隊の合同部隊は、バルトフェルドの証言と明けの砂漠の情報提供によりカサブランカに撤退するレセップスの進路を捉えることに成功したが、あと一歩のところでカサブランカからの出航を許すこととなる。

 予定よりも早く3月6日に全てのバルトフェルド隊を乗せてザフトが出て行ったことでもぬけの殻となったカサブランカを制圧した合同部隊は、ジブラルタル攻略に向けて準備を進めるユーラシア連邦と共同でレセップスの追撃を行うべく、3日間の休息をカサブランカにてとることとなった。

 

 4日にウェールズとリバプールから大西洋連邦の艦隊がジブラルタル攻略に向け出航し、合同部隊は6日にカサブランカを制圧。

 7日には予定通りアフリカ戦線の連合の後続がカサブランカに到着し、8日にフランスよりジブラルタル攻略を目指す地球連合地上軍ユーラシア連邦第3方面軍が、9日にシチリアとトゥーロンに集結したユーラシア連邦の地中海艦隊がジブラルタルに向けて出発。

 先行しジブラルタルの包囲を行っている大西洋連邦と合流し攻略戦に参加するべく、合同部隊も3月9日カサブランカから出撃した。

 

 2週間ほどの日々により、めまぐるしく情勢が変化したアフリカ方面は、もはや地球連合の勝利が決定づけられたと言ってもいい戦況となっている。

 ビクトリア攻略の失敗とアフリカ戦線の敗北によりオペレーション・ウロボロスは破綻状態と言っていい状況であり、戦局の悪化によりクライン政権はもはや風前の灯。

 プラント内ではアラゴンの戦いやユニウスセブン追悼慰霊団に対する襲撃事件などから最高評議会の現政権である穏健派に対する反発が強くなっており、強硬派のパトリック・ザラが人気を集めている。

 この流れにより本国であるプラントの政情の不安定となっており、そんな状況のため宇宙からの援軍が望めず、今回のアフリカ戦線の崩壊によりスエズ方面のザフトとも分断され孤立状態にあるジブラルタルでは、この地球におけるザフトの二大拠点の一角の司令官を最悪のタイミングで任されているヘルマン・スコルツェニーが頭を悩ませていた。

 

「戦況は大変よろしくない。見てみろ副官、ジブラルタルは孤立無援だ。しかも手元にある戦力といえば、アラゴンで食らった毒の後遺症を引きずる傷病兵だの、バルトフェルド隊の残党だの、クルーゼ隊とこの小僧っ子だのといったジブラルタルに逃げ込んできた残党が多い。要するに寄せ集めだ。それに対して敵は──」

 

「大西洋連邦が世界に誇るロイヤルネイビーの後継たるブリタニア海軍、アラゴンでザフトを撃破した“金髪の毒蛇”ことフリードリヒ・ハイドリヒの率いる第3方面軍、明けの砂漠が随伴している“凍土の魔女”と“喧嘩屋”フッカーの指揮する第8・第9艦隊の合同部隊。エンデュミオンの鷹のおまけも付いて、さらには戦争を変えるMSたるG兵器が3機ときました。完全に敵軍が圧倒的優勢ですね。数はもちろんのことながら、兵器の質もMSに関しては上ですし、何より将の格が違いすぎます」

 

「否定できない。否定できないが、少しは上官を持ち上げることを覚えなさい君は。忖度が足りんよ、忖度が!」

 

「忖度しても現実は変わりません」

 

「チクショウめぇ!」

 

 副官の指摘通り、ジブラルタルにいるのはアラゴンの敗戦の生き残り、バルトフェルド隊の生き残り、クルーゼ隊の生き残り、ジブラルタルのもともと配属されている守備部隊、あとはスコルツェニー隊の戦力と、方々からの寄せ集めである。その上、数もさほど多くない。

 対して敵軍は大西洋連邦とユーラシア連邦の一線級の戦力が山ほど並んでいる錚々たる戦力の数々を、異名がつくほどの戦いぶりを発揮してきたエースや名将が率いている大軍である。そして何より数が多い。

 その戦力差は歴然であり、いかに堅牢なジブラルタルといえどもこの戦力の総攻撃を喰らおうものならば守りきれる戦況ではなかった。

 

「……前世でどのような悪行を仕出かしたら、斯様な試練と向き合うこととなるのか。私はこの理不尽を恨むからな!」

 

「何が理不尽ですか。ウランバートルだけでも約113万を焼き払い、今までの戦歴で駆除してきたナチュラルの総数ははてさて幾らに達するか。そんな大量殺戮者の功績を考慮すれば至極当然の報いです」

 

「国防委員長からは“殺したナチュラルの数は業ではなく徳である”って1度もお咎め受けたことは無いぞ!」

 

「いや、かなりの数のコーディネイターも含まれてますよ。隊長の都合で殺してきた部下の数をお忘れですか?」

 

「ぐう……それを言われては理不尽では無い気がしてきた……」

 

「ぐうの音しか出ないとはこのことだな!」

 

「こいつクビにして私も辞表書きたい……」

 

「受理されないかと」

 

「このやりとり前にもやった!」

 

 自身の方にのしかかる無理難題に喚き散らすも副官にバッサリと切り捨てられ、隊長を躊躇なくバカにする副官をクビにして自分も辞表を書き、そしてプラントに帰りたいと弱音を吐くスコルツェニー。

 しかしこの戦況ではジブラルタル司令官の辞表など通るはずないので、夢物語だと肩を落とした。

 

『ヘルマン・スコルツェニー隊長、バルトフェルド隊隊長代理マーチン・ダコスタら招集した5名が到着しました』

 

 悩みの種がストレスで出てきた胃痛に俯くスコルツェニーの元に、数時間前にジブラルタルに入港してきたレセップスを旗艦とするバルトフェルド隊の残党の暫定指揮官であるマーチン・ダコスタが来たという報告が入った。

 

「今私の消化器官はこれ以上のストレスを受け付けられないのだ。追い返せ!」

「入室許可を」

 

『了解副官』

 

「部下からのイジメ、私はこれもまたパワハラだと思いますけど!」

 

 呼びつけておいてストレスによる胃痛が辛いからと追い返せと喚き散らすスコルツェニーの意思は無視され、副官が入室許可を出し報告してきた兵士もそれに従う。

 それをパワハラだと喚くスコルツェニーだが、やはり無視され部屋の扉が開かれた。

 

「失礼します。バルトフェルド隊隊長代理、マーチン・ダコスタ以下5名、招集に従い参上しました」

 

 バルトフェルド隊の副官であり、今はバルトフェルドの代理として隊を率いてこのジブラルタルまで撤退してきた黒服マーチン・ダコスタ。

 彼を先頭に、リビアにレセップスが向かっていた間ビクトリア方面部隊の指揮を代行していたメイラムや、合同部隊との交戦を生き残ったカークウッド、そして2人のクルーゼ隊の生き残りであるディアッカとオロールが入室した。

 

 並んだ5名が敬礼した前で、ジブラルタルの現司令官である白服に身を包むスコルツェニーが腕組みをしながら立っている。

 横に控える副官共々、先ほどまで身内で繰り広げていた弛んだ空気はなく、そこにあったのはクルーゼやバルトフェルドとは違う仲間であるはずのザフトを人とすら見なさない冷たい目をした男の姿だった。

 

「現在進行形で大西洋連邦の艦隊に取り囲まれているというのに、よく入ってこれたものだな無様な敗残兵どもが」

 

「…………」

 

 自分たちの仲間を、そして隊長を犠牲にして、命からがらジブラルタルにたどり着いたダコスタ達。

 そんな彼ら出迎えたのは、部下も仲間も人とみなさない冷血漢の歓迎──ではなく、涙を飲んで多くのザフトの仲間を捨ててきたことを侮辱するような尋問だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 カサブランカにてビクトリアやバナディーヤなど各地から撤退してきたアフリカ戦線のザフトの残存戦力と合流後、大西洋に脱出しジブラルタルに到達したレセップス。

 大西洋連邦の艦隊の包囲網を掻い潜りジブラルタルに入って程なく、ユーラシア連邦の地中海艦隊が到着したことでジブラルタルは逃げ場のない厳重な包囲網に置かれることとなった。

 

 到着後、レセップスのダコスタ達にはすぐにジブラルタルの司令官であるヘルマン・スコルツェニーから招集がかけられた。

 名目はアフリカ戦線の崩壊の最大の要因となったバルトフェルドを捕らえた第8・第9艦隊の合同部隊についての話を聞かせろというものだが、その実態は全く違うものだった。

 

 スコルツェニーはダコスタ達を座らせると、アフリカ戦線の推移についての説明を副官に行わせる。

 南アフリカ統一機構とユーラシア連邦の進撃を受けたアフリカ共同体は降伏、すでにアフリカ大陸はジブラルタルとスエズを除き地球連合側が制圧しておりアフリカ戦線は地球連合の実質的な勝利が決定づけられた。

 

 特に不安定化するプラント本国の影響を受け宇宙からの援軍を望めない大西洋方面は、カサブランカの陥落によりもはやザフト側の拠点はジブラルタルのみとなっており、孤立無援と化している。

 スエズ方面は最新鋭水中専用MSが配備されたモラシム隊が増援に入ったこと、汎ムスリム会議が親プラント国として正式に地球連合と交戦状態に入りその援軍を得られたことで戦線は膠着したものの、地球連合は本命となるジブラルタルに大戦力を集めてきている。

 ジブラルタルの現在の戦力ではこの攻勢を防ぎきるのは不可能であり、この地球におけるザフトの二大拠点の一角は放棄することをスコルツェニーは決定したという。

 

「──これがどういうことか理解できるか、マーチン・ダコスタ君?」

 

「ビクトリア攻略の完全なる失敗、であるかと」

 

「私が聞きたいのはそんなことではない」

 

 ジブラルタルの陥落が何を意味するのか。

 それを問うてきたスコルツェニーに、ダコスタがカオシュンに続くビクトリア攻略の失敗であると答えると、スコルツェニーは首を横に振る。

 

「貴様らアフリカ戦線のザフト部隊の失態だぞ」

 

「──!」

 

 そして、このジブラルタル陥落の責任はアフリカ戦線のザフト部隊──すなわちバルトフェルドの責任であると言ってきた。

 

「……どういう意味ですか?」

 

 言いがかりも甚だしい。

 今にもスコルツェニーに殴りかかろうとしたメイラムやカークウッドの腕を掴んで止め、自身の爆発しそうな怒りを理性で押さえ込みながらダコスタはどういう事だと問い返す。

 

 確かに、ジブラルタルの放棄に踏み切らざるを得ない事態となったのは、アフリカ戦線の崩壊であり、その契機となったのはバルトフェルドの捕縛である。

 だがそもそも一時期はアラゴンの敗戦がなければバルトフェルド隊は十分な支援を受ける事ができ、ビクリトア攻略も可能かもしれない戦況だった。

 アフリカ戦線の崩壊はバルトフェルド隊の責任だが、その原因をいうならばアラゴンでユーラシア連邦に大敗を喫したジブラルタルのザフト部隊にこそ責任があるのではないか。

 

「お言葉ですが、そもそもの原因は──」

 

「──そもそもの原因の無能はすでに更迭され責任は取ってある。アラゴンの敗戦が原因でありその責任を此方に問うというならば、無能に代わって赴任した私の方こそ言いがかりも甚だしいところだな」

 

 言い返そうとしたダコスタだが、その前にスコルツェニーが反論を封じた。

 その上で、スコルツェニーの追求は続く。

 

「ビクリトア攻略を延期させる命令を出したのは確かに私だ。だが、私がいつリビアに降りた地球連合との戦闘を許可した? クルーゼ隊のお荷物どもの回収を許可した? 明けの砂漠ごときに手こずるようなアフリカ共同体の要請に応えることに同意をした?」

 

「しかし、救援要請を出した友軍を見捨てるなど──」

 

「雑魚の要請に応じた結果、お荷物を拾った結果が魔女を呼び寄せた。砂漠を舞台にすれば勝てるなどと驕った虎は魔女に挑み、無様に負け、そしてアフリカ戦線は崩壊した」

 

「テメエッ!」

「よくも隊長を!」

 

「よせ2人とも──」

 

 まるで、こうなったのは全てバルトフェルドのせいだと言わんばかりの言い草である。

 MSの1機、歩兵1人の援軍すら送らなかった上で、敗北の責任は全てバルトフェルドに押し付けるジブラルタル司令官の言葉に、自分たちを生かすため、イザークを取り戻すために命がけで魔女に挑んだ自分たちの隊長の勇姿を侮辱されたとメイラムたちが激昂する。

 

 ダコスタの止めようとする手を振り払い、スコルツェニーに殴りかかろうとしたメイラムとカークウッド。

 

 しかし、スコルツェニーにたどり着く前に副官が道を阻むように前に出てきた。

 

「邪魔だ──ぐあっ!?」

 

「メイラム!?」

 

 副官を突き飛ばして強行突破しようとしたメイラムだが、その手が肩に触れた直後流れるような動きでその手首をとった副官がメイラムを投げ飛ばす。

 その早業に頭に血が上りスコルツェニーしか見ていなかった事もあり、メイラムはついていけず、その場に投げ飛ばされ床に叩きつけられた。

 

 驚くカークウッド。

 その致命的な隙を見逃さず、メイラムを投げ飛ばしたスコルツェニー隊の副官が距離を詰め、腕を掴み足払いを仕掛けるとすかさず膝で首を抑えるようにして組み伏せた。

 

「ぐうッ……!」

 

「ま、待ってください! 部下の非礼はお詫びします! なので──!」

 

 そのままカークウッドの腕と首を折るのではというほど力を込める副官に、ダコスタが待ったをかける。

 

「副官、そこまでだ」

 

 それを聞いたスコルツェニーが副官に止めるよう指示を出し、それを聞いた副官もカークウッドの上から退いた。

 

「…………」

 

「ぐぅ……! か、カークウッド……!」

 

 しかしカークウッドはすでに気を失っており、投げ飛ばされたメイラムも頭を打った事でまだ焦点が合わない様子であり、2人は瞬く間に無力化されてしまった。

 

「誰彼構わず噛み付くクセはネコ科の配下にいた影響か? 部下の教育すらまともにできていないとは、砂漠の虎の異名に相応しくない。砂地の猫に変えたらどうだ?」

 

「ぐっ……!」

 

 まるで挑発するようにバルトフェルドを侮辱するスコルツェニー。

 その言葉にダコスタは腸が煮えくり返る思いであったが、しかし逆らう事もできず歯を食いしばって耐えるしかなかった。

 

 歯を食いしばり、下げた顔に隠して歯を食いしばりながら耐えるダコスタをテーブル越しに見下ろしながら、スコルツェニーはため息をこぼす。

 

「貴様のような奴が副官とは、人望すらもないようだなバルトフェルドは。嚙みつく猫はいても、側近は名誉を傷つけられようとも否定する事すらできない。人望がなければ統治も杜撰だろうな、明けの砂漠などというレジスタンスを生み出し野放しにするのも納得いく」

 

「…………!」

 

「挙句うまいこと1人だけ地球連合に捕まり、アフリカ戦線を崩壊させる要因を作った。実は地球連合に通じている裏切り者だったと言われても納得できる所業だな!」

 

 スコルツェニーの冷血な言葉が、ダコスタの心をえぐる。

 言い返しても何もならない。むしろ反逆などという言いがかりをつけて他のバルトフェルド隊の隊員たちにまで迷惑をかけてしまう事もあり得る。

 握りしめる拳から血を滲ませながら、それでもダコスタは耐えた。

 

「……まあ、バルトフェルドに捨てられた貴様らは裏切り者ではなさそうだ。一応信用はしてやろう」

 

 隊長代理であるダコスタを怒らせ、そして刃向かった事を言いがかりにバルトフェルド隊を完全に潰してしまおうと思っていたスコルツェニーだったが、ダコスタが耐え抜いた事でその目論見は失敗に終わる。

 

 虎のいないバルトフェルド隊など戦力のあてにならないし、戦火の拡大を狙う者にとっては邪魔な存在である。

 兵器を全て押収して人員は処分しようと思っていたスコルツェニーだが、予想と違い挑発に乗ってこないダコスタを見て別の使い道を思いつき、バルトフェルド隊の処分はやめる事にした。

 

 スコルツェニーは視線をダコスタの斜め後ろにいるクルーゼ隊の2人の若者に向ける。

 

「──で、貴様らがお荷物を持ち込んだクルーゼ隊の小僧どもか」

 

「「…………」」

 

 ここに来る前、ディアッカとオロールはダコスタから忠告を受けていた。

 ジブラルタルの新たな司令官は信用できない、できる限り黙ってやり過ごすんだ──と。

 

 スコルツェニーは白服とはいえ、名目上は上下関係のないザフトにおいて所属の異なる隊長に謙る義務はない。

 ダコスタの忠告に従い、ディアッカとオロールは口を閉ざしていたが──

 

「オロール・グーデンブルグ、貴様には地球連合と通じている疑惑がかかっている」

 

「「──!?」」

 

「そこの緑服の裏切り者を拘束しろ!」

 

 スコルツェニーの挑発に応じれば、言いがかりをつけられるかもしれない。

 ダコスタは予想通り挑発されたが理性を総動員してそれに耐えた。

 

 だが、ダコスタに対するスコルツェニーの言葉を聞いて何を言われようとも口を閉ざしていようと思っていたクルーゼ隊の2人は──

 

 あろう事か身に覚えの全くない嫌疑を一方的にかけられ、有無を言わさずに拘束されてしまった。

 

「スコルツェニー隊長、これは一体どういうことですか!?」

 

 さすがにこれ以上は黙っていられない。

 予想外の展開に驚くばかりのオロールを取り押さえる暴挙に出たスコルツェニーに、挑発を耐え抜いていたダコスタがどういう事かと声を荒げて尋ねる。

 

 一方スコルツェニーは、血相を変えてテーブルを叩き問い詰めてくるダコスタに、薄気味悪い笑みを浮かべながら答えた。

 

「だから、地球連合に情報を流した嫌疑だよ。ニコル・アマルフィ、そしてオロール・グーデンブルグ。こいつらにはユーラシア連邦にクルーゼ隊の情報を流して月軌道会戦に第9艦隊を呼び寄せゲラート隊を壊滅に追い込んだ嫌疑がかかっているんだよ」

 

「なっ!? そんなわけないっすよ!」

 

 なんでニコルとオロールが? 

 仲間がスパイ容疑を受けている事に驚き混乱するディアッカ。

 一方、オロールはディアッカにまで銃を突きつけられる事態を避けるために、冤罪だがスコルツェニー隊の拘束を抵抗せずに受け入れる。

 

 スコルツェニーは反論するディアッカに対しては、ダコスタたちやオロールには向けなかった貼り付けたような作り笑いを浮かべてなだめるように肩に手を置く。

 

「ディアッカ・エルスマン、君はここまで獅子身中の虫を抱えながら、G兵器の奪還阻止に尽力してくれた。さすが、ダッド・エルスマン氏のご子息だ。穏健派のクズどもとは違い、優れた遺伝子を持つ血筋の証だね」

 

「穏健派のクズ……まさか!」

 

 スコルツェニーの言葉に、この言いがかりのスパイ嫌疑の目的に気づいたダコスタがハッとする。

 

 ディアッカの父、ダッド・エルスマンは反ナチュラルの最右翼、強硬派であるパトリックに近い思想を持つ最高評議会の1人である。

 一方、スパイ嫌疑をかけられているニコル・アマルフィの父親は穏健派であり、クライン派に属している最高評議会議員である。

 

 今のプラントは政情が不安定になっていると、スコルツェニーが語っていた。

 アフリカ戦線の崩壊、ビクリトア攻略の失敗の責任をシーゲル・クラインに問う声が上がっていると。

 

 そして、ユーリ・アマルフィはクライン派に属しており、彼のもとではニュートロンジャマーの効果を打ち消す新技術の開発が進んでいるという噂も聞いた事がある。

 

 もし、この言いがかりを真実にされてジブラルタルが陥落し、アマルフィが──クライン派が地球連合と通じていたために、アフリカ戦線の崩壊とジブラルタル陥落を招いたなどという事態になれば。

 ザラ派は今すぐ政敵であるクライン派を一斉に排除し、その技術も全て回収する事ができるようになる。

 アフリカとジブラルタルを生贄にクライン派を駆逐し、プラントを継戦派一色に染め上げ、地球連合の物量を覆せる1発逆転の戦略兵器である核の炎を阻まれることなく兵器として手にすることも──

 

「……勘の鋭いネコは嫌いだ」

 

 悪夢のような戦争を作り上げる道筋が頭をよぎったダコスタを見て、勘付いたことに気づいたスコルツェニーが副官に指示を出す。

 

「司令官に対する暴行未遂。部下2名の責任、望み通り上官であるお前に背負わせてやろう。ダコスタを拘束しろ!」

 

「了解」

 

「スコルツェニー、お前は──ぐっ!?」

 

 スコルツェニーの副官によってダコスタは気絶させられる。

 そのままオロール、カークウッド、メイラムと共に連行され、部屋にはスコルツェニーとディアッカだけが残された。

 

「ダコスタさん! オロール!」

 

「待ちなさい、あんな罪人どもは忘れてゆっくり休みなって。G兵器奪取の英雄殿には相応しいもてなしをしなければな! おい、彼を部屋に案内してやれ」

 

 まるで何事もなかったかのように、苦労を重ねて基地にたどり着いた仲間を歓迎する貼り付けたような笑みを浮かべるスコルツェニー。

 オロールたちについて行こうとしたディアッカを止め、冤罪で連行されるバルトフェルド隊の面々と入れ代わりで部屋に入ってきた長身の美女たちにディアッカを休ませるように指示を出す。

 

「え? え? な、何がどうなってるんだよ!?」

 

 突然美女たちに囲まれたディアッカは、混乱する。

 オロールたちの件もそうだが、入ってきた美女たちはまるで双子なのかと言いたくなるくらいにお互いに──いや、先ほどまでいたスコルツェニー隊の副官を含めれば3人ともそっくりの容姿をしていたからである。

 ディアッカはプレイボーイで女好きだが、こんな混乱が重なる事態ともなればいくら美女二人を侍らせるという大変嬉しいシチュエーションでも愉しめる余裕などなかった。

 

「何? 双子なの? 三つ子なの!?」

 

「さあ、ディアッカ様。こちらにどうぞ」

「お疲れでしょう。癒しのひと時をご提供いたします」

 

「わけわかんねーよ! 助けてくれイザーク!!」

 

 ディアッカが去り、部屋にはスコルツェニーだけが残る。

 窓からジブラルタルを囲む地球連合の大軍を見渡しながら、スコルツェニーはジブラルタルに就任して以降進めていた工作が実を結ぶ機会が予想とは違う形となったが訪れたことを確信し、冷たい笑みを浮かべた。

 

「さて、これで国防委員長がプラント全ての実権と叡智の炎を握る下準備は整った。ジブラルタルを捨てることになるけど……まあ、一方的な核戦力を持てるアドバンテージに比べれば安い代償だろ」

 

 ナチュラルの殲滅のためならば、核の炎すら利用する狂気の復讐者パトリック・ザラの目指すザフトの勝利に向け、スコルツェニーは暗躍する。

 

「いっときの勝利に酔いしれてな……劣等人種の皆さんよ」

 

 

 

 

 

 ──そして、C.E71年3月10日。

 カオシュン宇宙港攻防戦以来となる大規模な戦力が激突することとなる決戦、ザフトの大西洋最後の拠点にして、地球における二大拠点の一角であるジブラルタルをめぐる戦い、“ジブラルタル攻防戦”が幕を開けた。




第8艦隊を犠牲に地球に降り、苦難を乗り越え太平洋に出て、トールとキラまで犠牲にしてたどり着いたアラスカにて、労うどころかあの仕打ち、そしてアラスカもろとも捨て石にされたアークエンジェル……

ゲラート隊を犠牲にして地球に降り、バルトフェルドとイザークを犠牲にしてたどり着いたジブラルタルにて罪人扱い、そしてジブラルタルもろとも捨て石にされそうな……

おっとこれ以上はネタバレになりそうなのでやめておきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。