その首置いてけザフト共   作:みども

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前半は時間を少し巻き戻しアークエンジェルにいるザフトの捕虜たちの様子について、後半はジブラルタル攻防戦の1日目に独房を訪れたミハエルを交えた会話になります。


ジブラルタル攻防戦 4

 

 

 アークエンジェルの居房区画。

 敵軍の捕虜や、軍旗違反を犯した軍人などを一時的に拘留するための区画である。

 

 現在、ここにはデブリベルト近郊の戦闘にて捕虜となったニコル・アマルフィとラスティ・マッケンジー、そしてガベス郊外の戦闘にて捕虜となったイザーク・ジュール、アンドリュー・バルトフェルド、バルトフェルド隊所属の兵士であるハダトの5名が拘留されていた。

 

 デブリベルト近郊の戦いにて、想定外のザフトのMSを奪って扱う謎の敵の存在によりG兵器強奪に失敗し捕虜となったニコルとラスティ。

 地球に降りたアークエンジェルで同じく捕虜となって再会した戦友は、顔に大きな傷跡を受け、彼らの知る高い能力とそれを隠そうとしないプライドに裏打ちされた常に自信に満ちた姿はなく、らしくない暗い空気をまとっていた。

 

「い、イザーク!? お前、まさか──」

「イザーク! そ、その顔は……!?」

 

「ニコル……ラスティ……お前ら、生きていたのか!?」

 

 イザークは2人の声に顔を上げてその姿を見ると、驚き、そして心の底から安堵したような表情を浮かべた。

 

「は、はい。ご覧の通りあの戦い以来こうして捕虜の身ですが……」

「生き恥を晒してるっつーの? まあ、見せしめに処刑とかやられるくらいは覚悟してたけど、おとなしくしてる分には向こうも特に何もしないみたいだったしさ」

 

「そ、そうか……」

 

 イザークの表情が曇る。

 らしくないその姿に2人は違和感を覚えたものの、捕虜となってしまったことを恥じて落ち込んでいるのだと判断した。

 

「イザークも、その……捕虜に……?」

 

「……ああ、情けない限りだがな」

 

「…………」

 

 恐る恐るといった様子で尋ねるニコルに、八つ当たりしてくるわけでもなく沈んだ表情で答えるイザーク。

 慣れないイザークの様子に励ます言葉も見当たらず、ニコルは慰めることもできなかった。

 

 バルトフェルドとハダトは尋問のために居房に連行されるのはイザークよりも遅かった。

 2人が来るまでの間、イザークはニコルたちにデブリベルト近郊の戦闘からデュエルを奪還され捕虜となるまでの出来事を説明した。

 

 ニコルとラスティが捕虜となり、残るG兵器の奪取と2人の救出、そしてガモフの仇を取るべく再度足つきに挑んだ戦いにて、アスランとクルーゼによってラスティのジンを奪い迎撃に出てきた敵を撃破したこと。

 しかしアークエンジェルの攻撃によりヴェサリウスを叩かれ足止めを食らい、離脱を許してしまったこと。

 

 援軍としてゲラート隊を要請し、アスランに代わりオロールが搭乗したイージスを含めるG兵器3機で挟撃を仕掛け、次々に戦場に乗り込んできた連合の援軍との間で行われた月軌道会戦。

 足つきを追い詰めるも、多数のコーディネイターが所属するユーラシア連邦にて異彩を放つ第9艦隊の援軍により形勢が逆転し、地球への離脱をせざるをえなくなり、イザーク自身も顔に傷を負って、そしてゲラート隊を犠牲に地球へと撤退しリビアに降りたこと。

 

 バルトフェルド隊の救援により追撃してきた第9艦隊の航宙軽母艦ベニグセンを撃退したものの、足つきも追撃してきたことでアフリカ戦線を舞台に繰り広げられることになった戦闘。

 そして、バルトフェルド隊に保護されガベスまで撤退するも、デュエルを制圧され気を失った隙にバルトフェルドらとともに捕まることとなったガベス近郊の戦い。

 

 ここに来る前にバルトフェルドからレセップスは離脱に成功したことを聞いているので、イザークの予想では足つきはジブラルタルに撤退するバスターとイージスを追撃している状況だった。

 

「そんなことが……すみません、みんなが大変な時に僕たちは──」

 

「気にするな、貴様らを責める資格は俺にはない」

 

 ニコルたちは捕虜となっていた。

 それに、彼らがいたところで月軌道会戦で勝利できていたかどうかなどわからない。

 ヴェサリウスが損傷していた以上、あの戦場にクルーゼ隊が送れたMSはイージス含め3機が限界だった。大局はきっと変えられなかっただろうという予想がイザークの脳裏に浮かぶ。

 

 それに、バルトフェルドの話を聞いて、不安に苛まれていた。

 イルクーツクにおける隠された真相を聞いてから、裏切り者のコーディネイター共と考えていた第9艦隊の敵兵達への印象がイザークの中で変わっていた。

 

 エイプリフール・クライシス、イルクーツクの大虐殺──

 コーディネイターなのに、地球に住んでいた彼らは、ナチュラルどもよりも自分たちプラントの方がよほど虐げていた。

 正義と盲信していたザフトの中にも無法者はおり、彼らはそいつらに虐げられた被害者だった。

 同じ立場だったらイザークもザフトに銃を向けていただろうし、イルクーツクの大虐殺を経てなお憎むプラントを相手に誰もが怒りに任せて捨てた国際法を順守し続けている地球連合で戦うコーディネイターたちを知って、ただ一方的に地球連合を憎み見下し排斥し続けた今までのザフトのイザーク・ジュールの在り方が揺らいでいた。

 

 そして、本当にコルシカ条約を遵守している証としてニコルとラスティの無事を見て、ナチュラルだと連合だと裏切り者だと軍民人種問わず一緒くたにして大量虐殺を平気で行う輩もいるザフトの闇を知って、戦闘の強さだけでなく軍人としてのあり方や誇りの面でも彼らがどれだけ強い存在かを知り、ザフトは自分たちは正義だと盲信しコーディネイターはナチュラルよりも優れた種だと優越に浸るプライドは砕け散った。

 

 ゲラート隊は、イザークたちを、他部隊だろうが己を犠牲にしても仲間を守り抜くという信念を貫き通した。

 民間人には武器を向けず、例え憎き敵だろうとも無抵抗の捕虜も虐げることはせず、気高く戦う戦士たちがいた。

 彼らこそが人と人を繋ぐ者(コーディネイター)だと、憎しみにとらわれて蛮行に走る奴らとは違う誇り高き存在だと。あるべきコーディネイターの姿を見た。

 

 その姿を見て、優等人種の思想に染まり人種差別を常識とし、同じ人として扱うべきナチュラルを見下しジョージ・グレンの思想を汚した道徳観念もまともに育っていない中世と大差ない世界観を引きずっていた己の今までの姿を省みて、イザークの価値観は大きく変わった。

 

 負けて当然だった。

 だからこそ、今度こそ勝ちたくなった。

 

 戦いの腕だけではない。

 精神の面で。信念の面で。戦士としての誇りと気高さで。

 コーディネイターとして、地球連合に与する彼ら(第9艦隊のMSパイロットたち)に、負けたくないと。追いついてみせると。超えてみせるという強い感情が湧きあがっていた。

 

「ニコル、ラスティ」

 

「はい?」

「え、何よ?」

 

 かけがえのない戦友達の無事な姿を見て、彼らに一切報復という名の八つ当たりの牙を向けなかった彼らの姿を見て、イザークの中で湧き上がる感情に後押しされるように1つの信念が生まれていた。

 

「俺は、コーディネイターとして第9艦隊に勝つ。あいつらを超えて、ザフトの戦士として、恥じることのない俺でありたい」

 

「は、はい……? が、頑張ってください?」

「……なんか、1人で勝手に立ち直ったと思ったら変なスイッチ入ったぞあいつ」

 

「まあ、今は捕虜の身だがな」

 

 ディアッカのが移ったのか、皮肉げな笑みを浮かべるイザークの顔は1人で落ち込んでいたのが嘘のようにすっきりしたような表情となっており、どこか精神的に成長したようにニコルには見受けられた。

 

「いや〜、青春っていいねぇ」

「そうそう、若者はこうでないとですね」

 

 ちなみに、いつの間にか来ていたバルトフェルドにこのあとしばらく弄られることになったりする。

 

 砂漠の虎が捕虜になったことはイザークから聞いていたとはいえザフトが誇る名将との初対面にニコルは緊張のあまりガチガチになり、ラスティはすぐに打ち解け、彼らが寝入っている隙にバルトフェルドがバナディーヤに繰り出したりするのは、また別の話である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 魔女との問答のあと、尋問を受けながらも巧みな話術でそれとなくナタルから情報の引き抜きを行っていたバルトフェルド。

 トリポリの陥落、アフリカ共同体の降伏、カサブランカの陥落とザフト側の戦況の劣勢を知らせる情報が次々と入る中迎えた3月9日。

 レセップスの退却後に占領に成功したカサブランカより、アークエンジェルが合同部隊がジブラルタルに向け出航した。

 

 その情報もしっかりとさりげなく聞き出したバルトフェルドから、イザークたちにもジブラルタルの情勢が伝えられる。

 

「──とまあ、ジブラルタルは孤立無援でほとんどが敗残兵の寄せ集めなのに対し、連合はジブラルタルを制圧するために大西洋連邦とユーラシア連邦の陸海軍が大規模な戦力をかき集めてきたわけだ。とにかく圧倒的に不利みたいだね」

 

「よく聞き出せましたね」

 

「まあ、尋問を担当しているお嬢さんは真面目すぎるのが玉に瑕でうっかりなところも多いからねぇ。僕としては楽だったけど、彼女は尋問に向いてないだろう」

 

 3月10日。

 ついにジブラルタルに対して地球連合の大軍による攻勢が開始された。

 

 しかしこの1日目の戦闘、彼らが囚われの身となっているアークエンジェルは後方に配置されており、しかも大西洋連邦の艦艇が並ぶ海上で待機しているため、戦闘のどさくさに紛れて脱出というのはかなり厳しい状況である。

 

 結果としてこの日もまた、大人しく捕虜の身に甘んじているにしても、脱出を目指すにしても、今は体力を温存しつつ機会を待った方がいいという判断で5人の意見はまとまった。

 

 そして居房区画の中でおとなしく待つ状況を過ごしていた5人の下に、故郷と与する勢力を違えたコーディネイターが訪れたのは、その日の夕刻だった。

 

「おや、今日の尋問は終わったと思っていたけど?」

 

 間も無く日暮れとなる時刻。

 バルトフェルドの独房の前に来たのは、大西洋連邦のものではなくユーラシア連邦の軍服に身を包む長身の士官だった。

 

 第9艦隊に所属する少尉、ミハエル・クズネツォフである。

 

「個人的に、聞きたいことがあって来ただけだ。応じたくなければ無視してくれていい」

 

 独房の前に置いた椅子に腰を下ろしたミハエルは、ベッドに寝転がっているバルトフェルド対してそう前置きしてから、あの日──アルトリアとの問答をした際にバルトフェルドが口にしたことについて、尋ねる。

 

「──“ゲラートシリーズ”とは何だ? 知っていることを教えてくれ」

 

「…………」

「ゲラート……!?」

 

 ミハエルの言葉に反応したのは、2人。

 

 質問を受けた当事者で、その言葉について詳しく知っていると思われるアンドリュー・バルトフェルド。

 

 そして、ゲラートという言葉にミハエルが連想した人物と同じ名前を連想したイザークである。

 

「イザーク……?」

 

 のんきに寝ているラスティとハダト。

 そして、自分たちを逃がすために命がけで足止めをしてた恩人の姓と同じ言葉に反応したイザークの様子の変化に気づいたニコル。

 

 その中で、ゲラートシリーズというものについてこの場にいる誰よりも詳しく知っている男は、普段のコーヒーのブレンドを愉しむ陽気な顔が消え砂漠の虎の異名にふさわしい鋭い目つきとなってミハエルに視線を合わせた。

 

「……なぜ、僕にそれを聞くのかな?」

 

 なぜ自分に尋ねるのか。

 暗に、本人に聞くのが手っ取り早いしより正確な事を知れるだろうという意図を込めた言葉。

 

 それに対し、ミハエルは首を横に振った。

 

「連隊長は教えてくれなかった。“貴様が知る必要はない”と。だからあなたが知っていることを教えて欲しい」

 

 本人に尋ねたが、回答を拒否された。

 そう答えたミハエルに、ならとバルトフェルドは首を横に振った。

 

「なら、僕も教えるつもりはないねえ。本人が言いたくないって言っているのに、他人がベラベラと喋っていい内容じゃないだろうし」

 

「……そこをなんとか──」

 

「尋問でも拷問でも何でもすればいいさ。本人が何も言わないというなら、僕も答えるつもりはないけど」

 

「……ッ」

 

 バルトフェルドの拒否の回答は取り付く島も与えないものだった。

 それを受け、ミハエルはバルトフェルドに尋ねても無駄であることを悟る。

 

「そうか……」

 

 バルトフェルドに答えるつもりがないのならば、ここにいる用はない。

 立ち去ろうとするミハエルだが、その背中に向けて砂漠の虎が1つのヒントを口にする。

 

「詮索はオススメしないけど、もしかしたら“エンデュミオンの鷹”には聞き覚えがあるかもしれない」

 

「────!?」

 

「ああ、ちなみに今のは独り言だ」

 

 バルトフェルドがこぼしたヒント。

 それを聞いたミハエルは足を止めると、もう目を合わせようとせず狸寝入りを始めたバルトフェルドに向かって一礼をして、ムウを訪ねるために居房区画をあとにした。

 

 残ったのは、捕虜の5名のみ。

 その中で、ミハエルが去ったのを見届けてからイザークがバルトフェルドに声をかける

 

「あの、バルトフェルド隊長、一つお聞きしたいことが」

 

「ゲラートシリーズという言葉については何も答えるつもりはないよ。君らは何も知らないし、想像もつかないでだろう?」

 

「いえ……その、ツヴァイ・ゲラート隊長の姓と同じ言葉に聞こえたもので」

 

「…………」

 

 イザークには、バルトフェルドが口にした“ゲラートシリーズ”という言葉に聞き覚えはなく、その内容も想像できない。

 しかし、恩人であるゲラート隊の隊長の姓と同じ言葉が入っているそれが何なのか気になるところがあった。

 

 ツヴァイ・ゲラート。

 その名を聞き、バルトフェルドの顔色が一瞬変わる。

 

「機会があれば凍土の魔女に直接尋ねてみるといいさ」

 

 しかし、結局バルトフェルドは何も教えることはなく、そういってはぐらかした。

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