その首置いてけザフト共   作:みども

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オロール退場……
ほぼ解説回になります。


ジブラルタル攻防戦 6

 

 

 ジブラルタルの制圧──

 

 それは、地中海へのザフトの進出を許し、本拠地であるヨーロッパに巨大な拠点を築かれ、ハビリスを攻撃にさらされ最前線とされてからというもの、ユーラシア連邦にとっての悲願であった。

 

 それが、この日、ついに成し遂げられた。

 

 ザフトの二大拠点の一角、大西洋・欧州・アフリカの戦線における最大の拠点の失陥は、ユーラシア連邦の本国に住まう多くの人々にとってザフトの脅威から解放され安寧を取り戻すことができたという、歓喜に湧き上がるニュースだった。

 

 そのきっかけは、間違えなくアフリカ戦線でバルトフェルドを撃破したことが発端である。

 砂漠の虎という大きな脅威の排除から、この勝利を成し遂げることができた。

 再び局地戦でエースを撃破したことを契機として、第9艦隊(彼等)は戦線をひっくり返し戦争の流れそのものに影響を与える大きな戦果をあげたのである。

 

 これは間違いなく今尚シベリア特区に押し込められている家族たちの待遇の改善に向けて、ユーラシア連邦を動かせるかもしれない大きな一石になるだろう。

 第9艦隊の面々は感慨深い思いがあった。

 

 だが、休んではいられない。

 ジブラルタルが陥落する前、自爆するマスドライバーは直前に1隻のナスカ級を宇宙に打ち上げていた。

 そして、守備隊が総玉砕を遂げたジブラルタルには、G兵器はなかった。

 

 ならばバスターとイージスが持ち去られた先はただ1つ。

 ナスカ級の打ち上げの前後にて散布されたニュートロンジャマーの影響により正確な情報はつかめていないが、その時ジブラルタルの衛星軌道上の宇宙にはヴェサリウスと目されるナスカ級の存在が確認されたという情報もある。

 

 もしもクルーゼ隊ならば、仲間の仇と取り戻すべきG兵器が1つに揃ったことになる。

 アルトリアとフッカーは、すぐさまそのナスカ級の追撃に動くことを決断した。

 

 こうして、合同部隊は休む間もなくジブラルタルからハビリスのあるビクトリアへと移動を開始する。

 

 ジブラルタルの占領に関しては、地中海とヨーロッパの完全征服を企んでいるという噂のあるハイドリヒが、むしろ地中海艦隊などを説得して大西洋連邦に占領を譲るという意外な事態もあり、当初予想されていた大西洋とユーラシア間の陣取り合戦という無意味な争いは起こらずに済んだ。

 

 一抹の不安はあったが、ヴェサリウスとG兵器を逃すわけにはいかない。

 飛び立ったナスカ級には、アルトリアたちにとってウランバートルにおける因縁があるスコルツェニーもいるはず。

 

 この追撃戦で全てに決着をつけてやる。

 そう意気込んで、ビクトリアに向けて出発した合同部隊。

 

 ──だが、彼等の出港後、ジブラルタルでは想定外の事態が発生した。

 

「この感じは、まさか──!?」

 

 それを最初に感じたのは、ムウ・ラ・フラガだった。

 

 メビウス・ゼロの優秀なパイロットでもあったムウは、生まれながらにして高い空間認識能力と、フラガ家の血に宿る不思議な力である未来予知の能力を持つ。

 今は亡き父アル・ダ・フラガに比べれば弱いが、危険に関しては鋭く発動するムウの未来予知。

 

 その未来予知が、強い警鐘を鳴らしたのである。

 

 ──今すぐジブラルタルから離れろ。()()が全てを飲み込むぞ! と。

 

「あ、フラガ大尉ちょうどいいところに。1つ聞きたいことが──」

 

「悪い! 急いでいるんだ退いてくれ!」

 

「うおっ!?」

 

 その直感に飛び上がったムウは、あることを訊くために彼を探していたミハエルを突き飛ばすほどの勢いで駆け出し、ブリッジに向かう。

 その時、横目に映ったアークエンジェルの窓から見えた光景に、言葉を失った。

 

「なっ──!?」

 

 それは、ムウが予知を受けた通りの事態。

 パチパチと閃光がジブラルタルの残骸の山を照らし、その直後に地獄へ通じる巨大な殺戮のクレーターが口を開けたのである。

 

 大量の巨大なマイクロ波発生装置を用いた、基地自爆用システム“サイクロプス”。

 

 かつてエンデュミオン・クレーターの戦いで彼の多くの戦友たちの命を奪い、そしてウランバートルで多くの民間人の命を奪った、地獄への扉であるクレーターを作る大量殺戮兵器が、大西洋連邦海軍の駐留するジブラルタルにてその地獄の扉を開いたのである。

 

「や、やめろぉぉおおお!」

 

 叫んでも無駄なんてことは、わかりきっている。

 それでも、叫ばずにはいられなかった。

 

「う、嘘だろ……なんで……なんでまた使ったんだよザフトの奴らは!」

 

 ムウの叫びも、その後をついてきてそしてその光景を再び見ることとなったミハエルの怒りの声も、止めることはできない。

 起動したサイクロプスはその発生した莫大なマイクロ波により、ジブラルタルの瓦礫の山とそこで勝利の宴に酔いしれる大西洋連邦海軍を地獄のクレーターの中に引きずり込んだ。

 

「なんだよ、あれは……!?」

「何が起きてるの……!?」

 

 その光景を初めて見た第8艦隊の面々は混乱に陥り──

 

「サイクロプス、だと……!?」

「……ザフトめぇぇえええ!」

 

 ウランバートルの悲劇の再来を犯したザフトの姿に、第9艦隊の面々は怒りを爆発させた。

 

「…………!」

 

「サイクロプス……あ、ああ……! も、申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」

 

 ベニグセンにて、サイクロプスがジブラルタルを飲み込む光景を見せつけられることとなったアルトリアたち。

 惨劇の跡は見たもののその凄惨なクレーターが起こる光景は見ていなかったユウは怒りに震え、艦長のアルトー・ピサロはかつてウランバートルで犯してしまった己の命を持ってしても償いきれないと心に深く刻まれた罪の記憶を思い出し錯乱した。

 

「……スコルツェニー、貴様ぁぁァアアアア!!」

 

 そして、あの戦いで大量の民間人と友軍を目の前で殺戮されるという地獄の光景を見せつけられ、部下を修羅に落とさないように理性を振り絞った裏で凶行に走った男に激しい怒りを覚えたアルトリアは、怒りのあまり椅子から立ち上がってサイクロプスの作り上げたクレーターを再び生み出した男に向けて怒りの咆哮を上げた。

 

 ──悲劇は繰り返された。

 ジブラルタルの落日と呼ばれたこの日、地球連合北大西洋艦隊はその戦力の約半数、7万人を超える人命とブリタニア海軍を率いてジブラルタルの攻略戦を勝利に導いた名将スプルーアンスを失った。

 

 その光景は、アークエンジェルの居房区画の窓からも確認できたことで、イザークたちの目にも映ることとなった。

 

「そんな……ジブラルタルが……!」

「あれは、サイクロプス……!? まさか──!?」

「なんだよこれ……!?」

「くっ……!」

 

 敵とはいえ万単位の命とともにジブラルタルが崩壊する光景に、ニコルは大きなショックを受け、ウランバートルの一件も調べておりスコルツェニーのことも含め知っていたバルトフェルドは驚愕し、何も知らないラスティはただただ殺戮の光景に狼狽し、そしてザフトの闇を知り光を見失わず戦い続けるコーディネイターたちの存在を知り価値観が変わったイザークはその蛮行を見ていることしかできない己の無力さに強い憤りを覚えた。

 

 ジブラルタルの陥落と、サイクロプスによる大量殺戮。

 この一件以降、連合・プラント大戦の流れは大きく動くこととなる。

 

「そうだ、もっと殺し合え……恨みを、怒りを募らせ、相手を呪い、憎悪し、悪意で世界を染め上げるがいい……」

 

 サイクロプスが生み出す地獄の扉の入り口。

 それを衛星軌道上の宇宙から見下ろす金髪の男は、仮面の下で悪意に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ジブルタル攻防戦は、地球連合の勝利だった。

 しかし、被害を鑑みれば到底勝利と喜ぶことなどできるものではなかった。

 

 最も大きな損害を受けたのは、大西洋連邦の北大西洋方面艦隊である。

 総司令官と約半数がサイクロプスによって地獄のクレーターに沈められ、一度は占領に成功しユーラシア連邦も譲歩して手に入れることができたジブラルタルは破壊された。

 

 次に大きな損害を受けたのは、ユーラシア連邦海軍の地中海艦隊である。

 1日目の戦闘でスプルーアンスが指揮をとり前線を立て直していた大西洋連邦海軍と異なり、立て直しよりも抗議を優先して指揮を疎かにしたことで混乱が収まらず、そこを徹底的にザフトに突かれるなどして無駄に拡大させてしまった被害が大きかった。

 

 一方でまるでサイクロプスの存在を予見していたかのようにジブラルタルへの進駐を早々に諦めて大西洋連邦に占領を譲ったハイドリヒの率いる第3方面軍は、前述の2つの海軍に比べて損耗率は比較的抑えられていた。

 確かにジブラルタル攻防戦では特に気炎を吐くアラゴンの戦いの生き残りたちを相手取ったこともあり、損害は少なくはない。最後にシュトラハビッツもろとも地雷で吹き飛ばす暴挙に出たことで巻き添えを食らい失った友軍も多い。

 しかしながら第3方面軍の主力は無傷であり、その戦力は未だに健在であった。

 

 結果としてジブラルタル崩壊の悲劇による厭戦気分の拡大を嫌がった本国の方針により、ヴァレリは失態の責任を取る形で失脚しハイドリヒがジブラルタル攻略の英雄として祭り上げられ大きな権限と人気を獲得することとなった。

 むしろ、第3方面軍内において反りが合わず対立することも少なくなかったシュトラハビッツが戦死したことにより、ハイドリヒとしては得られるものが多かったといえる結果である。

 

 戦功により大将に昇格することとなったハイドリヒはユーラシア連邦陸軍の実質的なトップの地位を獲得し、スエズを中心とする戦略の一手を担うこととなる。

 

 一方、プラントではダッド・エルスマンの息子である“ディアッカ・エルスマン”が強奪に成功した地球連合の新型MS2機とともに凱旋を果たし、ネビュラ勲章を授与されることとなった。

 イージスとバスター。

 この2機のG兵器は事前にヴェサリウスが持ち帰ったデータとともにプラント本国で徹底的に解析され、フェイズシフト装甲を始めとする技術の数々がザフトに取り入れられることとなる。

 

 そして、ディアッカに同行して帰国したスコルツェニー隊の副官により、ジブラルタルの陥落の要因となったアフリカ戦線の崩壊、そしてその契機となった月軌道会戦において、ニコル・アマルフィとオロール・グーデンブルグが地球連合に情報を流しこのジブラルタル陥落──すなわちオペレーション・ウロボロスの破綻を企んでいた証拠が挙げられた。

 

 ジブラルタルの陥落。

 それは早期に地球連合と講和し、プラントの継戦派であるパトリック・ザラたちを地球連合への生贄にしてプラントの実権をナチュラルと結託し手に入れようとしていたシーゲル・クラインとユーリ・アマルフィら穏健派の陰謀によるものであると、その証拠を元にパトリック・ザラは穏健派を弾劾した。

 

 これによりプラントの穏健派に対する心情は最悪のものとなる。

 シーゲル・クラインたちは否定したが、世論の声を味方につけたパトリックに逆らう力は残されておらず、反逆者として穏健派の実力者たちは多くが拘束されることとなった。

 ユーリ・アマルフィも主犯格の1人として逮捕され、彼の元で開発が進められていたニュートロンジャマーの効果を打ち消す装置“NJC”がパトリック・ザラの新政権に渡ることとなった。

 

 こうしてジブラルタルの陥落を契機とし、ヘルマン・スコルツェニーやラウ・ル・クルーゼの暗躍により、パトリック・ザラはプラントの実権と技術と民衆の支持と、すべてを掌握することに成功したのである。

 

 プラントが継戦派一色となり固められたことで、カオシュン宇宙港の攻略失敗以降不安定化していたプラントの政情は安定した。

 

 一方、地球連合では月本部にモントゴメリが持ち込んだG兵器のデータを元に地球連合製MSの開発計画が進められたが、ジブラルタル攻防戦におけるサイクロプスの一件が大西洋連邦とユーラシア連邦に少なくない溝を生み出しつつあり、安定化したプラントとは対照的にこちらの政情は不安定になりつつあった。

 

 そして、そのユーラシア連邦と大西洋連邦が轡を並べて共闘する合同部隊は──

 

 ジブラルタル攻防戦の後、すぐさまスコルツェニー隊の追撃を敢行しようとした彼らだったが、ユーラシア連邦と大西洋連邦それぞれからの命令により、ナスカ級を追い宇宙に向かうはずだった進路を変更することとなる。

 

 理由は2つ。

 

 1つはジブラルタル攻略のために戦力を引き抜いていたスエズ方面の戦線が汎ムスリム会議の支援を受け攻勢を強めるモラシム隊らとの戦闘にて地球連合が劣勢となりつつあり、アラブ方面の戦線への援軍要請が出されたことで、そこへの転戦を命じられたため。

 

 もう1つは、サイクロプスを起動したと目されるスコルツェニーだが、難を逃れた一部の大西洋連邦海軍の将兵の証言により宇宙へは出ておらずゾノで戦場に出ていたという情報があったからである。

 

 ハビリスの使用許可は下りず、何故かG兵器の奪還に動くことも許されず、合同部隊はそのまま中東方面への転戦をするように命じられたため、アークエンジェルとベニグセン、セレコウス、カサンドロス、ツィーテンの5隻からなる合同部隊はスエズへの援軍に向かうこととなった。

 

 位置から考えて、スコルツェニーが生きているとすればスエズのザフトに合流した可能性が高い。

 中東・アラブ方面への援軍に向かったのは軍人としての義務を果たすためだけではなく、サイクロプスを使い大きな被害を出したスコルツェニーを討つためでもある。

 

 第9艦隊の面々はもちろん、第8艦隊からもムウとその部下であるルークがスコルツェニー討伐を強く主張したことから、合同部隊の方針はスエズ方面の戦線の援軍とスコルツェニーの撃破で固まった。

 

 ザンジバル島にて再度補給を受けた合同部隊は、エジプト方面に向かって動く。

 彼らの地球での戦いは、まだ終わらない──

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アフリカ戦線の敗退から、ジブラルタルの陥落などにより地球における戦線の劣勢が続くザフト。

 そんな地球のザフトに、本国の政情の安定化により待ちに待った宇宙からの援軍がカーペンタリアに降りることとなる。

 

「オペレーション・ウロボロスは私の──このパトリック・ザラが達成することを約束します! 卑劣なナチュラルにザフトによる正義の鉄槌を! 我らコーディネイターの自由を勝ち取るための戦いを!」

 

 政権を掌握したパトリック・ザラは、未だにユニウスセブンの核攻撃の記憶が残るプラントの民意を考慮し、NJCによる核兵器の解禁にすぐには動かなかった。

 その代わり、汎ムスリム会議にしかけたように、地球連合を外交面で瓦解させ親プラント勢力の拡大と主敵である理事国の孤立化を目指し、ヘルマン・スコルツェニーが準備を進める戦略の実現に向けての一手に動き出す。

 

 その最初の一手は、クライン政権が失敗を積み重ね実現が頓挫していた、宇宙港をすべて制圧し地球に連合を閉じ込める作戦“オペレーション・ウロボロス”の再始動である。

 

 スコルツェニーがジブラルタル赴任後に接触を繰り返してきた、現在大西洋連邦の傀儡政権が支配している南アメリカ合衆国の反体制派。

 彼らの蜂起を支援するべく、その攻略目標をパナマ宇宙港“ポルタ・パナマ”に定め、宇宙から送り込んだ援軍とともに大規模な作戦を発動した。

 

「オペレーション・スピットブレイク発動! 目標、ポルタ・パナマ! 各部隊、出撃せよ!」

 

 C.E71年4月6日──

 

 パトリック・ザラを新議長に据え一新されたプラント最高評議会にて可決された作戦、ポルタ・パナマ制圧作戦である“オペレーション・スピットブレイク”が発動することとなる。




次回はパナマ攻防戦の前に、合同部隊が挑むスエズ方面の戦いになります。
ジブラルタルではほとんど活躍の場がなかった合同部隊ですが……
紅海の鯱とは思いっきり戦う予定なので、ご期待頂ければ。
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