その首置いてけザフト共 作:みども
キラ君とカレッジの皆さんがいないですが、原作よりだいぶアークエンジェル側の戦力が多いかもしれない……
いや、モラシムさんだぞ!
なんたってあのモラシムさんだぞ!
しかも土俵と言える紅海が戦場だゾ!
ナラキット大丈夫ダゾ!
3月20日──
ジブラルタル攻防戦から1週間が経過したこの日。
アークエンジェルとベニグセン、カサンドロス、セレコウス、ストライクダガーを載せるツィーテンの5隻の艦艇からなる合同部隊は、スエズ方面からの援軍要請に基づき第8艦隊提督デュエイン・ハルバートンと第9艦隊提督カリオン・ウェイブからの命令を受け、北上。
アラビア半島に向かうべくソマリア半島を迂回してアデン湾に差し掛かったところで、ボズゴロフ1隻からなるザフトの奇襲を受け、交戦状態に入っていた。
「フン、連合の援軍か……このモラシムに見つかったのが運の尽きだ、沈めナチュラル!」
紅海の鯱──
ザフトによる連合の対潜水艦装備の駆逐艦などからなる艦隊を一方的に全滅に追い込み大勝した“珊瑚海海戦”にて猛威を振るった猛将“マルコ・モラシム”の率いるモラシム隊である。
鯱の異名の通り海の戦を得意とし、どれほど弱い獲物だろうと一切の情け容赦も油断もなく屠る男。
インド洋を通る合同部隊の情報を入手したモラシムは、アデン湾にて紅海入りを阻むように待ち構え、奇襲を仕掛けてきたのである。
モラシム隊を発見できていなかった合同部隊はこの奇襲をモロに受け、アークエンジェルとカサンドロスが被弾。
カサンドロスが座礁し航行不能に追い込まれたため、スエズ方面への移動を一時中断し、モラシム隊の迎撃をすることとなった。
「ムウ・ラ・フラガ、スカイグラスパー、出る!」
「ミハエル・クズネツォフ、シグー、出撃する!」
「アルトリア・ホーエンハイム、ブリッツ、出るぞ!」
「ユウ・ナガト、バクゥ、出撃します」
グーンとディンを用いて空と海から攻めてくるモラシム隊に対し、合同部隊もMSや戦闘機を次々に出撃させる。
ムウとルークがスカイグラスパーで、ミハエルがシグーで、アルトリアがブリッツで、ユウがバクゥで出撃し、アークエンジェルらとともにザフトを迎撃するべく展開した。
デュエルは戦闘が長期化した際ブリッツやストライクの穴を埋める予備戦力として一先ず待機。ストライクもソードパックを装備し、出撃準備が進められている。
スカイグラスパーとシグーはその機動力を生かして空へと上がり、ディンと空中戦を展開。
海の戦場ではバクゥに活躍の機会はないため、ベニグセンの甲板上に展開しセレコウスら艦隊の護衛を務める。
『連隊長、飛び込むって正気ですか!? 相手はグーンですよ! 武器だってビーム兵器ばっかりだし──』
「ランサーダートを槍として直接振り回せばいい。宇宙戦闘用として作られた機体だ、武装さえあれば地上よりも水中戦の方がむしろ都合がいい」
『りょ、了解しました。ご武運を』
そしてアルトリアはグーンを迎撃するべく、ブリッツにてランサーダートをそのまま槍代わりとして装備し海へと飛び込んだ。
そしてついに初陣を迎える初の純地球連合製量産型MSであるストライクダガーには、ミランダが搭乗することとなった。
ストライクダガーのポジションは、ユウとともに艦隊の護衛である。
「ストライクダガーの初陣だ。撃破されないように気をつけろ、可能な限りサポートする」
「ザフトは全員血祭りなのです! ミランダ・トゥハエフスカヤ、ストライクダガー、出撃します!」
「海に落ちないように注意しろ」
「へへん、バナナボートに乗ったつもりで任せてください!」
「…………」
こうして合同部隊の方も機動兵器を展開する。
スエズを前に、合同部隊と紅海の鯱が海を舞台に最初の激突を起こした。
モラシム隊の戦力は、ボズゴロフ級1隻にディン4機とグーン3機、そしてモラシムがスエズで猛威を振るっているゾノ1機を搭載している。
ボズゴロフ級で奇襲攻撃を仕掛けてカサンドロスを座礁させてから、8機のMSのうちモラシム自らが搭乗するディン3機とグーン2機を出撃させ海と空からカサンドロスとアークエンジェルを守るように展開した合同部隊に襲撃を仕掛けてきた。
ディンで空から敵の迎撃の目をひきつけつつ、グーンで海から奇襲し艦艇を沈める。
それを基本方針として本格的な攻撃を仕掛けようとしたモラシムの目に映ったのは、ナチュラルには扱えないはずのザフトの象徴である機動兵器であるMSが複数展開する姿だった。
馴染みあるザフトのMSであるシグーやバクゥの他に、見たことのない黒色の機体と青白の機体がいる。
さらには連合の新型艦艇と思われる初見の白い巨大な戦艦から、戦闘機が2機発進しており、開かれたハッチの奥には黒色の機体に酷似している未確認のMSの姿が見えた。
「ナチュラルがMSだと……!? フン、鹵獲した機体か。そんなこけ脅しで!」
しかしそんなことで攻撃をためらう鯱ではない。
躊躇わず攻撃を仕掛けるモラシム隊に対し、連合のMSはディンを迎撃するべく戦闘機に続くようにシグーが空に飛び立ち、青白の機体とバクゥは艦上にて艦隊の護衛をするように展開。
そして、黒色の機体は杭のような武器をシールドらしきパーツから取り出すとあろうことかグーンが泳ぎまわる海に自ら飛び込んでいった。
「ハンス、敵のMSが1機海に飛び込んだ! 水中戦仕様の新型MSかもしれん、そちらで仕留めろ!」
『ナチュラルがMS!? 隊長、どういうことですか!?』
「いいから迎撃しろ! 海の戦はグーンの独壇場だということ、ナチュラルに思い知らせろ!」
『りょ、了解!』
G兵器の情報を知らないモラシムは、ザフトが本国で開発した未発表の新型MSが地球連合に捕獲され、裏切り者のコーディネイターが搭乗していると判断した。
戦場では一瞬の迷いが命取りとなる。
たとえ理解に苦しむ光景でも、強引でもなんでもいいから納得する理由を作って目の前の現実を受け入れなければ、混乱する隙に死ぬだけ。それが戦場だ。
理解や裏付けは後回しにして、とにかくモラシムは目の前にいる艦隊、家族を核の炎で奪った憎きナチュラル、憎き地球連合を叩き潰すために、戦いに集中することにした。
「ゲットー、戦闘機とシグーはお前に任せた! 敵の
『了解!』
「フン、ナチュラルがモビルスーツなど……生意気なぁ!」
海に飛び込んだブリッツの撃破をハンスたちグーン隊に命じると、僚機のディンにシグーとスカイグラスパーを任せ、モラシムはバクゥとストライクダガーの守る艦隊に狙いを定めて突撃する。
「フン、狭い戦場でバクゥを乗り回して何ができるかナチュラルめが! 喰らえエェイ!」
モラシムにとっては未知のMSであるストライクダガー。
初見から接近戦を仕掛けるべきではないと判断したモラシムは、ストライクダガーに対して機銃で牽制を仕掛けつつ、レールガンを構えるバクゥに対して機動力を活かした急降下攻撃による散弾銃の攻撃を仕掛けようと試みる。
狭いベニグセンの甲板の上では、バクゥの最大の利点である機動力を生かしきれない。
その弱点を突き、倒しやすい敵から確実に仕留めるべく、近距離ならばバクゥの装甲を蜂の巣にして一撃で破壊できる散弾銃による攻撃を仕掛けるモラシム。
それは、確かに正しい判断ではある。
──相手が対MS戦闘に関してはザフトの精鋭を上回る妖怪でなければ、の話だが。
「──射程はこちらが上だ、その首置いてけザフト!」
太陽を背に降下突撃を仕掛けるモラシムに対し、バクゥがレールガンを構える。
直後、ロックオンすらせずに放たれた一撃がディンの肩翼と機銃を構える方の腕を肘から撃ち抜いた。
「何ッ!? ば、バカなぁ!」
太陽を背に突撃するディンは、敵のバクゥからはまともに見えないはず。
そう思っていたモラシムに対してロックオンすらせずに放たれたレールガンは、対空散弾銃の射程の外から翼と片腕を正確に撃ち抜き破壊して機体の制御を奪う。
攻撃の予兆であるロックオン警報すらなかったこともあり、モラシムは躱しきれずその直撃を受けた。
閃光弾で敵の目をくらまし、MSを強奪するのは彼らにとって常套手段である。
しかし当然自分たちの作る閃光で目をくらますなんて愚かな真似をしない彼らは、遮光眼鏡などの閃光対策の道具を常備している。
太陽を背にするという古典的な方法で目くらましを狙ったモラシムだが、ユウは冷静に対応しレールガンを駆使してモラシムのディンに攻撃を当てることに成功した。
牽制射撃ということもあり問題なく対応できているとはいえ、ザフトのMSとは異なる面が多いストライクダガーの操縦はミランダの手にまだ馴染んでいない。
それを狙う銃撃の手を潰してストライクダガーの安全を確保するとともに、ディンの最大の武器である三次元的な機動戦を可能とする飛行制御のためのパーツである翼を破壊してその機動力を削ぐ一撃。
コクピットを狙わなかったのは初陣のストライグダガーに花を持たせるためでもある。
ユウの操るバクゥのレールガンの一撃によってモラシムのディンは落下するしかない。
そこにまちかまえるのは、ビームライフルを構えるストライクダガー。
「おのレェ! 私が、こんな裏切り者共に──」
「ナイスなアシストなのですよ、ユーさん! オラァ、首よこせよザフト!」
「ぐっ──!?」
脱出装置を起動して、ディンから離脱し海に落ちるモラシム。
直後、ミランダの放ったストライクダガーのビームライフルがディンの薄い装甲を貫き背部のブースターまで破壊、バーニアを暴発させ機体を爆散させた。
「ざまあみやがれ、なのです!」
「……こちらナガト機、周辺海域の警戒に戻ります」
一瞬の攻防によるモラシム機の撃破に、ふふんと胸を張るミランダ。
1機撃破しただけで戦闘が終わったわけではないのだが、ミハエルやアルトリアが負けるはずがないだろうからまあ良いかと他の敵がいないかの警戒に戻るユウ。
『お待たせしました、ソードストライク現着! ──って、あれ?』
モラシム機が撃破された後、ベニグセンの甲板にアークエンジェルから出撃したソードストライクが降りる。
しかしひとまず艦隊を襲う目先の脅威は潰したし、ミハエルたちの方も十分対抗できる戦況であり問題ないため、今回の戦闘で活躍の場には恵まれなかった。
こうして、紅海の鯱の異名を誇る男のアークエンジェルに対する最初の攻撃は何もできずディンを一瞬で撃破されたことにより手も足もでずに終わるという無様な結果となった。
「フン! この程度で勝ったと思うなナチュラルどもめ、私のゾノを準備しろ!」
とはいえ、モラシムの真骨頂は水中の戦闘である。
ボズゴロフ級に先に引き上げたモラシムは、ゾノの出撃準備に取り掛かる。
一方、空の戦場ではシグーとスカイグラスパー2機からなるミハエル、ムウ、ルークの部隊が、足止めを任されたモラシムの僚機である2機のディンと接敵した。
「基本は一撃離脱であることを忘れるなルーク! 撃ったら一旦離脱して、俺がひきつけたディンの背中にかましてやる! それを奴さんを落とすまで繰り返せ! いいな!?」
『了解です、少佐!』
ジブラルタル攻防戦の後、特に功績を挙げたわけではなかったがサイクロプスによる艦隊の大損害により消沈した士気高揚のためにもと祭り上げられ、先日少佐に昇格した“エンデュミオンの鷹”ことムウ・ラ・フラガ。
トーマスらG兵器の正規パイロットたちを護衛しヘリオポリスに入港してからというもの、ずっと部下として隣で戦い抜いてきたルークとともにスカイグラスパーを駆り、2機のディンの片方を連携して攻撃する。
スカイグラスパーは最高速度においてディンを上回る。
その速力を活かし、ムウがディンをひきつけたところで背後を取ったルークが一撃離脱の攻撃を仕掛けるという戦い方でデイを相手に2機で渡り合っていた。
「小蝿が、ちょこまかと……! 落ちろナチュラルが!」
「へっ、当たるかよ!」
ムウの巧みなスカイグラスパーの操縦に翻弄され、なかなか捉えきれないディン。
そこへルークのスカイグラスパーがミサイルを撃ち込む。
『対空ミサイル発射!』
「ロックオン警報!? ちょこざいな──!」
ムウのスカイグラスパーの撃墜に躍起になるあまり、背後の警戒がおろそかになっていたディン。
そこへルークの扱うスカイグラスパーが背中を狙ってミサイルを撃ち込む。
しかしロックオンを探知したことでコクピットに鳴り響いた警報によって狙われていることに気づいたディンのパイロットにより、そのミサイルは散弾銃で直撃前に破壊された。
『くっ──!』
「落ちろナチュラルがぁ!」
「させるかよ!」
すかさず反撃に出てルーク機を落とそうとするディン。
しかしそこに今度は逃げに徹していたはずのムウが機体後部についている砲塔を回頭、ディンに対して砲塔式大型キャノン砲を発射して片足を撃ち落とした。
「ぐあっ……!? ざっけんなよ小蝿風情が──なぁ!?」
飛び交う2機のスカイグラスパーに翻弄され苛立ちを募らせるディンのパイロット。
しかしその時入ってきたモラシム機のロストという事態に驚愕し、隙を見せてしまう。
「そこだ!」
『これで!』
「しまっ──ぐああぁぁぁ!?」
その隙を見逃さなかったムウ。
すかさずルークにも声をかけて、キャノン砲とミサイルを撃ち込み、見事な挟撃でディンの撃破に成功した。
「よしっ一丁上がり!」
『さすがです、フラガ少佐!』
「お前もなルーク! タイミングばっちりだったぜ!」
本来、1機のディンと渡り合うには5機の戦闘機が必要。
しかしその戦力比を的確な連携によって覆し2機で撃破に成功したムウとルークは、お互いを称え合いその勝利に歓喜の声をあげながらアークエンジェルへ帰投した。
そして、もう1つの空中戦。
ミハエルの操縦するシグーとモラシム隊の僚機のディンの一騎打ちは、お互いに空中を縦横無尽にとびまわれる高機動性を売りとしながらも、地球の重力圏においてはやはりディンがスペックにおいては上回るため、ミハエルの方が不利かと大方は予想するだろう。
だが、機体の多少のスペックの差ごときひっくり返すのが彼ら第9艦隊である。
「──首置いてけザフト!」
「ば、バカな! 俺が、こんな裏切り者なんかに──!?」
ゲットーの操縦するディンは、構えられる銃口や機体の動きの癖から射線を予測するミハエルによりロックオンすらさせてもらえずに躱すシグーに翻弄され、かと思えば瞬く間に死角を取りロックオンすらしていないのに正確に当ててくる早すぎる銃撃によって翼、腕と次々に機体を破壊される。
そして飛行制御すらできなくなり、腕も撃ち抜かれ、バーニアも破壊され、落下するしかなくなったところにシグーが止めと言わんばかりに重斬刀を振り抜き突撃してくる。
「首とった!」
「も、モラシム隊長──」
横一文字に振り回された重斬刀によってディンは切り裂かれ、ゲットーは乗機諸共身体を両断され絶命する。
火花やオイルとともに血しぶきを切り裂かれた胴体部から撒き散らし、ゲットーのディンは絶命した乗り手とともに残骸となってインド洋の海に落ちていった。
空と海上の戦いは、合同部隊の完勝で決着となる。
しかし、紅海の鯱と恐れられる男の舞台の真髄は海中の戦闘。
その土俵に自ら飛び込んできた黒い機体は、まさにハンスたちグーン隊にとっては飛んで火に入る夏の虫である。
「自らグーンに海中戦を挑むとは!」
「思い上がるなよ裏切り者!」
「…………」
ランサーダートを片手にグーンの戦場である海の中に自ら飛び込んだブリッツ。
しかしそのコクピットにて敵を見据えるパイロット──アルトリア・ホーエンハイムの目には恐れの色は一切無い。
モラシム隊と合同部隊の戦闘。
凍土の魔女が、鯱の土俵である海中の戦場にてグーン隊と対峙する。
それは、グーンこそが海の王者であるというザフトのプライドを砕き、G兵器という大西洋連邦とオーブの開発した新型MSの性能を見せつけることとなる戦いとなる──