その首置いてけザフト共   作:みども

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原作と同じなのは作戦名だけです。


オペレーション・スピットブレイク 1

 

 

 紅海の鯱の異名で知られたザフトの猛将マルコ・モラシムが討ち取られた紅海海戦。

 

 アフリカにおける、バルトフェルドのバクゥを撃破したジェリド湖近郊の戦闘。

 そしてアデン湾の戦いでブリッツにより撃破されたグーンに続き、紅海海戦にてゾノがストライクによって水中戦で撃破されるというこれらの戦いは、ザフトのMSをはるかに凌駕する性能のMSを地球連合が完成させたことを証明した戦闘となった。

 

 G兵器というMSの登場は、確実にこの連合・プラント大戦に新たな戦場を作り出すこととなる兵器となった。

 

 これにより、G兵器という存在を両陣営は深く受け止め、ザフトはアークエンジェルの合同部隊を強く警戒しスエズを防衛線としてシナイ半島までアフリカ戦線を後退。

 実質的にアフリカ大陸から地上戦力を完全に撤兵することとなり、地中海の制海権も連合に明け渡すとともにハビリス攻略を諦めるほどに戦線を大きく縮小した。

 

 一方、シーゲル・クラインを追い落としクライン派と呼ばれる穏健派を議会より駆逐。

 パトリック・ザラの元、継戦派一色としてプラント最高評議会を再編してプラントの政情を安定化させることとなった、ニコル・アマルフィとオロール・グーデンブルグをスパイとする証拠のでっち上げを行いジブラルタルを破壊したヘルマン・スコルツェニーは、副官らをディアッカ・エルスマンとクルーゼ隊が強奪に成功した2機のG兵器とともにプラント本国へと打ち上げた後、南アメリカ合衆国に潜伏して活動を続けてからカーペンタリアに入った。

 

 ジブラルタルの陥落により、ザフトの地上におけるマスドライバー施設を保有する唯一の基地となったカーペンタリア。

 ここにはパトリック・ザラがトップとなってから発令された最初の大規模作戦を遂行するため、縮小したアフリカ・地中海方面などから引き抜いた戦力や宇宙から降下した戦力など、多くのザフト軍が集結しつつあった。

 

 そこでスコルツェニーは、G兵器とともに地上に降りてきたクルーゼ隊と、それに同行してきた副官と邂逅する。

 

 見覚えのある褐色肌に金髪の赤服の後ろ姿と、その隣に立つ金髪を帽子に収めた黒服を確認したスコルツェニーは、2人の背後から声をかけた。

 

「ディアッカ・エルスマン君! なんだ君も地球に降りてきたのか」

 

「──! す、スコルツェニー隊長……お久しぶりです」

 

「ん? そんな久しぶりだっけ」

 

 スコルツェニーに声をかけられたディアッカは、ジブラルタルから宇宙に上がることとなったあの日、ダコスタやオロールに対して味方とは思えない言葉を投げつけてきた冷血漢との再会に、一瞬肩が跳ねながらも冷静に振り向いた。

 

 そこにいたのは、光を一切灯さない闇の中を彷彿とさせる、真っ黒な瞳を持つ白服の男。

 表層に軽薄でひと好きそうな笑みを浮かべながらも、その深い黒一色の瞳だけは一切人らしい温もりを感じさせない。

 

「しかし君のようなザフトの新たな英雄がいれば──って、あれ? 他にもいらっしゃったようで」

 

 スコルツェニーの方は戦友との再会を喜ぶように肩をポンポンと叩きながら彼らの輪の中に入り、そこで副官の他に赤服と白服、緑服にそれぞれ身を包むザフトが3人いたことに気づく。

 

 1人は色の落ちた薄い金髪を伸ばし、仮面で目元を隠した白服の男。ディアッカが所属していた部隊の隊長であり、彼と2機のG兵器をジブラルタルから受け取りプラントへ帰還を果たしたクルーゼ隊を率いる“ラウ・ル・クルーゼ”である。

 1人は緑服の金髪の青年で、こちらもザフトでは有名な若くして“黄昏の魔弾”の異名を持つこととなった将来有望なエースの1人である“ミゲル・アイマン”である。

 そして2人に挟まれるようにいた1人は、中性的な美形の顔立ちと紺色の髪が特徴の、ザフトの最高権力者を父親に持つ赤服の青年であった。

 

「これはスコル──」

 

「お、クルーゼ隊長と黄昏の魔弾君も──って、委員長閣下のご子息殿!?」

 

 クルーゼとミゲルをみて、そういえば彼らは同じ部隊だったなと納得しながら赤服に視線を移したスコルツェニー。

 そこでクルーゼが折を見て声をかけようしたが、赤福の青年が誰であるかに気づいた瞬間スコルツェニーの表情がへらへらした胡散臭い笑みを崩壊させて驚愕一色となった。

 

 飛び跳ねるように慌ててディアッカの肩から手を離したスコルツェニーは、驚かれるという反応に困るアスランに対して敬礼ではなく深々と頭を下げつつ三歩後ろに下がった。

 

「これは大変失礼いたしました、ご子息殿。戦友の皆様、そして隊長殿との歓談に無作法に突っ込むとは無礼千万の極みというもの」

 

「い、いえ、あの私は別に──」

 

「委員長閣下にはくれぐれも御内密に。いやマジでチクらないでください物理的に首吹っ飛びますから私の」

 

「飛べばよろしいかと」

 

「おうコラ副官、次の機会があったらお前を囮に取り残したろうかい?」

 

 冗談が通じないアスランは全然気にしていないと言うが、その反応を面白がっているだろうスコルツェニーは大げさな謝罪を続ける。

 しかしそれではクルーゼ隊の面々が呆れているし、話も進まないしと、このうるさい乱入者を副官が一言で切り捨て、それを受けたスコルツェニーがまたくだらないやり取りを始めた。

 

 劣勢が続く地球の戦線を大きく動かす一大作戦。

 それを前に緊張しているアスランやディアッカら若手は、スコルツェニーと副官のくだらないやり取りを見て、お互い助けを求めるように目線を重ねて、そしたら相手も同じことを思っていたことに気付き、それがなんとも言えず自然と固まっていた表情が緩んだ。

 

「笑ったな副官」

「笑いましたね隊長」

 

「いい笑顔だね」

「気持ち悪いですよ変態」

 

「……君さ、流石にいい加減怒るよ」

 

「お仕置きですか? いやん変態」

 

「マジでニャンニャンなお仕置きするぞゴラァ!」

 

「いけません。委員長閣下──いえ、議長閣下にご報告をしなければ」

 

「やめろまじでこの首が物理的にも立場的にも空の彼方に吹っ飛ばされる!」

 

 アスランとディアッカが笑ったことに、井戸端会議する奥様のように片手を口元に添えてヒソヒソと──と言っても普通にクルーゼ隊の面々にも聞こえているが──またもくだらないやり取りをするスコルツェニー隊の2人。

 そして副官が煽り、隊長がキレて、副官がそれを平然と受け流しながら反撃して隊長が平謝りするといういつもの流れ。

 スコルツェニーの声が注意を引き、それを見ていた周囲のザフトの中にも緊張で硬くなっていた表情が和らぎ笑い出す者が現れた。

 

 クルーゼも口角が上がっているが、目元の仮面を取らずとも愛想笑いであることがわかる。

 内心は絶対に呆れているだろう。

 

 一方、アスランは周りのザフトたちの中に笑う者が出たことで、2人が周囲の味方の緊張をほぐすためにあえてこのふざけたやり取りをしていたのだと気付いた。

 パトリックの息子という立場をダシにされたのは少し不愉快に感じるところもあったが、大げさなリアクションを取るスコルツェニーと無表情で容赦なく隊長を煽り倒す副官のやり取りは、こんな隊長と副官の形もあるのかとその壁を一切作らない関係を少しばかり羨ましく思えるものだった。

 

 一方、周りのザフトに混じり2人のやりとりを笑っていたミゲルが、キリのいいところでスコルツェニー隊の2人に声をかけた。

 

「いや、あんたら面白いな。ガチガチになってた連中の気分もだいぶほぐれたみたいで」

 

「オイオイオイ、ネタを明かすな。こういうのは意図を隠すさりげなさっていうのがミソなんだから」

 

「ミソも何も隊長が古臭い例えを出す度し難い変態であることはまぎれもない事実」

「副官がひどい!」

 

「ハハッ! もう慣れさえ感じさせる、息ぴったりじゃないですか」

 

「え? マジで? なになに、私ら夫婦みたいな一体感出ちゃってる?」

 

「隊長と夫婦などおぞましいことです。全身が粟立つじゃないですか」

 

「照れちゃって、ツンデレだなぁ副官は──イッテぇ!? おま、お前! 隊長のつま先ヒールで踏みつける副官がどこにいる──と思ったら今まさにここにいたわ!」

 

 ミゲルが会話に加わっても、もはやクセなのかくだらないやり取りが止まらないスコルツェニー隊の2人。

 仕舞いには副官がうるさい隊長のつま先を踏みつけ、よほど痛かったのかスコルツェニーはヒールで思いっきり踏まれたつま先を抑えてその場に倒れて転がりだした。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 副官の踏み付けは怪我をしてもおかしくない1発だった。

 スコルツェニーがオーバーリアクションをする人物であることはわかっていたが、しかしのたうちまわる白服に本当に怪我をしたのではないかと思ったアスランが心配して声をかける。

 

 それにスコルツェニーは大丈夫だと転げまわりながら返し、アスランの手を煩わせないように副官の方が自らの隊長を蹴り出して排除してからクルーゼ隊の面々に向き直って頭を下げた。

 

「我が部隊の無様な隊長が失礼致しました、クルーゼ隊長、エルスマン様、ザラ様、アイマン殿」

 

 相変わらず無表情のスコルツェニー隊の副官。

 しかし気品ある美しい所作で行われた謝罪は、本人の長身の美女という外見も相成り、ディアッカやミゲルだけでなくアスランも思わず見入ってしまうものがあった。

 

「いえ、お気になさらず」

 

 一方、顔が赤くなる若者達に対して口元の愛想笑いを一切崩さないでいるクルーゼが、頭を上げたスコルツェニー隊の副官に気にしていないと返す。

 

 それに対して「ご厚情に感謝を」と再び美しい所作で一礼してから、スコルツェニー隊の副官は復活して隣に立った自らの部隊の隊長の白服を示してこのうるさい乱入者の紹介を行う。

 

「紹介が遅くなり申し訳有りません。彼がスコルツェニー隊の隊長、ヘルマン・スコルツェニーです」

「ヘルマン・スコルツェニーだ。これでも白服だからな、この副官みたいにいじるようなことがあれば──」

 

「いじるも馬鹿にするもご自由に」

「私の威厳は空の彼方へってか!? ……いやでも、クルーゼ隊っていいとこの坊っちゃまだのザフトのエースだのから逆らえませんわ」

 

 パトリック・ザラの息子と、タッド・エルスマンの息子。

 さらにはネビュラ勲章を受領したことのあるパトリックの右腕とも言われるクルーゼに、黄昏の魔弾の異名を持つ若きエースであるミゲル。

 平凡な白服である自分が逆らえる相手ではないと、空の彼方に自らの威厳を放り投げるスコルツェニー。

 

 スコルツェニーの態度が表面上のことであることを知っているディアッカやクルーゼはそれを額面通りに受け取ることはせず、ミゲルは自分が異名持ちのエースである事を知ってもらえたことに機嫌をよくし、アスランは父の影響で腰が低い対応をしていると知って複雑な表情となる。

 

 そんなクルーゼ隊の面々に、スコルツェニー隊の副官が自己紹介をする。

 

「私は“ドライ・ゲラート”。スコルツェニー隊の副官を務めています。以後お見知り置きを」

 

 ドライ・ゲラート。

 スコルツェニー隊の副官の名前を聞き、クルーゼ隊の面々が反応する。

 

「……ほう」

 

 クルーゼは愛想笑いばかり浮かべていた口元を一瞬驚いたように小さく開き、先程までの愛想笑いとは違う笑みを浮かべた。

 

「ゲラート──ってことは、まさかゲラート隊長の妹……?」

 

 ディアッカ、アスラン、ミゲルのほうは、その姓が月軌道会戦で討たれたゲラート隊の隊長と同じであることから、ツヴァイの妹ではないかという仮説が浮かぶ。

 

「あ〜と、それはですなぁ……」

 

「いえ、ツヴァイ・ゲラートは私の姉妹ではありません」

 

 ディアッカの漏らした言葉はスコルツェニー隊の2人の耳にも入り、スコルツェニーは気づいてほしくなかったと言わんばかりに参ったなみたいな表情となって後頭部を搔き出し、ドライはディアッカのほうに顔を向けて明確な否定の言葉を口にした。

 

(なんで姉妹……? えっ、ゲラート隊長って女なのか!?)

 

 アスランは偶然姓が一緒なのかと1人で納得した一方、ディアッカはドライのその否定の返答の中にあった言葉を聞き逃さなかった。

 

 モニター越しだが、ディアッカはツヴァイと面識がある。

 ツヴァイはペストマスクをかぶっていた上に、かなり大きめの白服の上着をしっかりと着ていた。

 一度プラント本国に帰ってから恩人のことを調べたが、ツヴァイはクルーゼのように調べてもいつも人の目があるところではペストマスクをかぶっており素顔がわからず、データ上では性別が男ということになっていた。

 だからディアッカは勝手にツヴァイを男だと認識していたのだが、ドライは確かに姉妹と言ったし、そもそもデータで男ということにされているだけでその素顔や体格、声などはほとんどが不明だった。

 

 女だったとしても、かなりの長身だが可能性がないわけではない。

 それに、ドライも女性だがクルーゼ並みの長身である。調べたところ、ツヴァイも同じくらいの身長だった。

 

(いや、ちょっと待て!)

 

 そこまで来て、ディアッカはより混乱した。

 何しろ、ディアッカが知るドライと三つ子姉妹ではないかと思うほど瓜二つの外見をもつ人が、スコルツェニー隊に少なくとも2人いた。

 姉妹ではないと言ったが、例えばツヴァイが母親とかで、3人が娘だったりすれば、母娘の関係だから姉妹ではないというドライの言葉も納得いくのであって──

 

「ダメだ訳わからねえ!」

 

 一大作戦の決行が近づいている緊張感も相成り、ディアッカの脳はこの訳のわからない事態に浮かんだツヴァイの身元に関する推測の数々に許容オーバーを起こして混乱をきたした。

 

「ディアッカ!?」

「何があった!?」

 

 突然頭を抱えたディアッカに、ミゲルとアスランが驚く。

 そしてディアッカが混乱をきたした元凶であるドライは、頭を抱えるディアッカの頬に手を当てて、無表情を崩し優しげな微笑みを浮かべて落ち着くように促した。

 

「落ち着いてディアッカ。あなたが気にすることではありません」

 

「あ、はい……」

 

 ジブラルタルからプラントに戻る道中、精神的にも身体的にも疲れ果てていたディアッカが甘受したひと時。

 癒しを与えてくれた2人と同じ顔のドライの微笑みを見て、頬に触れる手のぬくもりを感じて、あのひと時を思い出したことによりディアッカの思考は停止して、落ち着きを取り戻した。

 

「エルスマン様、行きましょう。隊長、あとお願いします」

 

「はい……」

 

「ディアッカ!?」

 

「おっとットォ! 待って待って、心配しなくても大丈夫だから! 少し休ませてあげるだけだから、ね!」

 

 ドライに促され、フワフワした状態となったディアッカが誘導されるままに離れていく。

 さすがにディアッカの様子がおかしいことに気づいたアスランが引き留めようとするが、その前にスコルツェニーが立ちふさがった。

 

 アスランを止めたスコルツェニーは、クルーゼに目配せをする。

 それを受けたクルーゼは口元に再び張ってつけた愛想笑いを浮かべると、アスランの方に手を置き仲間を心配する若者をなだめる。

 

「落ち着きたまえアスラン。ディアッカは大丈夫だ。彼の言う通り、彼の副官はディアッカを休ませるだけだろう。地球でずっと戦い、1人になって帰ってきたばかりだ。我々を気遣い見せていなかった疲労が残っていたのだろう」

 

「は、はい……」

 

 クルーゼにも止められたことで、アスランは何も言えなくなった。

 俯向くアスランの目を盗み、スコルツェニーがクルーゼに感謝を伝えるように合掌する。

 てへへなんてふざけた表情を浮かべたことには、クルーゼだけでなくミゲルまで似合わねえと冷たい目を向けたが。

 

「さて──」

 

 ディアッカとドライがいなくなった中、クルーゼが場を仕切り直しを図る。

 ドライと顔を合わせていたところ、彼女が自己紹介をする直前にスコルツェニーが入ってきたことで中断していたが、顔合わせということでドライにクルーゼ隊の面々が自己紹介をしていたところである。

 

 ドライは去ったが、隊長であるスコルツェニーへの挨拶がまだだったと、クルーゼはスコルツェニーに向き直り敬礼をした。

 クルーゼが敬礼をしたことで、ミゲルとアスランもそれに倣いスコルツェニーに敬礼をして、スコルツェニーはそれに応えるように敬礼をする。

 

「お久しぶりです、ヘルマン・スコルツェニー隊長。この度の作戦では轡を並べる戦友、蒙古戦線や新星攻防戦で東アジアを相手にご活躍されたあなたと共に戦えるとは光栄の至り。今作戦の勝利も確実なことでしょう」

 

「こちらこそお久しぶりですね、ラウ・ル・クルーゼ隊長。私のほうも世界樹攻防戦でネビュラ勲章を授与されたザフトの誇るエースとともにこの作戦で戦えるとは光栄です。今度の主敵は貴方が鉾を交えた経験の多い大西洋連邦になりますから、その力量頼りにしてますよ」

 

「新議長閣下の御為、微力を尽くす所存です」

 

 隊長同士の挨拶を交わしたスコルツェニーが、アスランとミゲルのほうに目を向ける。

 顎に手を添えてまじまじと2人の若者の顔を見ると、闇一色の目を隠すように目を細め歯を見せる笑顔を浮かべた。

 

「いやぁ、改めて見ると壮観だよな! 黄昏の魔弾こと、ミゲル・アイマン! 君の噂はかねがね聞いているよ、もうMSパイロットとしてなら俺より断然腕前上でしょ?」

 

「またまたご謙遜を! 先のジブラルタルでもナチュラルの艦隊を相手に上げられた活躍は聞いています」

 

「謙虚なのがまたいい若者じゃないの!」

 

 ミゲルを気に入ったらしいスコルツェニーは、謙遜する彼の肩をポンポン叩き笑う。

 声色も表情も確かに笑ってはいるのだが、アスランにはどうしてもその真っ暗な目だけが一切笑っていないように見えた。

 

 スコルツェニーは、今度はそのアスランの方を向く。

 ミゲルとは違い、スコルツェニーが見るアスランはパトリック・ザラの息子というのが大きな比重を占めている。

 

「うーん、委員長閣下というよりは、母親譲りかなその外見。君のお父上には良い待遇をいただいていますからね、ありがたいことです」

 

「は、はあ……父も、あなたのことは信頼しております」

 

 そんな会話をする間柄ではない為、アスランなりの社交辞令だが、スコルツェニーはそれを信じたのかそれともまたふざけ出したのか、再びオーバーリアクションを始めた。

 

「え、マジですか!? 国防委員長、信頼してくださっているの!?」

 

「あ、いや、それは……」

 

「くぅううう! 部下のパワハラ、無能の尻拭い、訳わからん魔女の来襲と理不尽に悩まされる中……委員長閣下は信頼していただいているとはなんつー嬉しいことを! 我が子に言った言葉だ、これは事実間違えない!」

 

「うっ……」

 

 冗談の通じないアスランはスコルツェニーのおふざけを真面目に受け取ってしまい、良心の呵責に悩まされる。

 勝手に言ったことだと正直に告げればさればそれで傷つくだろうし、しかしとっさにでまかせを言ったことを隠すとこの喜ぶスコルツェニーに対して申し訳ない。そもそも彼の思うような親子の関係ではないと。

 苦悩するアスランに気づいていないのか、スコルツェニーはアスランの両肩をがっしりと掴むと、真っ暗な目以外の表情と声全てを使ってアスランに頼み込んだ。

 

「ここだけのお願いですアスラン・ザラ様。どうか、どうか閣下には、どうか今後ともよろしくお願いいたしますと、このスコルツェニーを存分に活用されますようお伝えいただきたい……!」

 

「あ、いや……」

 

「あわよくばこのあふれんばかりの我が忠誠をお伝えいただき、フェイスの推薦に一言花を添えていただければ──」

 

「そ、それは──」

 

「──お戯れはほどほどに願いますかスコルツェニー隊長。私の部下をあまり困らせないでいただきたい」

 

 どう応対すればいいかわからずしどろもどろになるアスランを見かねたクルーゼが助け舟を出す。

 クルーゼによってアスランから引き剥がされたスコルツェニーは、あははと苦笑いを浮かべて引き下がった。

 

「あはは、失礼しました。いやね、クルーゼ隊長。あなたの部下をいじめるつもりなんてのは毛頭ない訳ですよ」

 

「…………」

 

「無言の圧力かけるの勘弁してほしい。仮面で隠した顔ってのはそれだけで威圧感ありますから」

 

「無論、狙っていますとも」

 

「おっかねえな!」

 

 スコルツェニーと以前も面識があるらしいクルーゼ。

 彼のノリにも理解があるのか、スコルツェニーのおふざけに合わせ始めた。

 真面目なクルーゼらしからぬそのセリフには、ミゲルだけでなくアスランも驚く。

 

「アスラン、ミゲル。私はディアッカとともに後で戻る。先にヴェサリウスの方に戻るように」

 

「「ハッ!」」

 

 そんな2人に先にヴェサリウスへと戻るように伝えるクルーゼ。

 それを受け、スコルツェニーに自分たち部下に聞かれたくない話があると理解したアスランとミゲルは、敬礼をしてからクルーゼの元を離れヴェサリウスへと戻っていった。

 

 それを見送った2人の白服は、その若者たちの姿が人混みに消えて見えなくなると、多くのザフトが集う場から少し離れ人気のない廊下の方に出ていった。

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