その首置いてけザフト共   作:みども

76 / 95
しばらくザフト側の場面が続きます。
2人の白服の会話からになります。


オペレーション・スピットブレイク 2

 

 

 人気のない通路に出たクルーゼとスコルツェニーは、周囲に人がいないことを確認すると、部下の前で見せていたそれまでの親しげな雰囲気が消え失せ、静かな通路に合う冷たい空気をまとった。

 

「私の部下に何をした、ヘルマン・スコルツェニー」

 

 2人きりになり、クルーゼはアスランたちの手前スコルツェニーの頼みに応じて1度は見逃したディアッカの様子がおかしかったことについて責める。

 それに対し、スコルツェニーは白々しい態度で知らないと答える。

 

「知らねえよ。副官が何したのかは想像つくけどあくまで私の想像だし。まあ、害のあることはしてないだろうが」

 

「…………」

 

「ニコル・アマルフィならばいざ知らず、ディアッカ・エルスマンにそういうことをする理由は私にはない。おそらく大人なひと時を過ごしただけだ」

 

「……ならばそういうことにしておこうか」

 

 穏健派であるユーリの息子であるニコルならばともかく、パトリックに近い過激派であるダッドの息子であるディアッカに対して()()から流れているものを使う理由は確かにない。

 しかしディアッカに手を出しておらずとも、それでもスコルツェニーの想定したひと時というのがクルーゼにとっては胸糞悪い話であることには変わらない。

 

 珍しく声にトゲがある口調で引き下がったクルーゼに、スコルツェニーが今度はこちらの番だと責める。

 

「しかしクルーゼさんよ。ジブラルタルを生贄にしなければいけなくなった件、元をたどればお前の連合が建造した新型MSの強奪が失敗したのが元凶だぞ。あいつらがアフリカに魔女を連れて降りてこなければ、もしくは5機全部しっかり確保していれば、バルトフェルド隊が負けることも、ジブラルタルが追い詰められることもなかった。てめえこの野郎、こっちがあれだけ苦労していた中、宇宙でノンビリしやがって。恨むからな」

 

 スコルツェニーはクライン派の一掃とザラ政権の盤石な確立のための生贄として、ジブラルタルを生贄にした。

 しかし本来は地球におけるザフトの二大拠点の一角までもを生贄にするつもりはなく、ゲラート隊の犠牲でニコル・アマルフィをスパイとしてでっち上げる予定だった。

 そんな思惑が少しジブラルタルを留守にしていた間に狂い、月軌道会戦でツヴァイが討たれ、アフリカ戦線に降りた魔女が奪還したブリッツでバルトフェルドを破りアフリカ戦線を大きく押しもどすという事態が発生したため、やむなくオロールとニコルが結託してスパイをして情報を流しジブラルタルの陥落まで発展したというシナリオに変更することとなった。

 予定通りザラ政権は確立し、穏健派は完全に排除され、核の炎も復活したが、しかしジブラルタルの損失という大きな代償がつくことになったし、想定外の事態の軌道修正のためにスコルツェニーの手間が増えまくったのである。

 

「ニコルが捕虜になるとか、魔女に目をつけられるとか、あれだけ援軍得たのに足つき逃して、そしてお前の部隊以外毎回壊滅とか、疫病神か? こっちの負担がどれだけ増えたと思っているの?」

 

「しかし、ジブラルタルの陥落がクライン派の筋書きの一つであるというこの上ない糾弾の後押しとなる結果になったではありませんか。おかげで連合は慢心しており、付け入る隙が大きくなっている。むしろ本命の工作の方はやりやすかったのでは?」

 

「……それを言われては、まあ確かにな」

 

 クルーゼの論に、スコルツェニーはまあそれは確かに一理あるとあっさり納得する。

 実際、ジブラルタルの陥落は自爆が間に合ったことで大西洋連邦の艦隊に大打撃を与えた上に、アフリカ、地中海、大西洋、欧州の戦線における連合の勝利が確定したことで、もともと寄せ集めの勢力である連合に慢心を与えることとなった。

 おかげでスコルツェニーが進めた工作もうまくいき、ザフトの劣勢を見てユーラシアや東アジアがかけてきた圧力に反発した汎ムスリム会議の親プラント加盟と地球連合への宣戦布告、参戦という収穫を得ることができた。

 彼らの支援により、カーペンタリアはインド洋に未だに制海権を持ち、スエズ方面への補給も確保できている。

 それでも懲りずに東アジア共和国は赤道連合への圧力を、大西洋連邦は南アメリカへの、ユーラシア連邦はスカンジナビア王国への圧力を強めさらなる徴兵や物資の徴収を求める恐喝を仕掛けており、彼らの中にはプラントに接近する勢力もあり親プラント勢力の拡大工作がやりやすくなっていた。

 

 それは地球連合の慢心からくるもの。

 この戦況ですでにもはやザフトは負けたも同然と思い込んでいる上層部がおり、来るべき敵である他の理事国に対抗する派閥を地球連合内で作ろうという動きからくるものだった。

 

 これらの綻びを使い、親プラント勢力を拡大し理事国を外交的に孤立化させ連携を断ち切り、切り札である復活した叡智の炎を脅しの材料に切り出し、最終的には孤立化した理事国を一つずつ離脱させていき、プラント有利で講和につなげる。

 それがスコルツェニーが考え進めている大戦の終結の道であり、それがやりやすくなる連合が慢心しているという現状はジブラルタル陥落からくるものであるというのは事実だった。

 

 クルーゼの言葉も一理ある。

 そう納得してたやすく言いくるめられたスコルツェニーに、クルーゼは内心馬鹿にする笑いを浮かべる。

 

(所詮この男もこの程度か……)

 

 パトリックやアズラエルと大差ない。

 そう思ったクルーゼだが、仮面越しにクルーゼの青い瞳を見てくる真っ暗な目と合った瞬間、背筋に悪寒が走った。

 

「──ッ」

 

 何だ? 

 そう思ったクルーゼに向け、スコルツェニーは暗い目と何を考えているのか読めないが人らしい温もりは欠片もない表情となってクルーゼに対して冷たい声で言った。

 

「何企んでいるのかは知らねえが……“ユーレンの粗悪品風情”が大それたこと成せると思い上がるんじゃねえぞ」

 

「──ッ!」

 

 スコルツェニーの言葉に、クルーゼの顔に初めて仮面越しにもわかるほど明確な動揺の色が浮かんだ。

 

 ユーレンの粗悪品。

 それが何を示すのか、自身の出生を知るクルーゼはその言葉の真意を正確に理解ができ、そして目の前の男が隠し通してきた己の秘密を知っているとこが分かったから。

 

「……貴様はいったい何を知っている?」

 

 クルーゼの声に殺意がにじむ。

 己の出生を知るということ、そしてユーレンという名をまるでよく知る相手であるかのように慣れた様子で発音したこと。

 そのことから、クルーゼの目にはスコルツェニーがあの件に関わっている存在だということが理解でき、そしてそれが人類すら憎んだ激しい憎悪と怒りを最もぶつけるべき相手であることを理解したからこそ、強烈な殺意を向けた。

 

「本物が何であれ、偽物の凄みに価値なんぞない」

 

「貴様──!」

 

 一方、クルーゼの殺気を正面から受けたスコルツェニーは、歴戦の猛者でも思わず後ずさるようなそれをあざ笑った。

 クルーゼを偽物と呼ぶ。

 それが何を意味するのか、クルーゼの逆鱗に触れるそのワードは人類の破滅を願う男の怒りを逆なでし、感情的にさせて銃を抜かせた。

 

 しかし銃口を向けられても、それでもスコルツェニーは嘲笑うことをやめようとしない。

 クルーゼの真相に触れる部分を知っていると、彼の出生だけではない、その遺伝子に刻まれる業を抉るように掘り下げてくる。

 

「お前が生まれたことが無意味だったということを知っている。お前の遺伝子を継ぐ子供がいることも知っている。お前がお前自身を否定したくとも否定できず、お前が最も憎んだ男の遺伝子を、お前の身に刻まれた遺伝子を注いで産み落とされたその子供を拾い上げたこともな。なあ? アル──」

 

「黙れ!」

 

 こいつは何を知っている? 

 なぜあのことを知っている? なぜあの者の存在を知っている? なぜ己の出生を知っている? 

 それを知ってなお、劣悪と嘲笑い、あの男と同じく粗悪品と蔑み、あの男の名で呼ぼうとした。

 それが己にとってどれほどの怒りとなるか、理解も共感もできないと、冷たい笑いとともに平然と切り捨てた。

 

 こいつは一体何なんだ? 

 こいつは一体何を知っている? どこまで知っている? 

 知ってなお、あの男と同じように蔑むことができる──!? 

 

 怒りのあまり、感情が爆発したクルーゼが銃を発砲する。

 しかしそれはスコルツェニーの眉間を撃ち抜くことはなく、頬をかすめて通路の奥に消えていった。

 

「……なんだ、外したのか?」

 

「黙れ、その口をそれ以上開くな。あの男の名で私を呼ぶな……!」

 

「まあ、この場で殺しても知るべきことを知る機会が遠のくだけだし、下手をすれば友軍を意図的に撃ち殺した罪で最悪処刑されるわな」

 

「黙れと言った!」

 

 感情的になったクルーゼの叫び声が通路に響き渡る。

 スコルツェニーの襟を乱暴に掴み上げ、銃をその額に突きつけ、仮面越しに真っ黒な瞳を睨みつける。

 

「貴様は何を知っている? 貴様がなぜ知っている? 貴様は一体何者だ!」

 

 仮面で目元を隠そうともわかるほどに怒りをあらわにしているクルーゼ。

 冷静さを見失いかけている男に、スコルツェニーは温もりと無縁の黒一色の冷たい瞳を向け、クルーゼの問いに答えを返す。

 

「何者って……お前の頭脳ならば推測はつくだろう。お前は副官が何者であるか、その名が、姓が、何を示しているのかをメンデルで知ったはずだ。なら、自ずと推測はつくだろう?」

 

「──ッ!」

 

 スコルツェニーの言葉に、クルーゼはディアッカを連れて行ったスコルツェニー隊の副官の名前を思い出し、彼女を副官につけているこの白服が何者であるのか、そしてあの子とどういう関係にあるかを思い至った。

 

 もしもその推論が正しければ、こいつは……

 

「貴様は……そうか、貴様が……“エイブラハム・ゲラート”だったのか……!?」

 

 クルーゼの口にした名前は、スコルツェニーの名前ではない。

 だがそれは確かにスコルツェニーに向けて投げかけられた名前であり、スコルツェニーはそれを否定しなかった。

 

「お、懐かしい名前で呼んでくれるじゃないの。でも残念、私の本名はヘルマン・スコルツェニーであって、そっちは偽りの名前だよ。そういう意味じゃ、自分もまた偽物と呼ぶべきなのかもな」

 

「…………」

 

「ほら、友軍が来るから銃はしまっておけ。撃たれた件についてはさっきディアッカ君のところをフォローしてもらったから、それでチャラにしておいてやるさ」

 

 ホルスターに拳銃をしまうクルーゼ。

 その直後、銃声を聞きつけたザフトたちが通路に殺到してきた。

 

「一体何事だ! クルーゼ!?」

 

 銃声を聞いて来たザフトを率いてきた白服の1人、ウィラードが、その通路にいた仮面の男の存在と、普段のこの男の様子を知る者から見れば驚くだろうもう1人の白服の襟を掴み上げているという状況に驚きを隠せない。

 

 クルーゼはスコルツェニーを放したが、冷静な彼らしくないその暴力、そして銃声と頬に傷を負ったスコルツェニーの様子に、ただならぬ事態であると察したウィラードは、クルーゼとスコルツェニーを部下に命じて囲ませる。

 

「2人とも、喧嘩にしてはいささか度が過ぎているのではないかね? 事情聴取に協力願おう。もちろん、拒否すればどうなるかは理解しているはずだ」

 

「承知しました」

「あいあい」

 

 古参であるウィラードの威厳ある声に、クルーゼとスコルツェニーはそれぞれホルスターを床に落としておとなしく拘束を受け入れる。

 

 作戦結構前に白服同士が基地で銃撃まで行う喧嘩があったという問題は起きたものの、負傷したスコルツェニーの方が許すと譲歩し、またパトリックから圧力があったこともあり、ウィラードは納得しなかったが2人はお咎めなしで隊に復帰、作戦決行当日を迎えることとなる。

 

 C.E71年4月6日。

 カーペンタリアに集結したザフトの大部隊は、プラント最高評議会にて可決されたパトリック・ザラが新議長として初めて出した大規模攻勢作戦、オペレーション・スピットブレイクを発動した。

 

 その目標は、カオシュン宇宙港に続きビクトリア基地ハビリスの攻略に失敗したことで半ば瓦解していた、オペレーション・ウロボロスの再開。

 大西洋連邦の保有するマスドライバー施設“ポルタ・パナマ”の攻略を目指す大規模攻勢である。

 

 大西洋連邦はジブラルタル攻防戦で海軍に大きな被害が出ていたものの、事前にこのパマナ攻勢を予期しており、ナチュラルでも操縦できる連合製MSの量産機“ストライクダガー”や“ロングダガー”からなる部隊を始め、大規模な陸軍戦力を展開していた。

 

 数では連合が優勢、質ではザフトが優勢という、この大戦において幾度も見られた光景。

 しかし、連合はストライクダガーをはじめとするMS部隊の存在により、すでにザフトに質の優勢はないものと見ていた。

 

 それでも発動したパナマ攻略作戦、オペレーション・スピットブレイク。

 ザフトと大西洋連邦の大戦力が、両陣営の技術の結晶である初の大規模なMS部隊同士の戦闘という、今までの大戦になかった戦場が幕をあける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。