その首置いてけザフト共 作:みども
力を得ても、あの敵が乗り越えた地獄を超えられなければ、あの土俵に立てなければ、結局何も守れないだろう。
もう何も奪わせない。
もう、何もできずに悲劇を見ているだけなんてことは味わいたくない。奪われるだけしかない、己の無力を噛み締めるしかないなんて思いはもうしたくない。
奪わせてなるものか。壊されてなるものか!
奴らがこの絶望を乗り越えてきたならば、それを乗り越えられず何も守れずに終わる自分が力を得た意味はなんだというのか!?
そう強く思ったアスランの中で、何かが弾けた。
──その瞬間、彼の頭の中は驚くほどに冴え渡り、群がる敵の攻撃が全て予測できるようになった。
全方位から絶え間なくなだれ込んでくる敵、敵、敵……
その攻撃が、軌道が、回避先が、全てが手に取るようにわかる。一瞬先の未来を読み解いているかのように、すべてがわかる。
ロックオンすら必要ない戦い。
コンピューターよりもはるかに早い情報処理。
思った時には手足のように動かせる機体。
これならば、数の劣勢など物ともせずに戦える。
(これが奴らの戦ってきた土俵なのか……?)
わかる。
すべてが、動きが、未来が。
動ける。
思いの通りに、思った通りに、なんのタイムラグもなく。
瞬間、はじけたようにイージスはビームサーベルを振り回し、6機のストライクダガーを瞬く間に細切れにし、そのかけらを吹き飛ばして次々にヘリや戦車を破壊して連合の敷く包囲網の戦列の一角に穴を開けた。
「アスラン!?」
イージスの突然の覚醒に、ディアッカも驚く。
ストライクダガーなど烏合の衆。
それでも数の差は圧倒的であり、さしものアスランも押されていたのに。
そこからのイージスの動きは、ディアッカの知る今までのアスランの動きを──いや、彼の知るあらゆるMSパイロットの中でもひとつ次元飛び越えるような、すべてを凌駕する圧倒的なものだった。
「行くぞディアッカ! ついて来い!」
「お、おう!」
豹変したと言っていいアスランの様子に若干戸惑いながらも、しかし今はこの絶体絶命の中で頼りになる存在であると判断し後ろをついていく。
一方、アスランはディアッカの目の前で立ちふさがるストライクダガー隊の攻撃をことごとく回避し、バスターに当たる攻撃はシールドで防ぎ、ビームサーベルを振り回して次々に立ちふさがるその敵機を射程に入るなり最低限の動きでスクラップに変えて駆け抜けていった。
「す、すげえ……!」
ついていくだけで精一杯のディアッカは、イージスの速度に全くついてこれずに破壊されていくストライクダガーの群れに、アスランの覚醒ぶりに驚くしかない。
「邪魔だ!」
立ちふさがったロングダガーを一合すら斬り合わすことも許さず、十字に切り裂き破壊。
ビームライフルで群がるストライクダガーを流れるように一撃で2機を撃ち抜き、それを3発連続で決め6機のストライクダガーを撃破。
足のビームサーベルを振り回し、3機のストライクダガーとヘリ1機を真っ二つにして瓦礫に変える。
その瓦礫を振り回すイージスの足で蹴り飛ばしてさらにスピアヘッド1機を撃墜に追い込み、リニア・ガンタンクを3両瓦礫の下敷きにする。
さらにイーゲルシュテルンでブルドック5台を蜂の巣に変え、シールドバッシュでストライクダガーのシールドを弾き飛ばし、それに巻き込まれたスピアヘッド1機を落とす。
「まだだ……! こんなものじゃない!」
「こ、こいつ……化物めぇ!」
ビームサーベルがこのままでは展開し続けられない。
バスターを狙う攻撃は全てシールドで防ぎ、イージスへの攻撃は全て回避すればいい。
イージスのフェイズシフト装甲をわざとダウンしてバッテリーの消耗を抑え、アスランはさらに切り進む。
その強さに連合の兵士は恐れおののき、戦列の乱れが広がっていく。
そこを突破し切り進む灰色のイージスと、その後ろを走るバスター。
この時のアスランは誰の目から見ても鬼神の如き強さを発揮していた。
「まだだ! あいつなら、まだ先に──!」
しかし、アスランだけはさらに加速していく。
奴らは、あの敵はジンでザフトと渡り合っていた。
個人用にカスタマイズしたものではない。鹵獲したジンで、である。
ビームサーベルなんて武器はない。それでフェイズシフト装甲を持つこのイージスを技量のみで追い詰め、ブリッツを制圧した。
奴らの仲間はブルドックでデュエルを追い詰め倒した。
奴らはこんなところで止まるような敵じゃない。
もっと、もっともっと先に──より早く、より強く……!
「うおオオォォォォ!」
普段の口数少ないアスランからはかけ離れた、戦意をむき出しにした咆哮とともに、アスランはさらにイージスを加速させる。
フェイズシフト装甲を自ら落とし、守りを捨て、バスターに迫る攻撃のみをシールドで防ぎイージスを狙う攻撃はことごとく回避して切り進む。
こんなものではないと。
奴らのステージに立つだけではダメだと。
もっと、もっと先に行かないと──!
「まじかよ……! アスラン、海が!」
「行くぞディアッカ!」
「ば、バカな……あの包囲網が抜かれ──!?」
──そして、ついに。
イージスは連合の包囲網から突破し、バスターとともに海に飛び込んだ。
「ハア……ハア……」
海に飛び込んだ時点で、イージスのバッテリーは底をつき、その機能は完全に停止する。
同時にまるで1人だけ別次元の世界を走り抜けていたかのような感覚の中にあったアスランの思考も戻り、強烈な疲労感が全身に、心に津波のように押し寄せてきた。
「アスラン、お前、すげえぜ! あの包囲網を突破するなんて、でかい借りができちまったな……」
そのイージスを引いて、バスターがボズゴロフ級に向かって海を泳いでいく。
(な、何が……あったんだ……? 俺は一体……?)
撃破した敵機、地上・航空戦力合わせ100超。
その内訳、ストライクダガー47機、ロングダガー6機、スピアヘッド28機、リニア・ガンタンク12両、戦闘ヘリ22機、ブルドック5台を破壊。
連合に対して単機でこれだけの大損害を与えたザフトの若き英雄は、無我夢中の中で力を振るっていたこともあり、先ほどまでの自分が自分じゃなかったような不思議な感覚と疲労の中で、己の功績を振り向くこともなく強い疲労に身を委ねるようにつかの間の休息に沈む。
絶望的な戦況の中から敵中突破に成功し、奇跡の撤退を成功させた2機のG兵器。
しかし、その活躍を持ってしてもやはり大局に影響は与えられず、ザフトは1日目の攻勢を断念して撤退する。
こうして、パナマ攻防戦“オペレーション・スピットブレイク”の1日目は両軍のMSが大規模な激突を繰り広げるというこの大戦において初めての戦場を作り上げ、両軍に大きな損害を出し、ザフトが一時撤退する形で終えることとなった。