その首置いてけザフト共 作:みども
これではEMPも意味がない。
……というわけで、作戦練り直して再チャレンジします。
(大局的にみれば、アスランの種割れ無双何の意味もなかった)
一時パナマから撤退したザフトは、ストライクダガーという兵器に対する認識がまだ甘かった事から作戦の練り直しを行うこととなる。
オペレーション・スピットブレイクの大々的な作戦計画の練直しが行われ、当初の橋頭堡確保後にグングニール降下ポイント制圧を行ってから起動し無力化した連合を殲滅する戦略を変更。
作戦の要となる新戦略兵器グングニールの二重運用によるパナマ基地破壊を目指す計画へと改められ、それに向けた準備が進められた。
改訂されたオペレーション・スピットブレイクでは、グングニールを2波に分けて用いることとなる。
まず第一段階として、カーペンタリアに降下した増援を含めた地上戦力を用い、橋頭堡の確保。その後に、橋頭堡とした三箇所に第1波のグングニールを投下し起動する。
これにより一帯の前線の連合部隊を無力化してから、第二段階として本命のパナマ基地破壊のための降下ポイントを確保を目指して前線を押し上げる。
そして第三段階として、本国にて増産し配備したグングニールの第2波を投下して起動、パナマ基地及びマスドライバー施設の完全破壊を行い、総仕上げの第四段階として無力化した残る連合部隊を逐次殲滅していくという、二段構えの作戦で挑むこととなった。
これに伴いグングニールの増産、そして増援部隊を含めた作戦参加の各部隊のMSなどのEMP対策の強化に時間を要し、オペレーション・スピットブレイクの再開は4月25日となった。
それは同時に、連合に対してストライクダガー増産のための時間的猶予を与えたことにもなる。
1ヶ月ほどであの大軍を生産してきた大西洋連邦である。19日間という猶予が今回の損害をなかったものとするほどに大量生産し、戦力を補充どころか補強してくることは目に見えていた。
第二次パナマ基地攻撃の準備を進める傍で、パトリックはザフトの士気高揚のため、そしてあれだけの戦力をつぎ込みながらグングニールの起動どころか投下すらできず実態としてはパナマ守備軍に撃退され敗北した第一次パナマ基地攻撃における失敗を覆い隠すために、この戦いで獅子奮迅の活躍をした実子アスランをザフトの新たな若き英雄として祭り上げた。
政治的思惑の利用という側面があったことは否めなかったが、しかしこの戦いでアスランがあげた50機以上のMSを含める100超の敵兵器の撃破という戦果は他の兵士たちの追随を一切許さないものであり、カーペンタリアに帰還した彼は新たなザフトの若き英雄として熱烈な歓迎を受けた。
ザフトが受けた損害は決して小さくないが、やはり単純な数字では連合の犠牲の方がはるかに多い。
第一次パナマ攻撃は失敗に終わったが、それでもこの敗北は無意味ではなかったと、見方によってはザフトの勝利であるというパトリックの巧みな演説によりプラントは誘導され、第一次パナマ攻撃の敗北は継戦派の政権にダメージを与えることはなかった。
一方、パナマの防衛に成功した地球連合は、この戦闘で有用性を示したダガーなど連合製MSの開発及び大量生産に本腰を入れるようになる。
パナマに対する第二次攻勢が予測されていた事もあり、一層の防衛力の強化の意味も込めてより大量のストライクダガーの生産を行い、第一次攻勢の際に展開していた戦力を大きく上回る大量のMS部隊の展開を整えてきた。
もはや、コーディネイターなど敵ではない。
やはり物量で圧倒的に優る連合こそ、ナチュラルこそがこの戦争の勝者となれるのだと。
MAや戦車、戦闘機と違い、たとえナチュラルがパイロットであってもAIによる操縦サポートを受けたダガー2機で囲めば確実にジンを撃破できる新兵器の誕生は、今までの連合とザフトの戦力比を覆し物量で圧倒的に勝る連合の優勢を引き出すことができた。
それは、コーディネイターに敗北を繰り返してきた連合に大きな自信をつけさせるとともに、慢心を生み出すことにもつながる。
連合には、まだザフトの切り札は見えていなかった。
カーペンタリアに帰還したアスランとディアッカはザフトの新たな英雄として称えられ、多くの味方から熱烈な歓待を受けた。
士気高揚と敗戦を隠すという父親の意図を察していたアスランは、どれだけ単機で戦果を上げようとも結局負けた事実は変えられなかった己の無力さを痛感していたこともあり、この歓待を素直に喜べず複雑な心境だった。
一方アスランのおこぼれのような形で英雄として称えられることとなったディアッカも心境は複雑なものがあったが、多くの犠牲を出した敗北の陰鬱とした空気を飛ばそうとカラ元気を振り絞る仲間たちの心情も理解できていたため、この神輿になることを受け入れていた。
「…………」
「アスラン、顔を上げろ。辛気臭い顔するのは宴がおひらきになってからだ」
心情が顔に出ておりぎこちない様子のアスランの肩を叩くディアッカ。
「あ、ああ……」
ディアッカに促され、神輿を演じるアスラン。
表面に笑みを貼り付け、歓声を上げるザフトの仲間たちに手を振る。
「気持ちはわかるがね。これもザフトの勝利のために必要なことだよ、アスラン。それに、今回の君の功績は紛れもなく称えられるにふさわしいものだ。胸を張りたまえ」
「……はい、クルーゼ隊長」
反対側で一歩後ろに下がる形で歓声とともに拍手をしている仮面をかぶった隊長にも促され、アスランは敗北を隠す飾りの英雄としての振る舞いに徹した。
そして、政治的思惑もあり開催されたザフトの新たな英雄を讃えるパレードが終了した頃。
神輿の役目を終えたアスランの元に、クルーゼが訪れた。
「少しいいかね、アスラン」
「クルーゼ隊長!?」
疲労の溜まっていたアスランは寝る直前だったが、隊長の来訪に急いで起きて赤服を羽織ると、すぐに扉を開く。
パレードの最中にもアスランを気にかけていた白服の隊長は、すぐに済むから入り口で構わないと椅子を用意しようとしたアスランを制する。
「こんな夜更けにすまないね」
「いえ……何かありましたか……?」
クルーゼがこんな時間に尋ねてくることなど珍しい。
何か不測の事態があったのではないかと思うアスランに、クルーゼはまず第一次攻勢にてアスランが見せた獅子奮迅の活躍振りを称えた。
「アスラン、先日の活躍は実に見事だった。御父上も君の活躍に喜ばれていたし、私も隊長として実に誇らしい、我が事のように嬉しくなる戦果だったよ」
「ありがとうございます」
息子に対して厳しいあの父親の言葉は、政治的な思惑からくるものであり本気で祝うつもりなどないだろうと感じるアスランだが、尊敬するこの隊長からの賞賛は素直に嬉しかった。
パレードで数多くの仲間から投げかけられた言葉に神輿として答えていた時とは違う、本心からその戦果を誇らしいと思える賞賛の言葉に中性的な顔がほころぶアスラン。
そんなアスランの笑顔にクルーゼも口元に笑みを浮かべながら、仮面で隠された目元に本心を隠しながら今回夜遅くに訪れた目的であるその時の活躍について話を掘り下げてきた。
「しかし、今までのキミの技術もまた素晴らしいものだったが、あの時はまさに鬼神のごとき強さを発揮していた。それから平時とは比べ物にならないくらいの。極限状態における覚醒と一言で片付けることもできるが、そのとき君の身に何が起きていたのかを知りたくてね。覚えている限りのことで構わない、話してくれないかね?」
バスターとともに連合の大軍に取り囲まれた戦場。
それを鬼神の如き強さを発揮して貫き突破に成功したあの時、アスランの身に何が起きたのか。
クルーゼの問いに、アスランは覚えていることを話す。
「実は、恥ずかしながら私自身よく覚えていないのです……」
「よく覚えていない?」
「はい。このままでは負ける、ディアッカまで死なせたくない、もう何もナチュラルどもに奪わせたくないと、そう強く思ったら、まるで何かが自分の中ではじけるような強い感覚が走り、突然頭の中が冴えて……そのあと無我夢中で機体を操っていたら、海が……」
「自分の中で何かが弾けた、か……」
しかし、アスラン自身もあの時は無我夢中と言える状況であり、自分自身に何があったのかを理解できていなかったこともあり、もともと口下手である性分も相成りなんとも曖昧な説明になってしまった。
一方、アスランの話を聞いたクルーゼは考え込むように顎に手を当てる。
クルーゼ自身は自らの戦歴の中で最大の激戦と言える戦いたあるグリマルディ戦役でもそのような感覚を味わったことはないためわからないが、しかし何か心当たりがあるのかその手の下に隠した口元にどこか含みのある笑みを浮かべた。
(なるほど、君にもあったというのか……ククク、これは面白い)
その感覚がなんであるのか、単なる覚醒という言葉では片付けられないものであることを知っているクルーゼは、アスランがその才能を遺伝子に持っていたことに愉悦の笑みを浮かべる。
「ありがとう、その話が聞けただけでもよかった。体に何か不調が出た時にはすぐに報告するように、君の肉体に自覚のない影響が出ている可能性も否定できないからね」
「はっ!」
しかしそれを目の前の部下にさらす真似はせず、すぐに元どおりの表情に戻ると、部下を気遣ういい上官の仮面を表層につけてアスランの肩に手を置きその身を気遣う言葉を口にする。
それを部下に対するいい上官の気遣いとして真に受けたアスランが生真面目に敬礼をし、クルーゼはそれに応えるように敬礼を返してから「ではまた明日。夜分にすまなかったね、今宵はゆっくり休みたまえ」と言い残して部屋を後にした。
部屋から去っていったクルーゼを見送ったアスラン。
ふと、クルーゼが途中で足を止める。
クルーゼが足を止めた場所はディアッカの部屋の前である。
ディアッカにも何があったのかと疑問に思ったアスランの目線の先で、クルーゼはディアッカの部屋に顔を向けて少しの間その扉を見てから、何故か溜息を零して部屋の主人を訪ねることなくそのまま去ってしまった。
疑問に思ったアスランは、ディアッカの部屋に近づいてみる。
すると、防音となっているはずその部屋の中から小さな声が聞こえてくる。
(……?)
気になったアスランが扉に耳を近づけようとした時──
「──興味がありますか?」
「──!?」
いつの間にか気配もなく後ろにいたスコルツェニー隊の副官であるドライが声をかけてきた。
それに驚き思わず大きく肩が跳ねるアスラン。
その背後から驚くアスランを宥めるように肩に両手を乗せ、耳元に顔を近づけてきたドライが、防音とはいえ寝静まった友軍兵士たちを気遣う小声で告げる。
「ご友人のひと時をお邪魔するのは、美しくありません。お気持ちはわかりますが、人の目を嫌う方もいるでしょうから」
「ひと時……?」
耳にかかる息と、肩に置かれた手、そして背中に当たる双丘から伝わる慣れない感触に戸惑いながらも、ドライの言葉にこちらもなるべく声を抑えてどういう意味なのかと訊き返すアスラン。
何故ここにという前にドライの言葉の意味に興味を持ったのは、慣れない感触に動揺したからかもしれない。
言葉の内容を理解できていないアスランにドライは少し驚きながらも、さらに口を近づけて囁きで教える。
「……あら。それはもちろん──」
「──!?」
それを聞いたアスランの顔は真っ赤になった。
そんなアスランをからかうように、ドライが唇に人差し指を当てて訊く。
「ご希望ならば、今宵のお相手を務めさせていただきますが?」
「い、いえ結構です!」
飛び跳ねるようにドライから離れたアスランが、顔を真っ赤にして逃げるように部屋に戻っていく。
防音のおかげでアスランの大声でもザフトの兵士たちの安眠は妨げられなかったが、アスランの眠気は吹き飛んでしまった。
「……可愛らしい方ですね。ふふ、婚約者のいる方に手は出しません、ご安心ください」
そして、年相応の反応を見せたアスランの姿にドライは微笑みを浮かべ、ディアッカの部屋の前を後にした。
夜は更け、日は経ち、そして──
「では、これよりオペレーション・スピットブレイク、再度のパナマ基地攻勢を開始する! 各員の奮闘を祈る!」
C.E71年4月25日、第二次パナマ攻勢が開始された。