その首置いてけザフト共 作:みども
クマネズミの主砲では、バクゥの装甲を貫くことはできない。
ただし、27機甲連隊に支給された装備の中で、ディンだけでなくバクゥやザウートの装甲にもまともに傷を与えることができる装備があった。
それが歩兵携行用対MS装甲ミサイルランチャー“LTMS4”、通称“ククリ”。
地球連合がザフトに対して上回っている人口という数の力を持ってザフトのMS兵器に対抗するために開発された、歩兵が運用可能なミサイルランチャーである。
このククリはザフトの主力MSであるジンやバクゥ、グーン、ザウートといったMS兵器の装甲に損傷を与えることが可能な短距離誘導弾を発射する歩兵装備で、市街地や山岳などで奇襲を仕掛けるのに用いられることが多い兵器であった。
しかしながら、所詮は歩兵装備である。
一応マニュアル照準でも発射はできるが、誘導兵器であることからオート照準でロックオンすればザフトのMSにも狙われていることがすぐにバレるほか、発射元の位置をすぐに特定される。
ミサイル自体の速度も必殺となる程ではなく、特にアフリカ戦線ではバクゥに躱されることも珍しくなかった。
単発で連射が効かないのは当たり前、歩兵装備とはいえいざ歩兵で使うとかなり重いので身軽に動けない、縦しんば命中したとしても装甲に傷を与えることはできるが1発ではよほど当たりどころが良くなければ無力化できず逆に弾切れで戦闘能力をなくしたところを反撃にあいミンチにされるというように、歩兵が1人で運用できるというメリットを相殺してしまう多くの問題点を抱える兵器であった。
結局、対応できないくらいの人数で取りかこみ一斉射撃という数の力でゴリ押すという運用がされ、敵の激しい反撃にもあい多大な被害がでる割に有効な戦果を上げられず、MS兵器の装甲を壊せる歩兵用武器という画期的な武器だったはずが役立たずの烙印を押されていた。
それをこの27機甲連隊は大量に配備されていた。
程のいい在庫処分といったところだが、同時にこの多大な犠牲を払ってMS兵器を仕留めるククリを支給したというのは“命を捨てて戦い、そしてお前らもザフトに撃たれて数を減らせ”というコーディネイター嫌いの上層部からの隠れたメッセージにも聞こえた。
そんな大量のククリを支給されたアルトリアは、これは使えると判断し作戦に組み込んだ。
大量のククリはユウ達が配属されているMS部隊を迎撃するための部隊に配備され、氷に身を隠す彼等の手で火を噴く時を待っていた。
威力という面ならば、この大量のククリは対MS戦においてはクマネズミよりも戦力になり得る。
しかし当然ながら、兵力で劣勢な27機甲連隊の兵士達に命を捨てる数でゴリ押す攻撃を強要するつもりは、アルトリアにはない。
アルトリアはMS部隊を翻弄する仕掛けとともに、雪をかぶった森が広がるイルクーツクの北部にククリを装備したユウ達を展開した。
ただし、連隊の人数よりも多い大量のククリを携えた彼等は、地面などに伏せるのではなく雪とその下の土をほった人1人が身を隠せる“狐の巣穴”と呼ばれる塹壕を作り、その中に隠れさせた。
そして、ユウ達がトラックなどで運び作っていたMS部隊を倒すとともにイルクーツクから守備隊を釣り出すための仕掛けを多数配置した戦場に、最初の来客という名の獲物である、後続部隊の壊滅により知らぬ間に孤立していたバクゥ2機とディン1機からなるMS部隊が足を踏み入れた。
囮の戦車が残した履帯の作る轍を追い、樹林が並ぶ場所までやってきたザフトの3機のMS。
新しい轍が残っていたので連合の戦車部隊がここまで撤退したことは明らかであったが、強風に巻き上げられた雪が地面に再び銀世界を作り直したことで轍を見失ってしまっていた。
「チッ、薄汚いナチュラル共め……まあいい。ヒューズ、上空からクマネズミを探し出せ。俺たちは引き続き地上を進む」
『了解だ。先に見つけても1匹くらいは俺にも残してくれよな』
「そいつは保証できねえよ。ネズミ潰しをやりたいならお前が先に見つけてみせろ」
『こんな真っ白なら、飛べば一瞬で見つかるぜ。そら、ネズミ狩りの始まりだ! ヒャハハハ!』
追撃する3機のMSのパイロット達の中で最年長だったことから実質的な部隊の指揮官になっていた2連装レールガンを装備したバクゥのパイロット、フリッド・オードヴェルトは、ディンのパイロットである同僚のヒューズ・ルクレールに上空からの索敵を指示し、自らはもう1機のミサイルポッドを装備したバクゥとともに地上からの索敵を行う。
イルクーツクを完全に掌握し、制圧圏が広がってからというもの、まともな連合側の反攻に遭遇する機会がめっきり減ったことで、最近の守備隊の任務は退屈だった。
今回の戦車隊の出現は久しぶりの獲物の登場であり、連合のナチュラル達をMSにて一方的に蹂躙し血祭りにあげる機会に恵まれたことに意気揚々と出撃したものの、相手はすぐに逃げ出した。
この退屈の日々に辟易していたこともあり、フリッドはこの連合の部隊を何とかして見つけ出し蹂躙したくてたまらなかった。
その飢えた獣のような欲望が先行したため、イルクーツクとまともな通信ができない距離まで戦車隊を深追いしてしまい、27機甲連隊が待ち構えるこの地につり出されてしまった。
しかしMS兵器さえあれば、戦車ごときに遅れなどとらない、自分たちザフトが勝つという絶対的な自信が、警戒心を鈍らせてしまう。
後方で置いてきた味方が蹂躙されている事実に気付かぬまま、戦車を追って雪原を走り続ける。
偶然その時の救援要請の通信を飛び上がったヒューズが一瞬受信したのだが、ノイズがひどく聞き取れなかったことと、連合が使えるとは思っていないMSに関することを断片的に拾ったことから、事実も大きく異なる解釈をされて聞き流されてしまった。
『なんだ? なんか、後ろの置いてきた連中からジンがなんなのって通信が入ってきたんだが。ゲルガーさん、増援でも送ったのか?』
「たかがネズミ数匹に大げさだろ」
『だよな、ハハッ!』
フリッド達の余裕の表情は変わらない。
そんな中、彼等の操るMSに対して突如攻撃が襲いかかった。
『な、なんだぁ!?』
なんの前触れもなくヒューズの操るディンに走ったのは、ククリが直撃したことによる衝撃。
突如として発生する爆発と、混乱するヒューズの声に、フリッドは空を見上げる。
「おいどうした!? い、いったい何が──」
『分からねえよ! クソッ、翼がやられた!』
フリッドの目に映ったのは、特に装甲が薄いディンの翼にククリの直撃を受け、飛行不能状態となって落ちてくるヒューズのディンの姿だった。
真っ先に標的にされたのは、ヒューズの操るディンである。
空に上がったディンの姿は雪が舞い上がるこの雪原でもよく目立ち、潜伏している27機甲連隊の斥候達複数から観測されていた。
その観測情報から、ディンの位置、機動、高度、速度といった詳細な情報を集計し、これを頼りに導き出した目標に向けロックオンを気づかれないようにマニュアルの無誘導モードでディンに向けて発射されたククリがその翼を砕いたのである。
それが分からないヒューズからすれば、ロックオン警報も作動していない中で突然ミサイルがなんの前触れもなく襲いかかってきたように思える攻撃だった。
『ヒューズ!』
『翼がやられただけだ、問題ねえよ! あいつらククリぶっ放してきてるぞ注意しろ!』
「投げナイフでMSに立ち向かおうとは、身の程知らずな奴らだな!」
奇襲の一撃を喰らったヒューズだが、ダメージから攻撃がククリを用いたものであることをすぐに察知する。
ロックオン警報が出なかったが、この雪で計器が鈍くなっていたと判断し、着陸。
『よくもやってくれたな! 死ね、ナチュラルが!』
そしてミサイルが飛んできたと思われる方向に向けて、機関銃を撃ちまくった。
だが──
『ぐおっ! ば、バカな──!?』
そのヒューズの操るディンの背中に、再びロックオン警報がないままに飛来したククリが直撃した。
飛行能力と機動性に重点を置いたことで装甲が薄くなっているディンは、避けることを重点に置く運用設計をされた機体である。
ククリとはいえ、MSの装甲を破壊できるミサイルの直撃の被害は甚大であり、背部のスラスターを大きく損傷したうえでその衝撃に吹き飛ばされ無様に倒れこんでしまった。
「ヒューズ! くそ、よくもやって──うぐっ!?」
仲間を撃たれたことに怒ったフリッドが、そのククリが発射された方向へ攻撃しようとしたが、今度はフリッドの操るバクゥの右後脚の膝裏駆動部にククリが直撃した。
こちらもロックオン警報がない死角からのいきなりの奇襲攻撃だった。
『フリッド!』
「なんでロックオンを検知しない!? ククリじゃねえのかよ!」
悪態つきながらも、ククリの発射元と思われる方向に向けてレールガンを向け発射するフリッド。
しかし正確な位置も特定できていない中の当てずっぽうの攻撃では、狐の巣穴に隠れる歩兵という小さな的に当てることは困難であり、レールガンは氷をまとった木々を何本か倒すだけで的となる敵兵には一切の被害を与えられなかった。
「ぐあっ!? くそ、なんでロックオンを探知できねえんだ!」
そうこうしている間にも、フリッドのバクゥにさらなるマニュアルで放たれるククリが直撃する。
今度は左後脚の膝裏関節駆動部である。
関節裏の装甲はその機動性を確保するためにどうしても装甲に覆うなどして強固に作ることができない急所であり、ククリといえどここへの被弾は非常に大きな影響が出る。
1箇所ならばなんとかバランスの維持はできたが、4本の足のうち半数である2本の膝関節駆動部を破壊されたことにより、フリッドのバクゥは姿勢の維持が困難になりその場に崩れてしまった。
「ダメだ、後脚2本ともやられた! 投げナイフの発射元の特定急げ! いったい何がどうなってやがる!?」
『うがっ!? 畜生、ちょこまかと生意気なんだよナチュラルの分際で!』
バクゥの最大の利点である機動力を大きく削がれてしまったフリッドの隣で、四方八方の死角からマニュアルでククリを撃ち込んでくる27機甲連隊の面々に振り回され、苛立ちを募らせたもう1機のバクゥがミサイルポッドを手当たり次第に乱射し始めた。
『おいバカ、やめろ! チッ──!』
だが、的を絞れない中で八つ当たりのようにばら撒かれるミサイルは、即座に狐の巣穴に隠れる27機甲連隊の兵士達にとっては大した脅威ではないが、機動力を削がれた友軍にはたまったものではない。
ミサイルの一部が倒れこんでいるヒューズのディンに直撃し、さらに損壊を大きくしてしまう。
『テメェ……いい加減にしろよ!』
「違う俺は──ぐっ!?」
それに逆上したヒューズが、ディンの機銃をバクゥに向けて発砲する。
だがその標準は、誤射をした方のバクゥではなく足をやられてまともな回避行動も困難になっていたフリッドのバクゥに向けられていた。
高い貫通力を持つディンの機銃に、回避もろくにできないフリッドのバクゥがさらされる。
ロックオン反応の逆探知が効かないマニュアルで当ててくるククリの攻撃に翻弄され、ザフトのMS部隊は同士討ちまで始めてしまった。
「やめろヒューズ! それは──ぐっ……! 背中をよく見ろ! お前を撃ったのは俺じゃない!」
違うと訴えるフリッドだが、頭に血が上り走り回っているため同士討ちの犯人を見失ったヒューズは、フリッドがやったものだと思い込んでおり聞く耳を持たなかった。
容赦なく撃ち込まれ続ける機銃に、バクゥの装甲が悲鳴をあげる。
「待ってくれヒューズ! 俺じゃない!」
『ふざけんなよ! 撃ったのはお前──ぐあぁぁ!?』
「ヒューズ!?」
だが、その最中に。
激昂して見境がなくなってしまっているヒューズのディンに、同じ方向から放たれる複数のミサイルが連続して直撃し、ヒューズのディンがついに耐えられず炎に包まれて撃破されてしまった。
「お前、なんてことを──!」
無数のミサイルの餌食になるディンの最期の姿を見た。単発のククリではない。
ミサイルの連射攻撃が飛んできた方向には、4足歩行の特徴的なシルエットのMSがいる。
あろうことか、もう1機のミサイルポッドを装備した方のバクゥが、聞く耳持たずでフリッドの機体に機銃を撃ち込んでいたとはいえヒューズのディンを破壊したのである。
『ち、違う! 今のは俺じゃない!』
「ふさけるな! なら誰の攻撃だと──ぐおっ!?」
なんとか同士討ちをなだめようとしていたフリッドだったが、仲の良かったヒューズを殺されたことで冷静さを見失ってしまっていた。
レールガンをミサイルを撃ち込んできたバクゥに向け、その引き金を引こうとする。
しかし、その前に相手方のバクゥの背中に装備されたミサイルが多数発射され、フリッドの動けないバクゥに多数直撃した。
「テメェ、いい加減に──」
なんとかバクゥの装甲に守られたものの、フリッドにはもはや殺す気の攻撃にしか思えなかった。
だが、そのフリッドのセリフを遮るように、背後から飛ばされたミサイルがヒューズの命を奪ったバクゥに直撃し、爆発を起こした。
「バカが! ヒューズを殺した報いだ!」
連合のククリに蜂の巣にされた。
ヒューズを殺した報いだと、仲間のはずのバクゥが吹き飛ばされた方を見て声を荒げるフリッド。
だが、フリッドの耳に次の瞬間先ほど吹き飛ばされたはずのバクゥから通信が入った。
『違うフリッド! 俺はこっちだ、そいつは俺のバクゥじゃねえ!』
「お前、生きてやがったのか!」
『違う!』
生きていたのかと怒りをあらわにするフリッドに、ミサイルポッドのバクゥのパイロットが叫ぶ。
フリッドはモノアイに搭載された反応のあるカメラを
「お前──えっ? いつの間に後ろに……?」
そして、その直後に。
先ほどのヒューズを殺したバクゥを破壊したミサイルの飛んできた方向にそのバクゥの姿を見つけ、フリッドは困惑した。
(なんで、さっきミサイルの餌食になったはずなのに俺の後ろにいる?)
困惑するフリッドに向けて、通信の向こう側にいるバクゥのパイロットが叫んだ。
『俺じゃない! 連合の奴ら、
「……ハァ!?」
フリッドは一瞬、その戦友の言葉を理解できなかった。
連合がバクゥを使っている。
あのMSもまともに操縦できないナチュラルが? そんなバカなことがあるか、と。
否定しようとしたフリッドだが、ふと一瞬視界に入った見覚えのある色の方にもう一度カメラを向けて、さらなる驚愕に襲われた。
「な、なんでバクゥが居るんだよ!?」
そこに見たのは、樹氷の森の中に佇む特徴的な4足歩行のシルエットを持つMS兵器。
フリッドの操るそれと同型機である、バクゥの姿があった。
この場にいる2機以外に、出撃したなんて話は聞いてない。
混乱するフリッドは、もう1つの可能性が頭をよぎったがそれを認めるのをコーディネイターのプライドが阻害してしまった。
それは、地球連合が扱うバクゥだという可能性。
あのMSの操作など到底できない劣等人種のナチュラル共がバクゥを操っているという可能性である。
「そんなわけ──うがっ!?」
頭を振ってその可能性を否定しようとしたフリッドだが、敵は待ってはくれなかった。
バクゥの背中より多数のミサイルが発射され、次々にフリッドの動けないバクゥに向けて襲いかかったのである。
バクゥを走り抜ける衝撃。
このままでは持たないと、フリッドはレールガンを敵のバクゥに向けて発射した。
バクゥにはレールガンが直撃し、発射されるミサイルが止まり爆発が巻き起こった。
「認められるか……そんなこと……!」
震えが止まらないフリッド。
今までの数の差を悉くひっくり返す絶対的優勢を支えてきた、ザフトの主力兵器であり誇りでもあるMS。
それが、ナチュラルの手先になって自分たちを襲いヒューズの命を機体諸共奪ったことが信じられなかった。
そう、何かの間違いに違いない。
心の中で自分に言い聞かせ、カメラにもう一度目を向ける。
ほら、連合のバクゥ何ているわけないじゃないか、と。
爆風で舞い上がった雪が風に飛ばされ、敵のバクゥが見えたところが晴れる。
そこには、バクゥの残骸は一片も残っていない。
ただレールガンによって木々の破壊された惨状が残るだけの場だった。
『消えただと!?』
「ハハッ! ほらみろ、連合のMSなんているわけないんだよ!」
撃破されても残骸くらいは残るはずだが、レールガンが直撃したはずのバクゥは跡形もなく消え去っていた。
驚愕する味方を無視し、狂ったような表情で笑うフリッド。
仲間の死、ロックオンされないのに正確に当てられるククリ、そして連合のバクゥと、受け入れがたい事態の連続に見舞われたことで冷静さを失ってしまっていた。
「そうだ、連合がMSなんて──ぐあっ!?」
そのフリッドのバクゥに、再度衝撃が連続に走る。
バクゥに多数のミサイルが背中から直撃し、バクゥの機体を吹き飛ばして地面に崩したことによる衝撃だった。
「ナイフ投げもいい加減にしろよナチュラル共──は?」
またククリの攻撃だと判断して、苛立たしげにミサイルの飛んできた方を見るフリッド。
だが、そこで見た
「何で……何でバクゥが!?」
友軍機は隣にいる。
なのに、またバクゥがでてきた。
そして、俺たちに向けてミサイルを撃った。
「畜生ッ!」
起き上がる間も惜しい。
レールガンの砲塔を回して、そのバクゥを撃ち抜く。
再びバクゥは爆発の中に消え──そして、また残骸1つ残さずに消え去った。
『一体どうなって──うああっ!?』
わけがわからないと混乱する隣のバクゥ。
今度はその友軍機に対して、また死角から狙い撃つようにミサイルが襲来してきた。
「クソッ! ナチュラル共め何処から──え? おい、な、何なんだよこれはぁ!?」
これ以上仲間を失ってたまるかと、機体を起こすフリッド。
その際に、一時的に風が弱まり、雪原の視界が広がる。
そして、それを見たフリッドは絶句した。
何故なら、彼の目には雪原に何機も自分たちを囲むようにミサイルポッドを装備した多数のバクゥの姿が見えたのだから。
『嘘だろ……!?』
「あ、ああ……うわああああぁぁぁぁ!!」
その光景に、フリッドは精神の限界に達し壊れてしまった。
ザフトの誇りであるMSが敵として自分たちを取り囲んでいる。
多数のミサイルが飛んでくる。
今までのは幻覚じゃなかった。現実だったと、否が応でも示される光景に、ナチュラルを憎み見下すコーディネイターの傲慢さから現実を直視できなかったフリッドは、手当たり次第にレールガンを撃ち始めた。
「何でだ……何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で! 何で連合がバクゥを持っているんだよ!?」
包囲された状態で四方から撃ち込まれるミサイルに晒されるなか、錯乱しながらも見つけたバクゥに向かってレールガンを撃ちまくるフリッド。
だが、どのバクゥも撃ち込むミサイルは本物なのに、それらの機体は幻のように撃ち抜いて破壊しても雪煙が晴れると幻のように姿を消しているのである。
「何なんだよこいつらは!? 何なんだよ!」
わけがわからなかった。
まるで死んだ戦友たちが化けて出てきた幽霊と戦っているような気分。
だが、撃破したバクゥは幻のように消えるくせに、その背中のミサイルポッドから撃ち込まれる無数のミサイルは本物だった。
「クソッ! クソクソクソ、チクショウ!」
『ま、待てフリッド──』
「くたばれぇ!」
『ぐあぁぁ!?』
錯乱したフリッドのバクゥに向けて放たれる攻撃。
それが近くのバクゥに直撃しそれを撃破した時、ついに幻のように消えたバクゥの残骸が辺りに散らばった。
「ハハッ! やった、やっと倒したぞ!」
今度こそこのわけのわからない連合に手を貸す幽霊バクゥを倒して見せたぞ。
そう確信したフリッドだが、次の瞬間モニターに移された表示を見てまたも言葉を失うこととなる。
友軍機バクゥのロスト。
その残骸を残したバクゥは、倒したと確信したバクゥは、仲間が乗っていた友軍機だったのだ。
「あ……あぁ……うわああああぁぁぁぁ!!」
この手で仲間を殺してしまった。
レールガンの一撃はバクゥのコクピットを貫いた時の悲鳴が、今になってフリッドの耳に反響する。
やめてくれと止めようとして、そしてそれを無視した自分に打たれた悲痛な声が。
そんなフリッドに追い打ちをかけるように、モニターに多数表示されるロックオン警報。
それも1つや2つではない。
四方八方からフリッドのバクゥに対し、ミサイルがロックオンされていた。
「あ、ああ……!」
その正体を見たフリッドの表情が絶望に染まる。
数の減っていない多数のバクゥが周囲に展開してフリッド機を包囲しており、その背に乗せるミサイルポッドのミサイルをフリッドに向けてロックオンしていた。
「う、動け……動いてくれよ!」
すぐにでもミサイルの雨あられに晒されてしまう。
バクゥを動かそうとするが、フリッドの機体はもう損傷が多すぎて動けなくなっていた。
「い、嫌だ! 死にたくない死にたくない死にたくない……!」
仲間が死んでいく聞きなれない悲鳴を聞きすぎたフリッドは、もはや戦意をなくしていた。
ただ死にたくないという一心から、ハッチをこじ開けバクゥの外に転げおちる。
「死にたくない……! 死にたくない!」
そして雪の大地をがむしゃらに走り出す。
とにかく、数瞬後にはミサイルで木っ端微塵になるだろう先ほどまで乗っていたバクゥから一歩でも距離を取らないと死ぬという恐怖心から、雪に足を取られながらも必死に逃げる。
「死にたくな──ぐえっ!?」
ドサリと。
雪に足を取られ、盛大に転んでしまった。
だが止まれば死ぬ。
そんな恐怖心に背中を押され、すぐに起き上がろうと顔を上げたフリッド。
「──ヒイッ!?」
その上げた目線の先には、幽霊のように消えては現れ自機を取り囲んでいたバクゥの1機が立っており、その頭部に雪に溶ける白い戦闘服に身を包む連合の兵士が銃を構えて立っていた。
「貴様が1人目だ。その首よこせ、ザフト!」
「やめ──」
フリッドの言葉は最後まで紡がれることはなかった。
問答無用と放たれた一撃。
それはフリッドのヘルメットのバイザーを貫き、眉間に風穴を開けて一撃でその命を屠った。