その首置いてけザフト共 作:みども
後期Gシリーズという、ブーステッドマンの運用を前提として完成された新兵器。
その猛威が振るわれたブエノスアイレスの戦いは、3機の新型機の性能が発揮され南アメリカ軍とザフトに多くの損害を与えることができたものの、新型機と正面切って戦わず母艦であるパウエルら艦隊の方を狙ったスコルツェニーの水中MS部隊の奇襲により大西洋連邦側が一時的に撤退。
これにより、1度目の戦闘は南アメリカ合衆国が多くの被害を出しながらも大西洋連邦を撃退することに成功する形で日没を迎えることとなった。
しかし、問答無用で民間人も多数いる都市に対する攻撃を仕掛けてきた大西洋連邦の艦隊により生じた被害は大きく、一時的な撃退に成功したブエノスアイレスは阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
建物や道路にはミサイル攻撃やダガーらMSによる破壊の惨劇が随所に作られており、瓦礫に埋もれた死体や助けを求める生存者の悲鳴が溢れかえっていた。
家族や友達を失った人々の悲嘆に暮れる声や、自身の怪我にうめく声。
大西洋連邦の攻撃を受けた恐怖に狂う声や、明日の生活を破壊され絶望に沈む声、大西洋連邦の横暴に怒りを叫ぶ声、まだ助けられる者がいると助けを求める声、さまざまな声が溢れかえっていた。
「よーし、慎重に引き上げてな! そうそう! よし見えたぞ、引っ張り出して!」
溢れかえる声には、悲しみや怒り、絶望の声はあっても、喜びや希望の声はない。
地獄と称するのが相応しい破壊された都市で、大西洋連邦を撃退に追い込む攻撃を仕掛けた1日目の戦闘の勝利の立役者の1人であるスコルツェニーは、増援にきたラコーニ隊やジンに乗り換えたニーラゴンゴの部隊らとともに、休む間もなく破壊された都市でMSを用いた救助作業や瓦礫の撤去作業の舵取りをしていた。
ジンが持ち上げた巨大な瓦礫。
その下に生まれた人々を助け出せる空間を作ると、すぐさまレスキュー隊員たち共にその中に乗り込み生存者を次々と引っ張り出す。
「よいしょっと。おーし、もう大丈夫だよお嬢ちゃん」
「あ、ありがとう……」
「この子頼む。次々と! まだまだいるな」
スコルツェニーたちが救助作業に取り掛かっているのは、学校の校舎があった場所である。
瓦礫の下敷きにされた子どもたちから生存者を見つけ、戦闘の疲れなど感じさせない動きで次々と子供達を助け出していく。
「よく頑張ったな坊主! もう大丈夫だ!」
その隣ではフォビドゥンにやられ、あと一歩パウエルからの帰還命令が遅ければシャニに討たれていたはずのパイロット、エドワード・ハレルソンが瓦礫で小さな傷を作ることも厭わずに子どもたちの救助をしている。
コーディネイターのスコルツェニーにとってもあの戦闘の直後に休む間もなく従事しているこの終わりの見えない救助作業を、エドはナチュラルの身で同じく休む暇すらも惜しいと疲労を顧みずに奔走していた。
「大西洋連邦の連中はバカじゃない。グーンの襲撃を受けた以上、海戦用の戦力を整える必要があるから多少の猶予はあるけど、近いうちに艦隊を整えてまた連中は来るでしょうね──あ、この子お願いね。あんたは休まなくていいのか? ナチュラルなのに」
「あ!? ……って、悪い。そういうのは後にしてくれ」
ジェーン・ヒューストンなどの仲間たちを明日の戦闘に備えて一緒に休むと言いつつ、狸寝入りで騙して1人兵舎から抜け出してこの救助作業に参加してきたエドに、最後の生存者の子供を助け出しながら尋ねるスコルツェニー。
助ける側も命懸けで余裕なんてない救助作業中に世間話を振ってくるという非常識さに苛立ちを含めた目を向けたエドは、しかし怒りをぶつけるべき相手ではないとすぐに冷静さを取り戻す。
今はそんな話をしている余裕はないと、スコルツェニーの問いには答えず次の救助に向かおうとする。
しかし、そこで自分自身にすら強がり騙してきた限界が来たのだろう。
「うっ……」
疲労と空腹、水分補給すらまともにせず従事してきた肉体労働による脱水症状からくる体が限界を訴えるサインの眩暈に襲われ、エドはその場にふらつきたいには倒れ込んでしまった。
「エド!」
すぐにエドの仲間たちが駆け寄る。
その様子を何度も休めと忠告したのに無理を押し倒してきた自業自得だと心配すらせずつまらなそうに見ていたスコルツェニーは、エドのところに駆けつけてきた彼の仲間達に介抱を任せて次の場所に向かうべく学校の崩れた後から出ていった。
「体力もろくにないナチュラルなんだから、自分の限界くらい意地張らずに把握しとけっての。全く、この手の救助は助ける側も命懸けなんだから、余計な手間を増やさないで欲しいものだね。そうは思わないかね副官? ……あ、そういえば副官も次の戦闘に備えてもう寝かせてたわ」
フォビドゥンに負け、都市を危険に晒した責任を感じて、仲間たちを騙してまで救助に従事しながら、自分の体力の限界すらまともに把握していなかったエドに対して当人には聞こえない声量で愚痴をこぼすスコルツェニー。
同意を副官に求めようとしたが、そういえばパイロットたちは次の戦闘に備えて今日はもう休ませているからこの場にはいなかったなと、返事がないことを受けてようやく気づく。
「まあ、いいや。次行くよラコーニ隊の皆さん、遅れてきたんだからきりきり働く!」
『お前には言われたくねえ!』
この惨状を見てもふざけた態度を崩さず、故郷のために無理を押して作業していたエドに向かっても酷い物言いをする男に、着任早々から顎でこき使われ戦場ではなく戦場跡で働かされているラコーニ隊から怒りの通信が無線で飛ばされてくる。
それにもやれやれという態度をしながら、スコルツェニーは地獄と化した都市の惨状を見渡した。
「たった1日の戦闘でまあ、やりたい放題やってくれたね大西洋連邦さんよ……まあ、
地獄としか言いようのない惨状。
悲嘆や憤りを覚えようとも、歓喜など覚えられるはずもないその惨劇の姿を見て、スコルツェニーは1人愉快そうにほくそ笑んで、どこからか取り出したカメラでその惨状を風景写真でも撮るかのような軽い感覚で撮影した。
およそ人の血が通っているものならば心痛めずにはいられないはずの光景。
それをみて愉快そうにほくそ笑みあまつさえ写真を撮るなど、戦争に本来関わらせてはいけないのにこうした被害をあった数えきれない民間人に対する冒涜と言える行いだが、かつてウランバートルにて一度ザフトに降伏した人々諸共サイクロプスで焼き払うという大量虐殺をした前科のある男にとってはなんてことはない。
そして、ザフトも南アメリカの人々も、この都市の惨状に1人でも多くの人を救うために奔走している中、スコルツェニーを気にしている余裕などないためそれに気づき咎めようとするものはいなかった。
「テロリストとは交渉しない。それは正しいけど、自分たちが正義でなければ気が済まないアメリカ人たちがこの惨状を見たらどんな反応をするか、その辺は考えてなかったのかね、サザーランドのやつは。ましてこの被害にあっているのは、お前たちブルーコスモスがバケモノ呼ばわりしているコーディネイターじゃない。同族のナチュラルだよ?」
地獄の惨状が作られることを承知の上で南アメリカ合衆国の独立を扇動し、この惨劇の到来をむしろ望んでいたかのように、スコルツェニーはこの惨劇を利用するつもりである。
地獄の惨状をカメラに収めたスコルツェニーは、その画像データをカメラから取り出してケースにしまうと、先に別の場所で救助活動に従事しているラコーニ隊の陣の元に向かって走った。
『スコルツェニー、テメエ人に指図しておいて遅れてくるんじゃねえ!』
「いやぁスマンスマン。じゃあ早速瓦礫どかしてくれるかい? 中の人潰さないように慎重に、でもさっさと上げてくれよ」
『ああ!』
フォビドゥンと戦闘していたストライクダガーから発射されたビームライフルが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーによって曲げられ、その流れ弾が直撃したことで崩壊したビルの跡。
瓦礫の中からは助けを求める声が出ており、生存者がこの中に閉じ込められていることを示していた。
「お待たせしました! これから瓦礫を撤去し救助を行います!」
瓦礫の下で助けを求める声に救助を開始することを伝え、ラコーニ隊のMSに瓦礫の撤去を指示する。
「それじゃどかして! 慎重にだよ、慎重に! 崩れないように撤去する順番を示したデータ通りに動けよ!」
『分かってるっての!』
MSの手により、瓦礫の撤去が行われる。
それぞれ5本の指がある2本の腕を駆使するMSは、こういった作業においても従来の重機に比べはるかに器用に、また多様な作業をこなすことが可能な存在である。
ラコーニ隊所属のジンにより、崩れて中の生存者を押し潰さないように瓦礫の撤去が進められ、生存者の姿が確認できるところまできた。
「見えたぞ! これより生存者の救助作業を開始する! そのまま瓦礫支えとけ、潰したら一生化けて出てやるからな!」
『うるさい無駄口叩く暇あるなら救助を急げバカ!』
ジンの手により生存者のいる場所まで人が通れる道が作られた。
それを確認したスコルツェニーが、救助可能な状態になったところで救助隊員たちと共に瓦礫の中に入り生存者を引き上げていく。
『あいつら、同じナチュラルにまでこんなことを……! 子供だっているってのに!』
「愚痴と文句は助けられるだけ助けた後にしてもろて、怒りのはけ口は明日以降の戦闘に回しなさい。まだまだ助けなきゃいけない場所はたくさんあるんだから」
『言われなくても分かっている! お前もサボるなよな!』
「はいよ」
崩れたビルの生存者の救助を終えてから、次の場所に移動する道中。
ブエノスアイレスの惨状を見てそれを作った大西洋連邦の艦隊に対し怒りを顕にするラコーニ隊所属のMSパイロットに、今はやることが他にあるから怒るのは後にしろと諭しながら次の場所に向かうスコルツェニー。
戦闘で疲れたドライら部下を翌日以降の戦いに備えて休ませ、自身は寝る暇も惜しんで救助作業に従事する姿は、表向きには人格者として映るだろう。
しかし、その胸の内にはこの惨劇が作られることを望んでおり、むしろこの惨劇を作った戦争のためにこの悲劇を利用する思惑を秘めていた。
(この手がうまく嵌れば、ブルーコスモスの巣窟である大西洋連邦はこの戦争から事実上離脱する。そうなれば残る主敵は東アジア共和国だけ。永遠の平和には届かなくても、ひとまず戦争なんて非効率の極みは終わりを告げるって寸法よ)
プラントの勝利でこの戦争を終わらせる。
その目的を達成するためには、どれほど非道なことも平然と実行できる男は、人命救助に従事しながら策略を進めていた。
人の心に理解を持たないゆえに、己の思惑の行き着く先がその目的からかけ離れた終着になることを予測できずに──