その首置いてけザフト共 作:みども
大西洋連邦の派遣した艦隊からの勧告なき一方的な攻撃。
攻撃を受けた南アメリカ合衆国首都ブエノスアイレスは、レイダー、カラミティ、フォビドゥンといった新型MSがその猛威を振るい、プラントからの援軍であるスコルツェニー隊もほぼ壊滅に追い込まれ、都市の半分が瓦礫の山に変えられ軍民合わせたった1日の戦闘で万単位の死者を出すという犠牲を出しながらも、辛くもその攻撃を一度撃退することに成功した。
しかし、都市が受けた傷跡は大きく、そして深い。
民間人を避難させる暇さえなく開始された攻撃は大きな被害を出しており、ザフトから派遣された新たな援軍であるラコーニ隊らの力を借りながら夜通し進められた救助作業を経ても、被害者の数すら把握できていない状況だった。
そんな状況で迎えた7月。
一度北米に撤退した大西洋連邦は、戦力を整えると共に前回の戦闘で撤退することとなった最大の要因である海中からのザフトの攻撃に対応するべく、ムルタ・アズラエル主導で開発された生体CPU搭載の後期Gシリーズ3機に加え、地球連合製水中戦闘用新型MSである“ディープフォビドゥン”4機を配備し、“南米をテロリストから解放し同盟国の主権と領土を回復する”という名目の再征服に向け7月5日にブエノスアイレスに向けて出港した。
海軍戦力を持たない南アメリカ合衆国軍は海上で艦隊を迎撃する手段を持たないため、その到来を見ていることしかできない。
大西洋連邦の艦隊の目的がブエノスアイレスであることは南アメリカ合衆国も承知していたため、急ピッチで民間人の避難活動が進められた。
しかし、その南アメリカ合衆国側の準備を嘲笑うように、大西洋連邦の艦隊は進路を大西洋からカリブ海に変更。
モナ海峡からカリブ海に入り、そこから東進。パナマ方面に向かう動きを見せた。
マスドライバーが破壊されたパナマは、すでに大戦に影響を与えるほど重要な拠点ではない。
ザフトもパナマ守備よりも南米の防衛を重視しており、ラコーニ隊だけでなく大西洋連邦の艦隊が出航する前日にはカーペンタリアから派遣されてきた援軍がスコルツェニーを乗せオーストラリアに向かい出航したニーラゴンゴと入れ替わる形で南米入りを果たしている。
現在のパナマには最低限の守備隊しか配備されておらず、この新型MSを有する大西洋連邦の艦隊からの攻撃で守り切れる拠点ではなかった。
すでにマスドライバーのないパナマ基地の存在は戦況に大きな影響は与えないが、ザラ政権として最初に発動し圧倒的戦力差を覆して勝利したオペレーション・スピットブレイクにおいて占領した拠点として政治的にはプラントにとって軽視できない影響力がある。
この拠点を再奪還されることは、軍事的には影響が小さくとも政治的には大きな影響をプラント勢力──ザラ政権に対して与えることとなるだろう。
また、ザフトにとっては大きな存在ではないものの、南米にとっての重要拠点となるペルーの工場の攻略もしくは破壊に向けた戦略という意味で言えば、パナマ運河のあるパナマ基地は重要な拠点となる。
大西洋連邦の目標がペルーを見据えたパナマ攻略であると考えたザフトは、部隊をパナマ方面に動かして大西洋連邦の艦隊に備え防衛戦力の増強を即座に行なった。
それに対して、大西洋連邦の艦隊は東進していた艦隊の進路を再度変更。
カリブ海を南下し、バルガス州の近海に展開し攻撃を開始した。
ブエノスアイレスかパナマを標的にすると考えていたザフト・南アメリカ合衆国軍にとってベネズエラへの攻撃は想定外であり、軍の配備はおろか民間人の避難も全く手付かずの状態だったため、バルガス州は一方的に大西洋連邦の派遣したMS部隊と艦隊からのミサイル攻撃に蹂躙されることとなる。
救援のために南アメリカ合衆国軍が駆けつけた時には、ラ・グアイラをはじめとする都市は悉くが破壊され、そこにいた民間人の多くが虐殺され、大西洋連邦の艦隊はすでにカリブ海に戻っていた後だった。
「クソッ、あいつらただじゃおかねえ! 無力な人々を砲火に晒し殺戮する卑劣なナチュラル共を海に沈めるぞ!」
その惨状の様相を見たパナマに集結しつつあったザフトは、大西洋連邦の艦隊の所業に激怒しパナマからカリブ海に向けて出撃する。
前回、大西洋連邦の艦隊がグーンら水中からの攻撃に対応する戦力を持っていなかったことから海戦ならば勝てると踏んで出撃したザフトの部隊だが、カリブ海にてそれを待ち構えていた大西洋連邦の繰り出した部隊──フォビドゥンとディープフォビドゥンからなる水中戦を可能とする新型MS部隊と、レイダーを足場に空からトーデスブロックを降らせるカラミティの支援攻撃による迎撃の罠にハマり、壊滅。
大西洋連邦が仕掛けた釣り出しによって行われた海戦、ベネズエラ海盆海戦は地球連合側が遠隔操作式無人機の海戦仕様MSディープフォビドゥンを駆使し、後期Gシリーズの性能差を遺憾なく発揮してグーンを中心とする誘引したザフト部隊を一方的に殲滅する形で勝利した。
カリブ海に出撃したザフト部隊は海の藻屑となり、誘引されたパナマの守備戦力も大きく低下することとなった。
レイダー、カラミティ、フォビドゥンを収容する大西洋連邦艦隊の旗艦であるパウエルにて、先ほどカリブ海に出てきたザフト部隊を一方的な戦闘で殲滅することに成功した海戦を見ていたアズラエルは、この作戦を立案した艦隊の参謀将校であるウィリアム・サザーランドに対して拍手を送った。
「いやぁ、実に見事な作戦でしたよサザーランド大佐」
「いえ、この程度は。提督、艦隊の被害の方は?」
「ディープフォビドゥンに軽微の損傷を受けた機体が1機出ていますが、死傷者などはゼロです。敵軍は艦船、MSともに全滅を確認しています」
「素晴らしい。いやぁ、実に素晴らしい戦果です。優秀な兵器、優秀な指揮官、そして優秀な参謀……実に素晴らしい」
大西洋連邦側の被害は、遠隔操作の無人機MSに軽微の損傷が1機のみ。
対して出撃してきたザフトはボズゴロフ級2隻と16機のグーンが全滅という、一方的な戦闘となった。
先日、ブエノスアイレスにてMSは戦果を上げたものの艦隊に被害を与えられたことで撤退に追い込まれた屈辱。それを刻みつけた存在であるザフトの水中戦力を相手にこれほどの戦果で勝利したことに、アズラエルは至って上機嫌となっていた。
「では、次はブエノスアイレスですか?」
アズラエルは、ザフトの戦力を叩くと共に初陣を果たしたディープフォビドゥンの戦果も十分に取れたとして、では次は本命の南米の首都攻略を進めるのかと、今後の方針を提督に尋ねる。
それを受けた艦隊司令官は、サザーランドに目配せをして頷きを返されたことを確認してから、アズラエルに今後の艦隊の方針を伝えた。
「いえ、南アメリカ合衆国はブエノスアイレスを解放したとしても内陸に戦線を引き直してザフトの援軍を得ながら対抗することが予測されます。そのため、首都攻略の前に奴らの兵器の供給元となっているペルーの攻略を目指すべく、太平洋への進出路確保のためパナマ基地の攻略に向かいます」
親プラント国となり本格的にザフトの支援を受けられるようになった南アメリカ合衆国が、ブエノスアイレスを落とされたところで早々に瓦解する可能性は低い。
そのため、今後の戦略方針としてまずはザフトの援軍の入港拠点の一角であると共に太平洋への入り口となるパナマ運河を塞ぐパナマ基地を奪還。
そして南アメリカ合衆国軍の主力となっているMSの工場があるペルー攻略を先に行うことで南米軍の弱体化を図り、その後本格的な南米攻略を進める予定となっている。
「そうですか。まあ、いいでしょう。たしかに、ペルーをテロリスト共に抑えられている現状は憂慮するべきことです。軍事に関しては専門家である皆さんにお任せしますよ」
時に最前線にも出てくるアズラエルだが、戦略方針などに関しては基本的に専門家である軍人に任せており、深く干渉してくることはしない。
軍人でないにも関わらず前線にも出てくることから、今すぐブエノスアイレスを落としに行けなどと騒がれることも考慮していた艦隊司令官は、この方が
「旗艦パウエルより艦隊各艦へ。これより、艦隊はパナマ基地奪還に向けて東に進路を取る。ザフトの海軍戦力による奇襲も想定されるため警戒は厳とせよ」
再び東に進路をとった大西洋連邦の艦隊は、次の標的としてパナマ基地に狙いを定めカリブ海を進む。
カーペンタリアはパナマの失陥を阻止するために増援を派遣するが、すでにカリブ海に展開していた大西洋連邦の艦隊と、制海権を確保しているとはいえ南太平洋という広大な海を隔てるオーストラリアのザフト部隊とでは距離の差があまりにも大きく、増援が入る前にパナマへの大西洋連邦の艦隊の到達を許すこととなる。
パナマに展開した大西洋連邦の艦隊は、生体CPUを搭載した後期Gシリーズ3機を先頭に、カリブ海で戦力を消耗したことで防衛体制が不十分となっているパナマ基地に対する攻撃を開始した。
「それじゃあ皆さん、存分にやっちゃってください。基地は全て更地にしてもらって構いませんが、運河だけは傷つけないように気をつけてくださいね」
「他はいくら壊してもいいんでしょ」
「今度はしくじんなよなおっさん!」
「お前らの分なんか残してやんねーよ!」
「……やれやれ」
ブエノスアイレス侵攻では、艦隊に対する攻撃が仕掛けられたことにより彼らを含めた前線のMS部隊に対し陸戦では優勢だったにもかかわらず撤退命令が出された。
そのことで不完全燃焼だった生体CPUたちは、カリブ海でも主に活躍したのがディープフォビドゥンだったため憂さ晴らしの機会を後回しにされていた。
その鬱憤を晴らす舞台がやっと巡ってきたことで、戦死の恐怖などすでに捨てている生体CPU達は、今度こそ満足に戦える舞台を用意されたことで、我先にと出撃していく。
カラミティのパイロットであるオルガなどは、ブエノスアイレスの撤退の責任が水中部隊を想定していなかった艦隊にあることを理解しているため、アズラエルに向けて同じ轍を踏んで俺たちを巻き込むなと牽制する始末。
過去を抹消され理性を失い、人から堕ちた獣達の暴言に、アズラエルは慣れたものだがとため息混じりに彼らを見送り、椅子に足を組む形で座った。
「さて、妨害さえなければ彼らの活躍は保証しますよ。何しろあの機体はハルバートン達の作ったテストタイプとは違う、全てが完成された戦闘兵器です。
「……肝に銘じます。哨戒機は周辺海域の警戒を、ネズミ一匹近づけるな」
アズラエルのブエノスアイレスでの撤退の責任は艦隊の方にあるという非難が含まれる言葉に、艦隊司令官は二度同じ轍は踏まないと、艦隊周辺の海域の警戒を強める。
今回初めてディープフォビドゥンも配備されている。
これでブエノスアイレスの二の舞を踏めば間違えなく自分の首は飛ぶだろうと思いつつ、油断せずに戦況を見据える。
その先、モニターの向こう側では、迎撃に出てきたザフトのMS部隊と3機のG兵器を先陣として出撃した連合のMS部隊が戦闘を開始した。
「そりぁー撃殺!」
「うぜえんだよ!」
「沈め!」
空からMA形態で急速降下し、100mmエネルギー砲“ツォーン”による一撃を叩き込み、開いた敵陣の中でモーニングスターを模した近接戦闘装備である破砕球“ミョルニル”を振り回しジンを砕くレイダー。
前方の味方への誤射も構わず手当たり次第にシュラークやトーデスブロックを撃ち込み、機動力を駆使し砲火をくぐって向かってくるディンにはケーファー・ツヴァイで牽制攻撃を放ちながら誘引してスキュラを回避不能な所に撃ち込んで撃破するカラミティ。
機関銃などの実弾兵器はトランスフェイズ装甲で、バルルス改などのビーム兵器はゲシュマイディッヒ・パンツァーで防ぎ、ビームサーベルを当てるべく近づくバクゥはニーズヘグの餌食に、効きもしない銃撃を撃ち込んでくるシグーやディンは88mmレールガン“エクツァーン”で風穴を開けグゥルもろとも落とすフォビドゥン。
機体性能と数で上回る連合のダガー部隊にすら苦戦するザフトだが、何よりこの前線で暴れる3機のG兵器に圧倒され、ただでさえ守備戦力の不足していたパナマの戦線はほとんどまともな抵抗もできず一方的に蹂躙され崩壊した。
「て、撤退! こんなバケモノ、立ち向かっても死ぬだけだ!」
戦線の崩壊と共に、ザフトはパナマ守備を諦め基地を放棄。
太平洋に逃げるべく、南に逃亡を開始する。
「逃さねえよ!」
「ハハ、ヒャハハハハ!」
「オラオラオラオラァ!」
「くそ、こいつら追いかけて──ぎゃぁぁあああ!?」
目的である基地と運河の制圧は達成されたが、生体CPU達は止まらない。
海に逃げるザフトを追撃し、これを徹底的に殲滅。わずか3機で20機以上のザフトのMSを1機残らず殲滅し、カリブ海に続き第二次パナマ攻防戦でも大西洋連邦の艦隊は新型機の性能を遺憾なく見せつける形で一方的な圧勝を手にした。
基地を制圧した大西洋連邦の艦隊は、ジブラルタルにおける報復として基地に残され降伏したザフトの兵士たちを1人残らず殺害。
ブエノスアイレスやラ・グアイラに対する都市の無差別攻撃に続き、パナマにおける降伏した敵に対する組織的な虐殺を行い、運河を超えてペルーを目指し太平洋に進出した。
カリブ海に続き、パナマでの圧勝。
オペレーション・ウロボロスの再開の象徴。ジブラルタルの失陥から敗戦の続くザフト側の久し振りの大きな勝利として、ザラ政権の門出となる勝利として政治的に大きな意味を持つ拠点となっていたパナマの奪還は、その後の組織的な虐殺も相成りザフト側の士気に少なくない影響を与えることとなった。
レイダー、カラミティ、フォビドゥンの3機はザフトに大きな脅威として認識され、パナマにはいるはずだった増援は太平洋を南下する艦隊を確認するとG兵器を恐れ進路を変更するほどだった。
このままでは、南米が再び大西洋連邦に征服されてしまう。
そうなれば制海権を確保した南太平洋に再び連合の勢力が広がり、今やザフトにとって唯一のマスドライバー施設を有する基地となったカーペンタリアが危険に晒されることとなるだろう。
再び戦況が地球連合の優勢に傾くこととなる。
そんな予測が広がる中、しかしその戦況をさらにひっくり返す事態が発生することとなる。
その情報は、パナマ攻略後に南太平洋へ進出したサザーランドらが率いる大西洋連邦の艦隊が、次の目標であるペルーの近海に到達する頃に齎されることとなる。
「──な、なんだと!?」
翌朝にはペルーに到達するという段階になって、艦隊司令官にもたらされたその情報。
それを見た艦隊司令官は、驚愕のあまり眠気が吹き飛んだ。
内容は、主に二つ。
どちらも大西洋連邦──いや、連合を震撼させることとなる非常事態である。
一つ目は、大西洋連邦が恐れていた事態。
ジブラルタルで海軍戦力を大きく損耗し、パナマ攻防戦でイージスやバスターと言ったらG兵器やグングニールによりマスドライバーと大量のMSなどを破壊・無力化されパナマ基地を失陥するなど、敗戦が続き弱体化していた大西洋連邦に対し、アフリカ・地中海を安定化させ戦況を優位に進めその発言力を大きくしていたユーラシア連邦が、東アジア共和国と共にさらなる大西洋連邦の弱体化を狙い行なった宣言。
同じ地球連合であり、潜在敵国ではあるがこの戦争ではプラントという共通の敵と戦う同盟国であるはずの、ユーラシア連邦、東アジア共和国、スカンジナビア王国、南アフリカ統一機構、赤道連合の5勢力が、現在の南アメリカ合衆国の新政権を正式な国家として承認するという宣言だった。
戦況全体を見れば、大西洋連邦が劣勢に立たされるなどいまだに予断を許さない連合・プラント大戦だが、戦線が安定しているユーラシア連邦単独の視点から見ればプラントはすでにそれほど大きな脅威ではなくなりつつある。
その状況が大西洋連邦が担っている連合の盟主の地位を狙うユーラシア連邦の野心をつついたとでも言うのか、眼前の戦争をそっちのけにして未来の敵対国家となるだろうが現時点では同盟国であるはずの大西洋連邦の力を削ぐ選択をさせたらしい。
親プラント国であるものの、明確な大西洋連邦の敵対国家となりその力を削ぐ存在となり得る南アメリカ合衆国を承認することにより、ユーラシア連邦と東アジア共和国は大西洋連邦さらなる弱体化を図りにきた。
明確な裏切りとなる宣言。
連合の薄っぺらい協力体制に決定的な亀裂を生み出す重大事案だが、さらに問題なのがもう一つの報告だった。
──ブエノスアイレスにおける民間人を巻き込む都市への無差別攻撃の様子が記録された画像や映像データが流出したことにより、北アメリカ南部および西部、アイルランド、スコットランド各地にて反戦を掲げる大規模デモが発生。
これを鎮圧する前に、ブルーコスモス派のテロリストが
その直後に、これらのデモ隊に対する攻撃がブルーコスモスの支援母体である経済団体が主導したものであるという情報が発信されたことで、
「な、なんでこのようなことが──いや、まさか!?」
ニュートロン・ジャマーの影響が色濃い地球各地では、通信網が破壊されその復興がまだ終わっていない。
南アメリカ合衆国の独立後、中南米や南太平洋での通信網はザフト側に掌握されており、大西洋連邦のこの艦隊に届けられる情報は遅くなっていた。
そのため艦隊に本国からの情報が届けられるのが遅れ、数日前の情報が最新のものとして届けられるということは想定されていたが、しかしこの数日の動きは海軍大将だが所詮一介の軍人に過ぎない艦隊司令官には想定外のものであり、彼の手にどうにかできるものではなかった。
しかし、艦隊司令官の頭には、どこかこの事態を生み出す動きがあったことに対する心当たりがあった。
ブルーコスモスの盟主でありながら、コーディネイターに対する姿勢は穏健派であるアズラエルは、時に利益度外視の非合理的な過激にすぎる行動に走り出す派閥のストッパーとしての役割も持っている。
彼の手腕により、国民の憎悪がコーディネイターから民間人への被害も辞さない過激なブルーコスモスにいつ向けられるかもわからない薄氷の上の均衡は保たれ、大西洋連邦は内憂の爆弾を暴発させずに安定を保ってきた。
しかし、オペレーション・スピットブレイクから事態は動き出していた。
エイプリル・フール・クライシスをはじめとする数々の地球に対するプラントの蛮行、それら全ての責任も押し付けられるかたちで解体されたプラントのクライン政権。
そして発足した新政権であるザラ政権は、パナマ攻略の折に降伏した連合の兵士たちを国際条約に基づく人道的な処遇を施し、ザラ政権は地球側の反プラント感情の宥和に向けた姿勢を見せていた。
今回の南米の蜂起と、大西洋連邦の艦隊の派遣。
ブエノスアイレスに対する都市の無差別攻撃。
穏健派であり、過激派のストッパーでもあるアズラエル不在の本国におけるブルーコスモスの暴走。
そしてそれらを予期していたかのように情報をいち早く入手し、拡散した者たち。
独立意識と正義感の皮をかぶった矛盾する国民性を持つアメリカ人が中核をなすからこそ、大西洋連邦で起こりあるかもしれなかった、しかし水面下でアズラエルが抑えてきた内戦の火種。
それを意図して狙い、南米独立とそれに対して大西洋連邦が民間人を巻き込む攻撃を仕掛けることを想定し、そしてこの内戦を誘発する流れを作ったものがいるとすれば、アズラエル不在を狙ったかのように起きたこの異常に速い流れもつながることとなる。
艦隊司令官は、この二つの国家を揺るがす情報を受け、これを意図して作った存在があるかもしれないという仮説が頭に浮かんでいた。
そして、艦隊司令官にはその人物に心当たりがあった。
この、大西洋連邦の内戦をおそらく誰よりも望んでいるだろう男を。
「とにかく、このことをサザーランド大佐に伝えなければ──!」
大西洋連邦の内戦。
これにより最も得をする存在は、プラントでも南米でもない。
艦隊司令官の推測に過ぎないが、その予想を一刻も早く伝えるべく、サザーランドのいる部屋へと急ぐ。
連合側に傾きかけていた戦況が、再び崩れる。
大戦は終焉を見せる気配はなく、むしろその戦果はより複雑に、より大きな炎となって拡大することとなる。
サザーランドが合流し、アズにゃん三馬鹿を駆使して大活躍中。
海戦でグーンを撃破、パナマを奪還、ついでに降伏したコーディネイターの虐殺と、さすが盟主王です。