その首置いてけザフト共   作:みども

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オーブ連合首長国2

 

 

 月本部から地球に降り立った第8、第9艦隊の合同部隊に与えられた次の任務。

 それは、これまでアークエンジェルが戦い抜いてきた戦闘で発生したバルトフェルドらザフトの捕虜と、パナマ攻防戦で発生した大西洋連邦の捕虜の交換を行うため、オーブ連合首長国に向かえというものだった。

 

 パナマ攻防戦の後、南米独立運動に参加させるためにザフトが南米で解放した兵士たちを除く大西洋連邦本国の捕虜に関しては、ザフト側からイザークをはじめとする連合の確保している捕虜たちと交換するという条件で交渉が持ちかけられており、中立国であるオーブが“地球連合側は捕虜搬送に際してアークエンジェルが担当する”ということを条件として捕虜交換の場を提供することで、両勢力間において交渉がまとまることとなった。

 この捕虜交換のためにバルトフェルドらの捕虜の搬送をアークエンジェルが務めることとなり、ベニグセンら第9艦隊はその護衛に従事するように命令が出された。

 

 アークエンジェルらは捕虜交換を終えた後、これまでの戦闘で守り抜いてきた、または奪還してきたG兵器であるストライク、デュエル、ブリッツをアラスカの地球連合軍本部へ搬送する任務に従事し、その後に月本部の第8艦隊に合流することとなる。

 また、第9艦隊のツィーテンも紅海の戦闘などで多くのデータを収集したストライクダガーを月本部に届ける予定となっていた。

 

 そして、アラスカにて合同部隊は解散。

 それぞれの艦隊に復帰すると言う方針を伝えられ、これまで続いてきた共闘が終わることとなり、アラスカに到達後アークエンジェルらは第8艦隊に、ベニグセンらは第9艦隊に、ムウとルークは第7艦隊に復帰することとなる。

 

 アークエンジェルのCICに集まったムウたち士官全員に、フッカーからそのことが伝えられた。

 

「──以上が今後の方針となる。まずはザンジバル島にて今回の交換が行われる捕虜を艦に収容、その後オーブを目指して航行することとなる。ザフト側も捕虜交換に関しては承諾しており、オーブに入るまで攻撃されることはないだろう。だが、捕虜の護送中に何者かの襲撃を受けたという事件がこれまで多く報告されている。道中何があるか分からない。総員、決して気を抜くな!」

 

「「「了解!」」」

 

「では解散、各々持ち場に戻れ!」

 

 今後の合同部隊の方針を告げたフッカーが最後にそう締め括り、集められた士官たちは解散する。

 交換するための捕虜を搬送する部隊としてアークエンジェルを旗艦とする合同部隊はザフト側にも通知されているため、オーブに向かう道中は戦闘が発生する可能性がほぼない安全な航海となるとのことだが、何があるか分からないのが戦場である。

 実際、ザフトの捕虜の護送中の部隊がブルーコスモスのテロリストやザフトに身内を殺された遺族などから襲撃を受けると言う事件は多く発生している。

 加えてジブラルタル攻防戦以降、それまでその経済力により地球連合の盟主としての地位を確保していた大西洋連邦が弱体化していることにより、地球連合内部のパワーバランスが変化しており、何が起きてもおかしくない不安定な情勢となっていた。

 

 南米独立後、赤道連合に対し東アジア共和国が更なる圧力をかけており、場合によっては傀儡政権の樹立、場合によっては強引な併合をするかもしれないなどと言う話も囁かれている。

 ユーラシア連邦では反プラント・反大西洋連邦の筆頭であり、ブリテン島やスカンジナビア王国を併合し欧州圏の征服を企んでいるなどと言う噂もあるフリードリヒ・ハイドリヒがジブラルタル攻防戦以降その権力を強めているという。

 パナマ攻防戦では兵力の不足する大西洋連邦からの援軍要請をユーラシアが拒否し、それが原因でグングニールを投入したザフトの第二次攻勢にてパナマが陥落した、などと言う話も聞かれる。

 

 ザラ政権が樹立し、クライン派が完全に駆逐されたことで政情が安定化したプラントに対し、連合側の政情は非常に不安定な状況となっていた。

 

 そのため、ザフトから攻撃される可能性が低くとも、安全な航海になる保証はない。

 何があってもおかしくないのである。

 

 ザンジバル島にてバルトフェルド隊ら交換する捕虜を収容した合同部隊は5月28日にオーブを目指してインド洋へ出航し、その1週間後、6月上旬には赤道連合領マラッカ海峡に到達した。

 

 ここを越えればカーペンタリアの勢力圏となる。

 幸いなことに、不運や予期せぬ襲撃に見舞われることもなく合同部隊はインド洋を越え、マラッカ海峡まで到達することができた。

 マラッカ海峡を越えてザフトの勢力圏の海に到達したことにより、アークエンジェルの中の張り詰めていた空気は落ち着いてきた。

 

 連合に所属する艦なのに、連合の勢力圏よりもザフトの勢力圏の方が安全に感じるなどという、おそらく二度と体験できないだろう航海。

 

 カーペンタリアの勢力圏を抜ければ、その先は中立国オーブの領海となる。

 ここまでくれば安全だろうという認識から少し緩んだ雰囲気となる第8艦隊に対し、怨敵であるザフトの勢力圏に安全に入れると言う状況に対する困惑と、これまでの経験からザフトは信用ならないと言う不信が拭えない第9艦隊の方はむしろ張り詰めた空気が広がりはじめた。

 

 しかしそれは杞憂で終わり、カーペンタリアからは監視用のMSが近くを飛ぶことはあったものの攻撃を受けることはなく、合同部隊はザフトの勢力圏を何事もなく抜けて、数日後には中立国オーブの領海に入ることができた。

 

 

 

 オーブ連合首長国。

 かつて、再構築戦争において東アジアの統一ブロックから逃れ、日本列島からソロモン諸島に移住した人々と、ハワイ諸島をはじめとするポリネシアの現地民たちが作り上げた永世中立国。

 

 技術立国として名を上げ、現国家元首である五大氏族筆頭アスハ家が主導・推進した宇宙開発事業により資源衛星を獲得し、そこから生み出された莫大な富を元手に産業を発展。

 地熱を利用した独自の発電技術と島々を結ぶ海底の有線通信ネットワークにより、エイプリル・フール・クライシスによる被害を最小限に抑え、その後の大戦とニュートロン・ジャマーの大量散布による影響から広がった世界規模の物資不足においては発展した産業を元とした交易により大きく栄えた、戦争への不干渉を貫きながら戦争によって発展したと言う矛盾した側面を持つ国家でもある。

 

 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。

 この理念を掲げ、ナチュラル、コーディネイターの人種を問わず難民などを受け入れている、連合・プラント大戦において唯一中立を維持している国。

 

 その経済力と技術力を力として獲得した軍事力もまた巨大であり、国土こそ小さいものの両勢力にとって無視できない存在となっている。

 

 オーブという国家を構築した人々が日本列島からの移住者たちだった名残で、公用語に日本語を用いている国である。

 

 一応ユウも先祖に日本人を持つが、此方は再構築戦争の際に故郷である列島に残る選択をした中でユーラシアに組み込まれた者達が先祖であるため、人種の括りとしては同じになるかもしれないが血の繋がりはない。

 それに、コーディネイターを受け入れている中立国とはいえそのほとんどはナチュラル。肌の色よりも遺伝子改良の有無によって人種で分たれたこの世界において、旧時代の人種による区別はほとんど意味をなさなくなっている。

 

 オーブ軍の派遣してきた艦隊の案内の元、アークエンジェルは捕虜交換の舞台として用意されたキキョウ島へと6月7日に入港した。

 

 すでにザフトが派遣した大西洋連邦の捕虜を搬送する部隊はキキョウ島に入っているという。

 それを示すように、アークエンジェルら合同部隊が入った港には二隻のボズゴロフ級が停泊しており、港には武装を解除し作業に従事するディンの姿があった。

 

「ザフトのボズゴロフ級だ……」

「こんな近くで敵艦を見ることになるとはな……」

 

 通常であれば、この距離にある敵艦などすぐに戦闘となり悠長に見ることなどないだろう。

 至近距離で敵艦や敵MSを観察できるこの機会に、停泊前からクルーたちが甲板に上がってザフト軍の様子を見ていた。

 

 それはザフト側も同じであり、バルトフェルド隊を敗北に追い込み砂漠の虎を捕らえたという“足付き”の姿を一目見ようと、ボズゴロフ級の甲板や港にザフトたちが集まってきていた。

 

 そうなれば、必然的に本来は殺し合いを繰り広げている敵と銃を持たない状態で顔を合わせるという、戦場では体験できない事態に遭遇することとなる。

 

「ザフト……!」

「……ナチュラル共が」

 

 戦闘を禁止されているとはいえ、お互いに多くのものを傷つけ合い奪い合った間柄のもの達。

 やはりと言うべきか、両者共に敵対勢力には拭えない感情があり、目を合わせた者達はその敵に対して憎しみのこもった目を向けることとなる。

 

 流石にこの場でドンパチを始める愚か者はいなかったが、港は一触即発の張り詰めた空気となった。

 

「兵士たちに何があってもザフトへ刺激する行為をしないように厳命してくれ」

 

「了解。アークエンジェルより各員に通達──」

 

 兵士たちの緊迫した空気を察したフッカーが、オペレーターに改めて戦闘行為を一切禁止する命令を通達するように指示を出す。

 それに応じオペレーターが命令を伝える放送を流す。

 

「艦長、オーブ政府から当艦に対して通信が入っています」

 

「オーブから? 内容は何だ」

 

 そんな中、キキョウ島に入港した合同部隊──正確にはアークエンジェルに対してオーブ政府から通信が入ってきた。

 

「“地球連合第8艦隊所属艦アークエンジェルに対し、オーブ政府より要請する。捕虜の降艦後、以下の人員及び兵器を搭載した状態で当方の指定する港に単艦で移動されたし。”とのことです!」

 

 ナタルがオペレーターに内容を尋ねると、その通信は捕虜を別の艦隊に移してアークエンジェルのみ別の島に向かうようにという要請だった。

 それも、アークエンジェルにブリッツ、デュエル、ストライク、そしてアフリカから同行している明けの砂漠のメンバーであるカガリとアフメド、キサカを同乗させた上でと言う注文をつけて、である。

 

「……了承したと返答してくれ。捕虜を降ろしたのち、アークエンジェルはオーブ軍の誘導に従い移動する」

 

 合同部隊の責任者は先任大佐であるフッカーが担当している。

 捕虜交換も彼が責任者となって行う予定だったが、あらかじめオーブからの捕虜交換の場を提供するための裏の取引で決定された条件をハルバートンから聞いていたフッカーは、クルーにオーブからの要請に従い捕虜を降ろしたのちにアークエンジェルを移動するように指示を出す。

 

「捕虜交換に関しては、以後カサンドロス艦長ノリントン大佐に委任する。それから、ナガト少尉とフラガ少佐にも一旦アークエンジェルを降りるように伝えてくれ。その他のクルーはブリッツを搭載後、アークエンジェルに乗船せよ」

 

「了解しました」

 

 フッカーの指示により、バルトフェルドらザフトの捕虜の他にユウとムウもアークエンジェルから下ろされ、ベニグセンから移されたブリッツを乗せたアークエンジェルは先導するオーブ軍の護衛艦と共にキキョウ島を後にした。

 

 アークエンジェルがG兵器を乗せてキキョウ島を離れたのを見送った残る合同部隊の面々は、捕虜交換に関する業務はカサンドロスの艦長であるアンドリュー・ノリントンが引き継ぎ予定通りバルトフェルドたちとパナマで捕虜となっていた連合兵士たちの捕虜交換が行われることとなった。

 

 フッカーなど一部の士官だけが承知している今回の捕虜交換に際し大西洋連邦とオーブとの間にあった取引の内容を知らないユウとムウは、アークエンジェルから下ろされ、さりとて捕虜交換の場でやることもなく、手持ち無沙汰となった。

 

「いきなり降ろされちまったけど、坊主はなんか知らねえか?」

 

「いえ、自分は何も。……予想はつきますが」

 

「ああ、なるほどなるほど。ったく、強かっていうか、抜け目ないっていうか……」

 

 お互いアークエンジェルの行き先を知らない者同士。

 しかし、ナチュラルでも操縦可能な機体として完成され、さらには実戦を経験しデータを集積したG兵器を積んだ状態でザフトやユーラシアの目から離れていったとなれば、どこに向かったのかは大体想像がつく。

 

 G兵器の開発に携わったモルゲンレーテ社が置かれているオーブからしてみれば、G兵器のデータを欲しがっても何ら不思議はないだろう。

 

「裏取引ってやつかね。アークエンジェルが指名されるわけだ」

 

「…………」

 

「気に入らないか? 坊主にとっては手塩にかけて完成させた機体だし、データだって命懸けで集めたものだろ?」

 

「いえ、上層部が承諾したことならば末端の兵士にとやかくいう権限はありません」

 

 G兵器の行方は想像がつく。

 おそらく、オーブの何処かにあるモルゲンレーテ社の本工場に運ばれ、ナチュラルでも操縦できるように改良されたOSを始めとする各データが解析されるのだろう。

 

 安全な捕虜交換の場を提供してもらった大西洋連邦はともかく、ユウたちの属するユーラシアから見ればOSの完成に携わり命懸けでザフトと繰り広げた実戦で集めてきたデータを無条件で奪われるようなもの。

 オーブに苛立ちを覚えたとしてもおかしくはないのではと思ったムウだが、ユウの方は連合上層部の決定ならば末端は従うのみだと答えた。

 

 ユウとしては、G兵器に関しては成り行きから本来触れることも許されない機体の改良に携わることができた幸運のようなものと思っている。

 そもそもG兵器を作ったのは大西洋連邦とモルゲンレーテ社であり、その製造に関わっていない余所者のユーラシアに属する己に文句を言い立てる筋合いは無いと考えており、特にオーブに対して怒りなどは感じていなかった。

 

「……俺たちどうする?」

 

「ひとまず自分はベニグセンに戻ります。フラガ少佐も如何ですか?」

 

「まあ、中立国で勝手に出歩くわけにもいかねえし、アークエンジェルが戻るまで乗せてもらっていいか?」

 

「了解しました」

 

 ひとまず、暇になった2人はアークエンジェルが戻るまでベニグセンで待機することにした。

 

 




ユウとムウですが、まだカガリの正体を知りません。
国のトップの娘がゲリラに混じってよその大陸の戦場で暴れているとか、想像つかないですよね普通は……
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