その首置いてけザフト共   作:みども

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大西洋連邦「兵隊は消耗品だが、ストライクダガーの操縦スキルを持つパイロット達は惜しい。パナマで大量に発生した捕虜を返してほしい」

ザフト「プラントの人的資源は貴重だ。ザラ政権の次代を担う人材であるイザークとラスティ、それと出来ればバルトフェルド隊を返してほしい」

オーブ「中立国が捕虜交換の場を提供するから、大西洋連邦はG兵器の解析させろ。ザフトはヘリオポリスで連合軍の兵器の製造をした件を知らなかったことに」

大西洋連邦「では捕虜をアークエンジェルで運ぶ。滞在中、モルゲンレーテに整備を頼むかもしれないけど、調べたいことがあればご自由にどうぞ」

ザフト「ではこれまで通りオーブは大戦に一切介入をしてしない中立国として認識する。今後とも難民受け入れにご協力を」

細かいやり取りは他にもありますが、だいたいこんな感じで交渉がまとまりました。



オーブ連合首長国3

 

 

 アークエンジェルから降ろされたバルトフェルドをはじめとするアフリカ戦線で発生した捕虜と、パナマ攻防戦にて発生した中でも大西洋連邦の本国を故郷とする捕虜が、キキョウ島にて交換されることとなった。

 

 数はパナマにて発生した連合兵士の方がはるかに多いが、ザフト側はプラント最高評議会の議員の実子であるイザーク・ジュールやラスティ・マッケンジー、砂漠の虎の異名を持つエースの1人であるアンドリュー・バルトフェルドなど、重要人物がいる。

 

 両陣営の深い軋轢や憎悪から、連合・プラント大戦においてコルシカ条約は形骸化しており、捕虜が無事であることは殆どない。

 捕虜交換の場を今回提供したオーブも含めた各勢力の思惑が交錯した結果とはいえ、五体満足の状態で数千人単位の捕虜が交換されることは非常に珍しい事例となった。

 

 捕虜の搬送と解放される友軍の受け入れを担う両勢力の責任者達が対面する。

 捕虜交換に関する交渉は既に取りまとめられているので、現地の責任者である彼らの役目は引渡しと受け取り、返される者達の身元確認、指定した捕虜の返還されたことの確認と承認などが主である。

 

 地球連合側はカサンドロスの艦長であるアンドリュー・ノリントンが、ザフト側は指揮官クラスの役職を示す白服を着た人物がそれを担当した。

 

「地球連合第8艦隊所属、カサンドロス艦長アンドリュー・ノリントンです。この度は当国兵士の返還に応じていただき感謝します」

 

 フッカーから捕虜交換の任務を引き継いだ、カサンドロス艦長を務めるノリントンが、対面したザフトの白服に片手を差し出す。

 それを受け、ザフトの白服もまたその手を握り返した。

 

「こちらこそ捕虜交換を承諾していただいたことを感謝します、ノリントン艦長」

 

 ヘラヘラと軽薄そうな笑みを顔に貼り付けながら、ノリントンの手を握り返すザフトの白服。

 その内心は読み取れないが、後ろでノリントン達を睨みつけている緑服のザフト達と違い、捕虜交換の場において敵意を表に出さない程度の分別はつくらしい。

 白服に対してそんな第一印象を抱いたノリントンだが、その直後白服の名乗りを聞いて彼の顔色は変わることになる。

 

「私はヘルマン・スコルツェニー。この国出るまでは敵味方の別はないし、よろしくお願いしますわ」

 

「────ッ!?」

 

 ヘルマン・スコルツェニー。

 ノリントンの手を握り返した白服は、そう名乗った。

 

 ウランバートルにて100万人を超える死者を出す大虐殺を行い、そしてジブラルタルではスプルーアンスと大西洋連邦の艦隊をサイクロプスで消し飛ばした大量殺戮者。

 ノリントンもカサンドロスから多くの同胞を巻き込みジブラルタルがサイクロプスに沈められる光景を目の当たりにした1人である。

 一介の部隊指揮官としてならば、おそらくこの大戦に参加している誰よりも殺した人数が多いだろう人物。

 

 軽薄そうな笑みを顔に貼り付けて目の前で自分の差し出した手を握り返してきたザフトの白服は、その大量殺戮者の名前を己のものとして名乗ったのである。

 

 紅海にて撃破したザフトがスコルツェニーではなく、紅海の鯱の異名を持つマルコ・モラシムの率いる部隊だったこと、すなわちいまだにジブラルタルにおける仇を取れていなかったことは知っていた。

 スコルツェニーがまだ生きており、オペレーション・スピットブレイクに参加していたことも聞いていた。

 

 しかし、この銃を向けることを許されない中立国で行われる捕虜交換の場で遭遇することになるとは、ノリントンは想定していなかった。

 

 当然、ノリントンだけではなくこの場に同行していた士官達の耳にも、スコルツェニーの声は届いてきた。

 ノリントンは驚きのあまり固まってしまったが、連合・ザフト共に銃器の類は一切持ち込んでいないこの場でなければ今すぐにでも銃に手をかけその引き金をこの男に引いていただろう。

 そう思えるほどの強烈な殺気が、連合側の面々からスコルツェニーに向けてぶつけられた。

 

「スコルツェニー……!」

「スプルーアンス提督の仇……!」

「お前が、ジブラルタルで仲間達を……!」

 

「何のつもりだ貴様ら!」

 

 スコルツェニーを前に殺気立つ大西洋連邦の兵士達に、ニーラゴンゴ所属のザフト達も反応する。

 殺気をぶつけられている本人は大して気にしていない様子だが、周囲は今にも殴り合いが始まりそうな一触即発の空気となる。

 

 だが、この場は連合とプラントが命を燃やし銃器を向け合う戦場ではなく、中立国オーブの領土。

 一触即発の空気を察知したオーブ軍の兵士たちが、銃器の持ち込みを許されず丸腰である両勢力の兵士たちを威圧するように肩にかけた銃に手を添えた。

 

「両者とも、ここがオーブ領内であることを認識していただきたい。この場においてはいかなる事情があろうとも傷害沙汰となることは我々オーブが許しません」

 

「……お前達、落ち着け。この場で荒事を起こすことは許さない」

「はいストップ。殴り合いとか絶対禁止よ、まだ捕虜の交換してないんだから」

 

 オーブ軍の士官からの警告を受け、ノリントンとスコルツェニーがお互いに兵士たちを制止したことにより、一触即発の空気となっていた両陣営の兵士たちは殺気を収める。

 

「お騒がせしてすみませんね。さて、膝を突き合わせてお茶飲み交わすような間柄でもないのだし、早速始めましょうよ捕虜交換」

 

 そしてこの一触即発の空気を作り出した張本人であるスコルツェニーは、まるで他人事のような軽い口調で本来の目的である捕虜交換を始めようと提案する。

 

「……こちらも異論はありません。始めましょう」

 

 憎悪をぶつかられようともまるでどこ吹く風というかのような、積み重ねた大量殺戮に何の感慨も抱かない、人として大切なものが欠落しているかのような、軽薄な笑みを浮かべる口元に合わない深海のような暗い無機質な闇色。

 ノリントンには、スコルツェニーの目が同じ血の通う人間のものには到底見えない異質なものに感じた。

 

 だが、この場に来たのは彼らと戦うためではない。

 パナマで発生した数千人の同胞を無事に本国に帰し家族と再会させるために、粛々と捕虜交換の手続きに取り掛かることとなった。

 

 捕虜交換の対象がパナマ守備軍の大西洋連邦の兵士たちだったこと、所属は違えど合同部隊の指揮権に関しては大西洋連邦宇宙軍である第8艦隊側が有しておりバルトフェルドをはじめとする捕虜の身柄に関してアルトリア達が要求することがなかったことなどから、捕虜交換に関しては第8艦隊側が担当することとなった。

 しかしもしこの場にいたのがノリントン達ではなく、ザフトに強烈な憎悪を持ちとりわけスコルツェニーとの因縁が深いアルトリア達だったならば、このキキョウ島はたちまち戦場と化していた可能性が高かっただろう。

 

 捕虜交換はただお互いが連れてきた捕虜を解放して引き取りそれで終わり、というものではない。

 捕虜交換にあたりお互いが事前に取り決めていた解放する捕虜の取りこぼしや隠匿、スパイの流入などがないように、厳正な身元確認が行われる。

 交換される捕虜の人数も違う。平等を課するために、取り決め通りの人数同士を順次解放、交換し、その身元を確認して両者共に受け渡しが行われたということを承認し合うことを繰り返さなければならない。

 中立国の領域内とはいえ、相手は敵国。情勢の変化による突然の中止やよからぬことを企み暴走する者、テロリストが紛れ込んでいるなどという不測の事態が想定されるため、有事の際には人質に使える捕虜の身柄の扱いは慎重に、そして確実に行われる必要がある。

 さらに今回の捕虜交換は人数が多く大規模なものとなるため、諸々の手続きなどを含めた全てを終えるまでは時間がかかるのである。

 

 本来他国と争いに介入しない立場をとるオーブが、時間のかかる捕虜交換の舞台を提供しそれなりの期間他国の軍隊が駐屯することを承諾したのは、喉から手が出るほど欲しがっているG兵器解析の時間を確保するためでもあった。

 

 パナマ陥落などで大きく情勢が動いている中で、合同部隊はある程度の時間をこの中立国で過ごすこととなる。

 オーブ政府から許可された範囲での活動しか許されていないため、世界で今も友軍が命懸けで戦っている中で目の前の敵と撃ち合いをすることも許されずに、敵軍が駐屯している中立国の狭い島で娯楽などもなく過ごすというのは兵士たちにとってかなりのストレスとなるだろう。

 

 せめて名前も知らない相手であればよかった。

 耳に挟んだペンを見失って書類にサインできないとほざいているスコルツェニーを見ながら、せめて何も起きずに今回の捕虜交換が無事に終わることを祈りながら、ノリントンは粛々と手続きを進めた。

 

 

 

 だが、本来の目的である捕虜となった仲間達を無事に故郷へ帰すために怒りを我慢してこの捕虜交換を無事に終わらせる。

 そんなノリントンの考えを否定するように、培われた大きな憎悪は牙を剥く。

 

「オットー・スコルツェニー……お前だけは、絶対に……!」

 

 捕虜交換1日目が終わり、1割ほどの捕虜の交換が行われたその日の夜。

 

「──では、オーブ領海から奴らが出たタイミングを狙う」

 

「ああ。ジブラルタルで灼かれた同胞の無念を晴らしてくれ」

 

「テストタイプの機体だが、グーンなんぞとは比べ物にならない性能を持つ海戦に特化した新型MSだ。必ず仕留めて見せる」

 

 カサンドロスの乗組員の中に、オーブに紛れ込み潜伏する大西洋連邦のスパイと接触する者の姿があった。




オーブを出た航路にフォビドゥンブルーが待ち構える……
難民拒まずのオーブには当然連合側のスパイだってたくさんいると思います。
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