その首置いてけザフト共 作:みども
捕虜交換が終わるまでオーブの港にて艦内待機を命じられているユウたちと不可能を可能にする男の場面からになります。
オーブ連合首長国にて行われている捕虜交換。
地球連合側は捕虜がパナマ守備隊の降伏した兵士たち、即ち大西洋連邦の所属だったため、第8艦隊が担当することとなった。
地球連合もザフトも、中立国であるオーブ領内ということもあり武装を解除している。
捕虜交換はカサンドロスが担当する一方、アークエンジェルはG兵器を搭載した状態でオーブの艦隊に誘導され別の島に停泊することとなる。
今回の捕虜交換の裏で、大西洋連邦とオーブとの間で交わされた密約。
オーブが合同部隊の各艦の補給と整備を有償で行う代わりに、G兵器の開発・製造に携わったモルゲンレーテの本社にてデブリベルト以降各地で戦闘を積み重ねてきた3機のG兵器とアークエンジェルのデータの解析をオーブが行うことを容認する。
その履行のためであった。
ザフトの目を隠れ、合同部隊から一時的に離れてオーブ領オノゴロ島に到着したアークエンジェル。
軍事に関するオーブの最大の機密が集約された島に入港したアークエンジェルは、G兵器とともにモルゲンレーテの施設へと移送され、アークエンジェルのクルー達──特に整備班の面々はオーブの事情聴取を受けることとなった。
そして、第8艦隊の護衛として同行していたユーラシア連邦の第9艦隊には、捕虜の交換が終わるまで艦内待機命令が下ることとなった。
彼らはまだ、ザフト側の代表がウランバートルなどで因縁のあるスコルツェニーであることを知らない。
多くの仲間と無辜の民の命を奪ってきた大量虐殺の実行者としての認識が強いスコルツェニーがいると聞けば、中立国であることも忘れて暴発する者がでかねない。
第9艦隊の面々がザフトに対して時にはブルーコスモスのテロリストも引くほどの敵意と憎悪を持っていることを知る第8艦隊に所属する各艦の艦長達は、ひとまずスコルツェニーのことを伏せて無事に捕虜交換を終わらせることを優先した。
オーブにG兵器が回収され、アークエンジェルにカガリとアフメドも同行したことにより、戦闘、整備、子守と多忙だったユウには久しぶりに暇な時間が訪れていた。
「…………」
地球連合と親プラント勢力。
二つの陣営に引き裂かれた世界で、唯一中立をいまだに保っている国家。
ベニグセンの甲板にてまるでこの大戦から隔絶されたような凪いだ海の広がるオーブの領海を眺めているユウの耳に、近づいてくる2人分の足音が聞こえてくる。
海から足音のする方へ目を向けると、近頃よく一緒にいる姿を見るミランダとムウの姿があった。
第7艦隊所属のMAパイロットであり、オーブの保有するスペースコロニーヘリオポリスにて極秘裏に開発されていたG兵器の正規パイロット達の護衛任務を担当していた、エンデュミオンの鷹の異名で知られるエースパイロット、ムウ・ラ・フラガ。
デブリベルトにおけるザフトのクルーゼ隊によるG兵器強奪や第8艦隊との合流直前にあったゲラート隊の襲撃などがあり、地球降下後も引き続きG兵器の護衛と強奪された機体の奪還のために第8艦隊へ一時的な転属命令が出たことで、アフリカや紅海などこのオーブに到達するまでの戦いを共に乗り越えることとなった。
そんな彼はオーブに入ってからはアークエンジェルに同行せず、ストライクダガーの開発によりいずれ連合の機動兵器もMAからMSに移るだろうことを見越してそれまでにMSの操縦に慣れるべく、部下のルークともどもミランダを先輩と仰いでMSの操縦テクニックについて教えてもらうなど、ミランダと共に過ごす時間が増えている。
ミランダの方も連隊内では妹扱いされることが多かったので、先輩と呼んでもらえるのがよほど嬉しいらしく彼らといる時間が多くなっていた。
そのため、2人が並んでいる姿は別に珍しくない。
特にミランダを可愛がっている連中はムウやルークに陰で嫉妬を向けているが、ユウはむしろ手のかかる妹分の保護者役をしてくれる分助かるし、親密になろうと当人同士が納得していれば干渉するつもりはないと、さほど気にしていなかった。
ムウとミランダの方もユウの存在に気づいたらしく、1人静かに甲板で過ごしている背の低い隻眼の少尉の方に足を向けた。
「やっほーです、ユーさん。どうしたんですかこんなところで1人寂しく黄昏て。連隊長にまたまた殴られてほっぺ腫らしたから、青い海を眺めて傷心を癒しているとかですか? ですよね! ねえねえ、腫らしたほっぺ見せてくださいよ!」
「…………」
「どうしたんだ坊主? 海なんか眺めて」
見つけるや否や早速からかってくる妹分の登場に、静かな時間が終了した知らせが告げられため息が出そうになるユウ。
そんなユウの憂鬱になる表情を見て、何か悩んでいることでもあるのかと思ったムウが頰を突っついてくるミランダとユウを挟むように隣に立つ。
「なんか溜めてることでもあるなら愚痴くらい聞いてやるぜ。原隊復帰すれば直ぐ別れる間柄だ、遠慮なくぶちまけられるものもあるだろ」
「……いえ、そういうわけでは。お気遣いなく」
ため息を出しかけたユウの表情を見て、溜め込んでいるものがあると思ったムウは、階級が上の年長者として愚痴くらい聞いてやると言う。
いい加減そうな言動が見える割にしっかりと周りを見て心配りをしてくれる兄貴肌のムウに、ミランダの相手をしてもらっているのに暇な時間ができたなどという悩みにもならないことを告げるのも忍びないと思ったユウは、気遣い無用だと流した。
本人がそういうならばと、目にクマができるだのやつれているだのといった様子がなければ深くは切り込まないでおくことも思いやりだと、ムウはそれ以上踏み込まずに切り上げる。
しかし、反対側の空気を読めない図体は大人なのに精神年齢が子供のままの妹分が、アルトリアに殴られて1人で黄昏ていたのだと勝手に思い込みここぞとばかりに揶揄ってきた。
「カッコつけなくてもわかるのですよ! ユーさんはズバリ、連隊長にボッコボコに殴られて顔が腫れているから甲板で1人寂しく黄昏ているのです!」
「その目は節穴か?」
「へ? ……あれ、ユーさんの顔が殴られてない!? 何で!」
「そんなに驚くことか? 理由がなければ殴られることもない」
しかし、今回ユウはアルトリアに殴られたわけでもなければ、ボコられた傷心を癒すために黄昏ていたわけでもない。
単に手持ち無沙汰になったが、今までそれなりに忙しかったので暇になった時に何をすればいいかわからず甲板に上がって海を眺めていただけである。
そして、ユウの顔がアルトリアに殴られていないという状況に、普段は大抵ボコられているのにとミランダが驚きの声を上げた。
「ユーさんが殴られてないってことは、連隊長がまさか風邪をひいているとか!?」
「そもそも今日は連隊長の呼び出しを受けていない。待機命令のままだ」
「そんないつも殴られてんのか?」
「連隊長を誤解をしないでいただきたい。部下を殴る趣味があるわけではなく、また自分が殴られることも毎回ではありません。三回に二回程度です」
「三回に二回は殴られてんのかよ……」
ミランダの驚きぶりに大袈裟だろうと揶揄うつもりでユウに話を振ったムウだが、返ってきたのは三回に二回は殴られているという確かに殴られていない方が珍しいと感じる事実だった。
部下を上官が殴るというのは珍しいことではないが、しかし三回に二回は流石に多いだろう。サンドバッグ扱いもいいところである。
もっとも、ユウが頻繁に殴られているのは部下や同僚のやらかしの責任を取らされる形というのもあれば、叱責でもなんでもない八つ当たりのような酷い理由であったり、ただの憂さ晴らしの暴行だったりという場合もあるのだが。
ちなみにアルトリアも鬼──ではあるが、流石に誰彼構わず鉄拳を飛ばしているわけではない。
部下を殴る場合には、厳しさからくる彼女なりの理由がある。理不尽に殴られているのはユウくらいである。
「連隊長に嫌われてるんじゃないですか? ユウさんは小っちゃいしモテないですからね!」
「モテないは余計だ」
「本当は13歳とか、そのくらいですよきっと!」
「もう面倒だ。13歳な、それでいい」
「ムーさんも聞きましたか!? 聞きましたよね! 認めましたよね今!」
「フラガ少佐、無視して結構です」
「言質貰いましたからね! では、ユーさん、チビさん、クソガキさん!」
「フラガ少佐、こいつを引き取ってくださいお願いします」
「手のひら返すの早ぇな!」
MSの操縦に関する交流を通してムウやルーク、G兵器のパイロットたちらと関わる機会が多くなっていたミランダ。
そしてG兵器の改良を通じてメカニックとしてアークエンジェルやムウたちと交流することが多かったユウ。
これらの交流を通して、持ち前の人当たりの良さもありすっかり打ち解けていたムウは、時折第9艦隊の常人には理解できない話に引くこともあるが、2人とは長年の友人関係にあるようなやりとりを自然とするようになっていた。
「流れるようなツッコミ……ミューさんとはまた違いますけど、ムーさんも染まってきましたね!」
「複雑だぜ、お嬢ちゃん……」
染まっていると言われるのは、多くがコーディネイターの彼らから壁が払われ受け入れられていると感じてもらっている証であるため嬉しくなる反面、狂人集団に侵されつつあるとも言われているようで、複雑な心境になるムウ。
そしてミランダがミハエルの名前を出したことで、仲良し3人家族のようによく一緒にいる姿を見かけていたのに、そういえばオーブに入ってからミハエルの姿が見えなくなったことに気づく。
「そういえば、ミハエルは? あいつ含めて君らってだいたい3人一組って印象だったけど、オーブに入ってから見てないんだが」
「ミューさんですか? ……むむ、確かに見てないですね」
「ベニグセンにいるはずですが……」
ムウの言葉を受け、そういえばと今更ながらにミハエルと最近会っていないことに気づく2人。
補給のための人員以外には降船許可が出ていないため、ベニグセンにはいるはず。
だが、確かに紅海でのモラシム隊との戦闘以降、それぞれ大西洋連邦の面々と関わる時間が増えたこともあるが、ユウもミランダもほとんど見かけていない。
「ミハエルはああ見えてしっかりしています。脱走したりしているわけでもなければ、気にせずとも必要な時が来れば姿を見せるはずです」
「ユーさんと違ってミューさんはモテますから! 女の子と遊んでいるかもですけど、心配しなくてもいいと思いますよ!」
とはいえ、不真面目そうな態度を示すことはあれども、メカニックに傾倒して上官に殴られるユウや、精神年齢が幼くポンコツを炸裂させることも多いミランダと比較すると、3人の中では最年長というかやともありミハエルはしっかり者である。
見かけないからといっておかしな事をしでかす人物ではないことを承知し信頼している2人は、オーブに入って以降全く見ていないとしても特に気にしなかった。
「まあ、お前さんたちがいいって言うなら俺も深くは突っ込まねえけどよ……」
ムウは納得いかない様子ではあったが、同僚の2人が現状でも大丈夫だというなら外野はこれ以上の追求は控える。
すると、噂をすればというべきか。
オーブに入ってから姿を見せなかったミハエルが、3人がいるベニグセンの甲板に上がってきた。
「あ、ミューさん。ミューさんミューさん! ハイハーイ!」
甲板に出てきたミハエルの姿に最初に気づいたミランダが手を振り大声を飛ばす。
ミランダの声はしっかり聞こえたようで、ミハエルはユウたちの存在に気づくと近づいてきた。
「これは珍しい組み合わせ──ってこともなくなってきたな。此方に居られましたか、フラガ少佐」
「ムウで良いぜ。堅苦しいのは性に合わなくてな」
「では、ムウ少佐と。少し時間ありますか?」
「ああ、待機命令中で時間はたっぷりある。どうした?」
ミランダに気づいて此方にきたミハエルだが、どうやらムウを捜していたらしい。
ストライクダガーの機体や装備に関してはユウか整備班に、MSの操縦に関してはミランダに教えてもらっているムウにとって、ミハエルは現状親交を深める以外に関わる理由がない。
何の用かと尋ねるムウに、ミハエルはではと単刀直入に問う。
「ムウ少佐、“ゲラートシリーズ”という存在についてご存知ないですか?」
ミハエルは捕虜交換のためにオーブに入る前、ザンジバル島にてカサンドロスに乗せられたあるザフトの捕虜から聞いた、アルトリアと瓜二つの人物と“ゲラートシリーズ”という存在について知るために、ムウを捜していた。
連隊の面々でもその過去をほとんど知らないアルトリアと、ゲラートシリーズというなんらかの関係がある存在について。
その捕虜は何かを知っているようだったが、ミハエルには何も答えなかった。
しかし、その捕虜はゲラートシリーズという存在については何も話さなかったが、ムウならば何か知っているかもしれないという発言を残している。
地球に降下する前、アークエンジェルの救援に入った際に確保したザフトの白服の捕虜。
アルトリアに瓜二つの容姿を持つ“ツヴァイ・ゲラート”というコーディネイター。
アルトリアは自らの過去を話したことがない。
ミハエルも本人に直接尋ねたが、何も教えなかった。
極寒のシベリア特区に追放され、兵役に就任してからも敵性人種と後ろ指を刺される日々の中で、自分たちを導き勝利を幾度も上げてきたアルトリア。
ミハエルも彼女を疑いたくはない。
だが──いやだからこそ、アルトリアの過去とツヴァイとの関係について知っておきたかった。
アルトリアは何者なのか?
自分たちに叩き込んだあの超人的なMSの操縦技術は、あの強さはどこで手に入れたのか?
何故、コーディネイターでありながら自分たちのように故郷を地球としていないにもかかわらず地球連合の士官としてザフトと戦う選択をしたのか?
その答えが、きっとこのゲラートシリーズというものにある。
ミハエルにはそんな確信があった。
一方、ミハエルにゲラートシリーズについて尋ねられたムウはといえば。
「ゲラートシリーズ? ……ええと、悪いが全く聞き覚えがないな」
ミハエルの想定していたものとは違う、何も知らないという答えを返した。
「な、何も知らないのですか?」
「すまん、俺にはさっぱり。いや、ソキウスシリーズって名前なら聞いたことがあるんだけど、ゲラートシリーズってのはてんで聞いたことがないんだ」
困惑するミハエル。
だが、その時横から会話に割り込む声があった。
「ゲラートシリーズはソキウスシリーズとは全くの別物ですよ、少佐」
「そうなの?」
「えっ……知っているのか、ユウ!?」
ムウに尋ねたゲラートシリーズという言葉を横で聞いていたユウが、まるでそれについて詳しく知っているかのように言う。
ゲラートシリーズというものは、ソキウスシリーズとは全くの別物だと。
ムウは何も知らなかった。
だが、身近に知っていると思われる人物が見つかり、ミハエルは再度驚く。
「あ、ああ。けど、あんなもの知ってどうするつもりだ? 生存している個体のほとんどはプラントが保有しているのに」
肩を掴み興奮して迫ってきたミハエルに、戸惑いながらも知っていると答えるユウ。
生存している個体、という表現が何を示しているのか知らないミハエルだが、知っているならば教えてくれと相棒に詰め寄る。
「知っているなら教えてくれ。ゲラートシリーズについて知っていること、全部」
「それは構わないが……何故だ?」
「そうか、おまえは眠っていたから知らないのか」
ゲラートシリーズについて詳しく知るユウは、ミハエルが何故それを知りたがっているのかがわからず理由を尋ねる。
そういえば、ゲラート隊を撃破した時ユウはアークエンジェルにいたためツヴァイに関して何も知らなかったなと、ミハエルはゲラートシリーズを調べようとした経緯について話した。