その首置いてけザフト共 作:みども
片目を失った原因でもあるアスランにジンを撃破されて以降、意識を失っていた間にあったゲラート隊との戦闘と、現在月本部にて捕虜となっているアルトリアに瓜二つの容姿を持つツヴァイ・ゲラートの存在。
そして捕虜となった砂漠の虎とアルトリアの会話の中で出た、ゲラートシリーズという言葉。
アルトリアにもバルトフェルドにもその言葉の意味を教えられなかったミハエルが、バルトフェルドからムウならば知っているかもしれないという話を聞き、ムウを捜していたこと。
「ツヴァイ・ゲラート……そうか。ミランダ、先に昼飯済ませてこい。俺の分の配給もやるから」
「ユーさん大好き! じゃあ遠慮なくいただきます!」
「相変わらず単純なやつ……」
ミハエルから経緯を聞いたユウは何かを納得したように頷くと、余計な横槍で話を遮られる前に1人ついていけてないミランダを離してから、ゲラートシリーズについて話し始めた。
「ゲラートシリーズというのは、かつて遺伝子研究のメッカと呼ばれたスペースコロニー“メンデル”にて研究されていたプロジェクトひとつで、その完成した検体に付けられた呼称を指す。プロジェクトの責任者の1人、エイブラハム・ゲラートの名前からゲラートシリーズと名付けられている」
「メンデルのプロジェクト……ってことは、遺伝子改良の一環か?」
ミハエルの質問に、肯定を示すように頷きを返すユウ。
かつて、宇宙に進出した人類は故郷の星とは全く異なる環境に適応できるように受精卵段階で遺伝子に改良を加えることで人類を超える新たな人類を生み出した。
それが、コーディネイター。
容姿や才能……生まれる子供を親の意思で
かつて、L4宙域に建設されたスペースコロニー“メンデル”はコーディネイターの生産をはじめとする遺伝子研究において“禁断の聖地”、“遺伝子研究のメッカ”と称される最先端の研究機関が集まる施設だった。
現在は数年前に発生したバイオハザードによって放棄されており、事故の発生後X線照射による消毒によって無害となっているが、そのまま放置され廃墟となっている。
宇宙海賊が時折根城にしているという噂もあるが、表に出せないような研究の資料も多く残されているためか不気味な噂が多くあり、よほどの事情がなければ赴くような場所ではない。
そのメンデルでかつて研究されていた、“ある用途”に使用するために作られるコーディネイターの研究・開発を行うプロジェクト。
ゲラートシリーズというのは、そのプロジェクトによって作られたコーディネイターとそのクローンの成功検体に付けられた呼称である。
成功検体であるコーディネイターは“
その後、プロジェクトはアインスの遺伝子データをもとにクローンの開発と量産計画へと移行し、完成した1号クローンに“
「ゲラートシリーズはオリジナルであるアインスを含めて全部で13人が生まれた。そのうちメンデルで発生したある事故によって責任者であるエイブラハム・ゲラートとともに3人が亡くなり、オリジナルであるアインスが行方不明となったことでプロジェクトは凍結されることとなった。事故の後、残る生存した個体はもう1人のプロジェクトの責任者であるケーニヒ・ホーエンハイムがプラントに保護したらしい」
ユウが知るゲラートシリーズの行方はここまでである。
「なんでお前がそんなことを──って、そういえばお前の親父は……」
ユウが何故そんなことを知っているのか。
それを尋ねようとしたミハエルだが、そういえばとかつてシベリアにて聞いたユウの身の上話思い出す。
「ああ、ゲラートシリーズのプロジェクト。メンデルの研究員の1人だった俺の父もそれに携わる1人だったからな」
「お前の親父さんってメンデルの研究員だったのか?」
ムウの問いに首肯するユウ。
ユウの父であるクストー・ナガトは、かつてメンデルに勤める研究者の1人であり、当時携わっていたのがゲラートとホーエンハイムが進めていたこのプロジェクトだった。
メンデルの研究員に籍を置くコーディネイターだったことからその出自がユーラシア連邦に判明し、敵性人種として過酷なシベリア特区へとナチュラルだったユウの母も含め一家もろとも追放されることとなったが。
ユウがゲラートシリーズについて知っていたのは、クストーがゲラートシリーズのプロジェクトに携わっていたことで話を聞く機会があったからである。
そして、ツヴァイという名前とゲラートの姓。
ゲラートシリーズの生き残りはホーエンハイムがプラントにて保護したという足跡があったので、その名から推測するとツヴァイはゲラートシリーズの1号クローンの可能性が高い。
おそらく、プラントに保護されてからザフトに入ったという経緯だろうか。
「
「俺たちに負けて捕虜となった。そんなところか」
「名前からの憶測に過ぎないがな」
ツヴァイ・ゲラートという人物について、ゲラートシリーズについてユウが知っている情報と合わせて立てた憶測。
ゲラートシリーズの生き残りを保護したというもう1人の生みの親であるケーニヒ・ホーエンハイムという名前といい、ツヴァイがアルトリアと瓜二つであることといい、彼女の過去について砂漠の虎がゲラートシリーズの名前を出したことといい、ミハエルにはますますアルトリアとゲラートシリーズという存在に深い関係があるかもしれないという疑念が強くなった。
「ツヴァイは連隊長に瓜二つの容姿だった。連隊長のファミリーネームも“ホーエンハイム”だし、クローンってことは容姿が似てもおかしくない。まさかと思うけど、連隊長もそのゲラートシリーズなんじゃないのか?」
「連隊長が? ……いや、それは無いだろう」
ミハエルはゲラートシリーズの生みの親の1人であるケーニヒとアルトリアのファミリーネームが同じ“ホーエンハイム”であること、クローン故に同じ遺伝子を持つゲラートシリーズの容姿が双子のように酷似することから、アルトリアもまたゲラートシリーズの1人ではないかと推測する。
しかし、ユウはそれはないと否定する。
「連隊長はメンデル放棄よりも前からユーラシア連邦に軍籍を置いている。ゲラートシリーズは行方不明になったアインスを除き、放棄される原因となったバイオハザードの発生までは全員メンデルにいたはずだ」
ゲラートシリーズのクローンたちは、行方不明となったオリジナルであるアインスを除き、バイオハザードの発生までは生みの親である2人の研究者やプロジェクトチームとともにメンデルで研究対象として過ごしていた。
一方で、アルトリアは10年近く前からユーラシア連邦軍に所属していることを確認している。それ以前の経歴はプラント出身のコーディネイターであること以外はほとんど不明だが、彼女がツヴァイと瓜二つの容姿をしているのは偶然の可能性が高いだろう。
可能性があるとすれば秘密裏に作られたゲラートシリーズのコピーか、限りなく低いが行方不明となったゲラートシリーズのオリジナルであるアインスであることだが。
アインスが行方不明になったのは15年前、まだ年端もいかない少女だった頃である。
行方不明ということだが、スペースコロニーで消息を絶ったとなれば生きている可能性はかなり低い。実質的には死亡扱いされている。
ユウから偶然だろうと言われたが、しかし実際にツヴァイの顔を見たミハエルとしては双子かそれ以上に似ている容姿だったことからやはり無関係とは思えなかった。
「ちょっといいか坊主。そもそもだけどよ、ゲラートシリーズってなんなんだ? その、ある目的のために作られたコーディネイターとか言うけど、親父さんからその辺は聞いてないのか?」
一方、隣で話を聞いているムウがアルトリアとゲラートシリーズの関係性について話を掘り下げている2人に、そもそもゲラートシリーズというのが何であるという疑問を挟む。
ムウの疑問に、ミハエルもゲラートシリーズのプロジェクトが何を目的としているのかについてそういえば聞いてなかったと、一旦アルトリアとの関係から離れてプロジェクトについて聞くこととする。
「自分は携わっていないのでプロジェクトの内面についてはほとんど知りませんが、概要に関してならば知っています」
ユウの父親であるクストーも参加していたと言う、メンデルで行われていたプロジェクトの一つ。
プラント出身のメンデルに所属していた研究者、エイブラハム・ゲラートとケーニヒ・ホーエンハイムが責任者となって行われていたそのプロジェクトは、表向きには新たな人類たるコーディネイターの
受精卵段階で人為的に遺伝子に改良を加え、
しかし、遺伝子改良の重ねがけとも言えるコーディネイター同士の子供である第二世代コーディネイター間では、遺伝子の相性などの問題から適するペアでなければ出生率が極端に低下し子供が生まれないと言う問題があった。
急激に出生率が低下する第三世代以降のコーディネイター。
コーディネイターも生物学的にはナチュラルと同じ人間である。能力を追求し調整された遺伝子を持つコーディネイターと違い、自己の遺伝子の継承と種の存続のために自然に進化を続けてきているナチュラルは、コーディネイター同士と比較して子供を成せる場合が多い。
ナチュラルとコーディネイターの間に生まれた存在、ユウやミハエルなどが該当するハーフコーディネイターと呼ばれる存在は、まるで個体として長命でも種としては短命であることを運命付けられたようなコーディネイターたちの存続を示す答えの一つであった。
だが、多くがナチュラルよりも優れた能力を生まれながらにして持つコーディネイターにとって、ナチュラルと交わるが故に自己の優れた遺伝子が劣化した子供となるハーフコーディネイターという存在は嫌悪の対象として映る。
コーディネイターの種としての存続と、優秀な遺伝子の確実な継承。
コーディネイターたちが求める二つの問題を同時に解決する手段として動き始めたのが、このプロジェクトだった。
「交配対象となるコーディネイターの遺伝子を不純なく受け継ぐ子供を誰が相手であっても確実に孕むことができる母胎を持つ存在。第四世代以降のコーディネイターを産み、種族としての存続を担う、
誰とでも子供を作ることができ、尚且つ交配相手となるコーディネイターの持つ遺伝子を純粋に、確実に継承する子供を妊娠できる臓器を持つコーディネイター。
エイブラハム・ゲラートとケーニヒ・ホーエンハイムによって生み出された、コーディネイターのイヴとなる存在。
コーディネイターという新人類を新たな種族として確立し存続させるための子宮を持って生み出されたアインス・ゲラートという少女と、そのクローン達。
それが、ユウの父も携わっていたプロジェクトである。
「遺伝子改良の研究者であるケーニヒ・ホーエンハイムと、クローン技術の研究者であるエイブラハム・ゲラートが生み出したゲラートシリーズは、コーディネイターを次世代に残すための答えだった。オリジナルであるアインス自身は行方不明となったが、クローンを作るために必要な彼女の遺伝子データはケーニヒ・ホーエンハイムがゲラートシリーズとともにプラントに持ち込んでいるはずだ」
「なんか、メンデルのプロジェクトってスケールがデカすぎるよな……」
「…………」
ゲラートシリーズについてユウから知っていることを聞いたミハエルは、コーディネイターの存続のためという壮大なプロジェクトに理解の範疇を超えてきたとつぶやきをこぼす。
そしてゲラートシリーズに関する話を聞いていたムウは、思うことでもあるのか眉間に皺を寄せ顎に手を当てて深刻そうな表情を浮かべていた。
「……少佐?」
「あ、いや悪い。なんでもねえ、続けてくれ」
その様子に気づいたユウが声をかけると、ムウは取り繕うようになんでも無い、俺のことは気にせず話を続けてくれと促す。
明らかになんでも無いことはない様子だったが、本人がそう言うならばとユウは話を続ける。
「とはいえイヴを作るのは表向きの話であり、ゲラートシリーズのプロジェクトには別の目的が絡んでいたとかいう話を聞いたことがある」
「別の目的?」
次世代のコーディネイターの母を生み出す。
ゲラートシリーズのプロジェクトはそれが目的だが、一方でこのプロジェクトには別の計画が絡んでいるという情報もあった。
「父が噂話として聞き齧った話だから信憑性は低いがな。なんでも、メンデルで進められていた別のプロジェクト、遺伝子改良技術の全てを賭けて生み出す完全無欠な最高の人類“スーパーコーディネイター”を生み出し、ゲラートシリーズを使ってその遺伝子を繋いで、新人類のアダムとイヴとして人類の新時代を築くとかいう極秘計画があったとかなんとかいう話だ」
「……何だそれ。どこのファンタジー? 神話でも作ろうとしてたのか、メンデルの研究者たちって」
「噂話だ。詳細は聞いてないし、父も酔っ払った研究者がほざいた夢物語が尾鰭のついた噂になって広がったんだろうと溢していたしな」
それは、ユウが父クストーの話を盗み聞きしてたメンデルにあった噂話。
遺伝子改良の限界、人類としてたどり着ける最高にして完璧な改良を施した究極のコーディネイターである“スーパーコーディネイター”を作り出し、それをアダムとしてイヴとなるゲラートシリーズを用いて量産し、完璧な人類たる新人類のコーディネイターの時代を築くという、もはや眉唾としか思えないようなプロジェクトがあったというもの。
ゲラートシリーズも本来はコーディネイターの母ではなく、その新人類のイヴとなるために生み出されたという話である。
もはやここまで来ると意味不明である。
研究のしすぎで頭が狂ってしまった研究者が酒宴の席でこぼした夢物語が噂になって広がったのではないかとクストーも判断したらしい。
理解が追いつかなくなった挙句一周回ってしまったなと呆れまじりに乾いた笑いをこぼしたミハエルに、ユウも頷く。
「……俺が知るゲラートシリーズの話はこんなところか。確かに大きな存在ではあるが、戦闘用に生み出されたソキウスシリーズと違いゲラートシリーズは遺伝子継承の母体として作られた存在。数は限られているし、エイブラハム・ゲラートの死で新規クローンを生み出すのに時間がかかっているし、彼女達が産むのは即座に戦える兵器ではなく生物としては真っ当な人間の赤子だ。大戦に影響を与えられるとは考えにくい」
ゲラートシリーズに関して知っていることを話し終えたユウが、そう言って締めくくる。
コーディネイターのイヴとなる存在であるゲラートシリーズは、確かに大きな発明ではある。
しかし、彼女たちはあくまでも遺伝子を継承する母体用に生み出されたコーディネイター。地球連合にてザフトのMSに対抗するために戦闘用に開発されたコーディネイターであるソキウスシリーズと呼ばれる戦士たちと違い、大戦に影響を与えられるような存在ではない。
信憑性の薄い噂話を聞いたムウは、笑うわけでもなくやはり何かを考えているらしい真剣な表情になっていた。
砂漠の虎がミハエルにゲラートシリーズに関してムウならば何か知っているかもしれないと告げたのは、メンデルと何か関わりがあったからかもしれないと、ムウの様子から推測するユウ。
だが、本人が何も語らないならば突っ込むところではないだろうと判断する。
ミハエルからツヴァイの話を聞いた上で、ゲラートシリーズとアルトリアは無関係だと判断したユウだが、砂漠の虎と交わした会話のこともありミハエルの方はやはりアルトリアとツヴァイたちが無関係とは思えなかったらしい。
「すまん助かった。あとは1人で調べることにする」
「……大戦に影響を与えるようなものではないと言ったはずだが?」
もう調べる必要もないことだと止めようとしたユウだが、ミハエルの方はあとは1人で勝手にやると言って甲板から去ってしまった。
「……坊主、ちょっと付き合ってくれねえか?」
ミハエルが去り、甲板に2人残されたユウとムウ。
ミハエルを追うべきかと考えていたユウに、ムウが何か思い悩んでいるような表情で少し付き合ってほしいと告げる。
「……分かりました」
ゲラートシリーズに関する話をしたばかりである。MSに関する話、ではないだろう。
ムウの後に続き、ユウもベニグセンの甲板から艦内に入って行った。
ソキウスシリーズに関する簡単な説明を。
詳しくは『機動戦士ガンダムSEED ASTRAY』に登場していますので、彼らの活躍とともにそちらを見ていただければ……
ソキウスシリーズ
地球連合にて作られたザフトと戦うための戦闘用コーディネイターたち。遺伝子改良によってナチュラルに反抗する、危害を加えるといった意思が生まれにくいようになっている。