天井に設置されている多様な色のガラス窓を、日の光が通過しては広い空間を明るくする。
照らし出される空間の中は、荘厳な建造形式をとっているとでもいえるほどで、何も知らないモノであっても、神聖さに打ちひしがれると場所でもあった。
ただ、そこにありそうなもの、それは生命を持つものが一切存在しなかった。
植物であり、昆虫であり、ヒト
その存在しない違和感という名の空気が、その場を支配してるともいえたが……
その様な場所に、人の姿を模した何かが数点、光に照らし出される一つの台座を中心とし、十二の方角にて座する様に存在していた。
それは、神像ともいえる彫像であった。
いくつもの彫像が座してはいたが、そのうちの一つ。
それは他にもいくつも存在する像とは違い、その輝きが失われているといえるぐらいに、薄暗く佇んでもいた。
『先遣が堕ちた』
座する一つの神像から、声ともいえぬ声で言葉が紡がれる。
『トビラが開いたか』
『あるいは……』
『とうに開いていた』
『またもや、漏れ出たモノの暴走というのも』
『どれにしろ、由々しき事態ではある』
それらの彫像が、まるで意思があるかの様に語りだしたかと思えば、数か所が語り始める。
ただ、それは"半数も満たない"といえる数ではあったが。
『魔の報、"真"という事でよいか?』
『ああ』
『それでよかだろう』
『異議は無い』
『……』
『異論か?』
『少し、詳しく調べる必要があるのでは?』
その場の空気が、少し変わる。
わずかに、陰の気として。
『何故だ?』
『氾濫に暴走、ヒトの世に混乱が起きているのは真』
『だが……我々の中、確実に観たモノがいるのか』
『……』
『……』
『少なくとも、我は観てはおらんな』
『もうよいではないか、"堕ちた"事は事実』
『そうだな』
『それが、まさに証左と言える』
『しかし!』
『なれば、遣いを出せばよかろう?出せれるのであるならば』
『……っ!』
『やめておけ、ここでの話は意味が無かろう』
『……はい』
『……だな』
少し変わった空気が凪いでは、いつもの空気へと戻ってもいった。
『さて、話を元に戻すが、こたびの件で、"真"とするがよいか』
『"真"で』
『"真"であろう』
『判断に足りえないとは思うが……』
『ああ、それはその通りだ』
『何をいうか、"真"以外なにを選ぶというのか』
『"偽"であったと?では、なぜ先遣は堕ちた?ヒトの世でだ』
『そ、それは……』
『まぁ、よい。"真"であろうとなかろうと"今代"の選定を進める』
『おお』
『ようやくか』
『永らえた世に、ふたたび光が灯るか』
場の空気が、再び変わる。
だが、今度は先ほどとは違い、陽の様な雰囲気で。
『そも、選定されようとも、問題は無かろう?』
『確かに"偽"であろうと、影響はあるまい』
『それは、確かにそうなのでしょうが……』
『なれば、選定を進める方向でも問題は無いといえる』
『"今代"については、また、別として慎重に事を運ぶべきかと』
『先遣が堕ちた今だからこそ、選定するべきでは?』
『その通りだ』
『確かに、"脅"なる存在を"除"するべきだ』
『その通りだな』
『異議はない』
『私は……』
『私もだ』
『我もだ』
『進めるべきだな』
『問題はあるまい?』
いくつもの神像から賛同の異が告げられる。
その中にあった、反対の異をかき消し、
『今代の選定を進める。以上だ』
その一言により、終わりを告げる。
そして、ほとんどの神像から賛同ととれる言葉が紡がれながら、ひとつづつ光を失っていった───
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いくばくかの静寂が流れ、ふたたび数体だけが淡く光を発する。
『去ったか……』
『はい』
『私は、やはり"偽"であると……』
『そうだな。やはりこの事変、先遣にしろ決にしろ、何事にも性急に事が成されすぎている』
『しかし、世に狂いが生じているのは確かかと』
『それも、間違いではない……ふむ……』
ふたたび静寂が訪れる。
次の言葉を待つ為に……
『"個"の判断ではあるが……再調査をする』
『ですが、"全"の決は成されました』
『なに、"個"で動く分は問題なかろう』
『あくまでも"個"ですか』
『そうだ』
『……動けぬのが、
『そう気に病むな。それにできる事を行えば良いのだからな』
『なれば、私めも』
『……
その様な話が、光に照らし出されていた台座が、いつのまにか陰りの位置になる時まで続き、そして数少ない光る像も消えていった。
1章ここまで ───
2章はまとまってからにします。(2023/02/末日の時点)