特にこれといった目的もない異世界転生   作:zaq2

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#♈:錯雑し始め

 天井に設置されている多様な色のガラス窓を、日の光が通過しては広い空間を明るくする。

 

 照らし出される空間の中は、荘厳な建造形式をとっているとでもいえるほどで、何も知らないモノであっても、神聖さに打ちひしがれると場所でもあった。

 

 ただ、そこにありそうなもの、それは生命を持つものが一切存在しなかった。

 植物であり、昆虫であり、ヒト

 その存在しない違和感という名の空気が、その場を支配してるともいえたが……

 

 その様な場所に、人の姿を模した何かが数点、光に照らし出される一つの台座を中心とし、十二の方角にて座する様に存在していた。

 

 

 それは、神像ともいえる彫像であった。

 

 

 いくつもの彫像が座してはいたが、そのうちの一つ。

 それは他にもいくつも存在する像とは違い、その輝きが失われているといえるぐらいに、薄暗く佇んでもいた。

 

 

『先遣が堕ちた』

 

 

 座する一つの神像から、声ともいえぬ声で言葉が紡がれる。

 

 

『トビラが開いたか』

『あるいは……』

『とうに開いていた』

『またもや、漏れ出たモノの暴走というのも』

『どれにしろ、由々しき事態ではある』

 

 

 それらの彫像が、まるで意思があるかの様に語りだしたかと思えば、数か所が語り始める。

 ただ、それは"半数も満たない"といえる数ではあったが。

 

 

『魔の報、"真"という事でよいか?』

『ああ』

『それでよかだろう』

『異議は無い』

『……』

『異論か?』

『少し、詳しく調べる必要があるのでは?』

 

 その場の空気が、少し変わる。

 わずかに、陰の気として。

 

『何故だ?』

『氾濫に暴走、ヒトの世に混乱が起きているのは真』

『だが……我々の中、確実に観たモノがいるのか』

『……』

『……』

『少なくとも、我は観てはおらんな』

『もうよいではないか、"堕ちた"事は事実』

『そうだな』

『それが、まさに証左と言える』

『しかし!』

『なれば、遣いを出せばよかろう?出せれるのであるならば』

『……っ!』

『やめておけ、ここでの話は意味が無かろう』

『……はい』

『……だな』

 

 少し変わった空気が凪いでは、いつもの空気へと戻ってもいった。

 

『さて、話を元に戻すが、こたびの件で、"真"とするがよいか』

『"真"で』

『"真"であろう』

『判断に足りえないとは思うが……』

『ああ、それはその通りだ』

『何をいうか、"真"以外なにを選ぶというのか』

『"偽"であったと?では、なぜ先遣は堕ちた?ヒトの世でだ』

『そ、それは……』

 

『まぁ、よい。"真"であろうとなかろうと"今代"の選定を進める』

『おお』

『ようやくか』

『永らえた世に、ふたたび光が灯るか』

 

 場の空気が、再び変わる。

 だが、今度は先ほどとは違い、陽の様な雰囲気で。

 

『そも、選定されようとも、問題は無かろう?』

『確かに"偽"であろうと、影響はあるまい』

『それは、確かにそうなのでしょうが……』

『なれば、選定を進める方向でも問題は無いといえる』

『"今代"については、また、別として慎重に事を運ぶべきかと』

『先遣が堕ちた今だからこそ、選定するべきでは?』

『その通りだ』

『確かに、"脅"なる存在を"除"するべきだ』

『その通りだな』

『異議はない』

『私は……』

『私もだ』

『我もだ』

『進めるべきだな』

『問題はあるまい?』

 

 

 いくつもの神像から賛同の異が告げられる。

 その中にあった、反対の異をかき消し、錯雑(さくざつ)し始めようとしていた時、

 

 

『今代の選定を進める。以上だ』

 

 

 その一言により、終わりを告げる。

 そして、ほとんどの神像から賛同ととれる言葉が紡がれながら、ひとつづつ光を失っていった───

 

 

 ──────────────────

 ────────────

 ──────

 

 

 いくばくかの静寂が流れ、ふたたび数体だけが淡く光を発する。

 

 

『去ったか……』

『はい』

『私は、やはり"偽"であると……』

『そうだな。やはりこの事変、先遣にしろ決にしろ、何事にも性急に事が成されすぎている』

『しかし、世に狂いが生じているのは確かかと』

『それも、間違いではない……ふむ……』

 

 

 ふたたび静寂が訪れる。

 次の言葉を待つ為に……

 

 

『"個"の判断ではあるが……再調査をする』

『ですが、"全"の決は成されました』

『なに、"個"で動く分は問題なかろう』

『あくまでも"個"ですか』

『そうだ』

『……動けぬのが、忸怩(じくじ)だ』

『そう気に病むな。それにできる事を行えば良いのだからな』

『なれば、私めも』

『……

 

 

 その様な話が、光に照らし出されていた台座が、いつのまにか陰りの位置になる時まで続き、そして数少ない光る像も消えていった。

 

 

 




1章ここまで ───

2章はまとまってからにします。(2023/02/末日の時点)

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