「謎の仮面戦士の出現」
世界最大最強とまで謡われた戦艦大和率いる艦隊を、無傷で何の苦もなく撤退させたバケモノ。
この事実は、世界中の海軍に落雷のような衝撃を与えた。
特に、日本海軍へのダメージは大きい。
「戦局が優勢なのはウソなのか」
「また戦果詐称してるのか」
「大本営発表(笑)」
情報統制が甘かったこともあり、戦艦大和の敗北は大々的に報道され、国民の不満の声が爆発したのである。
優勢だと信じていたから増税にも耐えられた。満足にご飯が食べられなくても許せた。優勢だと信じていたから、最初は信用できなかった海軍や艦娘も信頼してみようという気持ちを持てたのに。
一刻も早く、悪魔的な強さを持っているあの仮面の戦士を撃滅しなければ、ただでさえ低い海軍の地位は二度と上がらなくなる。
そう焦った海軍、主に高層部は、集められられるだけの提督を集めて緊急会議を開くことを決定した。
議題は無論、仮面の戦士を攻略する方法だ。
「さて、この仮面の戦士と実際に接敵したのは横須賀鎮守府の艦隊だったな?」
「はい。まずはこの画像を」
くせっ毛。そして目つきの悪い、常に左側に立つ横須賀の提督が一枚の写真を元帥に提出した。
「一機だけ帰還した索敵機が捉えていた写真です」
「……ふむ。これは随分と奇っ怪な見た目だな。三本の角に黒いマント。そして変わった形状のベルトか」
まるで見たことのない姿形。深海棲艦とはまた違う異質さを感じさせる。クリーチャーじみたバケモノではなく、中世の騎士のような面影を元帥は感じた。
その写真は他の提督にも回し見されるが、全員が口々に「何だこれは」と言ったことにより、元帥はこの仮面の戦士が全く新種の敵であるのだと悟る。
「相棒の調査結果もここで発表します。まず、仮面の戦士のベルトに挿入されている物体。これは、風都で開発されていたとされるガイアメモリというものらしいです」
「ガイアメモリ? 確か数年前に開発が凍結された、地球の記憶のデータをUSB型の箱に閉じ込める技術だったな」
「その通りです。他の提督の方もある程度はご存知かと思いますが、ガイアメモリは艦娘強化の一環で開発された物。しかし不具合が多発し、開発は永遠に凍結された。ここまでが、一般提督でも知り得る情報でした」
「続きがあるのか?」
「ええ。相棒や知り合いの憲兵が更に踏み入った調査をした結果、面白い情報が得られたんですよ」
懐から取り出した、写真とは異なる別の紙。そこには、左の提督が相棒と呼ぶもう一人の提督の調査結果が所狭しと羅列されていた。
参加者全員に紙が配られるが、あまりにも文字が多すぎて内容を理解した者はゼロ。それを最初から予見していた左の提督は、特に咎めも嘲りもせず解説を開始する。
「開発中止されたと思われたガイアメモリ。このデータを密かに持ち出していた“財団X”なる組織が、更なる高性能なガイアメモリを密かに開発していたんです。仮称タイプ2メモリ。略すと“T2メモリ”。しかしこのガイアメモリたちは、開発基地がある都市を深海棲艦が攻撃した混乱で全て奪われています」
「待て、横須賀提督。まさかこの仮面の戦士は、ガイアメモリの戦士とでも言うのか?」
「流石は元帥、飲み込みが早い。その通りですよ。しかもその正体、相棒によれば99%この人物で間違いないそうで」
ハラリと元帥の眼の前に置かれた写真。そこに写っていた人物は、元帥がもう二度と目にしたくはない人物であった。
「大道克己……!」
密かに暗殺を命じたはずの、大道克己その人だったのだ。
これには流石の元帥も驚いた。しかし、驚愕を悟られては後々不利になると悟り、なるべく平静を保とうとする。
「横須賀前提督。現在は激戦区ドイツのベルリン鎮守府提督“であるはず”の大道克己です。帰還した艦娘の持つ音声記録に入っていた声が、どうも聞き覚えがあったもんで。相棒に調べさせたら、まさかの先輩でした」
同胞の裏切りである可能性が大。中には大道提督と仲の良かった人物も存在しているため、彼の一言で会議室はもう大騒ぎだ。
しかしそんな中でただ一人、平静を保ったまま佇んでいる横須賀提督。その姿が何となく不気味で、元帥は嫌な汗を流し始めた。
「ちなみに。大和の戦闘記録を確認すると、仮面の戦士を援護していた航空母艦の識別信号が確認できましてね。調べてみたら、前提督のケッコン艦である加賀の物でした」
「なっ!?」
「どうしてでしょうね。ドイツに移籍したはずの大道提督と加賀が、こうして我々に牙を剥いているなんて。艦娘はともかく、大道提督は愛国心の塊。こんな風に裏切る人間とはとても思えない。となれば、何か深い恨みを抱えている。そう思いません? ちなみに自分は、この海軍上層部に恨みを持ったと考えてます」
何かを見透かしているかのような横須賀提督の目。彼はどこまでを知っているのか。相棒にどこまで調べさせたのか。それが一向に見当がつかず、元帥はただ嫌な汗を流すばかりだ。
まるで探偵のような調査報告にここまで心を乱されるとは思わなかった元帥は、横須賀提督の姿をかつて暗殺したとある人物に重ねて見ていた。
その男もまた、元帥の不正を探偵のような調査でギリギリまで追い詰めた猛者だった。寸でのところで暗殺に成功し、男の調査結果は明るみに出なかったのだが……。
「まあ、仮面の戦士についての正体が分かったところで意味はそこまでない。問題はどうやって打ち倒すか、でしたね?」
「あ、ああ。そうだな。この仮面の戦士は危険すぎる。戦艦大和を苦もなく潰せるのだから、一刻も早く排除しなければ」
元帥にへりくだっている大将が咄嗟に話題転換を行った。横須賀提督はまだ何かを言いたげだったが、首を振ると大将へ話を続けるように促す。
ひとまず安心した元帥は、なるべく先の話題から目が逸れるように「仮面の戦士を打ち倒す方法」の提示を命令。自身の黒い部分から大方の人間の目を逸らすことに成功した。
様子見。連合艦隊を組んでの殲滅作戦。様々な物騒な案が飛び交う中、横須賀提督だけは発言せずに元帥の目を見ていたのだった。
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会議が終わり、一人鎮守府へ向かう横須賀提督は、とある人物にまずは電話を繋げる。
「相棒。奴は黒だ」
『そうか。人の本質を見抜くのが上手な君の言葉だ。信じよう』
「もう少し調査を続けてくれ。そうだな、後で詳しく話すが、二週間後の一大殲滅作戦の前日を目途に」
『承知した』
続いて、また別の男に提督は電話をかけた。
「よお。調査は進んでるか?」
『つまらん質問をするな。元より黒い噂のある男。もう少しすれば、一通りの情報が集まる』
「流石だ。だが無理するなよ? 多分、奴は何かに感づいて動き出す」
『俺は不死身だ。そう簡単には死なん。嫁のためにもな』
「そうかい。なら安心して待つことにするよ」
そう言って電話を切った横須賀提督。その目には、かつて元帥が暗殺した男と同じ色を宿した何かが映っていた。
「これは一筋縄ではいかなさそうだ。依頼人には辛い思いをさせちまうかもな……」
携帯のメモ機能を開いてため息を吐いた横須賀提督。
そこには、こう記されていた。
依頼人 航空母艦赤城
依頼内容 連絡が取れない妹と婿の捜索
「おやっさん。おやっさんなら、この依頼をどうやって解決まで導く?」
彼の言葉は、人知れず空へと溶けていくのだった。
そりゃパラレルだからあのそっくりさんたちも存在してまして。名前は一切出すつもりないですけど、まあ分かる人には分かるでしょ精神です。