書籍版でいう24巻くらいで、病気が治った後くらいの話です。
パウロの思い出話です。

ルイノル注意です。

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料理の手際とひみつの話

 私、ノルン・グレイラットは、今日もルイジェルドさんの家の台所で戦っていた。

 スペルド族の皆さんが元気になった後、私と兄さんはそのままルイジェルドさんの家に泊めて貰っている。

「家のことも、少しはできるようになったので、任せてください!」

と言ってみたはいいものの、私は家事はそんなに得意ではなく…。

 家ではほぼアイシャとリーリャさんが、学校では寮に食堂もあったし…と、ほんとにままごとのようなことしかしてこなかったことを…こんなに悔やむ日が来ようとは…

 ルイジェルドさんも兄さんも、食事に何か言うタイプではないけど…そりゃあ…もう私も色々できる大人だってところを見せたいじゃないですか…

 

 料理の最初は、まずは火起こし。

 薪を並べ、その上に細木を載せて、あとは薄く削った木くずに火打ち石で火をつければ…

 

 …つかない。

 

 さっき小雨があったので、部屋の中に置いておいた薪も湿ってしまったのだろうか?

 兄さんなら魔術で火をつけてしまうのだろうけど、私の魔術では、人の台所で火をつけるには不安がある。アイシャなら…アイシャが台所で火をつけるのに失敗しているところなんて見たことない。もちろん経験が違うのも分かるけど……

 思わずため息をつきかけて…やめて、もっと建設的なことをすることにした。

 ナイフで木くずの量を増やして、厚みもより薄くしてみる。

 何回か試しているうち…

「着いた!」

 火花が木くずに着火し、パッと燃え上がった。慌てて筒で息を送って、火の勢いを強めながら、細木に広げる。

 しばらくすると薪も燃え出し、一息つくことができた。

 

 鍋に湯を沸かしていると、ルイジェルドさんが帰ってきた。

「すみません、まだ全然途中です!」

「いや…今日はいつもより早い。病み上がりは休めるときに休めと言われてな…」

 誰がそんなことをルイジェルドさんに言うんだろう…まさか兄さん?

 でもルイジェルドさんはいつも忙しいから、休んだほうが本当にいいと思う。

 

 家に泊まってはいるけれど、二人だけになることはほとんどないので、独り占めできたようでちょっと嬉しい。

 

「お前の家と比べると、使いにくいだろう。手間をかけさせてすまない」

 あ。私の格闘の後が見られてしまったかもしれない。

 確かに、シャリーアの家にはオーブンとかも色々あったけど、スペルド族の家には石造りのかまどがあるだけだ。

「いえ!私、こどもの頃は冒険者になりたかったんです。だから、こういうのも結構好きです…上手じゃないですけど」

「ああ…お前は兄の旅の話も聞きたがっていたな」

 ルイジェルドさんと、アイシャとジンジャーさんと一緒に兄さんのところまで旅をしたとき。

 同行している商隊が休憩すると、いつも火が焚かれて、最初にお湯が沸かされていた。

 私はいつもルイジェルドさんにくっついて、色んな話をねだっていた。

 

 兄さんたちとの魔大陸からの旅の話は、私のお気に入りだったので、何度もしてもらった。

 

 お父さんはいなかったけど…大好きなルイジェルドさんが一緒だったので、寂しくはなかった。

 思えば、お父さんは危ないところに行くと、その時はもう分かってたはずだ。

 それなのに、お父さんにわがままを言ってたくさん困らせた。

 こどもだからといって、自分のことばかり考えていた。 

 

 シャリーアに向かう旅は、楽しかった。私はそういうのが好きなんだと思う。

 でも、私の一番最初の旅は違う。

 

 

「私、お父さんと転移事件の後、二人だけになって…父さんにと馬に乗って、しばらく野宿とかしてたんです」

 

 一度話し出したら、言葉が止まらなくなってしまった。

 

 お父さんは、夜になると焚火をして、捕まえたウサギや鳥を焼いてくれたり、パンを炙ってくれたりした。

 私が眠れないでいると、お母さんと一緒に冒険者をしていたときの面白い話を、たくさんしてくれた。

 雨がたくさん降って、私が熱を出した時もあったけど、温かいパン粥を作ってくれて、ずっと手を握って一緒にいてくれた。

 元気になって空をみたら、草原の夜空にたくさんの星が輝いていて、びっくりしてしまった。私がそんなことで驚いているのをみて、お父さんは笑っていた。

 私はこどもだったけど、お父さんが大変なことをよく分かってなくて…毎日、とても楽しかった。

 

 あのときお父さんが、どれだけ毎日不安だったろうか…いなくなった家族のことをどれだけ心配だったろうか…自分の家があったところをみて、どれだけショックだったろうか…私という足手まといを連れて旅するのが、どれだけ大変だったろうか…

 

 私の話を、ルイジェルドさんはじっと聞いていた。

 

「お母さんがいないのに…お父さんが大変なのに、楽しいって思ってたのが申し訳なくて…」

「…お前の父は嬉しかっただろう」

「へっ?」

 思わない言葉に、変な声を出してしまった。

 私の様子を見て、ルイジェルドさんがゆっくり言葉をつづけた。

「自分も大変な時に、子供を安心させられた。父親なら、そんなに嬉しいことはないだろう」

 私の目を見て、微笑みながら言ってくれた。

「立派な父親だ。誇るべき父を持ったな、ノルン」

 温かい言葉。ルイジェルドさんの言葉には、いつも真っすぐ胸に響く。

 

 誰にも言えなかった。あんなに大変なときに、楽しかったなんて言ったら怒られると思ってた。

 話してしまった。

「…ありがとうございます」

 私もちゃんと目をみてお礼を言いたかったけど、できなかった。

 材料をとるふりをして、後ろを向いた。

 顔を上げたら、涙がこぼれてしまいそうだったのと、頬が熱くなっているのがわかっていたから。

 

 

 秘密だった話をした日に、新しい秘密がもう心の中にあったことに気が付いた。

 

 私は、ルイジェルドさんのことが好きです。 


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