Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿) 作:osias
1999年10月29日
東京某所
一尉官の昇進にしては豪勢な顔ぶれが円卓を囲み、一人の青年を多くの目が見つめていた。
「・・・では沙霧尚哉(さぎり=なおや)中尉、貴様は本日付で大尉に昇進・・・任務を全うしてくれたまえ」
帝国軍の高官達がそう沙霧と呼ばれた青年に言い放つ。
中肉中背、短い黒髪に眼鏡をかけた青年は敬礼し、声を上げる。
「は!殿下を誑かす輩は私めが成敗いたしましょう」
そう彼は言い、一礼すると、クルリと180度回り後ろのドアから颯爽と出て行った。
<バタン>
ドアが閉まり、青年の歩く音が遠くなる
「若いな・・・」
高官の一人がそう呟く
「言ってやるな・・・まぁ彼には頑張って女狐の尻尾を掴んで欲しいものだな」
別の高官がニヤリとほくそ笑む
「しかし今度ばかりは横浜の魔女に感謝せねばな」
一人が資料を見ながら言う
「何処でこの人材を手に入れたかは知らんが、このオリヴァー=マイと白銀武は天才だな、この技術を提供してくれるならば我が国も『かの』国と対等に交渉が出来るというものだ・・・交換に使った材料も悪くない・・・何より我が軍の『道化(クズ)』と『目の上のタンコブ』、それに技術部のゴミも引き取ってくれるのだから、言う事なしだな」
高官達は各々に笑みを浮かべた
「何にしろ、魔女は利用できるだけ利用させて頂こう・・・『第4計画』は頂けんがな・・・」
「ああ、このまま小娘を将軍に置く我が国に未来はない・・・」
「重要なのは第5計画が発動した時、我らが“君”と我々の安全・・・そして立場だ」
「「「日本帝国に栄光あれ!」」」
○○●●●
10月30日早朝
国連太平洋方面第11軍
横浜基地
青い不知火が2機、銀色の機体を追っていた
「みちる!そっちに行ったぞ!」
碓氷奈々は87式突撃砲の36mm弾をばら撒き、銀色の機体を誘導する
「奈々、捕らえたわ」
伊隅みちる(いすみ=みちる)はビルの後ろから出てきた敵機に対し120mmを放つ
しかし、敵機はそれを予想していたかの様に即座に真上にジャンプする
「また!」
二人は36mmを空中に放つ
弾道を読み、その間を縫うように避ける敵機
「どうやったら空中であんな機動を!」
『碓氷大尉、伊隅大尉、5分経ちました敵機はこれより攻撃に転じます』
イリーナ=ピアティフ中尉の通信が入る
「もう、5分か!」
イリーナの通信を受け、構えるみちる。
そして敵機の赤く光るモノアイは周りを確認するように縦横無尽に動き、
中央でその動きを止める
「・・・来るぞ・・・」
奈々の呟きが終わった瞬間に敵機は回避行動を止め、反撃に移る
敵機は頭部バルカンとショットガンで弾幕を作り、そして弾切れになったショットガンと“何か”を奈々の方に投げ、その隙に一瞬でみちるの機体に接近
みちるはそれに反応し左手に持った長刀を振りかざすが既にシールドピックが機体を貫いていた
『伊隅機大破』
みちるの機体を横に投げ、敵機はそのまま逃げるように直進し、奈々から離れる
「ち、やってくれる」
奈々は追うように一歩踏み込んだ
<ドーン>
『碓氷機、行動不能』
ショットガンと共に投げられたチェーンマインが爆破し、不知火の下半身が爆発した
『状況終了します』
シュミレーターの電源が落ち暗くなったコクピット内で呟く
「「これがMS(モビルスーツ)・・・」」
○○●●●
二人はシュミレーターを降り、ブリーフィングルームに入る
そこにはニヤニヤしながら二人を待つ夕呼がいた
「では、結果確認でもしましょうか」
二人は席に座り、ピアティフ中尉がプロジェクターの電源を入れる
「第一戦目、対撃震XM-3[エクゼムスリー]搭載型、5分経過後、54秒後碓氷機撃墜、1分18秒後伊隅機撃墜」
ピアティフ中尉がそう言い終えると夕呼はみちる達に意見を聞く
「で、感想は?」
「副指令・・・あれは私達が知る撃震とは別物です、OS一つであそこまで機動が変わるとは・・・それに空中を使った戦法は我々の予測範囲外でした」
「伊隅は?」
「同じですね、BETAのレーザー級を考えると空中を利用する回避法は定石ではありません、危険と見なされています・・・が・・・最後の一戦でも見た通りです、あんな回避行動が取れるなら無茶ではありません」
「・・・ふーん、操縦している本人はレーザー級がいないハイヴ内の戦闘も考えた戦法だと言っていたけど・・・」
「「!!」」
二人は夕呼の言葉に驚く
「・・・確かにハイヴ内なら・・・有効な戦術です・・・」
「みちる、目から鱗だな」
「このOS、XM-3のβ版は完全に仕上がったから、A-01の方で試験運用してもらうわ。発案者曰く、これで3割は衛士の被害が減少するそうよ」
「・・・!そこまでとは・・・今から乗るのが待ち遠しいな」
奈々は本当に嬉しそうに笑う
「次に行きましょう、ピアティフ!」
「はい、第二戦目、対次世代戦車、同じく5分経過後、36秒二機同時大破」
「これには驚いたな、広範囲の榴散弾を積んでいるとは・・・」
「そうね・・・それにあそこまで巨大な戦車が、あれ程の機動力を持つとは・・・」
「新型動力、核反応炉の試験運用も兼ねているからね。それと今回は見れなかったけど結構隠し玉が多いのよ、この機体・・・詳しい事は作った本人に聞くのが一番ね。それとこの戦車は11月中旬には実戦試験投入されるから」
「実際後方支援機の強化は何処の国も目をつけていませんし、着眼点としては素晴らしいと私は思います」
そう言い奈々はうなずいた
「最後です。第三戦、対EMS-10ZFbヅダ改戦、5分経過後、5秒41伊隅機大破、6秒36碓氷機行動不能」
「・・・副指令、シュミレーターだからと言ってこんな夢物語のような機体・・・」
余りの機体性能差からみちるは夕呼にそう言った
「そんな事無いわ、そうよね・・・碓氷?」
「ああ、私はこの機体を一度、見ているからな・・・まぁ、見た時は相当損傷していたが」
「もう完成しているの!?」
余りの驚きにみちるは敬語を使うのすら忘れていた
「ええ、このMS(モビルスーツ)は完成しているわ、ただ先の戦闘でかなり負傷して、修復の目処が経っていないのが痛い所ね、今年中には多分無理ね」
「副指令、このMSの詳しい資料は・・・?」
「Need to knowよ、碓氷」
「機密ですか・・・」
「所で副指令、これを操縦している衛士は何処に?降りた時に私達以外にシュミレーターに乗っている者はいなかったようですが」
「ああ、そいつなら、正式な衛士になるために今は練馬にある国連軍衛士訓練学校にいるわ、今回は試験的にネットで繋げたシュミレーター戦を行ったわ」
「ネットを利用したシュミレーター戦ですか・・・これもその人物が考えた物ですか?」
「いいえ、これは文縁・・・帝国軍の黒藤文縁少尉が考えた物よ」
「帝国軍・・・『黒の道化』ですか、相変わらず奇妙な発想ですね」
みちるは妙に納得したようにうなずく
「じゃ、今日はこれで解散、XM-3についての資料は追って送るから、読んでおきなさい、スグに訓練に移るから」
「「は!」」
二人は敬礼する
「いいわよ、相変わらず堅っ苦しい」
夕呼は手をヒラヒラさせる
みちる、奈々、両名は敬礼の後ブリーフィングルームを後にする
「さて・・・ピアティフ」
「はい」
「帝国軍の交渉はどうなった?」
「はい、モニク大尉も同席し、問題なく進みました」
「どう、彼女は?」
「交渉慣れしていましたので、助かりました」
「そう・・・で、結果は?」
「川崎にある工場を使えるように手配してくれるそうです、物資もその工場へ運ばれるようです」
「・・・横浜と東京の間・・・面白い所ね」
「それと、総合技術演習での合同訓練も許可してくれました」
「誰が来るって?」
「大泉純志郎(おおいずみ=じゅんしろう)大佐と巌谷榮二(いわや=えいじ)中佐と帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団、第1戦術機甲連隊と日本帝国斯衛軍、装備実験部隊『白き牙中隊(ホワイトファング)』から数人、後は帝国軍の訓練兵、計50名が来るようです」
「随分大物が釣れたわね・・・『革命の獅子』に『伝説の開発衛士』・・・まぁ、こっちが総合技術演習に合せて会合を要求したせいもあるんだけど」
「後は、黒藤文縁少尉の編入はオリヴァー大尉達の卒業後に行われるよう手配しました、彼が作った物と草案計708個、技術課から受けとる準備も完了しました」
「そう・・・後は帝国、国連に米国の上層部を相手にするだけね・・・フフ、面白くなってきたわね」
○○●●●
10月30日昼
帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校
グラウンド
「後、5週だ気合を入れろぉ!」
まりもの怒声がグラウンドに響く
既に走り終わったケニーと武はグラウンドの横で徒手の模擬戦をしている
「お~い、まりもーん」
間の抜けた呼び声が後方から聞こえ振り向くまりも
そこには帝国軍の制服を着た男がいた。
男は走って近づいてくる
ギリギリまで短く刈上げられた黒い短髪、軍人には有るまじきヒゲを蓄え、黒の色眼鏡をかけた男がまりもの前までくる
「文縁、呼び方どうにかならないの?特に訓練生の前で」
ジト目で文縁を見るまりも
「そういうまりもんだって、まりもんも俺の事呼び捨てじゃないですか」
アメリカ人ぽい、肩を上げるリアクションを取る文縁
「貴方の場合、会うたんび階級が違うからメンドクサイのよ、大尉に戻ったの?それとも中尉のまま?」
「いや、少尉に落とされた」
こいつは馬鹿なんじゃないかという顔をし、手で顔を隠すまりも
そこへケニーと武の二人が来る
「誰だこのハゲヒゲは?」
ケニーは相手を気遣う気も無く聞く
「ハゲってあんた・・・毛あるっしょ、タダ短いだけですから!」
「え~と、白銀武臨時中尉とこちらがケニー=ロンズ臨時大尉です」
「おぅ、宜しく」
<・・・>
自己紹介を待つ沈黙が場を支配する
「・・・こいつは、黒藤文縁・・・少尉ね今は」
その名前を聞き武は
「あ!あの時の撃震!」
「ああ、ハイヴで会ったMSか」
武の叫びにケニーは思い出す
「ん?・・・ハイヴ?前に会いましたっけ・・・ああ、白銀武中尉!ハイハイ、思い出した」
武は文縁に近づき耳打ちする
「(ハイヴでの事は機密なので、他言しないでください)」
「(・・・ん~了解しました)」
武は文縁から離れる
「で、文縁、何しにきたの?」
「ああ、そうだった、聞いてくれよ>マリモンよ」
「まりもん・・・?」
「余り気にするな白銀中尉」
「終に念願の衛生科、軍樂部所属になったんだ!」
そう良い喜びを肉体で表す文縁
「軍楽って音楽のアレか?」
「そんな部隊あるんですか?」
ケニーと武は疑問をぶつける
「ああ、帝国軍には未だに軍樂部は実在する、実際は形だけだがな・・・普通は自分から行きたがる場所ではないんだが・・・」
「アンタラ、分かってないヨ!音楽!心のオアシス!おk?」
「意味不明だな・・・で本当にそれだけのために来たの?」
「つれないなー、俺と君の仲やぁ~ん」
「誤解を招く言い方しないで」
「ハイハイ、総合技術演習が帝国軍との合同訓練になったのとその詳細を書いた資料を渡しに」
そう言い服の中から資料を取り出す文縁
「・・・何処から出して・・・いや合同訓練って!聞いてないわよ!」
「殿、暖めておきました」
「草履か!!」
「ナイスツッコミだ、タケル君!」
サムズアップする文縁
「はぁ~」
溜息を吐きながら資料を流し読みするまりも
そんな事をやっていると訓練生達がランニングから戻ってくる
一番最後はオリヴァーであった
「僕は・・・ハァハァ・・・今、学ぶべき・・・ハァハァ・・・訓練生として・・・ここにいる・・・」
そう迷言を放ち倒れたオリヴァーの横でモニクがオリヴァーに水を飲ませていた
「皆、5分休憩、後に射撃訓練だ!」
「「「「はい!」」」」
「じゃ、俺達も水飲みに行くんで失礼します」
武達二人は水飲み場に向かった
「・・・まりも・・・今回の訓練生は『8分』を越えられそうか?」
死の八分、それは新兵が初陣で死ぬか生きるかを分かつ時間帯。
8分以内に殆どの新兵がその命を燃やし尽くす。
「今回は短時間だけど運良く、実戦を経験した人達と訓練できるからね・・・超えて欲しい・・・いえ、超えるわ全員」
「そうか・・・」
「ところで、文縁、今度の総合技術演習は邪魔しないの?貴方のせいで何人が予定通り卒業できなかったと思ってるの?」
「手厳しいですな!ハハハハ、別に俺だけのせいじゃないだろ?」
「確かにそうかもしれないけど、中心人物の名前に貴方の名前が出てるわよ」
「さてな・・・」
文縁は誤魔化し、振り返り歩き出す
「文縁!」
「なんだ?」
「今回は何したのよ?」
「ハハ、いや、ちょっと川本・ザ・ストーカーとO☆HA☆NA☆SHIしただけだ」
「川本少佐と?何で?何で話をしたら降格になるのよ?」
「さぁ、何でだろうなー、なーなーなーにー何○郎君チョップ~♪○太郎君キッーク♪」
奇妙な歌を歌いながら文縁は去っていった
○○●●●
10月30日午後
帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校
教室
「明日は待ちに待った総合技術演習だ!今回は何時もとは違い帝国軍と合同演習を行う!」
「「「「!!」」」」
武達以外の4人娘はその言葉に驚く、国連軍と帝国軍の関係は良いとは言えず、普通は合同演習を行うような仲ではなかった
「状況説明は明日現地についてから説明する。明日は0430に起床、0500に集合だ、遅れるなよ!」
「「「「「「「「はい!((了解))(御意)(うぃ~)」」」」」」」」
「では、解散!」
まりもは教室を後にした
<・・・>
沈黙を破るようにケニーが声を上げる
「ふぅー教官ちゃんは本当に固いねぇー」
「そんな事言えるのはロンズ大尉だけですよ」
遥がケニーを見ながら言う
「確かにロンズ大尉と武は実力に差が在り過ぎて競う気も無いわ」
水月は机の上でだらけながら言った
「良く言うわよ最初の日は競ってたくせに」
あゆは筆記用具を片付けながら言った
「・・・そんな事もあったわねー」
窓の外の夕日を眺める水月
「ロンズ殿達以外も凄いでござるよ、モニク殿の知識には感服したでござる」
まゆは目をキラキラさせながらモニクを見る
「有難う、これでも私は文官だからね、出来て当たり前よ」
モニクは照れながらも答えた
「オリヴァーさんも運動系は兎も角、銃の組み立ては神業ね」
あゆの一言が深くオリヴァーに刺さる
「ハハハ!技術屋は嬢ちゃんにも負けていたからな」
「オリヴァーさん、気を落とさず、射撃は『まぁまぁ』でした」
武は褒めているつもりなのだろう
「・・・タケル君・・・」
「タケル、人には毒を吐くなと言いながら・・・」
「兎も角、皆さん寝ましょう、明日早いですし」
遥はそういい会話を終わらせようとする
「ご、合理的です」
今にも深い眠りに入りそうなオリヴァーはただただ今日一日が終わった事に感謝していた。
西暦1999年10月30日、
僕達は帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校にて訓練を続けている。今朝方、タケル君はネットで繋げたシュミレーターに乗り、横浜基地にいる衛士と模擬戦を行った。TSF-94不知火2機を圧倒し、模擬戦は終了した。その後僕達は昼間で体力作り、そして射撃訓練、座学を行った。昼頃にタケル君達と神宮寺教官が帝国軍兵士と何かを話していたが聞き取れなかった。午後に今期の総合技術演習は帝国軍との合同演習になると説明された。これが良い事なのか悪い事なのか現在の僕には分からない。前に一度総合技術演習に何かしらの“ハプニング”によって参加できなかった遥君達の士気は高い。
取り合えず明日に供え早く寝たいが、MSの設計図を頼まれているので早く寝れるか分からない。筋肉痛は・・・未だに僕の身体を蝕んでいる。
―西暦1999、10月30日 オリヴァー=マイ臨時大尉/訓練生