階段を使って上がった先は、先程の部屋と同じような感じの部屋だ。強いて違うところを上げるとするならば、少し薄暗くなっているところだろうか。
Rは此処に来てから、人ではない何かからの視線を感じている。それは襲ってくる事は無さそうだが、ただじっとこちらを見てくるだけに過ぎない。気味が悪いがそれ以上に関わりがなければ、何も思わない事にした。気にするだけ時間の無駄だからだ。
…だが、人はそんな簡単に割り切る事が出来ない。Rがそいつを目視していると、そいつもまたじっと見つめてくる。何故だか分からないが、すごく心にくるものがある。感動とかプラス思考なものではなく、もっとこう…ズダズダにされると言えば良いのか。とにかく、それはずっと見ていると不快や傷つく気持ちになってしまう。それに気づくまでに、Rの心は少し傷ついた。
1度死んでまたこの世界に不服にも入ってしまったRは、前世の時と比べて精神が少し弱くなっている。幸い襲ってくる敵に会ってはいないものの、独り此処にいるだけでも、何だか落ち着かなかった。
また白い部屋でのモヤモヤが、いつか現れるのだろうか?それさえも不安に感じてくる。
落ち着きが少し無くなったRは、何気なく自身の携帯電話を手に取り画面を確認する。時計は20時と表記されている。変わりない表記のはずなのに、何故か心が休まる。どうしてだろうか。
30秒程じっと見つめた後はまたポケットにしまい、再び探索をする。
…どうも此処にいると、気持ちが落ち込んだり自身が何者かと考え込んでしまう。それもかなりの頻度で。
数十年生きてきた中で、そんなちっぽけな事を1度も思った事はなかったのだが、他に何か考える事も浮かばなければ、考える必要のある出来事にも遭遇しない。歩きながら考え事をするのが、Rの新たな癖になりつつあるのだ。
Rは此処に来てから、後悔している出来事を幾つも思い出していた。友人の事、家族の事、仕事の事…挙げだしたらキリがない。胸の奥にしまい込んでいたはずの過去の過ちや出来事が、ちくちく痛めつけてくるのだ。
少しだけ傷つけられたRの気持ちの傷口をするりと入り込むように、何も無い空間も手伝ってか不安感を煽ってくるのだ。一体自身が何者なのか?産まれてきた理由は?その答えに少しでも近づけたのか?
Rは回答が見つからない己の情けなさに絶望しながらも腹を立てていた。こんな弱さだけが、自分の力なのか?
その場で呪縛されてしまったかのように、塞ぎ込んでしゃがんでしまった。
時折嗚咽が聞こえてくる。
今迄に幾多の危機を乗り越えてきたのはただの幻にすぎなかったのか?もうこの考え方も違うというのか?
自信喪失と共にRは溜息をついた。
何だか頑張るのも馬鹿らしく思えてきていた。ふとRが顔をあげる。
Rは声を失った。
目を疑う程にいる場所が変わっている。
先程まで歩いていた黄色い壁紙の部屋は無くなっていて、代わりにあるのは何処か広くて大きな草原だった。大きな木があり、気温も過ごしやすい感じで、少し風が吹いているのか草がそよそよと靡いているが、Rには風を感じられなかった。
確かに部屋の中を歩いていたはずなのに…?
いつの間に外を歩いていたんだ…?
疑問だらけでいっぱいの頭は、負の感情を忘れていた。悩んでいた理由も呆気に取られて全部忘れていた。
なんで泣いていたのだろう?涙を拭いながら立ち上がり、知らない間に連れてこられたこの草原を、複雑な気持ちで眺めていた。
【ここはどこ?】