森の中を歩き、微かな光が見えて登ってきた。
Rは山林と山の麓?にも思える場所に辿り着いていた。
麓から見下ろすようにして覗くと、その下には数々の建物の光が見える。
地球にもよくありそうな光景だ。下に降りていけばあの街にもいつかは辿り着くかもしれないが、食糧も無くなった今、無防備に行ってもただ体力を削られるだけであろう。
近くには焚き火が燃えている。パチパチと音を鳴らしてユラユラと火が靡いている。
ん…?食糧が…ない?ふとここでRがある事に気づく。
さっきまで持っていた袋や荷物がさっぱり無くなっている。
大事にしていた物品が全て無くなっていたのだ。焦って周りを探したり身体を触って確かめるが、それらしき物はない。代わりとばかりにズボンのポッケの中に、タバコが1本だけ入っていたのだ。そのタバコを手に持ちながらボーッとする。
Rはタバコを吸った事が1度もない。故にポッケやカバンの中にタバコを入れる事自体がありえないのだ。それなのに何故か知らぬ間に入っていたのだ。頭の上に?が沢山浮かびながらも、ハァッとため息を吐き出す。
確かに普通じゃない事が沢山起きる世界だから、こういう事があってもおかしくはないけれども!これはまた別だ!
それにしても、大事に大事にしていた飲み物が無くなったとなると、悠長に長居をするのは得策ではないと嫌でも分かる。どうするか…頭を掻きながらこの状況を打破する方法を考える。
…
…
…
…
何も浮かばない。
こんな場所で咄嗟に解決方法を提案してくださいと言われて、即答えられる人がいるのだろうか。いたら尊敬する。
考えるのにも疲れたRは、ずっと燃えている焚き火の近くに座る。
心地良い音を聞きながら、ぼんやりとどこかを見つめる。
風が微かに吹いており、それに合わせて焚き火も揺れる。
こんな風景、どこかで似たような体験をしたような…なんて思ったりもしたが、それも気の所為かもしれない。
Rは来た道をチラッと見る。ここに来るまでの間、草が動く音や何かが動いた音はしたが、それらしき物に会う事はなかった。
危害を加えられなければそれに超したことはないが、敵が絶対に居ないと保証出来る訳では無い。
焚き火の近くにいるおかげかは知らないが、葉と葉がぶつかり合い擦り合う音が聞こえてもいいものだが、聞こえてこない。
気にもとめはしなかった。今迄に何回もあったからだ。
ただ何をするかって言われても、娯楽も道具もないのだ。あると言えば手に持ったタバコ1本のみだ。真顔でそのタバコをじっと見る。銘柄も知らないし、名前を言われてもさっぱり分からない。
生きてきた中で吸った事はなかったが、どうせこの世界を彷徨い息絶えるのならば、今迄やれなかった事でもやってしまおうか…。
タバコを焚き火に近づけると、問題なくタバコに火がつく。
焚き火の近くにいると、焚き火の煙も一緒に吸い込んでしまいそうだ。Rは火をつけたタバコを持って、来た道とは違う林の中に少し入る。
風はまだ吹いていて少し涼しい。そんな中でRは、ドキドキしながらタバコに口をつける。少しだけ手が震えているような気がする。
ゆっくり…呼吸をするようにゆっくりと…スゥッ…と吸い込む。
身体は慣れない異物が入ってきた反動で押し返し、Rはゴホゴホと咳き込む。初めての体験をしたとはいえ、これがよく周りが吸っているタバコという物なのか…。
味はしないし、美味しい物でもなんでもない。言葉を選ばなくても不味い。苦虫を噛み潰したような顔をして少しの間、咳き込む音が響く。
本当に美味しくない。一体何なんだこれは…。
そう考えるより先に、タバコを持つ手は無意識に再度口の近くに移動し、Rの口にまたタバコが入る。息をするように肺の中に煙が入り込む。まだ抵抗をもつ身体は必死に押し出そうとして、無理にでも口から吐き出そうとする。まだ咳き込みはするものの、初めて吸った時より明らかに軽くはなっていた。
本当に最悪な気分だ。最悪な気分なのに…。
Rのタバコを吸うのをやめない。やめないというより、止められなかった。肺の中に入り込む煙は嫌いなはずなのに。分かっていても止めてくれない。暗い林の中にただ1人、普通の人間がタバコに手を取られ、為す術なく踊らされる。
それはそれは愉快な茶番であろう。
…
タバコの長さも数cmになったところで我に返るRは、咄嗟に地面にタバコを投げ捨てた。目を瞑り手を胸の辺りに抑え、ハァ…ハァ…と呼吸をする。
体感した事ない感覚がRに襲いかかっている。それと同時によく分からない感情に包まれる。あれは一体何だったのか…。あれが大人になったら娯楽となる物なのか?Rはそれに理解するのを拒んだ。
あの焚き火の場所まで一旦行こう…。
ゆっくり立ち上がり、ゆっくり目を開ける。
林の出口側が明るい。はて、先程まで夜だったはずだが。
風もなくなっていて無風になっている。もしかしてだが…嫌な予感を巡らせながら、出口に1歩1歩近づく。
40mもない程まで近づくと、そこにあった優しく灯してくれた焚き火はなくなっており、代わりに小さな工場…にも見えるような建物や、数台の車。針葉樹林が広がり変わり果てていた。