【The back rooms】   作:T@ma

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【レベル1:生存可能領域】

冷たい感触が手と顔に伝わる。

うつ伏せになって気を失っていたRが、目を開けながらゆっくり床に手をついて起き上がる。

床と壁がコンクリートに覆われている部屋に倒れていたようだ。後ろには何処かのスーパーか工場の倉庫のような場所が広がっていた。

生きていた事に安堵したと同時に夢ではない事にガックリ肩を落としながら、立ち上がって探索を始めようとした…が、Rがふと自身を確認すると、自身が持っていた持ち物が全て無くなっていたのだ。

ポケットの中を何度も探す。結果は同じ。ポケットの中は虚無が広がってそこにあるだけ。Rは更に落ち込んだ。階段の踊り場から落ちた時に紛失したとは予想がつくが、これで本当にすっからかんになってしまった。

…まああってもあんまり頼りにはならなかったが。Rは諦めて自身の頬を軽く叩いた後、倉庫のような場所に足を運んだ。

 

改めて探索する為に、まずは部屋を観察する事にした。

この部屋自体がすごく広く出来ている。壁に電灯がくっついており、明るさを保っている。すごく明るい…わけではない。

今いる所から見える範囲では、エレベーター、廊下、床に大きな水たまりがいくつか出来ており、水たまりの上から、滴がポタ…ポタ…と落ちている。

コンクリートの壁から、鉄筋が姿を見せている。近寄らないように心がけ、近くから調べる事にした。倉庫のようなその場所に、何か便利な物はないか探す。

クレヨンやおもちゃ、何かのガラクタが散乱している。新しい物から古い物まで様々だ。これは使う場面はないなと考えていると、足元に何か当たった。

それは蓋付きの箱だ。素材は段ボールに近い。はて、さっきまでこんな箱はあっただろうか。謎を感じながら、蓋をそっと開ける。

その中には、物資がいくつか入っていた。1つずつ確認する。

 

鞘に入ったダガーナイフがあった。武器も何もなかったRは、武器を手にいれた喜びを噛みしめながら、ズボンのベルトにダガーナイフを入れる鞘を取り付け装備する。これである程度自身の身を守れる。

次は… ? 初めて見る物だ。見た目はペットボトルの中にジュースっぽい物が入っており、2本ある。英語で書かれたラベルがついている。こう書いてある。

 

アーモンドウォーター

 

ペットボトルの蓋を開けて、香りを嗅いでみる。少し甘い香りがする。

落ちる前の部屋で走ってた時もあり、喉の乾きがあったRは恐る恐る1口飲んだ。

…甘みが広がり、少しだけ幸せを感じた。これは飲料用だったのか!

もう2口飲んで、蓋を閉めた。大事に取っておかないといけない気がする。アーモンドウォーターを片手に持って、箱の中を再度確認する。

あとは包帯と穴が少し空いた袋だけ入っていた。袋を手に持ち広げると、アーモンドウォーターを入れるには十分な大きさだ。これは大きすぎる収穫だ。袋の中に2本のアーモンドウォーターと包帯を入れたRは、袋片手に奥を探索する。

 

奥に行く途中にエレベーターがあったが、電気がないのか作動していない。もう少し奥に進み廊下の近くに行くと、右側に扉が3枚ある。ゆっくり近づいて、まずは扉に左耳をつけ音を聞く。

……何も聞こえない。

 

ここは後でいいと判断し、真ん中の扉に耳をつけようとしたその時。

 

「君、見かけない顔だね。何してるの?」

 

若い男性の声に驚いて向くと、フードを深めに被った人がそこに立っていた。素顔は見えない。Rは驚きすぎて何も声を出せない。そもそもこんな場所に人がいるのが幻か何かなのか。この世界は本当にどうなっているんだ。

 

「初めまして、僕はM.E.G.という組織に属しています。君のような探索者の手助けする為の集まりだと思ってくれたら良いよ。」

 

組織?探索者?一体何を話しているんだ?

Rはただぽかんと口を開けていた。何を言っているかが分からない。

 

「とりあえずここで立ち話するのもあれだし、一旦僕について来ない?君も酷く混乱しているようだし、どうやって此処に来たかも知りたいからね。来てくれたら敵も追い払ってあげるし、休憩場もある。どう、悪い話ではないでしょ?」

 

確かに休める場所も欲しいし怪物に襲われたくはない。

かと言って、今会ったばかりの男に完全に信用出来るわけでもない。

Rは悩んだ後に少し残念そうに首を横に振った。

 

「そっか、まあ僕も強くは引き止めはしないけど。…君はこの先に行くのかい?これから先は何処に飛ばされるか分からない。地球に必ず帰れる保証もないよ?」

 

そう聞いて少し身体がブルっと震えたが、今は1秒でも早くこの世界から抜け出したい気持ちで溢れているRは、フード男をじっと見ながら頷く。

 

「君の決意は強いみたいだね。なら先に進むと良いよ。」

 

フード男がパチンと指を鳴らすと、エレベーターがあった場所からガコン!と大きい音が鳴る。どうやら作動し始めて動いているようだ。

 

「次のレベルに進む時の道に、エレベーターを用意したよ。僕みたいな人はたくさんいるけど、モンスターが化けている時もある。簡単に自分以外を信用しないでね。それとこれも渡しておこうか。」

 

フード男に一つにまとめられた資料?のような物を手渡された。

パラパラとめくると、恐らくモンスターであろう姿が描かれており、危険度・警戒すべき事等が書かれている。

 

「この先行く為には、やつらと必ずどこかで会う。戦うか逃げるかしなければならないからね。これを見て対処を知っておくと良い。それと、君から見て右の扉は安全だから使っていいけど、残り2つの扉は開けちゃダメだよ。落ちるから。じゃ、また会えたら…。」

 

声のした方にパッと顔を上げるが、もうそこには誰もいなかった。

連続で起きた摩訶不思議な出来事で落ち着けなかったRは、フード男の言う通りに右の扉を開ける。机と椅子しかない部屋だが襲われるよりはマシだ。一旦そこに入って椅子に座り、荷物を机に置いて状況を整理する事にした。

 

 

 

まず組織に属している男は怪しい格好をしているが、何か悪さをするわけではなく、逆に情報を与えて手助けしてくれた。少なくともあのフード男は悪いやつではなさそうだ。

組織自体は他の人も属していそうなのは分かったが…完全に理解するには時間が足りなすぎる。これを解決するのは今ではなくていいと判断した。

そしてもう一度、フード男に手渡された資料?を見直していると、1番最後のページの裏に何か書かれている。移動方法らしい。

 

《ノークリップを使用しながら、レベル移動をしている探索者が多数発見・報告されている。ノークリップとは、壁や床に向かって高速で移動すると見られる現象である。この方法は有効であるが、稀にザ・ヴォイドに落ちると報告されている。ザ・ヴォイドは落ちたらずっと落ち続け、最期をそこで迎える。》

 

Rはこの世界に落ちた方法を悟った。まさにこの方法で来てしまったと。

頭を抱えて髪をぐしゃぐしゃとしながら、あの日の事を思い出していた。

あの時、駅なんて行かなければ…!なんて思っていても、もう過去の出来事であり、取り消せない選択肢だ。

…フード男が言っていた「落ちるから。」とは、このヴォイドというものの事を指していたのだろうか?もしそうならば、一歩間違えたら地球に帰れなくなっていたというのか?そう考えると少し怖くなった。

そして今後気をつけなければならない事が増えた事も知ると、ハァッ…と深いため息をついた。

資料?を折りたたみズボンの前ポケットに入れ、アーモンドウォーターを一口飲んでから、荷物を片手に出ていく。

 

部屋から退出し、フード男が言っていたエレベーター付近へ向かう為に、来た道を戻っていく。

エレベーターが作動している事以外には、何も変わりがなかった。足元の水たまりに気をつけながら進んでいく。

エレベーター前に着き顔を上げると、チカチカと電気が入っている。

スイッチを押せば乗る事が出来そうだ。

乗る前に廊下があったところを見る。何も景色に変わりはなかった。

 

Rはエレベーターのスイッチを押す。

ウオォン…と微かに音がしてエレベーターの扉は開かれた。

それに乗ると閉まり、勝手に動き出した。どうやら上に行っているようだ。10秒経ったくらいか…エレベーターは止まり、扉が開かれた。

 

Rは暑さに加えて、カビにも鉄にも似たような臭いが鼻につんとさし、少し嫌な顔をした。

 

 

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