そこはとても綺麗な断崖だった。
上から見下ろすと、海の水が複雑な絵の変化を私に見せる。
雲が好きだった。それは天の作ったキャンバスのようだったから。
だから、この断崖で全てを終わらせようと思った。
中学時代。私はただ排除されていた。
いじめというと、画鋲を上履きに入れたなんて事を想像するだろうが、私の場合は「無視」というタイプのいじめだった。
私が「あの」と口に出そうとすると、クラスの皆は意識的に顔と関心の意識を私からそらす。
先生たちは卒業まで気づきもしなかったが"それ"は確かに、私を排除しようという無言の攻撃意志だった。
給食の時に、椅子を遠ざけるギィという音が、今でも心に残っている。
自分が「友江」なんていう名前だというのも、自分の運命の皮肉さを物語っていた。
24歳になった今でも、私はアイツラが頭を下げて「ごめんなさい」と懇願する瞬間を脳内で上映させる。
だが、それが実現不可能な事であると悟り、あまりにもどうしようもない自分の人生を呪いながら、お願いだから不幸になってくれと祈りながらいじめていたヤツのフェイスブックを見ると、1流大学の准教授になっていたのを見た時、私は持っていたスマホを壁へ投げつけて、くわえていたタバコで手を焼いた。
目の下に映る海は、常に流動しつづけ、白と青の混濁した情景が入れ替わり続ける。
この中に取り込めるというのなら、私は幸せだ。
裸足になり、海へと消えていく自分をイメージしながら、宙へと放り出す。
・・・ようやくエンドマークを打てる。
風の抵抗が強くなり、海へと視界が拡大していく中で。
ふと、今まで脳の中に存在していなかったはずの記憶が映像として再生される。
「おはよう!元気にしてた?」
誰かの声。私には誰だかわからない。
・・・いや、私は知っている。"知っていない事にしていた"のだ。
彼女は、私を無視するクラスの中で、唯一私に話しかけてくれた人だ。
「ちぃちゃん・・・」
意識もせず口から出た言葉は、彼女のあだ名だった。
私は忘れていた。"あの"学校生活の中で、私を助けようとしてくれた人がいた事を。
その瞬間、もう海へと到達するのは1秒にも満たない時間の中で、私は本当の自分の思いに気づいた。
「私、ちぃちゃんにありがとうって言ってない。辛いことばかりだと思ってたけど、楽しい事だってあった。ただ私は自分の物語を悲劇にする事に溺れて、そのためにちぃちゃんの存在を自分で無かった事にしていたんだ。」
・・・いやだ。
いやだ。死にたくない。
しかしもう青と白の世界への道はわずか0.2秒にも満たないだろう。
それでも、脳はわずかな霞のような時間ですら、世界の全てを実感してしまうような思考を完遂してしまう。
悲劇だと思っていたけれど、楽しかった思い出もあった事を、今になって全て理解したのだ。
どうして?どうして今になって?ちぃちゃん。やだ。やだ。やだ。やだ!死にたくない!大好きな事だっていっぱいあったんだ!好きな音楽も!好きな映画も!好きなモノはいっぱいあった!なのに私は自分を見つめて、自分を騙して。どうしてこんな事を私はしたの。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ・・・
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にた
そこで私のシグナルは、完全な永遠のブラックアウトを遂げた。
最後に残ったのは、年間の2万の数字に、とある女性が統計の一部としてのカウントをされただけだった。