導きの地の一角で暮らしていた中ある日から一人のハンターを気になってしまった『猛り爆ぜる』ブラキディオスの話。

新大陸の臨界ブラキ×女ハンターさんの話となります。短編中心。独自解釈などかなり強め。
※同内容をTwitter、pixivにも投稿しています。

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恋の華も咲き爆ぜる

 地表へと続く洞窟を歩きながらブラキディオスは普段とは違う『異変』に気付いていた。

 と言っても溶岩激る一帯から狭い洞窟ひとつ抜ければ直ぐに緑豊かな森林地帯へと抜け、更にそこから少し歩けば吹雪が吹き荒れる雪原へと辿り着けてしまうような、明らかに異常とも言えるこの地域一帯のことをおかしいと思っている訳ではない。

 ここまで目まぐるしく地域の気候等が変わってしまうのは、この地域では『何もおかしいことではない』。

 おかしい、と思ったのは自分の巣から溶岩地帯へと出た際、明らかに同種のものと見られる足跡と一緒にとても小さな足跡がある事と、地表へと出た途端恐らく足跡の主達が激しく争った痕跡が見られる所からだった。

 自分がこうして巣を出て外を歩き回ろうとすると、普段は活動している筈のモンスター達が一切居ない事が日常だったブラキディオスにその『異変』はとても珍しく、この地帯で一体何が起こっているのかと興味が湧いた。

 ぐっと身体を屈めて二種の足跡をよく見ればまだ付いてから時間も経っていないようだ。

 と、言うことは争っている奴らはまだこの地帯に『いる』。

 そう確信したブラキディオスは頭を上げると周囲の音を探った。

 すると直ぐに聞こえてきたのは何かの爆発する音、そして同種の咆哮だ。

 その咆哮は怒りを示すものだと直ぐに分かったブラキディオスは彼としては慎重に咆哮が聞こえた方角へと歩き出した。

 その方角には自分もよく向かう荒野と森林の明確な境目のような不思議な広場がある。そして咆哮から怒りと共に僅かではあるが焦りも感じ取ったブラキディオスは、今同種にとっては好ましい状況ではない事も理解していた。

 ぐる……と喉の奥で唸りつつ、ブラキディオスはその巨躯をできる限り屈めて周囲の木々に紛れさせようとしながら道を歩む。

 そして、もう直ぐで広場へと出ようとした時、目の前を何かが横切って行った。

 其れが吹き飛ばされた小さい足跡の主だと気付いたブラキディオスは直ぐに地に腹がつくまで体を屈めるとわざと木々が生い茂る中へと足を進め、周囲の木を薙ぎ倒しながら広場を覗き込んだ。

 すると、目に入ったのは激しい争いだった。

 吹き飛ばされた小さい奴は直ぐに受け身を取ると何かの尾を構え再び走り出す。

 其れを仕留めようと同種の奴も前脚を繰り出すが、小さい奴は其れらを器用に躱し、同種の巨躯へと飛び付くと尾を振り翳して外殻へと傷を付けていた。

 自分達の甲殻の強度は勿論理解しているブラキディオスにとって、あんなにも小さい奴が甲殻に目に分かるような傷を付けている事に驚きと更なる興味を抱いた。

 しかもよく見れば同種の左前脚は砕けて元の形を保っていない。

 それだけの衝撃をあの小さい奴は与え続けているのだ。

 俺もアイツと戦いてぇとブラキディオスは興奮から唸りを上げた。

 種としての頂点に達したブラキディオスに今や挑みかからんとする猛者は居ないに等しい。

 あの金獅子ですら一度やり合えば命を賭けるものになるとブラキディオスを避けるレベルなのだ。

 そんな日々が年単位で続いている中、目の前であんな戦いを見せつけられてしまったら自分もと思ってしまうのは当たり前だろう。

 だがブラキディオスは、ため息と共に今日は寝床に戻ることを選択した。

 激しさを増しているだろう戦いから背を向け何度も振り返りつつ来た道を戻っていく。

 戦いたい、戦いたいのだが。

 あの中に入って消耗した奴らを相手にするのは自分が求めたものとは違うからだ。

 もしあの小さい奴が同種に勝てばまた会う日も来るだろう。

 その時は同種に勝った猛者と更なる箔が付いている奴と戦えるのだから今は我慢するしかない。

 あの状況から同種が勝つ可能性は低いだろうと冷静に判断しつつ、ブラキディオスは腕を振り赤く変色していた粘菌を散らした。

 ついでに頭を洞窟の壁に擦り付けて頭殻の粘菌も落として調節していく。

 いつの間にか爆発寸前まで臨界極まる粘菌が活性化していた事からブラキディオスの興奮具合も察せられる事だろう。

 この状態で寝られるかよ、と言いたげに一つ鳴きながらブラキディオスは寝床へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 其れから暫く経ち。

 静寂の中ブラキディオスはあの戦いがあっただろう境目の広場で寛ぎながら欠伸をした。

 あの戦いの結末がどうなったものかは次に狩りをしようと寝床から出てきた際に腐りかけた同種の亡骸を見て把握している。

 縄張りがぶつかり合うことはなかったものの、その気配に苛立ちを感じつつも共に同じ頂点へと達した存在でもあった同種が命を落とし朽ちていく様を見せつけられたと共に、恐らく決定打だったであろう割砕かれた頭蓋を見て更にあの小さい奴への興味と闘志を燃やしたブラキディオスだったのだが。

 あれ以来小さい奴の気配や痕跡は一切無かった。

 その事を残念に思いやっぱりあの時乱入すべきだったかと考えてしまうが、複数の地帯を跨いでの戦いとなればあの小さい奴も無傷では済まないだろう。となれば今は傷を癒しているから姿を見せないだけなのかもしれない。

 そうも思ったブラキディオスはそれならまぁ仕方ないかと言わんばかりに大きく欠伸をした。

 その時だった。

 微かに聞こえた葉の擦れる音に敏感に反応したブラキディオスは頭を向けた。

 何故ならばそれは明らかに何かが踏み付けたような音で、自分がこの地域にいる時の影響を己が一番理解している。

 そんな中活動しようと思う者がいれば間違いない。

 そして、その確信は正しいものとなる。

 草むらの中に身を潜めようとしていた小さい奴とブラキディオスの目があったのだ。

 漸く出会えたとブラキディオスは立ち上がると興奮気味に咆哮する。

 さぁ、あの時みたいに俺とも戦え!

 だが、小さい奴は焦りの表情を浮かべると地面に何かを叩き付ける。

 途端強い閃光がブラキディオスの目を貫き、視界を白に染め上げた。

 慌てて何度も頭を振り、視界が元に戻った時にはあの小さい奴の姿が無い。

 何故、とブラキディオスは困惑の鳴き声を上げ、小さい奴が潜もうとしていた草むら付近へと近付いた。

 鼻を動かし匂いを探るが新しく地を移動した痕跡が見当たらない。

 何でだよ、とがっかりしつつ地面をよく見たブラキディオスは何かが滴り落ちたような痕を見つけた。

 其れはとても小さなものであったが、微かにする血の臭いからブラキディオスはあの小さい奴の傷がまだ癒えていない事を察した。

 だから何かしらの手段を使って自分から逃げ出したのだろう。

 そして、同時に微かに残る匂いからあの小さい奴がどうやら雌のようだとも気付いたブラキディオスは驚いた。

 雌で自分に並び立てるような奴がまだ居たとは。

 ぐるぐると唸りながらブラキディオスは暫くその場に佇んでいたが、やがて己の寝床へ帰る事にする。

 まだ傷も完全に癒えぬ状態で何故あの小さい奴が此処に来ていたのかは分からないが、自分に気付かれてしまった以上今日はもう戻って来ないだろう。

 そう判断したブラキディオスは自分も出直す事にしたのだった。

 

 

 それから更なる再会の機会はすぐに訪れた。

 あの小さい奴に逃げられてから日が二回ほど沈んだ次の日。

 普段は寝床で暇を持て余してごろごろしているブラキディオスだったが早々にあの広場へと向かうことにした。

 何となくだが、今ならあいつがいる気がしたのだ。

 そして、その予感は当たった。

 広場の真ん中付近で消えかけたブラキディオスの足跡を見つめている小さい奴を見つけたのだ。

 何故足跡なんかを見ているのかまでは理解できなかったブラキディオスだったが、これは好機と咆哮をしかけ……あっと黙り込んだ。

 前のように明らかな闘志を見せて咆哮すれば、またあの小さい奴は逃げてしまうかもしれない。

 直ぐ逃げられてしまうのは御免なのだが、ならばどう動くべきか、というところまではブラキディオスは答えを見つけられていない。

 そうしている間にあの小さい奴はブラキディオスに気付いて明らかな警戒の表情を浮かべた。

 これはまずいと判断したブラキディオスは取り敢えず今の己に敵意がない事を示そうと身体を休める姿勢を取った。

 俺は此処から動かねぇしお前に手を出すつもりもねぇ。

 そう言いたげに一声泣いて見せた後欠伸をするブラキディオスに小さい奴は警戒から困惑へと表情を変えていく。

 暫しブラキディオスの出方を伺うように見つめていた小さい奴が警戒を解いて足跡へと視線を向ける。

 と思えば今度は近づいてくるとブラキディオスが付けたばかりの足跡をじっと見つめ始める。

 そんな足跡より俺を見ろ、と思ってしまいつつブラキディオスは小さい奴が足跡を見て歩き回るのを眺めていた。

 其れは日が沈みかけ、小さい奴が慌てた様子で立ち去るまで続いたのだった。

 

 

 其れから更に月日は経ち。

 寝床から外へ出る度にブラキディオスと小さい奴の距離はどんどん縮まっていった。

 どれくらいと言えばあんなに警戒していた小さい奴が、今ではブラキディオスの隣で寛いだり肉を焼き始めるようになった位だ。

 身体に似合わず豪胆な奴だと思ったブラキディオスだったが、其れにしては肝が据わりすぎているようにも思えた。

 其れに、己への対応を見ているとまるでブラキディオスという『種』の扱いに慣れているようにも感じるのだ。

 時折小さい奴が体を触ってくるようになり、ブラキディオスも其れを許しているのだが自分が触られるのを嫌がる箇所を小さい奴はよく理解しているようだった。

 こいつ俺以外の奴とこういうことしてんのかよ、とブラキディオスは若干不機嫌になりつつ頭を近づけると小さい奴の匂いを嗅いでみる。

 自分と同じように接近を許す奴がいれば必ず匂いはついている筈。

 だが、小さい奴から感じ取る事が出来たのは、身に纏っている斬竜の甲殻の匂いと小さい奴自身のふわっと優しい香りのみ。

 己が考えていた不安への答えを得て安堵したブラキディオスは頭を動かして威嚇しないよう気をつけながら一つ鳴いた。

 触るのなら顎から喉の辺りもついでに撫でて貰いたいのだが、其れをどう伝えれば良いか、どんな鳴き声を出せば良いのかブラキディオスには分からない。

 若干困惑を交えつつの鳴き声に小さい奴は反応し、表情をふわりと緩めてブラキディオスの望む位置を撫でてくれる。

 そう、そこなんだよと上機嫌に唸ったブラキディオスは顎を撫でようと移動してきた小さい奴の顔をぺろりと舐め上げた。

 まさかブラキディオスがそんな事をしてくるとは思っていなかったようで、小さい奴は驚きで目を見開いている。

 その表情も良いものだと唸りつつ、ブラキディオスは再度小さい奴を舐めてみる。

 斬竜の甲殻を纏っていない顔は柔らかく、少し牙を立てればぐしゃりと潰れてしまいそうな『弱さ』も同時に感じ取った。

 他の竜の甲殻を身に纏わなければこいつはこれ程までに柔らかく脆いとは。

 舌から伝わる感触にブラキディオスも驚きつつ、もう一度と顔を舐めながら牙を斬竜の甲殻の『継ぎ目』に引っ掛けた。

 笑っていた小さい奴があっと慌てた様子を見せるがもう遅い。

 舌を引いたブラキディオスは牙を引っ掛けたまま力を入れて口を閉じる。

 すると、つなぎ合わせていたものが牙に砕かれ小さい奴の身体から斬竜の甲殻がバラバラと落ちていく。

 甲殻の下に纏っていた薄い皮と布一枚となってしまい更に慌てた小さい奴が何かを取り出そうと腰の辺りに手を当てたのを見たブラキディオスは即座に口を開くとその柔らかい身体を咥え上げてしまう。

 あの動きを許してしまえば前のように視界を潰されるかもしれない。それだけは御免だ。

 それ以上下手に動けば怪我をするぞ、と頭を揺らして見せれば小さい奴の動きは鈍くなる。

 其れに満足気に喉を鳴らしたブラキディオスは、小さい奴を咥えたまま立ち上がると歩き出した。

 行き先は勿論自分の寝床だ。

 そして自分が認めた『雌』を寝床に連れて行く、その意味と言えば一つしかない。

 歩きながら咥えたままの小さい奴の体を舌先で転がすように舐めてやると、苦し気な声が漏れ聞こえてくる。

 そのうちその声に違う声音が混じり出した事に気付いたブラキディオスは興奮したかのような唸りを上げた。

 この声はつまり『彼女』も段々とブラキディオスを受け入れる気になってきた、という事を察したのだ。

 上機嫌のまま寝床へと戻ったブラキディオスは、人間の感覚で一週間以上『彼女』を己が寝床へ留め続けたのだった。

 

 

 

 

 其れから更に月日が経ち、ブラキディオスはいつものように寝床で暇を潰しながらくあと欠伸をする。

 ぐるぐると喉の奥で唸ると、己が腹に背を預けて何かを書いていた『彼女』がどうしたのかと問いたげに軽く叩いて合図をしてきた。

 何でもねぇよと鳴き返しつつ、ブラキディオスは顔を見てぇからこっちに来いよと更に鳴く。

 あの日から更に距離を縮めたブラキディオスと『彼女』は、今や番と言っても良い関係になっていた。

 と言っても、『彼女』はブラキディオスの寝床で共に暮らしている訳では無い。

 己が縄張りを持っているように、『彼女』も暮らしている『群れの巣』があり、其処で暮らす事が一番良いのだという事もブラキディオスは理解していた。

 ブラキディオスとしてはずっと己が寝床にいて欲しい気持ちは強いが、自分にその気が無く『彼女』のことを大切に思っていても弾みで柔らかい身体を傷付けてしまう可能性は高い。

 其れならばお互いの暮らしは変えないまま、定期的に『彼女』が己が元へ来てくれる形でブラキディオスは納得する事にした。

 もう『彼女』がブラキディオスに怯える事も逃げる事もない。ずっと傍に居られぬ事は寂しいと思うが今はこれで十分だ。

 その分居る間は絶対に離さねぇと決めて鳴くブラキディオスの事を何故か『彼女』は可笑しいと笑っている。

 なんだよ、と思いつつも『彼女』がブラキディオスの頭を撫でてくれればまぁ許してやるかと思ってしまうのだからもうどうしようもない。

 だったらもっと撫でろとごろんと腹を見せて転がったブラキディオスに『彼女』は更に笑い、撫でを了承してくれたのだった。

 


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