【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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16.「全裸でステップを踏む」は狂人通り越して変態の発想

Q.どうして「忍者」じゃなくて【踊り子】なんですか?

 

A.本作はエロゲだからです

 

Q.【アへ声】の主人公は男ですよね? 男が艶かしいダンスを踊ってるところを想像すると結構キツイような気がします

 

A.モンスターにしてみれば老若男女は関係ないですから

 

 

――【アヘ声】公式Q&Aより抜粋

 

 

──────────────────────

 

 

《表》

 

「それでは、しばらくの間よろしくお願いしますね、アーロンさん」

 

「あいよ。こっちこそよろしく頼みますぜ」

 

「よし、じゃあさっそく行きましょうか!」

 

「待った。なんで私服のまんまでダンジョンに突撃しようとしてるんです? いつものキメラみたいな鎧は???」

 

「え? いえ、検証の結果パンイチである必要はなかったようですので。いくら最強を目指すためとはいえ、さすがに俺もパンイチは抵抗があったので助かりました」

 

「違う、そうじゃない。てか1度はパンイチでダンジョン行ったみたいなこと言わんでください。……え、いや、待った、マジで??? ウソでしょ???

 

うーん、どうやらこの世界では【踊り子】の強さがあまり知れ渡ってないみたいだな。【アへ声】では最強クラスの一角だったんだが。

 

【アへ声】における【踊り子】とは、他のゲームで言うところの「忍者」に該当するクラスだ。古き良き時代のダンジョンRPGを知る人であれば、「全裸忍者」と言えばだいたい分かると思う。

 

【踊り子】の最大の特徴は【フレンジーダンス】という「レベルに応じてAVDにプラス補正が掛かる」パッシブスキルに集約されている。つまり、レベルが上がれば上がるほど敵の攻撃をガンガン回避するようになる訳だ。

 

このスキルには「防具を何も装備していない場合はさらにAVDが上がる」という効果もあり、その状態であれば面白いくらいに敵の攻撃を避けまくることが可能だ。(このゲームでも通称が【全裸】なのは言うまでもない)

 

また、【踊り子】を極めればさらにAVDが上昇するため、前世だと「全てのクラスを極めたあとで最終的にどのクラスをメイン&サブに設定するか」という議論をする際には真っ先に名前が上がるほどの大人気クラスだった。

 

ついでに言うと、【ダンスマカブル】というパッシブスキルにより素手での攻撃に即死効果を付けることも可能であり、【闘士】という素手での戦いに特化したクラスをサブクラスに取得すれば、「敵の攻撃を全て回避しつつカウンターで首をはねまくる」なんてことも可能だ。

 

ただし【踊り子】にも弱点がある。それは「どれほどAVDを上げてもモンスターの拘束攻撃の成功率は一定である」という点だ。拘束攻撃を食らったパーティメンバーは1ターンごとに装備品が1つずつ外れていき、全ての装備品が外れると回避不能の特殊攻撃(意味深)により一気にHPが全損する。

 

そのため、【全裸】の【踊り子】を触手系モンスターとかオークとかの前にお出ししようものなら、一撃で貫かれ(意味深)て病院送り(意味深)になる可能性がある。しかも病院送りになったキャラがヒロインだった場合は退院した時に立ち絵がレ○プ目に変化してて、それがバッドエンドフラグになってたりもするんだよな。薄い本でも定番のシチュでした。

 

また、防具を装備しないと当然ながら防具から得られる各種耐性といった恩恵を受けられないとか、そもそも範囲魔術は回避不能といった弱点もあるため、とりあえず【全裸】にしとけばいいというものではない。拘束攻撃持ちや範囲魔術持ちのモンスターが出現する階層では回避を妥協してでも防具を装備するなど、状況に応じて使い分けることが重要だ。

 

「まあ拘束攻撃をしてくるモンスターが出現するのは中層後半からですので、前半を探索する間であれば定期的に【ミラージュステップ】しとけば、まだレベルが上がり切ってない俺でも無敵になれるんですよ」

 

ちなみに、前世では【全裸】とは言われていたものの、この世界では本当に全裸になる必要はないということはこの間の検証で確認済みだ。防具さえ装備していなければ、普通の服を着ていても問題ない。

 

「それでも必要があればダンジョン内で脱ぐことに躊躇いはないんですか……。(いくらステータスが絶対と言えど防具なしでダンジョンを歩くなんて想像しただけでも恐ろしいのに、躊躇いなく脱ぎ捨てるのは)さすが旦那ってとこですかね……」

 

そりゃあそうだろう。パンイチになることで仲間の安全を確保できるなら脱ぐぞ俺は。ソロでダンジョンに潜っていた時と違って、今の俺はパーティリーダーとして人の命を預かる立場になったんだ。脱ぐだけで仲間が助かるならそれくらいは安いもんだろう。

 

「(仲間のためなら、か。冒険者として1度くらいは言われてみたかった台詞だったはずなんだが……よりによって『パンイチ』かぁ……素直に喜べないんだよなぁ……)」

 

そういう意味では、この世界では服を着ててもAVDが上昇する仕様だったのは本当に助かった。さすがに俺だって戦闘中にハイになった状態でしかパンイチになるのは無理だし、仲間内のノリでやるならともかく公衆の面前でパンイチで歩くのなんてごめんだからな。

 

「まあ今までの防具もちゃんと【鞄】に入れて持ち歩いてますから大丈夫ですよ」

 

「やー、まぁ旦那がそれでいいんなら俺から言うことは何もないんですがね……」

 

「それじゃあ、今日も元気にダンジョンへ行きますか!」

 

「あいよー。ま、ボチボチやるとしますかね」

 

それにしても、やはりこの世界は原作開始前ということもあって黎明期なんだろうな。俺が冒険者としての信用を得た暁には、【踊り子】の強さも広めていかないといけないかもしれない。

 

そんなことを考えつつ、俺とアーロンさんはダンジョンへと潜っていくのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

《裏》

 

「旦那っ! 北西から2体! 北東から3体!」

 

「任せてください!」

 

打てば響くとはこの事か、とアーロンは思う。短いやりとりで即座に立ち位置を調整し、常に前衛と後衛の陣形を保って戦う。かつてアーロンが思い描いていたような、自分の得意分野を活かし、協力しあう理想的な冒険者パーティのカタチがそこにはあった。

 

以前のパーティであれば、モンスターの接近を知らせれば「俺に指図するな!」と罵声が飛び、かといって報告しなければ「自分の役割もこなせねぇのか穀潰しが!」と罵られているところだ。

 

「(……もっとも、報復のために危険度の低いモンスターはわざと報告せずにいた俺も同じ穴の狢だった自覚はあるんだけどな)」

 

今となってはどちらが先に仕掛けたのかは定かでない。あちらがこちらを弱者だと見下したのが先だったか、それともこちらがあちらをクズだと見下したのが先だったか。確かなことといえば、彼らとの間に信頼関係など欠片もなかったということだけだ。

 

「やりましたね! この調子でいきましょう!」

 

「はいよ! 後方支援は俺にお任せあれ、ですぜ」

 

それに比べれば――ああ、確かに悪くない。この男は共に戦うパーティメンバーとして非常に安定感がある。

 

相変わらず【狂人】の考えは読めないものの、こうして一緒に戦っていれば、上位の冒険者としての視点から見えてくるものもある。

 

この男は戦闘中の行動に迷いがない。接敵時の位置取りや背後から奇襲を受けた時の対処、スキルの選択や発動タイミング、確率で発動するスキルが不発だった時の対応など……それら全てにおいて、経験不足の者にありがちな「何をすれば正解なのか分からない」という躊躇からくる硬直時間が一切ないのだ。

 

それはこの男が普段から現在の戦い方を反復して行っており、ほとんど条件反射の域でこなせるほどに熟練していることの証左だ。つまり、この男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っと、宝箱ですね。解錠をお願いします」

 

「それじゃ、ちゃっちゃと開けちまいますかね」

 

宝箱の解錠作業の時だってそうだ。それが当たり前とでも言うかのように、この男は自然とこちらの背中を守るような位置取りで周囲の警戒を始める。

 

このように、ダンジョン内での行動を見ていれば、この男が「誰かを守る者」であることは疑いようのない事実であるとアーロンには感じられた。ゆえに、表情や仕草からは何も読み取れずとも、「もしかするとこの男は信頼に値するのではないか?」と思い始めたのだ。

 

「おっ? これはもしかしてレアアイテムなんじゃありませんか?」

 

「おおおおお!? マジか!!! やったじゃないですか!!!」

 

レアアイテムを見つけておおはしゃぎし、ハイタッチを求めてくる男に苦笑しながらも応じるアーロン。表面上は「仕方ないなぁ」という態度を取りつつも、心の中ではじわじわと歓喜が広がっていた。

 

「……ああ、くそっ。認めたくねぇが……楽しいな……」

 

思わず本心からの呟きが漏れる。だって、本当は()()()()()を求めて冒険者になったのだ。

 

バカみてぇに騒いでる連中を見てガキくせぇ奴らだと賢しい態度を取っていても、本当は気の合う友人と一緒にバカなことをやれたらどんなに楽しいだろうと羨んでいた。

 

「友情」だとか「絆」だとかそんなのダッセェし、そんなもの存在する訳がないなんて吐き捨てていても、もし本当にそんなものがあるならばどれほど己の人生に色彩を与えてくれるだろうかと渇望していたのだ。

 

「それじゃ、次に行きましょうかアーロンさん!」

 

「……『アーロン』で構いませんぜ」

 

「えっ? いいんですか?」

 

「えぇ、もちろん。敬語だっていりませんぜ。アンタは俺たちのリーダーなんだ。メンバーに敬語じゃカッコ付かないでしょ」

 

「……分かりまし、分かったよ。でも、そっちも俺のことは『ハルベルト』で構わないし、敬語もいらないぞ」

 

「オーケー、それじゃあ俺も敬語はナシだ。ただ、アンタのことは『大将』って呼ばせてくれよ。ま、渾名みてぇなもんだ」

 

だから、自分も少しは冒険者らしく、勇気を出して「冒険」してみよう。この型破りで破天荒な男が相手であれば、きっと「人間なんてクズばかりだ」という自身の常識なんて通用しないだろうから。

 

「改めて、よろしくなアーロン!」

 

「あいよ! よろしく頼むぜ、ハルベルトの大将!」

 

この日、アーロンはようやく自身が思い描いていた「冒険者」としての第1歩を踏み出したのだった――

 

 

 

 

「それじゃあ、俺ももっと気合いを入れて壁役をこなさねえとな。実は、敵の攻撃を確定で受け止める手段があるんだ」

 

「へえ、そんな手段があったのか?」

 

「ああ、俺は【湿布】って呼んでるんだが――」

 

アーロンが「もしかして俺、早まったか???」と白目を剥いて気絶するまで、あと30秒……。


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