【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~   作:宮迫宗一郎

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17.「ゴーレム部隊」は恐怖の軍勢

「お兄ちゃんへ

 

そろそろブタさんが美味しい季節になりますが、いかがお過ごしでしょうか。

 

私の近況ですが、前回と変わりありません。『自分探し』というものはかくも難しく、とても奥深いものなのですね。終わりが見えそうにありません。

 

ところで、最近になって気づいたことがあります。なんと、働かないで食べるご飯はとても美味しいのです。このような真理に気づいてしまった私は天才かもしれません。私がこの真理に気づく切っ掛けとなった言葉、『働かないで食べる飯は美味いか?』をくれたお父さんには色んな意味で感謝しないといけないかもしれませんね。

 

冗談はさておき、最近お父さんが私を見る目が怪しいです。具体的には出荷待ちの子ブタさんを見るような目です。このままだと私はどこかの農場に売り飛ばされてしまうかもしれません。最近お兄ちゃんは店長さんをしてるんですよね? ほとぼりが冷めるまでお店で養って匿ってくれたら嬉しいなって。

 

追伸

以前、手紙と一緒に送ってくれたクッキーがとても美味しかったです。また次の手紙と一緒に送ってくれると嬉しいです。それではクッキーお返事をお待ちしてます」

 

――アーロンが額に青筋を浮かべながら読んでいた手紙より抜粋

 

 

──────────────────────

 

 

《表》

 

「で、これが例の『新型ゴーレム』なのか?」

 

“ふふん、よくぞ聞いてくれたね! 説明の前に確認なんだけど主はどのゴーレムが(以下、意味のない言葉が続く)”*1

 

あ、やばい。なんかルカがその場でクルクル回ったりピョンピョン跳ねたりし始めた。たぶんアレだ、徹夜明けのハイテンション的なやつだ。

 

さすがに普通のゴーレムまで修理させたのは無茶だったのかもしれない。当分の間は休ませた方がいいだろう。こんなになるまで頑張ってくれるとは……なんか、マジでありがとうな……。

 

とりあえずルカにはしばらく鉢植えの中でゆっくりしてもらうとして。新型ゴーレムについてだが、どうやら見た感じだと【クレイ(粘土製)ゴーレム】の亜種っぽいな。外見は「全身を真っ黒なプロテクターで覆った黒いマネキン」といったところか。

 

……なんか君、ゲームで見たのと違わない??? いやまあ、ルカが何かしたんだろうけどさ。最終的には最強育成することに変わりはないんだから見た目は何でもいいんだけど、ちょっとびっくりしたぞ。

 

試しに起動して軽く動かしてみたところ、なんとこいつは運動能力が高いらしく軽やかな動きで走ったり体操選手のように柔軟な動きが可能なようだ。ゴーレムといえば「硬い、強い、遅い」が特徴のはずだが、こいつは従来のゴーレムとは全く違い素早さを重視した作りになってるみたいだな。

 

ということは、こいつは以前の俺がやってたメイン【剣士】・サブ【騎士】のようなソロ攻略用の構成ではなく、メイン【剣士】・サブ【戦士】で純粋な火力特化にするとか、メイン【闘士】・サブ【踊り子】で即死攻撃バラ巻き要員(キリングマシーン)にするのも面白そうだ。

 

「やー、お疲れさん。野暮用ってのは終わったのか?」

 

「ああ。とりあえず店に戻ろうか」

 

トラウマを刺激しないよう集落跡地入口で待ってもらっていたアーロンと合流し、俺たちの店へと帰還する。そして自室(※宿屋から拠点を移した)に戻ると、枕元に置いてある鉢植えにルカをそっと乗せた。

 

「じゃ、ルカはしばらく休暇ってことで。ゆっくり休んでくれ」

 

“……『休暇』? 『休暇』ってなに? 次にボクが極めないといけないクラスの名前???”

 

「……すまん。これからはルカにも定休日を作るから……」

 

こてん、と首を傾げるルカを見て思わず自責の念に駆られる。そういえばこの世界にきてからダンジョンに潜らなかった日の方が珍しいんだよな……。しかもルカと一緒にいるのがいつの間にか当たり前になっていたので、必然的にルカもほぼ毎日ダンジョンに潜っていたことになる。

 

俺にとってこの世界での生活は毎日が趣味の時間に没頭できる休日みたいなもんだったが、他の人にとってダンジョンに潜るのは趣味ではなく仕事みたいなものなんだよな。

 

ルカはモンスターといえど1つの生命だ。だから定休日が必要だとようやく思い至った俺は、今後はルカが休みの日はアーロンにダンジョンについてきてもらえるよう交渉することにした。

 

「やー、実は俺も大将と一緒にダンジョンを冒険したいと思ってたところだったんだ。こっちの方こそよろしく頼むぜ」

 

聖人君子かな???(※2回目)

 

「けど、よく考えたら3人の負担が増えないか?」

 

アーロンの休暇を減らさずにダンジョン探索を手伝ってもらうとなると、必然的にアーロンが店で働く時間が減ってしまい、カルロス(※最近呼び捨てにしてもいいと言われた)たちの負担が増えるんだよな。うーむ、まさかここまで繁盛するとは思ってなかったんだが……。

 

「ま、ウチはゴーレム軍団のお陰でダンジョン産アイテムの供給が安定してるからな。ギルドで扱ってる商品といえば、人間の職人が作ったアイテムか、冒険者から買い取ったアイテムのどっちかだが……前者はダンジョン産のアイテムに性能で及ばないからあまり需要がなく、逆に後者は仕入れを冒険者に依存してるから常に品薄だ」

 

「なるほど。俺たちの店は意外と冒険者たちから需要があったんだな」

 

確かに。ノームを絶滅させた以上、ゴーレムという人件費が掛からない労働力を使えるのはもはやルカを仲間にしてる俺たちだけだしな。まあゴーレムには他にも亜種がいるが、登場するのはもっと下の階層だし、少なくとも俺がボス部屋周回レベリングを広めるまでは類似の店は生まれないだろう。

 

「じゃあ仕入れ増やすか?」

 

「それは止めた方がいいな。やりすぎると中立を掲げてるギルドはともかく他から恨まれるぜ。それも多方面からな。そもそも最初は『維持費が稼げたらいいな』程度に考えてたんだろ?」

 

「それもそうか」

 

うーん、やはりアーロンを仲間にして正解だった。このへんの商売に関する嗅覚というかセンスは【商人】を極めても身に付かないみたいだからな。

 

「っと、悪い。脱線したな。人手不足の件だが、俺も【商人】を極めて店員として――」

 

「それはマジで止めてくれ」

 

「えっ? なんでだ???」

 

「えっ? やー、その、アレだよ。ホラ、大将には目玉商品のレアアイテムをトレハンしてもらわないと。それにアンタはダンジョン制覇を目指してるんだろ? そっちに専念しなって。片手間でできるようなことじゃないぜ?(大将がいたら客が来ないんだよ……)」

 

くっ、パーティリーダー冥利に尽きることを言ってくれるぜ。有能な上に優しいとか、アーロンを追放したっていう前パーティのリーダーは何を考えてたんだろうな。

 

「じゃあ、順当にバイトの募集でも掛けてみるか」

 

「……それなんだけどな。1人だけ(酷使しても心が痛まない奴に)心当たりがあるんだよ。実は俺には妹がいるんだが、現在(口だけではあるが)求職中でな。社会勉強ってことで給料は安くていいから雇ってやってくれねぇか?(てか、どうせ金の使い道はろくでもねぇもんばっかだし)」

 

「妹がいたのか。別に構わないけど、本人に色々と確認取らなくていいのか?」

 

「大丈夫、諸々の説明に関してはこっちでやっとく。やる気に関しては大丈夫だ、(アンタが命令すれば)何だって一生懸命にやるだろうさ。ああ、妹は元冒険者だったから、なんならアイツも冒険に連れて行って(根性叩き直して)やってくれ。アイツも(命惜しさに)断らないだろう」

 

「何から何まですまないな」

 

「なーに、いいってことよ。妹にはさっそく手紙を送っとくから、だいたい数週間後にはこちらにやってくるだろう。それまでは俺の休みを削って店を回そう。妹の面倒を見てもらうんだ、さすがにそれくらいはさせてくれ」

 

それからカルロスたちも交えて店のシフトを調整した俺は、ひとまず新型ゴーレムのレベリングに行くのだった。

 

 

──────────────────────

 

 

《裏》

 

その冒険者パーティは、正義感に溢れた少年少女で構成されていた。

 

さすがに自分の命を懸けてまで他人を助けたりはしないものの、彼らは近頃の冒険者としては珍しく【正道】を貫いたまま順調にダンジョンを攻略中であり、「次代の【英雄】」として密かにギルド職員から期待されているルーキーたちである。

 

「すまない、MPの管理をしくじった……僕の責任だ……」

 

「いいや、仕方ないさ。急にスライムが襲ってきたんだから」

 

「そうよ。まずはここから出ることを考えましょ?」

 

そんな彼らであるが、現在ピンチに陥っていた。彼らは明かりがないと進めないほど真っ暗な場所――【ダークフロア】と呼ばれる場所を進んでいたのだが、途中でMPが尽きてしまい、周囲を明るく照らす【ライト】の魔術が唱えられなくなってしまったのだ。

 

「壁伝いに来た道を戻ろう。何か動く音がしないか常に警戒してくれ」

 

どこぞの【狂人】は「【打ち落とし】で敵の攻撃を自動迎撃しながら掟破りの地元走り(頭に叩き込んだマップをもとに全力疾走)」で突破した場所であるが、普通の冒険者であればそうはいかない。

 

【アへ声】でもマップを見ながら進めば簡単に突破可能な場所であるが、この世界ではこうも暗いとマップなど読めたものではない。

 

そして……こういう状況に陥った冒険者の行動など、絶対的な捕食者たるモンスターには手に取るように分かるのだ。

 

「うわぁっ!?」

 

「リーダー!? くっ、【ショックトラップ(電流によるダメージ床)】か……!」

 

「それだけじゃない! 囲まれてるわ!」

 

唐突に暗闇の中で【松明】の明かりが灯り、ゴブリンどもの下卑た笑みが浮かび上がる。その数は6体。少年たちの倍の数だ。

 

普段の少年たちであれば危なげなく倒せる存在であるが、今の彼らは罠でダメージを負った【戦士】の少年に、MPが尽きた【魔術士】の少年、まともに戦えるのは【狩人】の少女だけだ。

 

しかも壁伝いに移動していたため、すでに退路はない。無論、戦って倒せないことはないだろうが、文字通り死闘になるだろう。ここで大きな被害を受ければダンジョンを脱出する前に力尽きる恐れがあった。

 

「……僕を囮にして逃げろ」

 

「!? バカ野郎! なんてこと言うんだ!」

 

「こうなったのは僕の見通しが甘かったのが原因だ。どうせMPが尽きた【魔術士】などお荷物でしかない。だったらせめて囮として有効活用しろ」

 

「そんなのダメよ! 戻ってきなさい!」

 

仲間の制止を振り切り、せめて1匹でもいいからゴブリンを道連れにして仲間の血路を開くべく、懐のナイフを引き抜いてゴブリンへと特攻する少年。

 

「やめろぉぉぉぉぉっ!!!」

 

そんな少年を嘲笑い、ゴブリンどもは手に持った棍棒を振りかざして――

 

 

 

 

 

にゅうっと延びてきた腕に頭を鷲掴みにされ、闇の中に引きずり込まれていった。

 

「「「は???」」」

 

その場にいた全員の声が重なる。ゴブリンが落としていった【松明】が床に転がって火が消え、闇の中でバキィッ! とかドゴォッ! とか重々しい打撃音が響き渡った。しばらくは打撃音の他に棍棒で何かを叩く音もしてはいたものの、悲しいまでに効果がなさそうな軽い音だった。

 

「終わった……のか……?」

 

「待て、まだ助かったとは限らん」

 

ほどなくして、一方的な虐殺は終わったのか、辺りは再び静寂に包まれた。しかし少年たちの緊張は高まるばかりだ。なぜならば、ゴブリンを一方的に虐殺してしまえるような「何か」がまだ近くにいるからである。

 

「「「!」」」

 

誰かが【松明】を拾い、火打石か何かで火を灯そうとする音がした。やがて、ゴブリンを虐殺した「何か」の姿が闇の中に浮かび上がる。

 

*おおっと! 【ダークフロア】!*

*そんな時は【松明】を使いましょう!*

*【ライト】と同等の効果があります!*

 

「「「?????」」」

 

そいつは変な看板を持ったゴーレムだった。というかゴーレム自体も変だった。

 

少年たちが図鑑で見たゴーレムは岩を寄せ集めて造られたようなゴツゴツしたフォルムだったが、こいつは全身を磨き抜かれており全体的に丸っこく、あまり威圧感がない。そして最も変なところは、胸にでかでかと「H&S商会」と印字されている点であった。

 

本来ならばダンジョン中層に出てくるはずのモンスターに上層で遭遇してしまったという異常事態に死を覚悟する場面なのだが……何かもう色々と意味不明すぎて少年たちは頭がパンクしそうだった。

 

「……えーっと……いつもは、ちゃんと【ライト】の呪文を使って探索してる、けど……」

 

結局、なんとか絞り出せたのはそんな言葉だった。本当ならさっさと逃げるべきなのだが、さすがにこんな意味不明な状況でルーキーたちにまともな判断を下せというのは酷な話だろう。

 

*何でもかんでも魔術に頼るのは初心者にありがちな間違いです*

*特にレベルが低いうちは最大MPが少ないので、可能な限り温存すべきでしょう*

*アイテムで代用できるものは代用しましょう*

*アイテムの購入費をケチってはいけません*

*お金を惜しむな、命を惜しめ、です*

 

「……くそっ、否定できん……!」

 

ゴーレムが腰に巻いていた【拡張魔術鞄】から次々に別の看板を取り出していく。少年たちは「モンスターに言われたくねぇ……」とは思いつつも、そもそもMPが尽きたことで今の状況に陥っているため、ぐうの音も出なかった。

 

*【松明】はギルドショップで販売しています! 最初のうちはいくつか常備しておきましょう!*

*また、冒険に慣れてきたら我々H&S商会をご利用ください!*

*さらに便利なアイテムを販売しております!*

 

「え、あ、ちょっ――」

 

最後に変なチラシと一緒に「試供品」と書かれた【脱出結晶】を少年たちに押し付けると、ゴーレムはゴブリンどもがドロップした素材や【松明】をせっせと拾い集めて去っていった。

 

「ああ、それは【ハッカー&スラッシャーズ商会】が使役するゴーレムですね」

 

後日、少年たちが冒険者ギルドの受付で聞いた話によると、例のゴーレムは野生のモンスターではなく、とある店で運用されているゴーレムだということだった。

 

「ふむ、魔術言語で『叩っ斬る者』に『斬り刻む者たち』だな」

 

「店の名前にしては随分と物々しいわね……」

 

「その、何といいますか……実は、店を経営なさっているのは【黒き狂人】という異名で有名な冒険者の方でして……」

 

「え゛っ゛……だ、大丈夫なんですかソレ……?」

 

「まぁ、ダンジョン内で押し売りをしているのであれば犯罪行為として然るべき刑罰が課されるのでしょうが……彼らはチラシと試供品を配るだけですので……」

 

ダンジョンに入るためには入場記録を付けるのが義務づけられていることもそうだが、ダンジョン内で犯罪行為をすればちゃんと法律で取り締まりがなされるような仕組みがあるのだ……と受付嬢は語る。

 

が、ダンジョン入口(ギルドの敷地内)でならともかく、ダンジョンのド真ん中でチラシや試供品を配ってはならないなどという法律はさすがに存在していないようだ。もっとも、「尊厳破壊がかかっている場所でそんなこと考えるような【狂人(ぶっちぎりでイカれた奴)】が今までいなかった」と言った方が正しいのだが。

 

なお、これは秘匿されていることではあるが、冒険者ギルドとしてもギルドショップの売上が上昇していたり、駆け出し冒険者の死傷率が低下していたりといった恩恵を受けている。そのため、「ギルドは原則として冒険者同士の揉め事には関与しない」の一点張りで通すことにしたようであった。

 

「……まぁ、店長と店員は経営者とは別の人らしいし……お礼としてちょっとくらい覗きに行ってみるか?」

 

こうして、【狂人】のアイデアを店長(アーロン)が上手くアレンジすることで、彼らの【H&S商会】は上手いこと利益を出していたのであった……。

*1
興味がある方は閑話へ


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