【書籍版二巻発売中】迷宮狂走曲~RPG要素があるエロゲのRPG部分にドはまりしてエロそっちのけでハクスラするタイプの転生者~ 作:宮迫宗一郎
《表》
「最初の現場はここか」
俺たちの持ってるマップと
【アヘ声】でモンスターが潜んでた建物と似ているが……場所が違うので別の建物みたいだな。まあ今は原作開始前だし、原作と同じ場所にモンスターがいるとは限らないか。
「それじゃ〜、さっそく中を調べましょうか」
「待った。中に入ったらモンスターの奇襲を受けるぞ」
こいつは一見するとただの廃屋にしか見えないが、外敵に対して何の備えもない建物にモンスターが住みつくわけもなく、中は巣に改造されている。
【アヘ声】では、なんの備えもなく中に入ると、先制攻撃を受けたり、拘束状態で戦闘が始まったり、戦闘からの逃亡が不可能になったりと、色々と不利な状況を押し付けられたんだよな。
それらを防ぐためには、特定のNPCに話しかけて情報を聞き出し、それをもとに正しい行動を取らないといけないんだが……すべての場所で毎回そんなことをしていたら時間がいくらあっても足りないだろう。
「だったらどうすんだよ」
「こうするんだよ!」
俺はルカに合図をしてから【匂い袋】を取り出すと、勢いよく建物の入口だったところにブチ撒けた。すると家の中からガタガタと音が鳴り始め、ほどなくしてモンスターが飛び出してきた。
うむ、やはりこの手に限る。
「……普通、街中で【匂い袋】をブチ撒けるか?」
「街中だからだよ。ダンジョンのド真ん中で【匂い袋】をブチ撒けたら大量のモンスターが寄ってくるが、ここには他にモンスターがいないからな。確実に建物の中のモンスターだけを誘き寄せられるだろ?」
【アヘ声】だと説明文に「モンスターを引き寄せるアイテム」と書いてあるものの、使えば普通にモンスターではない雑魚敵も引き寄せる【匂い袋】だが、それはあくまでゲームシステムの都合だからな。この現実となった世界では、ちゃんとモンスターだけを引き寄せられるようになってる。
“……ガスマスクつける都合があるから、【匂い袋】を使うならもっと早くに合図して欲しいんだけどね”
「まあまあ、まずは奴をブチ殺そうぜ!」
心なしかいつも以上にジト目になったように見えるルカから目を逸らしつつ、俺は突進してきたモンスターを盾で押し返した。
今回の討伐対象は【アカナメ】というユニークモンスターだ。舌によるトリッキーな動きを得意とし、舌を鞭のように使って攻撃してきたり、こちらを舌で絡め取って【拘束】してきたりと、中々に芸達者なモンスターだな。
「いや、どっからどう見てもカメレオンじゃねーか!!!」
……まあ、日本の妖怪みたいな名前のくせに、見た目はダンジョン下層の全域に出現するカメレオン型モンスターの色違いだが。
こじつけとしか思えない名前だが、こういう訳の分からんネーミングセンスはゲームではよくあることだ。それに、同じ生き物でも国によって呼び方が違うのは変なことではないだろう。
「俺たちからしてみればカメレオンでも、この国の人たちにとっては【アカナメ】なんだ。そういうことにしておこうじゃないか」
「……なんか釈然としねーが……まぁいい。こいつを殺すのが仕事だってんなら、さっさとブッ殺すだけだ」
そう言うや否や、カルロスは【アカナメ】にハンマーを叩きつけてダメージを与えた。それを皮切りに、俺たちも戦闘態勢に移行する。
「うおっ!?」
勢いよく舌が伸びてきたのでとっさに盾で弾いたが、トリモチのような舌に盾がくっついてしまったようだ。
そしてそのまま【アカナメ】が舌を引き戻したことで俺は結構な距離を引きずられ、バランスを崩したところで再度伸びてきた舌に絡め取られてしまった。何気に初めて【拘束攻撃】を食らった気がする。
「お、おい、無事か大将!?」
「くっ、まさか大将を食べようとするヤツがいるなんて!」
「大将さんを離してください! お腹を壊しても知りませんよ!?」
……モニカとチャーリーの中で、俺がどんな評価になっているのかは、後で問い詰めるとして。
「構わん! 俺が引きつけてる間に殺ってくれ!」
“うん、まぁ、主ならそう言うよね……”
「ちょっ、ルカちゃん!? なんで弓を構えて……正気ですか!?」
“正気じゃないのは主の方なんだよなぁ”
【拘束状態】を放置しているとどんどん装備品を解除されていき、最後にズドン!(意味深)となるので、早急に【拘束状態】から抜け出そうとするのは間違いではないんだが……。
実を言うと、【アヘ声】においては、わざと【拘束状態】を放置するのも一つの戦略だったりする。
というのも、一部のステージギミックによる【拘束状態】を除き、パーティメンバーが【拘束状態】になって行動不能になっている間は、そのパーティメンバーを拘束中のモンスターもまた行動不能になるからだ。
複数の敵を相手取っている時に
「わざと【拘束状態】を放置して敵の行動を封じ、その間に他のパーティメンバーが袋叩きにするというのも選択肢の一つなんだぜ!」
「なにを悠長なこと言ってやがる!? 早く脱出しないとケツに色々とブチ込まれるぞ!?」
「その前にコイツをブチ殺してくれればいい! 頼んだぜ!」
「だぁぁぁもう! 無茶しやがって!」
カルロスたちは【アカナメ】の背後に回ると、それぞれ最大火力をブチ込み始めた。それに対し、【アカナメ】は堪らずといった様子で【拘束攻撃】を中止して逃げ出そうとする。
ゲームだとこちらが【抵抗する】または【救出する】というコマンドに成功するまで【拘束攻撃】を外せないのだが……さすがにリアルではそうもいかないか。
「逃がすかオラァ!!!」
“!?”
が、逃がすわけにはいかないので、両腕でガッチリと【アカナメ】の舌を掴んで固定してやった。
「大将を離せコノヤロー!」
「おいコラ離そうとすんじゃねえよこの野郎!」
“!?!?!?”
“おかしいな……どっちが【拘束攻撃】してたんだっけ???”
そうこうしているうちに【アカナメ】のHPが0になり、【アカナメ】は光の粒子となって地面に溶けていった。
俺たちの勝ちである。
「よしよし、無傷で切り抜けられるとは幸先がいいな。この調子で残りのモンスターどももブチ殺していこうぜ!」
「クソッタレ、なんで【拘束攻撃】くらった奴がケロッとしてて、俺たちの方が疲れてんだよ……」
「というか、この調子があと何回も続くんですね……」
驚かせたことへの謝罪と助けてくれた礼を皆に言いつつ、俺は次の現場に向かうことにした。
……そういえば、今も透さんは俺たちを監視しているんだろうか?
ふと気になったので、時代劇とかで忍者が隠れてそうな場所を眺めてみたが、それらしき姿はない。まぁ向こうは本職の忍者なので、素人の俺に見つけられるわけないか。
「おっと」
そうやって辺りを見回していると、たまたま通行人と目が合ったので会釈しておいた。いかんいかん、あまりキョロキョロしすぎると不審に思われるかもしれないな。興味本位で透さんを探すのはやめておくか。
そんな感じで、俺はレアモンスターどもを駆逐していったのだった。
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《裏》
「
「
「おお、透さん、隠さんや。よう帰ったのう。ご苦労じゃった」
「「勿体なき御言葉」」
とある店の一室にて、「ご隠居」と呼ばれる蛹人間が部下の2人と話し合っていた。
「……して、例の『お客人』について、お主らはどう見る?」
というのも、蛹人間は【狂人】と直接言葉を交わしたものの、彼の素性や人間性について全くといっていいほど分からなかったため、引き続き監視を頼んでいたのである。
直接会話しても相手のことがいっさい分からないなどというのは、優れた観察眼を持つ蛹人間にとって初めてのことであった。ゆえに、【狂人】の対応については慎重にならざるをえないのだ。
「『お客人』の人間性については、拙者らには判断ができませぬ。強いて言うのであれば、身体を張ってまで守るほどに仲間のことを大事に思っているようではありましたが……」
「ですが、素性に関しては、その戦法からある程度の推測が可能かと」
「おおっ、それは
破顔(?)する蛹人間に対して「あくまで推測ですが」と念押ししたうえで、部下の2人は【狂人】について見てきたことを話し始めた。
「まず、『お客人』は隠三のように『あえて目立つことで味方が動きやすい環境を整える』ことを得手としているようですな。あの奇抜な格好もそれが目的でありましょう」
「次に、薬物に精通している様子でした。媚薬のようなもので
「また、『お客人』は拙者の
「拙者の変装もでござるな。会釈までされてしまい、もはや笑うしかなかったでござる。こうもあっさり見破られると自信をなくすでござるよ」
「そしてなにより、生命力の減少や【拘束攻撃】を恐れぬ精神力は、幼い頃より特殊な鍛錬を受けて恐怖心を殺された
蝉人間と同じ技術を使い、薬物に精通しており、隠形や変装を見破り、表沙汰にできない出自である。
これらから導き出される、【狂人】の正体とは――
「――忍びの者か」
「あの様子を見るに、間違いないかと」
もちろん間違いである。
【狂人】は忍者と同じ技術を使っているから目立つ格好をしているのではなく、見た目度外視で高性能な防具を装備していたら自然とトンチキな格好になっただけである。
「薬物に精通している」と聞くと忍者っぽいかもしれないが、実際はゲーム廃人ゆえに【アヘ声】に登場するアイテムの効果を全部覚えているだけであり、べつに薬物だけに詳しいわけではない。
コノハムシ人間のステルスも蝉人間の変装も全くといっていいほど見破れておらず、彼らが深読みしすぎているだけであるし、HPの減少や【拘束攻撃】を恐れないのも、ただいつものように【狂人】が【狂人】してるだけなので、特殊な鍛錬などいっさい積んでいない。
「まさか、『奴ら』がご隠居様に差し向けてきた刺客なのでは……」
「いや、その可能性は低いじゃろう。銭がないというのは事実のようであるし、本人はともかく『お客人』の仲間たちからは後ろ暗いものを感じぬからのう」
「たしかに、彼の仲間たちは忍びの術を使えぬようでしたな。『まだ実戦で使えるほどの技量ではないだけ』かもしれませぬが」
「ふむ……となれば、何かしらの事情で里を失ったか、里と決別して抜け忍となり、自らの手で新たな忍びの里を興すために資金や人材、武具を集めている途中……といったところか」
「今のところ、そう考えるのが妥当じゃろうな。まさか本当に趣味で武具を集めているわけではないじゃろうし」
実際はそのまさかであり、【狂人】は本当に趣味で武具を集めているだけなのだが……それを彼らに信じろというのはさすがに酷だろう。彼らと【狂人】では、文字通り生きてきた「世界観」が違うのである。
「まあ、なんじゃ。契約通りに給金を支払う限り、『お客人』がワシらを裏切って『奴ら』の方につく可能性は低いじゃろう。ただでさえ何の後ろ盾もない流浪の忍びであるのに、契約を反故にするような信用ならぬ者であると知れ渡ってはどうなるか……それが分からぬような男でもないじゃろう」
「『奴ら』に雇われる前にこちらが雇うことができたのは、むしろ僥倖であったやもしれませぬな」
……が、今回はその勘違いが良いように噛み合ったらしく、他者にダンジョン攻略中の様子を見られると信用度が地の底に落ちやすい【狂人】にしては、珍しく蛹人間たちからある程度の信用を勝ち取ることに成功していた。
「とはいえ、しょせんは金銭による繋がり。『お客人』は拙者らのようにご隠居様に忠誠を捧げているわけではござらん。信用はできても信頼はできませぬぞ」
「うむ、諫言に感謝する。心にとどめおこう」
こうして、【狂人】は本人の意図とは全く関係ない方向から、原作のサブストーリーに絡むためのスタートラインに立てたのであった……。